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憲法改正の最大の障害は安倍総理の存在である

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(443)

水無月某日

 自民党の下村博文憲法改正推進本部長が3日のテレビ番組で、憲法改正を発議するには「大連立を組むというのも考え方だ」と発言したことが報じられた。下村氏は国会で採決する際に各党が党議拘束を外して自主投票にすることも言及したという。

 聞いた瞬間には何のことやらさっぱり分からなかった。大連立とは国会が二大政党と複数の小政党に分かれている場合、議席第一党が小政党と連立するのではなく、第二党と連立する特別の場合を言う。

 議席第一党と第二党は異なるイデオロギーや主張を持つのが普通である。従って第一党は自分と近い小政党と組んで過半数の議席を確保し与党になる。しかし戦争や大不況など国家的危機に陥った場合、危機を乗り切るにはイデオロギーを超えて協力しなければならなくなる。そこで大連立によって挙国一致内閣を誕生させるのである。

 現状で大連立と言えば自民党と立憲民主党が連立する話である。しかし「安倍一強」と言われる今の日本で大連立は必要なのか。しかも自民党と公明党が連立する現在の与党は衆参でそれぞれ3分の2を超える議席数を有し、憲法改正を発議することは可能である。

 ただ野党の反対を押し切って発議すれば国論は二分され、国民投票で逆の結果になる可能性がある。国民投票が予想通りにならないことは、EU離脱の是非を問うために行われた英国の例を見ても明らかだ。

 要するに現在の与党は憲法改正を発議する議席を持ちながら、立憲民主党と連立しないと憲法改正は出来ないと考えていることになる。それを安倍総理の側近で自民党の責任者が口にしたのだ。

 安倍総理の側近と言えば、萩生田幹事長代行が4月に消費増税延期とダブル選挙の可能性についてアドバルーンを打ち上げた。フーテンは解散したい安倍総理の意向を受けてのアドバルーン発言と見たが、そこに解散の大義を見つけられずに焦る安倍総理の心情をフーテンは見た。安倍総理の求心力が衰えるのではないかとブログに書いたのはそのためだ。

 下村憲法改正推進本部長の「大連立発言」も選挙の後ならいざ知らず、選挙の前に行うところが奇妙である。戦うべき最大の敵に対し選挙の前から手を組もうと提案しているようなものだ。狙いは何かを勘繰りたくなる。

 萩生田発言に公明党は不快感を表明した。山口代表は「客観的に信を問う課題があるかどうか、もっと冷静に見るべきだ」と言い、石田政調会長も増税延期を否定した。それがこの下村発言でまた繰り返される。

 山口代表は「今のところ連立という重要課題で自民党幹部から何か話を聞いたことは全くない」と語り、北側副代表は「9条は安全保障に関わるテーマであり、党議拘束がかからないのは理解できない」と反論した。

 これまで憲法改正問題も消費増税延期も共に安倍総理が解散の大義にすると見られてきた。これに自民党の二階幹事長は「消費税の問題を国民にこれでもかとこすりつけて解散するのは愚の骨頂」とする一方、「にわかに憲法をテーマに解散するのは難しいのではないか」と否定的な考えを示し、小泉元総理も「憲法問題を選挙のテーマにしてはいけない」と反対した。

 こうした中で下村氏は憲法改正を行うために「大連立」を打ち上げたのである。狙いはまだよく分からないが、単純に考えれば立憲民主党とその他の野党との分断を狙っている。今度の選挙は野党が小沢一郎氏の主張する共闘、つまり各政党がバラバラに選挙協力するのではなく、選挙母体を一つにする共闘に成功すれば、与党に大勝利することが可能である。

 仮に安倍総理が衆参ダブルに踏み切るなら一気に政権交代が実現する。ところが「自党ファースト」の立憲民主党がそれに背を向けている。表では野党共闘を言いながら自党勢力の拡大に余念がない。安倍総理にとって最も好ましいのが立憲民主党なのだ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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