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1000人目の生還者。マルグリットさん、エボラを克服して自宅へ

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
エボラ治療センターで闘病中の赤ちゃんたちの世話をする元患者のレイチェルさん。(写真:ロイター/アフロ)

10月4日、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で、エボラウイルス病(以下、エボラ)から回復した1000人目の患者さんが自宅へと戻った。1000人目の生還者となったのは、マルグリットさん44歳。彼女は思いをかみしめるような表情で、エボラ完治の証明書を受け取った(授与式の動画)。今後は、自身の闘病経験を伝えながら、エボラと対策への理解を促す活動に協力していくという。回復した患者さんはエボラへの免疫もできていることから、写真のレイチェルさんのように、治療センターで患者さんのケアを担っている人もいる

エボラ対策チームはこの退院を重要な節目として、最前線で活動するスタッフほか関係者の労をねぎらうとともに、さらなる対策の推進を誓った。5月から国連チームで政治交渉や治安対策などの指揮をとるデイビッド・グレスリー緊急エボラ対策コーディネーターは、「今後もコミュニティの理解と支援を得ながら、スタッフと住民の安全を確保していく。感染が早期に下火になった町を見れば、住民の対策受け入れが、いかに大切かがわかる」と話す。

日本の緊急援助隊がコンゴから帰還

8月から9月にコンゴでエボラ対策支援にあたっていた日本の国際緊急援助隊・感染症対策チーム(以下、緊急援助隊)が、10月3日に国立国際医療研究センターで報告会を行った。

今回派遣されていたのは、調査隊から緊急援助隊一次隊に切り替わった第一陣と、二次隊の2チームだ。疫学、検査診断、診療・感染制御、公衆衛生、ロジスティック、業務調整といった各方面の専門家が集まってチームを組み、コンゴの行政と連携しながら、現地でのニーズ確認と援助内容の設計、それを受けての各種研修や施設設置を行った

今回、具体的に行った援助活動は、以下の3点。

(1)首都キンシャサの国際空港での、検疫・サーベイランス・診断能力強化の職員向け研修

(2)キンシャサと東部の感染地域の間に位置するチョポ州の州都キサンガニでの検疫所設置

(3)同じくキサンガニでの、医療者への感染管理とサーベイランスの研修、および病院・保健センターでの安全な診療体制整備への支援

発表者からは、コンゴ関係者の熱心な取り組み姿勢に感嘆したとの声や、活動がアクシデントに遭いながらも予定どおり完了できた成果が伝えられた一方で、現地では安全な水や衛生設備が十分ではない状況についても報告があった。エボラ対策に必要な防護服も不足しているという。今回の活動終了時には、キサンガニの検疫所は国連児童基金(UNICEF)に、医療施設での感染制御支援は世界保健機関(WHO)に引き継がれたが、報告者からは日本の人的貢献への大きな可能性についても期待が寄せられた。

感染症対策で、国内でも画期的な動き

先月末には、国内でも感染症対策に関して大きな動きがあった。国立感染症研究所は9月27日、以前から予定されていたエボラウイルスなど5種類のウイルスの海外からの輸入と保管を完了したとの発表を行った。テロ対策等から、事前の日程の公表は行われなかった。

輸入されたのは、南米出血熱ウイルス、ラッサウイルス、エボラウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、マールブルグウイルスの5種類。搬入先は、WHOが病原体の扱いを定める4段階の基準で、最も危険な病原体を扱えるBSL4の指定がなされた国内唯一の施設で、東京都武蔵村山市にある村山庁舎だ。今後、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに伴う病原体の侵入や、マス・イベント等を狙ったバイオ・テロなどに備え、国内で発生したことのない感染症の検査体制が強化される。

感染者の情報共有は危機管理の要

現在、周辺国でのエボラ感染拡大は起こっていないが、9月10日にコンゴの隣国タンザニアでエボラ患者が確認されたとの非公式な報告がWHOに届いて以来、同国に情報提供と調査を求めるWHOと、エボラは確認されていないとするタンザニア政府との間で応酬が続いている。渡航制限は出されていないが、不透明な状況の中、英国の公衆衛生庁と米国疾病予防管理センターは、タンザニア渡航中の体調不良者との接触に細心の注意を払うよう呼びかけている。

タンザニアでの実際の感染状況はわからないが、地域、国内、国家間、国際社会全体での速やかな情報共有は、感染症の危機管理に欠かせない。コンゴ東部の感染地域では今も、不安定な治安や地域の対策拒否が課題だが、今回の流行では効果が見えてきている薬やワクチン、質が向上した医療設備などがある。これらツールを最大限に生かし、レイチェルさん、マルグリットさんのように元気に退院できる患者さんを一人でも増やしていくため、情報共有を含めたシームレスな対応が求められている。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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