Yahoo!ニュース

自民と比して小規模だが野党にも「政策活動費」 野党は選挙前に制度の改正案を示せ 「政治資金の闇②」

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:つのだよしお/アフロ)

前回、自民党の二階俊博幹事長に支払われた巨額な「政策活動費」について伝えた。4年間で37億円を超える資金が「闇」に消えた。自民党は否定するが、その中に税金が含まれていた疑いもぬぐえない。実は、そうした支出を行っているのは野党にもある。その金額は自民党と比して少額だが、不透明さという意味では変わらない。識者は「野党は選挙前に改正案を示すべきだ」と指摘。政治資金が「闇」に消える問題に迫る2回目。

各党に支払われる政党交付金

前回の「政治資金の闇①」で自民党の収入の多くが実は税金である政党交付金であることを伝えた。この政党交付金を受けているのは自民党だけではない。受け取りを拒否している共産党以外の政党は受けている。

その2019年の状況を自民党以外の各党の状況を見ておく。多い順に並べる。

各党に支払われた政党交付金(2019年 自民党を除く)
各党に支払われた政党交付金(2019年 自民党を除く)

どの党にとっても政党交付金が収入の多くを占めている。それを棒グラフにすると次の様になる。自民党は前回書いた通り2019年の収入が244億円余で、そのうちの170億円余が政党交付金だ。政党交付金は青色で示している。

このうち私たちが確認した「政策活動費」及びそれに類する支出をしている政党は、立憲民主党、国民民主党、社会民主党(以後、社民党)、れいわ新選組。

何れの政党も自民党と同じように、政党交付金は「政策活動費」に使っていないとしている。しかし、前回の自民党の回でも指摘したようにそれは説得力の有る説明ではない。

公明党、共産党には「政策活動費」という形で議員個人に支払われているものは確認できなかった。

立憲民主党のケース

第一回で自民党の二階幹事長に支払われた巨額の「政策活動費」について報じた際に、自民党本部幹事長室が、「立憲民主党や国民民主党、社会民主党などの野党の収支報告書にも、調査委託費や政策活動費、組織活動費の名目で同様の支出が見受けられます」と指摘していることを紹介した。

実は、「政策活動費」を有力議員に支出しているのは自民党本部だけではない。2019年の各政党の政治資金収支報告書から見てみたい。

立憲民主党には、自民党の指摘通り「調査委託費」という名目での支出がある。取材をすると、これは一見、自民党の「政策活動費」や他の野党の支出とは異なるもののように見える。

先ず、自民党の「政策活動費」の様な大きな金額ではない。更に、党の有力者に配るというものではない。支払った先の多くは、この年の参議院選挙の候補者の様だ。加えて、「66万8225円」や「89万967円」と細かい金額となっていて一種の「つかみ金」の様には見えない。ただし、奇妙な点も有る。数字を追っていくとこの「66万8225円」と「89万967円」が頻繁に繰り返されている。

もう1つ奇妙な点が有った。受け取った筈の候補者の側の複数の関係者に話を聴いても、この資金について説明できなかった。ある関係者は、「候補者に決まった後に政治活動で使った様々な費用がある。その立て替え分を後に精算してもらったものかも・・・」と話したが、明確ではなかった。

つまり金額は小さいものの、基本的に不透明な支出であることに変わりはない。また、後述するが、立憲民主党はこの年の翌年の2020年には「政策活動費」を支出していることを私たちへの取材に明かしている。それについては2021年11月にその内容が公表されるので、その際に再度検証したい。

自民党に近い国民民主党のケース

次に国民民主党。「政策活動費」として代表の玉木雄一郎議員に5回で4億8000万円、幹事長(当時)の平野博文議員に4回で3億3000万円が支払われている。平野議員は現在は立憲民主党の代表代行を務めている。

党内最有力議員2人に8億円余りが支払われていることになる。その規模は自民党ほどではないが、党の支出に占める「政策活動費」の割合で言えば自民党を上回っている。

国民民主党は前述の通り、この年の党の収入の9割を税金である政党交付金が占めていることは指摘しておきたい。

1人数十万円規模の社民党、れいわ新選組

社民党では「組織活動費」という名目で有力議員に支払われている。それを見ると、代表の福島瑞穂議員に55万円、照屋寛徳議員に85万円、吉田忠智議員に55万円、吉川元議員に85万円となっている。

