Yahoo!ニュース

トランプ氏元側近が米連邦議会襲撃事件で起訴

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ政権誕生を主導し現在もトランプ氏の支持者に影響力を持つスティーブ・バノン氏が起訴された。1月6日の米連邦議会襲撃に関する議会の調査に応じなかった議会侮辱罪などの罪だ。今も共和党内で人気で次の大統領選挙への意欲を隠さないトランプ氏だが、アメリカのジャーナリストは「捜査で明らかになる事実によってはトランプ氏をめぐる状況も変わる可能性が有る」と話した。

日本ではあまり報じられていないが、アメリカでは2021年1月6日に起きたトランプ前大統領の支持者による連邦議会襲撃事件の調査が行われている。

これについて2021年11月12日、米司法省は次の様に発表した。

「スティーブ・K・バノンは、1月6日の米国連邦議会議事堂への侵入事件を調査する下院特別委員会が発行した召喚状に従わなかったことに起因する2件の議会侮辱罪で、本日、連邦大陪審により起訴されました

バノン(67歳)は、1月6日の米国連邦議会議事堂への攻撃を調査する下院特別委員会からの召喚状にもかかわらず、宣誓証言のための出頭を拒否したことに関わる侮辱罪と、文書の提出を拒否したことに関わる侮辱罪に問われている」

今後、FBIによる本格的な捜査が行われるという。捜査指揮は日本の地検特捜部的な役割の司法省の公職者捜査の専門部署(Public Corruption and Civil Rights Section)が担う。

この襲撃事件が起きたのは直接的にはトランプ氏の演説による可能性が高い。この日、議会では大統領選挙の結果を承認する手続きが行われていた。その議事進行は副大統領だったペンス氏が務めており、トランプ氏はペンス氏に承認を拒否するよう求めていた。ペンス氏が自分にはその権限は無いと応じたことから、集まった支持者に議会へ行って圧力をかけるよう求めた。

議事堂に侵入した支持者が「ペンスを吊るせ」と口々に叫ぶ映像が残っている。

バノン氏への調査はトランプ氏に加えて委員会の最重要課題となっていた。それには理由がある。バノン氏が事件の前日に自身のメディアで「明日、想像できないようなことが起きる」などと、襲撃事件を予見するかのような発言をしていたからだ。委員会のメンバーは、バノン氏が事件に関わっていた疑いがあると見ている。

勿論、トランプ氏の襲撃事件での役割が最大の焦点となる。トランプ氏は委員会が求めた資料の提出を拒否する訴えを起こしている。連邦地裁はその訴えを認めなかったが、トランプ氏は最高裁まで争う構えだ。最高裁判事は自身が任命した3人を含めて保守派が大勢を占める。

この議会襲撃事件についてトランプ氏は共和党議員の拒否で弾劾訴追を免れている。しかし、訴追拒否を主導した共和党の重鎮ミッチ・マコーニー氏も、トランプ氏の責任は認めている。このため、私はトランプ氏の共和党内での影響力は下がると予想した記事をYahoo!個人に書いた。しかし実際にはトランプ氏の影響力は下がるどころか、逆に上がっている。

襲撃事件のトランプ氏の責任を認めた10人の共和党議員は共和党支持者から「裏切り者」と罵倒されて厳しい立場に立たされている。次の選挙への出馬を断念する議員も出ている。また、トランプ氏の敗北を決定づけたペンシルベニア州の選挙責任者は家族ともに脅迫の対象となっている。

私のNHK時代からの友人の米公共放送PBSの報道担当デスクは次の様に話した。

バノン氏の起訴は大きい。今起きていることの根本はトランプ氏であり、『トランピング』という言葉さえ言われている。『民主主義がトランピングされている』といった具合だ。民主主義を機能不全にするという意味だ。こんなことは私の30年のジャーナリスト人生でも初めてのことだ。このバノン氏がそのトランピングの中心にいることは間違いない」

そして次の様に言った。

共和党内で圧倒的な人気を維持するトランプ氏だが、捜査で明らかになる事実によってはトランプ氏をめぐる状況も変わるだろう

アメリカでは2022年11月に中間選挙が行われ、下院議員の全員、一部の上院議員、州知事が改選を迎える。トランピングは終わるのか。注視したい。

※PBSは外部への取材に応じる際のルールを定めており、PBSデスクは匿名を条件に取材に応じたため匿名にしている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

立岩陽一郎の最近の記事