フーテン老人世直し録(621)

極月某日

 9月末に自民党新総裁に選ばれた岸田総理と、つい先週選ばれたばかりの泉立憲民主党新代表が相対する臨時国会が明日から始まる。2人ともその実力は未知数で、この国会がそれを判断させる初の機会となる。

 2人は本会議や予算委員会の場で論戦を交わすことになるが、それらは「討論」ではなく総理の所信表明演説の中身を問いただす「質疑」の形になる。フーテンとしてはそれだけでなく、2人の政治哲学や国家観、あるいは人生観などもテーマとなる「党首討論」をぜひやってもらいたいと思う。

 しかし臨時国会は約2週間と短く時間的には無理かもしれない。ただ2人ともこれまでの自民党と立憲民主党のイメージを変えたいという共通の思いがあるはずだ。岸田総理が「聞く力」を強調し、泉代表が「自民党より国民を向く」と言うのは、安倍一強政治や枝野対決型政治からの脱却を意識している表れだ。

 それを国民に理解してもらいたいのなら、ぜひ積極的に「党首討論」を活用すべきと思う。安倍政権時代に「党首討論」は開かれなくなった。開かれても安倍―枝野時代の「党首討論」は、自分の主張を一方的に言いつのるだけで討論とは言えない代物だった。

 与野党が一方的に主張し合い批判合戦に終始してきたこの9年間の政治を岸田総理と泉代表に変えてもらいたい。それを目指さないと、2人ともそれぞれ党内の強い反対勢力に飲み込まれてしまう恐れがある。

 岸田総理には最大派閥を率いる安倍元総理の存在がある。その影響力をけん制するためか岸田総理は人事で「安倍離れ」を図った。象徴的なのが林芳正外務大臣を誕生させ、将来の総理候補にしたことである。安倍元総理にとっては親の代からのライバルが総理候補になることは許しがたい。

 林大臣が中国と親密な関係にあることから、安倍元総理は台湾との接近を図り、この1日には台湾のシンクタンクの会合にオンラインで参加、「台湾有事は日本有事」と発言して中国政府から猛抗議を受けた。

 安倍元総理の狙いは中国を怒らせることではない。林大臣とその人事を行った岸田総理に対する攻撃である。米中関係が厳しさを増す中、米国に岸田政権が「親中的」であることをアピールし、岸田政権と距離を取るよう仕掛けているのだ。

 一方、泉代表が代表選で選ばれた経緯も明らかになった。フーテンがブログに書いたように、当初から有力と見られた泉候補を落選させる「包囲網」が作られていた。メディアが中道的と報道していた小川候補が2位になれば、決選投票で逢坂候補と西村候補の票は小川候補に流れ、小川代表が誕生するところだった。

 小川候補が代表になれば枝野体制は存続される。国民に表向きは中道路線と見せながら、小川候補は旧社会党グループに担がれる立憲民主党代表になり、枝野前代表や菅直人元総理にとって都合の良い体制が続くはずだった。

 それを阻んだのは小沢一郎である「包囲網」を予見し「包囲網」を切り崩すため、泉候補に対し、代表になれば逢坂候補を幹事長に起用する人事カードを切るよう進言した。しかし泉候補は逡巡したらしい。

 投票前日にようやく「包囲網」を確信し、逢坂候補に幹事長就任を打診したが断られた。しかし泉候補が幸運だったのは、小川候補が2位にならず、逢坂候補が2位になったことである。

 地方議員の票で逢坂候補が小川候補を上回った。逢坂候補が2位の決選投票では、党のイメージが変わらないことを恐れた国会議員票が泉候補に流れ、枝野体制とは距離のある泉代表が誕生したのである。

 従って岸田総理が党内的に盤石でないように、泉代表も党内に反対勢力を抱えている。ただ違うのは、自民党は国民に人気があり世代交代に繋がる河野太郎を決選投票で勝たせない仕掛けをし、それが成功して世代交代は阻止された。

 つまり党員・党友に人気のある河野候補を落選させるために高市早苗を出馬させ、決選投票に持ち込ませるが、決して高市候補を2位にはさせないよう地方議員をコントロールした。高市候補が2位で決選投票になれば国会議員票で河野候補が勝つことになるからだ。

 しかし立憲民主党は地方議員に対するコントロールが自民党ほど効かないようだ。地方議員の票は小川候補より逢坂候補に流れ、泉候補を落選させる「包囲網」は成立しなかった。そして立憲民主党では最も若い候補者が選ばれ、自民党で起きなかった世代交代が起きた。

 政治学者の御厨貴氏は野党が決して掲げてはならない言葉として「政権交代」を挙げている。今度の総選挙で枝野前代表は「政権交代」を声高に叫んだ。共産党との選挙協力で議席を増やすことが確実視されていたためだろう。結果は選挙区では議席を増やしたが、比例区で議席を減らす結果になった。

 つまり国民は選挙区で野党候補に投票しても、政党名を書く比例区では立憲民主党に投票しなかった。それは自公政権に不満でも、立憲民主党に政権を任せようとは思っていない証左である。国民が立憲民主党に期待しているのは自公政権のブレーキ役でしかない。

 それに見合うように、これまで立憲民主党は自公政権をひたすら批判し追及してきた。さらには政権を獲得した暁に自分たちの部下となる官僚も追及の対象とし責めたてた。これではいつまで経っても国民からブレーキ役としてしか期待されない。

 それを脱却し本当に「政権交代」を果たすにはどうするか。「政権交代」を叫ぶことではなく、自公政権の政策をより良く修正させ、その修正能力を国民に見せつけることだ。官僚を自分たちの味方に引き入れ政策能力を磨く。それが出来るかどうかに泉代表の前途はかかっていると思う。

 さあそこで「なぜ日本に政権交代が起きないのかを考える」である。おそらく多くの国民は万年与党を続けた自民党政権に腐敗が起こり、それを正すために「政権交代」の必要が叫ばれたと考えていると思う。

 一部はその通りだ。しかし全部ではない。むしろ国際情勢が日本にそれを迫っているというのがフーテンの経験した現実である。そしてそれは戦後の経済成長とその没落とに密接に絡み、さらに将来の日本を考えれば「政権交代」を担う野党の存在が絶対的に必要なのだが、それがうまくいかない。そこを分かってもらいたい。