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安倍一強はよくよく見れば顔と頭脳と手足が別の「二人羽織」だ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(465)

長月某日

 22日朝のNHK「日曜討論」は「内閣改造・安倍政権は何を目指す」と題して菅官房長官と5人の閣僚が出演した。内閣改造が行われたのは10日以上も前の11日であるから「?」という気になった。

 考えてみたら先週の日曜日はオリンピック出場選手を決めるマラソン・レースが生中継され、内閣改造をテーマにした「日曜討論」の放送は見送られていたわけだ。まるで「気の抜けたビール」だが、内容も世界が激動する中でこの国の政治には危機感が乏しいと思わせるものだった。

 出演者の人選も微妙である。まず「気の抜けたビール」であるせいか、肝心の安倍総理の出演がない。代わりに菅官房長官が出演した。今回の改造では菅官房長官の意向が随所に反映され、任命権者は事実上菅官房長官ではないかと見る向きもあるが、それを裏付けるような人選である。

 そして菅官房長官以外の5人の閣僚は、高市総務大臣、茂木外務大臣、加藤厚労大臣、小泉環境大臣、河野防衛大臣だった。まず菅官房長官が20分間、消費増税、米中貿易摩擦、中東情勢、日米貿易交渉、社会保障改革、外国人観光客誘致、財政健全化、日韓関係、対北朝鮮政策、憲法改正と全般にわたる考えを述べ、その後は各大臣が10分間ずつ所管する役所の課題を述べた。

 内閣の骨格とされるのは財務、外務、経産の3省である。国会でも総理大臣、財務大臣、外務大臣、経産大臣が政府を代表して演説を行い、野党から質問を受ける。しかし今回の「日曜討論」には財務大臣も経産大臣も出演していない。

 司会者が質問の最後に「これからどう安倍政権を支えていくか」と聞くのを見て、どうも「ポスト安倍」の候補者と目される政治家を集め「自分の将来像」を聞くのが目的のような気がした。

 因みに菅官房長官は「ポスト安倍」に意欲はないと答え、安倍政権の課題は経済再生、外交安保の再構築、社会保障改革だが、私は携帯電話料金の値下げや外国人観光客を増やす政策をやっていくと答えた。

 他の閣僚も「与えられた職責を果たす」という謙虚な姿勢に徹し、誰も安倍政権の次の時代を構想することはなかった。安倍総理は今回の組閣を「安定と挑戦」と言ったが、内閣では麻生副総理兼財務大臣と菅官房長官、党では二階幹事長と岸田政調会長を留任させたのだから、「安定」だけが目立って何が「挑戦」なのか分からない。

 「ポスト安倍」とメディアが喧伝する政治家たちに「権力者の片鱗」はいまだ見えず、小泉環境大臣に至っては質問をはぐらかしてまともに答えない姿だけが目立つ。「ポスト安倍」の挑戦者は閣内におらず、閣外にしかいないということか。

 今回の組閣で安倍総理の願望は通らなかった。願望とは二階散幹事長の衆議院議長への祭り上げである。衆議院議長は総理大臣、最高裁長官と並び「三権の長」の一角をなすが、しかし実態は権力を持たない名誉職である。

 我々は学校で民主主義の基本は「三権分立」と教えられる。それは大統領制の国には当てはまるが、英国と同じ議院内閣制の国に「三権分立」などない。英国で下院議長を務めるのは若手の議員で実力者ではなく、最高裁も最近までは貴族院が代行していた。

 「安倍一強」と言わなくとも議院内閣制では本来は総理の権限が強いのである。それが「55年体制下」の日本では総理の権限を弱める独特の仕組みがあり、総理が何かをやろうとしても与党が言うことを聞かなければできず、また参議院がめっぽう強く、参議院を制する者が日本政治を制すると言われた。

 田中角栄氏が「闇将軍」として日本政治を裏支配できたのもその独特の仕組みを有効活用したためだ。だから政治改革とは総理の権限を強めることを目的とした。それが今や「安倍一強」と言われるまでになった。

 しかしよくよく見ると安倍総理が「一強」なのではない。安倍総理は顔だけで頭脳も手足も別の人間が演じている。つまり宴会でよくやる「二人羽織」だ。国民から見える顔は安倍総理だが、頭脳や手足には「官邸官僚」と呼ばれる面々が黒子としてついている。その頭脳と手足の動きに合わせて安倍総理は言葉と表情を発する。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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