叩けばホコリの出る男に禅譲すると将来に禍根が残る

フーテン老人世直し録(533)

長月某日

 米国大統領選挙は新型コロナウイルスへの対応が批判されたトランプ大統領の支持率が低下したことから、民主党候補のバイデン氏優位と見られてきたが、最近ではその差が接近し大接戦にもつれ込むとの見方が出てきた。選挙戦は熱を帯びつつある。

 一方の日本では、今週から来週にかけて与党自民党の総裁選挙と野党合流新党の代表選挙が行われる。しかしこちらは選挙をやる前から誰が選ばれるのか決まっており、しかも国民が参加できる選挙でないため、国民の中にこれを機に国の進路を考えようとする雰囲気は微塵もない。

 自民党の総裁選挙と合流新党の代表選挙は、米国大統領選の仕組みで言えば、民主共和両党の予備選挙に当たる。それぞれの党員が自分たちの大統領候補を選出し、その候補者同士がその後の本選挙で激突する。従って米国の本選挙は、日本で言えば誰を総理にするかを国民に問う衆議院選挙である。

 米国の予備選挙はおよそ半年の時間をかけ、党員の投票によって候補者を決める。ところが今週から来週にかけて行われる総裁選挙や代表選挙は数日だけで、しかも党員投票ではなく国会議員中心の選挙である。つまり国民への広がりをまるで無視したやり方だ。

 そのやり方で決まった候補者同士がまもなく衆議院選挙で激突する。解散・総選挙は年内というのが専らの見方で、投票日として10月25日説、11月1日説、12月3日説が取りざたされている。

 あっという間に総理と野党第一党の党首が決められ、それがまたあっという間に激突して国の進路が選択される。コロナ禍で世界が激変することは確実である。その時期に国民に国家の将来を考える余裕を与えずに選挙をやることは禍根を残すとフーテンは考える。

 なぜこんなことになったかと言えば、安倍総理が突然辞任を表明したからである。潰瘍性大腸炎という難病が再発したからだというが、フーテンには13年前と同じとしか思えない。

 13年前、安倍総理はインド洋で米軍に対する海上自衛隊の給油活動をやめさせ、撤退命令を出さざるを得ないところに追い込まれたため退陣した。退陣表明の時に「このまま政権を続けると大混乱が起こる」と辞める理由を語った。潰瘍性大腸炎のせいにしたのは退陣を表明した後のことである。

 今回はイージス・アショア断念や在日米軍駐留経費の増額など日米同盟に関わる問題と、河井克之・案里夫妻の公職選挙法違反事件との関りなどで追い詰められたとフーテンは見ているが、その辞め方が問題である。

 まさに禍根を残す辞め方だった。今回の辞め方は事実上の「禅譲」である。「禅譲」先は岸田氏から菅氏に変更された。菅氏が「安倍路線を継承する」と宣言したのは、そのことを裏付ける。

 当初はコントロールしやすい岸田氏を「禅譲」先に考えていた。ハト派の岸田氏に憲法改正の露払いをさせ、再び自分が政権に返り咲こうと考えていた。それを菅氏に代えたのは、叩けばホコリの出る男と考えたからだ。叩けばホコリの出る男はコントロールが可能だからである。

 何度も書いてきたが「禅譲」という政権移譲のやり方は民主主義国家ではありえない。そもそも「禅譲」とは中国の皇帝が世襲ではなく有徳の人物に皇帝の位を譲ることを言う。民主主義のシステムとはかけ離れた話だ。それを自民党総裁選でやったのは中曽根康弘氏ただひとりである。

 中曽根氏は総理を辞めた後が怖かった。ロッキード事件で田中角栄氏が逮捕されたのを見たからだ。田中角栄氏も総理を辞めたことを悔やんでいた。現職総理でいたなら逮捕はされなかった。そこで中曽根氏が考えたのが「禅譲」である。自分を裏切らない人物を後継総理に指名する。裏切らない保証は叩けばホコリの出る人物を選ぶことだ。

 それと最大派閥を率いている人間に「禅譲」すれば問題は起きない。そうでない人物に「禅譲」して党内が混乱すれば末代まで「無能」と言われる。当時の派閥構成は第一が竹下派、第二宮沢派、第三安倍派で竹下氏が指名されるのは当たり前だった。だがそれだけで中曽根氏は安心できない。竹下氏を叩けばホコリの出る男に仕立てなければならなかった。

 すると奇妙なことに竹下氏の趣味が急に絵画鑑賞になった。それまで美術関係の本などなかった居間に絵画の本が積まれた。政界最後のフィクサーと呼ばれた画商の福本邦雄氏から政治資金を絵画にする方法を教えられたのだと竹下氏は言った。絵画は値段が素人には分からない。実物は美術館に飾っておけば動かす必要もない。しかしそれで莫大な金額を動かすことが出来る。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の第一回日時:9月27日(日)午後3時から4時半まで。ご自宅のパソコンかスマホでご覧いただけます。日本と世界の動きを講義し,質問を受け付けます。会員制ですのでhttps://bit.ly/2WUhRggまでお申し込みください。今入会なら会費2回分無料。録画でも視聴できます。

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