森友問題は日本の敗戦を招いた「無責任体制」の再来を示す統治構造の危機
フーテン老人世直し録(294)
卯月某日
「北朝鮮のミサイル発射という危機的な状況の中で日本の国会は数億円の国有地の払い下げ問題で大騒ぎしている」。先月末、橋下徹前大阪市長はワシントンDCのシンクタンクで日本の国会は愚かだと言わんばかりの講演を行った。しかし愚かなのは橋本氏の認識の方である。
この男はまるで政治が分かっていない。北朝鮮の核ミサイル問題は日本の国会が騒いでどうにかなる問題ではない。根本にあるのは1950年に始まった朝鮮戦争がまだ終わっていない現実である。北朝鮮は戦争を終わらせて米国と平和条約を結びたい。しかし米国は戦争を終わらせない方が国益になる。そこに問題の本質はある。
核ミサイル開発はけしからんことではあるが北朝鮮が米国と平和条約交渉を行うための手段でもある。米国はそれが分かっているからこれまで放置してきた。北朝鮮の脅威を煽れば日本と韓国をさらに従属させ、また台頭する中国との交渉カードに使える。
クリントン政権は1994年に北朝鮮空爆の一歩手前まで行った。しかしやった場合の韓国の被害の大きさを知り断念する。またクリントン政権は逆に朝鮮半島統一を実現しようとしたこともある。それもやめたのは冷戦状態をアジアに残す方が国益になると考えたからである。だから北朝鮮問題は米国と中国の外交ゲームで日本が主体的にできることなどない。
しかし森友学園問題は我が国の国家システムが危機的状況にあることを端的に示した極めて深刻かつ重大な問題である。国会はその認識のもとで統治構造の欠陥を徹底的に洗い出す必要があるとフーテンは考える。
かつて1945年の敗戦後に丸山眞男は『超国家主義の論理と心理』(岩波文庫)で、日本を戦争に駆り立て敗戦に導いたのは、具体的な独裁者の命令ではなくすべてを天皇という見えない存在に起因させた「壮大な無責任体制」と指摘した。また山本七平は『「空気」の研究』(文春文庫)で日本人の思考を支配する見えない「空気」の存在を指摘した。
その「無責任体制」と「空気」を我々は2011年の福島原発事故後の日本政府の対応で再び見せつけられる。誰も責任を問われないまま原発問題を徹底検証することもなく、しかし「空気」によって原発は次々に再稼働されていく。
そこに森友問題が起きた。安倍総理の昭恵夫人が名誉校長となり、戦前回帰の教育を行う小学校に国有地が安く払い下げられたのである。
これは疑惑だらけの問題である。払い下げをめぐる資料がすべて廃棄されたと財務省は主張するが常識ではあり得ない話で、値引きの根拠となるごみの算定基準についても国交省の説明は全く納得できない。しかも真相を「隠蔽」する意図が初めから見えて、この問題が統治の根幹に関わることを自ら告白している。
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