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言葉の壁を超えて、助けが求められるように、助けが届くように

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
絵本の読み聞かせを聞く子どもたち(写真:アフロ)

5月1日の「メーデー(May Day)」は、例年なら世界各地で多くのイベントが開催される。新型コロナウイルス感染症の影響下で雇用をいかに守るか、いっそう浮き彫りになる経済格差にどう対応するか、各国が重い課題を突き付けられている。

日本でも、いかに感染症から命を守るか、雇用を守るか、国会や社会の中で議論が続けられている。その対象は、日本人も、日本に暮らす外国人も同じだ。日本に暮らす外国人は、法務省による2019年6月調べで、195ヵ国、280万人。無国籍の方は640人。人数は中国の78万人を筆頭に、アフリカのサントメ・プリンシペの2人といった一桁の国までさまざま。他国と比較すると、日本は外国人の受け入れに厳しいのも事実だが、世界全体の国の数が196(注)、うち195ヵ国の方が日本で暮らしていることを考えると、いかに日本が世界とつながっているかがわかる。

[在留外国人の地域別国数内訳](法務省/2019年6月調査時点)

アジア・中東:40ヵ国

ヨーロッパ:52ヵ国

アフリカ:54ヵ国

北米:23ヵ国

南米:12ヵ国

オセアニア:14ヵ国

(注)日本が承認している国の数195ヵ国に日本を加えた数(外務省)

多言語対応でサービス対象者を拡充

新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が出されて3週間。その期間延長が濃厚となり、経済の停滞がさらに続くと見込まれる。法務省は雇用維持に関する案内を「やさしい日本語」と14ヵ国語で発信し、「新型コロナウイルスにより会社の経営が悪くなっているときでも、外国人であることを理由として、外国人の労働者を、日本人より不利に扱うことは許されません」と、窓口への相談を促している。

また、外出自粛期間が長期化し、経済的な不安が追い打ちともなって、家庭内での暴力や暴言(DV)が増えているとも伝えられる。内閣府管轄の「DV相談+(プラス)」は本日から、日本語に加え、多言語による相談サービスを電話、メール、チャットで開始した。

雇用から外れることは健康保険の枠組みからもこぼれ落ちるリスクをはらみ、具合が悪くなっても医療機関に助けを求められない人が出てきてしまう。また、健康保険証を持っていたとしても、言語の壁から、結果的に医療機関に拒絶されてしまうケースも出ている。医療施設側は感染予防のため、他方、来院した外国人にはそれが伝わらず、どうすればいいのかわからないまま、その場を去るというギャップが生まれている。万が一、新型コロナウイルス感染症に感染していた場合には検査の流れに乗れず、本人のケアや感染予防がなされないままになってしまう。特定非営利活動法人AMDA国際医療情報センターでは4月初旬から、緊急プロジェクトとして、通常の多言語での医療機関案内・ 電話医療通訳に加え、新型コロナウイルス感染症の相談も受け付ける。

近所で、SNSで、サービスの橋渡しを

こうした多言語での外国人支援が進む一方で、サービスはあっても、その案内自体が日本語や英語で、利用してほしい人がそのサービスを知らない、あるいは行き着けないという状況もある。

所属する大学院の研究室では、学生の多くが外国人という属性を生かして、その橋渡しとなるツールを作ろうと有志が動いている。医療機関の入り口に貼って外国人に見てもらうための多言語案内や、「DV相談+(プラス)」を知ってもらうための多言語ポスターなど、母国語を中心に学生が翻訳を担当し、クリエイティブ関係者がボランティアで制作に加わっている。

がんばっている子どもたちへ。100の言葉で伝える絵本

感染症流行と外出自粛の長期化は、おとなと子ども双方に大きな不安やストレスをもたらしてもいる。それは、日本でも外国でも、母国にいる人も、他国にいる人も同じだ。国際機関「機関間常設委員会(IASC)」(1991年の国連総会にて創設)の「緊急時のメンタルヘルスと心理社会的支援に関するレファレンス・グループ(MHPSS RG)」は、3月末に子どもたちの心のケアを目的に1冊の絵本『My Hero Is You』を作り、オンラインで無償で公開している。絵本の制作には心理ケアの専門家に加え、104ヵ国の養育者、教員、そして子どもたちが参加し、最終的には約100言語版が制作される予定だ(全ラインナップ:5月1日時点38言語)。日本の子どもたちにも届けたいとの願いから、同レファレンス・グループに連絡をとり、研究室内外の有志の協力で、日本語版もラインナップに加わっている。この絵本も一覧は英語だが、日本でも世界でも周りの協力を得て、子どもたちと周りのおとなに、自分の言語の絵本にたどりついてほしい。

必要な情報が必要な人に届くように、オンラインや電話での会話で、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)で、思い当たるときには、私たちがその橋渡しになれたらと思う。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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