れいわ新選組は代表の山本太郎氏に2回で合計40万円を「組織活動費」として出している。

野党各党の回答は

こうした「政策活動費」或いはそれに類する支出について各政党に質問状を送った。

先ず、「政治活動費」としての支出は無かったものの、前述の通り不透明な支出という意味では同じ「調査委託費」を出していた立憲民主党。その回答は以下だ。

旧立憲民主党においては支出していないが、現立憲民主党においては若干の支出がある。

組織活動費を交付した党役職者の活動を信頼して行われている慣例と承知している。

旧立憲民主党においては、会計の透明性を重視して支出を避けていたが、現在は必要に応じて対応している。

政治活動費が肥大化することは好ましくなく、可能な限り最終支出先を開示すべきであると考えるが、法改正によって禁止するかどうかについては今後検討していきたい。

政治と金の問題の基本は、支出の規制ではなく、公開性の確保にあると考える。政治活動の自由を踏まえつつ、党内議論を深めていきたい。

前述の通り、立憲民主党も「政策活動費」は支出しているということで、それは2020年の収支報告書に記載されていることになる。

次に、自民党ほどでは無いが億単位の資金を有力議員に流していた国民民主党。

玉木代表の事務所は次の様に答えた。

当該支出は党勢拡大のための組織活動費であって寄附ではなく、政治資金規正法にのっとり適正に処理しています。法律上求められる事項は、収支報告書に適正に記載しています

国民民主党の平野幹事長(当時)の事務所は以下の様にコメント。

組織活動費として計上されている支出は、受領した役職者において組織活動のために法にのっとり適正に支出されております。当該支出は寄付ではなく、収支報告書は求められておりません

社民党は福島みずほ党首と照屋寛徳議員からは以下のコメントが届いた。

政治資金収支報告書で「組織活動費」として記載してあるものは、国会議員の政策立案や立法活動、党活動等を支援するための活動費として位置づけ交付しているものです。

現行制度上、政治家個人に政党から支出された場合はその先の使途について報告を求められていないと承知しています。

社民党全国連合としては政治資金収支報告書に記載し、各議員において法律の則って適正に支出されていると考えております。収支報告書への記載についての取り決めは、特にございません。

政治資金の支出については政治活動の自由を保障しつつ、有権者の信頼にもとることのないよう、適切に行なうよう求めておりますが、党全国連合として支出毎の確認は行っていません。

党所属国会議員に不公平が生じないように、全国連合予算の範囲で決定しています。支出額は全国連合常務理事会で決定し、財政責任者会議にはかったうえで、全国大会もしくは全国代表者会議で決定しております。

「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われる」べきとの政治資金規正法に基づき、政治資金を適正に処理し公開することは必要です。政党から政治家個人に支出された場合、その先の使途について報告が求められない現行制度は、政治資金規正法の趣旨に照らして十分とは言えず、必要な制度改正やルール作りが求められていると考えます。

れいわ新選組は次の様にコメントした。

支出した組織対策費は、全てれいわ新選組の組織対策に使っておりますので、個人の政治活動に関する寄付ではございません。つきまして資金管理団体の収支報告書には記載しておりません。

れいわ新選組が街頭演説及び集会等で全国を回る際に、細かい商法品や交通費の領収書が大量に発生し、管理が煩雑になります。年間5000枚前後の領収書管理を1~2人で行っていることもあり、経理部の負担軽減のために、苦肉の策として山本代表が管理のもと、組織対策費から上記費用の支払いを行っています。

また、山本代表に支出した組織対策費は、政党交付金ではなく、すべて党の雑収入もしくは、支援者の皆様から頂いた寄附を原資としておりますので、政治資金規正法に基づき収支報告書にて計上・報告をしております。政党交付金の使い道は政党助成法に基づき、「政党交付金使途報告書」にて報告することになっていますので、交付金を元に支出したもおは全てそちらにて報告しております。

ただ、業務負担減のためとはいえ、支援者の皆様よりご寄付いただいた政治資金を組織活動費というわかりづらい形で、支出することは、今後改善する必要があると考えています。

この取材はInFactから東京新聞特別報道部に情報が提供されて始まり、それに基づいて政党への取材はInFactと東京新聞特別報道部との連名で行った。一部の政党の回答が「東京新聞」宛のみの記載となっていたが、回答はInFactに対するものと理解して紹介している。

野党は改革案を示すべき

自民党の指摘通り、野党でも「政策活動費」的な支出を行っている。そして、何れの党も、適正な処理という認識だ。しかし何れの党も使途を明らかにしていない。

他方、立憲民主党、社民党、れいわ新選組の支出は1人数十万円であり自民党の「政策活動費」とは同列に論じることはできない。そしてこの3党は現状に問題が有ることを認め、制度改正も踏まえた議論の必要性に言及している。

千葉商科大学で政治制度を研究している田中信一郎准教授は野党が改革案を示すべきとして、次の様に話している。

ここは野党が共同で政治資金規正法の改正に向けて動いて欲しい。政治資金の多くを国民の税金である政党交付金が占めている現状から見ても、政治資金は1円単位まで透明性の確保が求められる。野党はこれを機会に議員立法で改正案を出すべきだ。それは与党の反対によって否決されるかもしれないが、政権交代によって透明性のある制度に改善できることを示すことは意味が有る

自民党の「政策活動費」が野党とは規模が異なる巨額であることも明らかだ。2019年に議員個人に充てて支払われた「組織活動費」は二階俊博幹事長に対して10億410万円。他の有力議員に支払われたものも合わせると総額で13億410万円となる。なぜそれだけ巨額な資金が必要なのか?

次回の「政治資金の闇」は、自民党の「政策活動費」に話を戻してその使途に迫る。

(「政治資金の闇③」につづく)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

立岩陽一郎の最近の記事