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オウム事件を教訓にした米国と鈍感のままの日本

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(380)

文月某日

 オウム真理教の松本智津夫と元教団幹部ら7人が6日に死刑執行された。国会開会中に1日で7人の死刑執行は異例だが、命令を下した上川法務大臣はその理由を明らかにしていない。同時にオウム事件とは何であったかについても闇を抱えたまま死刑は執行された。

 数々のオウム事件の中で最大は1995年3月に起きた地下鉄サリン事件である。日本国家の中枢である霞が関に向かう通勤電車に神経ガスのサリンがまかれ13人が死亡し6000人を超す被害者が出た。

 史上最悪のテロ事件として世界を震撼させた。世界を震撼させたテロ事件を果たして日本国家は教訓にすることが出来ているのか、その疑問がフーテンに付きまとう。

 この事件が起きた時、フーテンは米国の議会中継専門テレビ局C-SPANを日本にも作ろうと準備していたため、米国議会と日本の国会の両方を見る立場にいた。日本の国会では予算委員会でこの問題が取り上げられたが、数々の質問に警察官僚は「捜査に支障が出る」との理由でほとんど答弁を拒否した。

 一方の米国議会では民主党のサム・ナン上院議員が委員長を務める軍事委員会が3日間にわたってオウム公聴会を開き、サリン事件を冷戦後の安全保障における重大課題と位置付け徹底した審議を行った。

 フーテンが驚いたのは米国議会の付属機関である議会調査局のメンバーが、日本だけでなくロシアやオーストラリアなどオウムの支部があった国々に派遣され、オウム教団についての調査活動を世界規模で行っていたことである。

 テロ事件であるからCIAや軍の諜報機関もそれぞれのルートで調査を行ったとは思うが、それとは別に議会が独自に調査を行っていたのである。派遣されたメンバーはそれぞれ報告を行ったが、そこには日本の警察から提供された日本では未公表の情報も含まれていた。

 またオウムは1987年にニューヨークに支部を開設していたことから、公聴会にはFBIやCIAも証人として喚問された。いつからどこまでオウムを把握していたかを追及するためである。当然ながら議員の質問にFBIもCIAも答弁拒否などできない。

 日本の国会の官僚答弁に腹立たしさを覚えていたフーテンは、公聴会のビデオテープを自民党の若手議員に見せ感想を聞いた。若手議員はただ「うらやましい」というだけだった。

 議会調査局は議会図書館の一部局である。900人の専門調査員が世界で起きているあらゆる問題を調査研究し議員にレポートを提出する。議員はそれを立法の参考にする。

 戦後に米国の影響下で日本の国会は作られたから同様の組織が国会図書館にある。「調査立法考査局」という。しかし米国と異なり規模は150人程度で、しかも日本ではほとんどの法案を官僚が作るので機能しているとは言い難い。いわんや国会が海外にまで派遣して調査をした例など聞いたことはない。議会の重みが日本と米国では格段に違う。

 ともかく米国議会は日本とは比べられない熱心さでオウム問題に取り組み、その結果、化学兵器、生物兵器、核兵器を使ったテロがこれからの安全保障上の最大課題という結論に達する。結果、米国にはこれらに対応するシーバーフ(CBIRF)という特殊部隊が創られた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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