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「小泉初入閣」で見えなくした「在庫一掃・お友達内閣」の狙い

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(463)

長月某日

 内閣改造と自民党役員人事が11日に正式発表された。その前日に入閣はないと見られていた小泉進次郎氏の環境大臣就任が決まったため、メディアは「小泉進次郎初入閣」一色の報道である。

 これまで総裁選挙で石破茂氏に投票してきた小泉氏が安倍総理の入閣要請を受けたのはなぜか。育休宣言してきた小泉氏は大臣になっても育休を取るのか。次の総裁選挙には立候補するのかなど、「小泉初入閣」を巡る情報だけがメディアを賑わせる。

 「小泉初入閣」を仕掛けたのは菅官房長官のようだが、安倍総理にとっても悪い話ではない。河野太郎氏の例を見ても分かるように、自分に批判的な言動をする人間を一本釣りで閣内に取り込めば批判を封じることが出来、しかも最大の政敵である石破茂氏の力を削ぐことになる。

 さらにメディアを「小泉初入閣」に集中させることで「在庫一掃」や「お友達内閣」といった批判を封ずることができる。この人事は「小泉初入閣」を除くと、あからさまな側近重用の「お友達内閣」であり、また派閥から要請された「在庫一掃」の人事だが、メディアは目くらましに合ったかのようにそれをあまり言わない。

 それでは任期があと2年となった安倍総理が、この時期になぜ「在庫一掃」と「お友達内閣」にこだわったのかと言えば、7年になろうとする第二次安倍政権の「総仕上げ」を考えたのではなく、4選を狙う構えをこの人事で示したのである。

 仮に安倍総理が自分の政治の「総仕上げ」を考えたとすれば、当選回数が多いという理由で大臣の座を待つ議員や派閥の意向など気にせずに最強のメンバーを集め、自分が辞めた後に批判されないよう、アベノミクスの足りない部分を補強し、「地方創生」や「少子化対策」、「規制改革」、「デジタル技術革新」など日本の将来に必須の課題に的確な大臣を充てたはずである。

 しかし今回の人事を見ると、「地方創生」と「規制改革」を託したのは岸田派から押し込まれた当選7回の北村誠吾衆議院議員で、出身が佐世保市であることから、これまで防衛副大臣を経験した人物である。この人事から見えるのは安倍総理が「地方創生」と「規制改革」を必須の課題と考えていないことが分かる。

 また「少子化対策」を託されたのは、総理側近の一人でもあるが、高市早苗衆議院議員である。しかし高市氏は総務大臣との兼務であり、とても真剣に「少子化対策」に取り組む構えに見えない。ただ総務大臣は米中が覇権争いに鎬を削る5Gを担当することになるので、高市氏にはそれを担当させる意味があるのだろう。

 だがIT担当大臣となると、これも岸田派からの要請で当選8回の78歳、竹本直一衆議院議員が就任した。竹本氏は2017年に同じく当選8回で今回初入閣の麻生派の田中和徳衆議院議員らと共に、安倍政権を批判する有志の会を立ち上げ、会長に就任したことがある。安倍総理が「総仕上げ」を託す人では全くない。

 このように安倍総理はこの国の将来にとって必要な課題にはさほど興味を示していない。アベノミクスが賞味切れになる中で、その不足部分を補おうともしていない。つまり安倍総理には「総仕上げ内閣」を作って有終の美を飾る考えはない。

 その逆に安倍総理が4期目を狙っているとすれば、党内各派に恩を売り、かつ自らの手で衆議院選挙を取り仕切る構えを見せるはずである。今回の人事は間違いなくそちらの構えを示した。

 今回の人事で安倍総理は、まず早々に内閣と党の骨格を変えないことを発表した。内閣では麻生副総理兼財務大臣と菅官房長官を留任させ、党では二階幹事長と岸田政調会長を留任させた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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