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解散を巡る安倍総理と二階幹事長のずれに中曽根対金丸の暗闘を思い出す

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(266)

極月某日

8日の産経新聞朝刊は「安倍総理が年内の衆議院解散を見送る意向を固めた」との記事を掲載した。理由は日ロ首脳会談とハワイ真珠湾訪問という外交日程を優先させたためで、解散は来年秋以降にずれ込む公算が大きいとの見通しを示している。

その裏付けとして同紙は7日に自民党の二階幹事長が大阪市内で講演し「年内解散はない」と発言したことを挙げている。しかし興味深いのは二階幹事長が年明けの解散まで否定したわけではなく、ただし「解散権を弄ぶこと」に不快感を表明したことである。

二階幹事長は講演後の質疑で衆議院解散について問われ、「年内はありません。年が明けてどうなっていくか。これからまた新しい流れが出てくるか」と述べ、そのうえで「今がチャンスだと耳元でささやく人もいないではない。だが、長期政権をやりたいからと言って『今がチャンスだ』と解散を弄ぶものではない」と語ったという。

二階氏は幹事長就任後、公明党と共に解散風を吹かせた張本人である。しかしその後一転して解散に慎重な姿勢を見せ、その一方で総理周辺から流される解散戦略に口を差し挟んできた。現在は総理周辺が「年明け解散」のアドバルーンを上げている。

その二階幹事長をフーテンは中曽根総理と暗闘を繰り広げた金丸幹事長とダブらせてみている。中曽根総理が長期政権を実現するため衆参ダブル選挙を画策した時、金丸幹事長は解散に賛成なのか反対なのか、およそ半年間にわたって周囲に分からせないようにした。

賛成と見える一方で反対にも見えるという政治術に周囲は煙に巻かれ続け、フーテンはほとほと感心したものだ。そうなると次第に金丸幹事長の判断が解散を左右すると思わせるようになる。日本の政局とは関係のない金丸氏のトルコ訪問にまで新聞社とテレビ局は記者を同行させざるを得なくなった。

外国での懇談で記者たちは「解散に賛成」という感触を得るが、帰国後はまた「解散に反対」と思わせる発言が出てくる。金丸幹事長は最後は解散に同調するのだが、しかし選挙結果が歴史的な大勝で中曽根総理の思惑通りになると、すぐさま幹事長辞任を表明して勝利に冷や水を浴びせ、中曽根総理は1年間だけの任期延長を特例として認められる結果になった。

今年の年明けから安倍総理は中曽根総理を意識して衆参ダブル選挙を画策した。これに対して当時の二階総務会長は「ダブル選挙などやらなくとも自民党の党則を変えれば良い」と言って安倍総理にいわばエサを投げた。ダブル選挙に反対の公明党はそれに救われ、当初はダブルに強いこだわりを見せていた安倍総理もエサを与えられておとなしくなった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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