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安倍・菅・岸田のバトルロイヤルと世界大戦争

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(671)

神無月某日

 前回のブログの最後に10月6日のニューヨーク・タイムズ紙が、「モスクワ郊外で8月、ロシアのプーチン大統領に近い民族主義者の娘を、ウクライナ政府が自動車に仕掛けた爆弾で殺害したことを、米国の情報当局が突き止めウクライナ政府を戒めた」と報道したことを紹介した。

 この事件は当初、ロシアの捜査当局がウクライナ政府の関与を発表したのに、ウクライナ政府は関与を否定し、ロシアの反政府勢力の犯行だとする見方が浮上していた。しかし米国はロシアの見方を肯定した。ロシアのペスコフ報道官はそれを評価する一方、「将来のテロ行為で米国の関与をウクライナの責任にしないよう望む」と発言した。

 つまりロシア国内で米国がテロ行為をやらせ、それをウクライナのせいにする可能性に言及したのである。すると直後の8日にクリミア半島とロシアを結ぶクリミア大橋で大規模な爆発事件が起きた。プーチン大統領はこれをウクライナ政府による「テロ行為」と断定、10日からウクライナ全土に対する「報復攻撃」を行っている。

 ウクライナ政府は爆発が起こるとすぐに記念切手を発行するなど、初めはウクライナの攻撃によるものと思わせたが、しかしその後はロシア内部の犯行とする見方を示して真相は藪の中だ。

 最近ではウクライナ戦争の真の目的はロシアより先にドイツの弱体化を狙ったものだという情報も出てきた。ドイツはロシアから安いエネルギー資源を得て経済成長し、その経済力でEUを主導した。そしてEUの通貨ユーロは国際通貨としてドルに迫る地位を得た。米国はそれを転換させるのだという。

 ロシアからドイツへのエネルギー供給を止めてドイツ経済を弱体化する。それに伴いEUを解体し、国際通貨としてのユーロを低下させ、ウクライナ戦争で国際通貨としての地位を高めた人民元とドルの二極体制を作るというのだ。まさに陰謀論か謀略論の類だが、それほどまでに国際秩序は流動的で不透明だ。

 しかしウクライナ戦争の影響でドイツ経済が弱体化する可能性は否定できない。第二次大戦の敗戦国としてドイツと同じ境遇にあった日本は他人ごとでない。日本は冷戦崩壊後にドイツより先に弱体化させられたが、これ以上の弱体化に遭わぬよう足元を固める必要がある。ところが国内政治を見れば、岸田内閣の支持率下落が止まらない。

 10月の8、9日に行われた共同通信の世論調査で支持率は9月調査より5.2ポイント減の35.0%となり、政権発足以来過去最低となった。不支持率は1.8ポイント増の48.3%である。同じ時期のNHKの調査でも支持率は38%と過去最低となり、不支持率が43%と支持率を上回って支持と不支持が逆転した。

 数字だけを見ると、岸田内閣の政権運営はまったく国民から支持されておらず、もはや末期症状を呈している。そのため岸田政権はこの臨時国会を乗り切れないとする見方が出てきた。中には岸田総理が「破れかぶれ」になり、解散に打って出るという見方まである。

 しかし1989年のリクルート事件を経験したフーテンの考えは違う。あの時はリクルート社から未公開株を譲渡された政治家の名前が次々に明らかにされ、国民の怒りは竹下内閣に向かった。内閣支持率は1桁の3%台にまで下がったが、それでも竹下総理は辞めなかった。

 通常国会は紛糾し、予算が4月を過ぎても成立せず、外務省は来日予定の外国の賓客を断らざるを得なくなり、刑務所の囚人に出す食事の予算がなくなると言われて、最後は予算を成立させることを条件に竹下総理は辞任するが、それも低支持率が理由ではない。

 7月に参議院選挙が予定されていたため、選挙への影響を考慮して辞めた。つまり選挙に影響がなければ権力者は辞めない。周囲も選挙で自分が落選すると思わなければ引きずり降ろしはやらない。それが民主主義の政治である。

 フーテンの見るところ岸田総理に追い詰められた様子は見えない。国会の所信表明演説では、旧統一教会についても安倍元総理の「国葬」についても「国民の皆様の声を重く受け止める」と例の「聞く」姿勢を繰り返した。

 代表質問で、野党が旧統一教会との関係が次々に発覚する山際大志郎経済再生担当大臣の更迭を要求しても岸田総理はこれを拒否した。岸田総理はそのやり方で国会を乗り切れると考えているように見える。

 理由は解散をしない限り国政選挙が3年間ないからだ。国政選挙がなければ自民党内に「岸田おろし」は起きない。ただし来年秋には自民党総裁選がある。これに勝つためその前までに国民の支持を回復する必要はある。

 岸田総理が「国葬」を強行したのは総裁選を乗り切るためだ。最大派閥の安倍派と安倍元総理の「岩盤支持層」を敵に回さないため、支持率を低下させても「国葬」を強行する必要があった。

 一方で旧統一教会の問題は、安倍元総理と安倍派に致命的な打撃を与える。だから岸田総理は旧統一教会と「絶縁宣言」をする一方、自分からは手を下さず、野党やメディアに追及させて安倍元総理と安倍派の力を削いでいく。

 岸田総理のやり方は、安倍元総理の遺志を継ぎ、安倍政治を継承していくように見せる一方、安倍派と安倍元総理の「岩盤支持層」が崩れていくように仕向けている。どちらも総裁選を乗り切るのに必要だからだ。

 それを安倍派と安倍元総理の「岩盤支持層」も分かっている。だから水面下では壮絶なバトルが起きている。そのバトルには総理の座を1年で追われた菅義偉前総理も絡まり「安倍・菅・岸田のバトルロイヤル」が繰り広げられている。

 「安倍・菅・岸田のバトルロイヤル」は、今年の日中国交正常化50周年を軸に戦われた。50年前、田中角栄総理と共に国交正常化を実現したのは派閥の先輩である大平正芳外務大臣だ。国交正常化10周年は鈴木善幸総理が北京で基調講演を行い、20周年は宮澤喜一総理が天皇皇后両陛下の中国訪問を実現した。いずれも「宏池会」出身の総理たちだ。

 宮沢政権の30年後に久々に「宏池会」出身の総理になった岸田総理は、日中関係が冷却化する中で50周年を祝う立場になった。心に期するものがあったと思う。最初の組閣で外務大臣に自民党きっての親中派である「宏池会」の林芳正氏を起用した。

 それは安倍元総理に対する痛烈な宣戦布告となる。林外務大臣は安倍元総理と同じ山口県選出で親の代からのライバル同士だ。しかも林大臣は就任直後の衆議院選挙で参議院から鞍替えして当選した。

 鞍替えは将来の総理を目指す意味がある。それは安倍元総理の総理再登板を絶対に認めない岸田総理の意思の現われだ。安倍元総理がもう一度総理に復帰する野望を抱いていたことは周知の事実で、その野望のため後継の菅前総理は短命に終わった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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