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北朝鮮との間に不思議なルートを持つ旧統一教会が「岸田を呼んで教育しろ」と言った

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(704)

文月某日

 7月5日のBS―TBS「報道1930」は、旧統一教会の韓鶴子総裁が6月28日に教団の「聖地」である韓国・清平で日本人幹部1200人を前に、「岸田を呼んで教育しろ」と講演した音声を独自に入手し放送した。

 そしてこの日、岸田総理は拉致被害者の曽我ひとみさんと面会し、日朝首脳会談早期開催に意欲を表明した。旧統一教会には北朝鮮との間に不思議なルートがあると言われる。この2つの動きは関係するのかしないのか、フーテンはそこに注目した。

 TBSが報じた韓総裁の発言は以下の通りである。「皆さんが知らなければならないことは、日本は第二次世界大戦の戦犯国だということ、原罪の国なのよ。ならば賠償すべきでしょう。被害を与えた国に。日本は韓国のおかげで経済復興したことを忘れてはならない。

 その恩を韓国に返すべきだし、日本だけが豊かになってはならないし、世界を助けてあげなければならない。日本が“母の国”として過去の過ちを償うという立場で。それなのに今の日本の政治家たちは統一教会に対し何たる仕打ちなの。家庭連合を追い詰めているじゃない。

 私を“独生女”(救世主)だと理解できない罪は許さないと言ったのに、その道に向かっている。日本の政治はどうなると思う。滅びるしかないわよね。正々堂々と声を大にして、政治家たち、岸田を、ここに呼びつけて教育を受けさせなさい。分かっているわね」。これを聞いた日本人幹部たちは一斉に「はい」と答えた。

 この発言に番組キャスターは「以前も指摘したが、日本が戦犯国であるという考えに日本の保守政治家たちはなぜ反発しないのか」と疑問を呈したが、キャスターは旧統一教会が米国CIAとつながりが深いという背景を見落としている。米国の奴隷国家である日本の保守政治家たちがCIAに逆らえるはずはない。見て見ぬふりをするのがせいぜいだ。

 旧統一教会が教祖である文鮮明によって設立されたのは、朝鮮戦争が休戦した翌年の1954年である。韓国経済は戦争によって破綻に瀕していた。一方の日本では朝鮮戦争が戦後復興の端緒となった。

 吉田茂は憲法9条を盾に再軍備を拒み、代わりに軍需産業を復活させて「戦争特需」にありついた。それが日本を工業国として経済成長させることになる。戦争のせいで貧しさの底に落ちた韓国と、戦争を食い物に経済復興を成し遂げた日本の落差は大きい。

 韓国の中には反日感情と同時に、日本を「反共の防波堤」として経済復興を後押しする米国に対する反発が渦巻いた。日韓両国を統治する立場の米国にとって、日韓双方から反米感情を持たれることは避けなければならない。そのため韓国には反日感情、日本には反韓感情を植え付け、反米にさせないようにする。それが米国の基本スタンスだ。

 しかし日韓の経済的落差はあまりに大きく、米国は1965年に「日韓基本条約」を結ばせて日本から韓国に約11億ドルの経済援助を行わせた。それによって韓国の朴正熙政権は「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を実現する。この時に民間レベルでも日本から金を吸い上げる装置ができた。それが旧統一教会である。

 旧統一教会をそのような組織に再編したのは朴正熙政権でKCIA長官となった金鍾泌である。KCIAは米国のCIAとつながりが深く、旧統一教会が日本人信者から集めた資金は韓国政界と米国政界への工作資金となり、また一部は日本の政界に還流した。

 KCIAは旧統一教会の文鮮明と韓国の実業家である朴東宣を使いワシントンで政治工作を行った。その一つが1976年に「コリアゲート事件」として発覚する。ニクソン大統領が在韓米軍を撤退させようと計画したのを覆すため、KCIAが朴東宣に米国政治家に対する贈賄工作を命じた政治スキャンダルである。

 米下院はこのスキャンダルを調査するため「フレーザー委員会」を設置した。その結果、米国CIAの機密文書などから旧統一教会が金鍾泌によって再組織された「政府機関」であること、また教団信者が米議会事務局でボランティアをしていることが明らかにされた。

 旧統一教会と日本の政界との関係で特筆すべき存在は、安倍晋三元総理の祖父である岸信介である。だが父親の安倍晋太郎との関係もそれに負けずに深く強いものがある。文鮮明の「発言集」によれば、中曽根総理が安倍晋太郎を後継指名せず、竹下登を総理に指名したことに猛烈に腹を立て、中曽根を「裏切者」呼ばわりしていることからそれが分かる。

 安倍晋太郎は旧統一教会が教団信者を米議会事務局でボランティアをさせていることから、日本の国会議員にも教団信者を秘書に採用するよう働きかけを行った。また旧統一教会と組んで政界工作を行った朴東宣とも親しく、安倍晋三元総理が学生時代に米国留学をした78年頃、朴東宣に息子の面倒を見るよう依頼している。

 こうしたことの延長上で、安倍元総理は一昨年の9月に旧統一教会の関連団体UPF(天宙平和連合)の会合にビデオメッセージを寄せた。それを見た山上徹也被告が襲撃を決意したと言われ、1年前の銃撃事件につながる。なぜ安倍元総理はUPFの会合にビデオメッセージを寄せたのか。

 会合の1か月後にUPFジャパンの梶栗正義会長がその理由を明らかにした。「もしトランプがやるとなったら、やっていただかなくちゃいけないけど、どうか」と安倍元総理に問うと、「それなら自分も出なくちゃいけない」と安倍元総理は答えた。それで梶栗会長は安倍政権の6度の選挙で旧統一教会が示した誠意を本人が記憶していたためだと考えた。

 しかし別の教団関係者は「どんな手を使ってでも拉致問題を解決したいと、旧統一教会の不思議な北朝鮮ルートに期待して応じた」との見方を示している。フーテンは圧倒的に後者の見方に立つ。安倍元総理は岸田政権を早期に潰して、自分がもう一度総理をやろうと考えていたと思うからである。

 再々登板の大義名分は拉致問題の解決である。そのため北朝鮮とのパイプ作りを旧統一教会に期待していたと思う。「トランプが出るなら自分も」というのは、北朝鮮の金正恩と2度会談したトランプ前大統領にあやかろうとの思いからだ。つまりトランプと金正恩の会談には裏で旧統一教会が関与していたというのがフーテンの読みである。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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