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感染症対策:必要な人材や物資、資金を、適切な管理下のもと国内外で循環

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
新型コロナウイルス対策で閉鎖された空港のターミナル前に立つ警察官。セネガルにて。(写真:ロイター/アフロ)

傷ついた国や地域にさらなる負担をもたらす感染症の流行

4月14日は、熊本地震から4年という節目だった。この地震でお亡くなりになった方々に謹んで哀悼の意を表すとともに、復興の途にある方々には、不便な暮らしのなかでも、お体を大事にしていただきたいと思う。自然災害でも人災でも、被災地を襲う新たな災害や感染症の流行は、市民にとってさらなる負担となる。規模を縮小して開催された式典で、熊本県の蒲島知事は、新型コロナウイルスという逆境においても、熊本地震を通じて深まった県民の絆とパワーで再生を成し遂げるとの決意を表明されていた。

14日には、世界保健機関(WHO)で「第5回コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病に関する国際保健規則(2005)緊急委員会会合」が開かれ、引き続き、この感染症の流行を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」と指定しておくことが決まった。コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)では、2月17日から今月新しい感染者が報告されておらず、今月13日に終息宣言が出されることが期待されていた。しかし、4月10日に東部の町ベニで新たな感染者が確認され、12日以降も新規感染者の確認が続いている。委員会は、コンゴや周辺国が感染拡大の措置を継続していることから、他国への拡大は可能性が低いとしながらも、同国、WHO、国際社会が封じ込めに向けた努力を緩めないよう助言している。

エボラウイルス病(以下、エボラ)は長い闘いの間に、有効なワクチンが開発され、WHOによれば、感染者が見つかったベニでも6000人分のワクチンが確保されているという。他方、まだワクチンや薬が開発途上にある新型コロナウイルスも、コンゴで感染が広がっている。はしか、マラリア、エボラほか複数の感染症と基礎医療の不足が深刻ななか新型コロナウイルス感染症も加わって、限りある保健衛生スタッフの人員数、国際・国内線のフライト制限等などから、対策に必要なリソースが十分に供給していけるか、さらなる挑戦が続いている。

人道支援でも、スタッフの移動や医療・非医療の物資の輸送に影響

4月1日の記事で、特に危機的状況にある20ヵ国として紹介した国々の中で首位だったイエメンでも、新型コロナウイルスの感染が確認された。コンゴに限らず、世界中の多くの国々がフライトを大幅に制限したり空港を閉鎖したりする中、人道支援においても、スタッフの移動や医療・非医療の物資の輸送に影響が出てきている。

3月下旬に行われたThe New Humanitarian(人道支援や課題をテーマとするメディア)主催のオンライン討議で、NGO アメル・アソシエーションのプログラム&パートナーシップ・コーディネーター、ルフェーヴル氏(レバノンで活動中)は、現地のコミュニティは、外から来る支援者によって感染症が持ち込まれることを恐れていると状況を話し、同時に、この厳しい逆境を地元自身による保健システムの強化につなげるチャンスと捉えるべきだとも語る。

NGO国境なき医師団(MSF)オペレーション・マネジャーのセガン氏(イエメンで活動中)はMSFのニュースリリースで、イエメンで活動するスタッフの90%がイエメン人であることはMSFの強みとしつつも、彼らは既に限界を超えて働いており、継続的な支援が必要だと訴える。同国に入る外国人スタッフには、14日間の自主隔離が義務づけられている。

支援を受ける各国の対応はさまざまで、外務省の海外安全ホームページによれば、たとえば、中央アフリカ共和国は3月27日から基本空港を閉鎖しているが、人道支援と貨物等については、引き続き空港を使用できる。他方、ナイジェリアは3月24日までに順次空港を閉鎖し、緊急フライトを除くすべての国際線の着陸が停止された。ソマリアもすべての航空便の運航を停止している。

治療の優先順位を決めるトリアージが進むことは、だれも望まない

非営利シンクタンク、世界開発センターのシニア政策フェロー、コニンディック氏は、上記のオンライン討議で、国ごとのみならず、世界全体での保健インフラの整備を急ぐ必要があると強調した。昨夜(14日夜)開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁のテレビ会議では、新型コロナウイルス感染拡大への対応策が議論され、世界経済の安定に向けた追加策の検討や、途上国への大規模な資金・技術支援の必要性が確認されている。

感染の拡大は、世界各国の既存の医療や医療不足に大きな負担をもたらす。エボラの例に見るように、完全な封じ込めには粘り強い活動と忍耐が求められる。私たちが感染予防に積極的に参加し、同時に、必要な人材や物資、資金が適切な管理下のもと、国内外で循環されることが、できるだけ早い感染症の封じ込めに必要だ。どの国においても、医療崩壊やさらなる医療不足によって、感染症対応に限らず、すべて医療行為で、トリアージ(限られた人材や資材などの中で、治療の優先順位を決めること)が進むこと、よりシビアな選択になることは、だれも望まない

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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