在日米軍はロシアに敵対的でないと言う安倍総理の思考回路

フーテン老人世直し録(413)

睦月某日

 1年前の正月は北朝鮮の金正恩労働党委員長と米国のトランプ大統領の「言葉の応酬」で幕を開けた。

 金正恩は「米国本土全域が我々の核攻撃の射程圏内にある。私の机の上には核のボタンがある」と「新年の辞」で米国を威嚇し、トランプは「私も核のボタンを持っている。私のは彼のよりずっと大きくパワフルで、そしてちゃんと機能する」とツイッターで言い返した。

 その半年後、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が実現し、トランプと金正恩はがっちりと手を握り合った。トランプに言わせれば「恋に落ちた」のだそうだ。恋人同士には周囲が理解できない感情の交流がある。それだけに周囲は恋の行方を危ぶむ。今年は2人が周囲の雑音を押し切って恋を成就させるかどうかが問われる年になる。

 それを意識したかのように今年の金正恩は「新年の辞」を書斎風の部屋で椅子に座って語るスタイルに変えた。全体主義国家の独裁者のイメージとはかけ離れた演出で、妹の金与正のアドバイスではないかとフーテンは思った。

 そこで金正恩はトランプとの再会談と非核化に意欲を示し、しかし米国が約束を果たさなければ「新たな道」を模索せざるを得ないと警告も発した。トランプの恋を邪魔する周囲に多少の牽制をかまし、しかし金正恩が軍事より経済開発に意欲を見せていることを内外に印象づけようとする「新年の辞」であった。

 これに対しトランプも「金正恩は核兵器を作らず実験もしないと言った。北朝鮮が大きな経済的能力を持っていることを良く分かっている金正恩とは私も会談したい」と応じ、2人の恋がまだ続いていることを明らかにした。

 トランプの2020年大統領選挙に最も協力するのは金正恩ではないかとフーテンは再三ブログに書いた。非核化のプロセスは大統領選挙にとって最も効果的なタイミングで行われる。それまでに米中貿易戦争は何らかの形で決着し、従って中国もロシアも関与する中で北朝鮮の非核化は進行する。

 そして北朝鮮と米国の間で平和条約が結ばれ、朝鮮戦争が終結することで、北朝鮮の本格的な経済開発が始まる。そもそも70年代までは北朝鮮の経済力が韓国を上回っていたことを考えれば、勤勉な労働力と豊富な地下資源による経済のポテンシャルは大きい。

 そして北朝鮮は中国より米国に接近して第二のベトナムになるのを狙うのが金正恩の戦略ではないかとフーテンは見ている。とにかく1年前の正月に世界をハラハラドキドキさせた金―トラの「言葉の応酬」は、この1年で様変わりし、「恋の駆け引き」に変わった。

 それに代わって今年フーテンが衝撃を受けたのは、元旦に放送された北方領土を巡る安倍総理の言葉である。安倍総理はテレビ朝日のインタビューに答え、「在日米軍はロシアと敵対的でない」と発言した。安倍総理はプーチン大統領にそのように説明してきたと言い、プーチンも必ず理解すると言い切った。

 安倍総理の説明は「在日米軍は日米安保条約の5条と6条に基づいて、日本や極東の平和と安全のために存在している。決してロシアと敵対的なものではない」というのである。軍隊が平和と安全を守るために存在するのはその通りだが、それでは誰から誰を守るために存在するのか。

 日米安保条約で言えば、在日米軍は日本と米国を守るために存在する。誰から守るかといえば、日本と米国以外の国から守るということだ。その在日米軍がロシアと敵対的でないというロジックがどこから出てくるのか。聞いた瞬間には頭がくらくらした。

 在日米軍の指揮権は誰にあるか。米国の軍隊であるから米国大統領にある。日本は基地を提供しているだけだから、安倍総理が在日米軍に命令を下す権限はない。それどころか在日米軍がやることを制止する力もない。米国では法律で禁止されている住宅地上空での低飛行訓練も日本では誰も止められない。

 そんな立場の日本の総理が「在日米軍はロシアと敵対的でない」と主張しても、プーチンは「何の力もない奴が何を寝ぼけたことを言うか」と肚の中で笑うに違いない。すべての国はすべての国と友好的であると同時に敵対的である。それが現実であり政治のイロハである。そして困るのはそのイロハの分からない人間の方が交渉しやすいと思われることだ。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾のお知らせ」8月26日(月)19時~21時 場所:東京都大田区上池台1-21-5スナック「兎」(03-3727-2806) 東急池上線長原駅から徒歩5分■参加費:1500円 ■申込先:agoto@K6.dion.ne.jpに住所氏名明記で

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