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日本人にとって台湾は「旅行」>「有事」 ビッグデータで浮き彫りになった分断

田中美帆台湾ルポライター
台湾に対する視線が浮き彫りになれば、次の一歩も見えてくる(撮影筆者)

 近年、台湾に関する報道を見ない日はない。コロナ前、台湾旅行者数は過去最高を叩き出したが、コロナ後はいわゆる「台湾有事」に寄っている。その変化は台湾旅行に影響を与えているのか。ビッグデータで探ってみることにした。

 使用したデータは、ヤフーのビッグデータをもとに、生活者の実態や動きを可視化するインターネットサービス「DS.INSIGHT」。データはヤフーで検索された実数ではなく、推計値である。

台湾への興味は「旅行→コロナ→カステラ」

 手始めに、2019年初めから2022年末までに「台湾」をキーワードとして使用された用語の上位20位までを拾い出してみた。

出典:ヤフー・データソリューション「DS.INSIGHT」のデータを元に筆者作成
出典:ヤフー・データソリューション「DS.INSIGHT」のデータを元に筆者作成

 コロナ直前の2019年には、旅行に関する検索が上位にランクインしていたが、2020年の流行拡大で台湾の防疫対策への評価が高まったことでそれらが上位に浮上。メーカーが日本へ進出した「台湾カステラ」、また「台湾唐揚げ」など食への注目が高まった。「台湾カステラ レシピ」が検索されているのは、在宅時間の増加によるものだろう。そして2022年に11位で「台湾有事」が登場する。だが、それより上位に「台湾 入国制限」や「台湾旅行」が入ったのは、10月13日に観光が解禁されたことと関係すると思われる。

旅行と有事の量的な時系列変化

 次に、キーワードを絞り、「台湾旅行」と「台湾有事」の2語について時間軸で検索されたボリュームを確認すると、下のような量的変化が見られた。

出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT
出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT

 緑の「台湾旅行」がコロナ前までかなりのボリュームで検索されていたのに対し、青の「台湾有事」は2022年7月から一気に浮上したことが見て取れる。これは、親台派の安倍晋三元首相が同月に銃撃事件で殺害された際、ウクライナ侵攻を受けて安倍氏が生前に「台湾有事は日本有事」と発言していたことが大きく取り上げられたことが引き金になっていると思われる。

有事は旅行に影響している?

 では、「台湾有事」は「台湾旅行」に影響しているのだろうか。

 これもまた、ビッグデータで「台湾有事」と検索した人たちが、その前後あわせて1年で、どのような検索行動を取っているのか確認した。

 検索されたワードの内容からは、「第三次世界大戦」「ウクライナ侵攻」といった国際情勢にかかわる用語がほとんどで、旅行に関連するような文字列は見当たらない。続けて同様に、「台湾旅行」を検索した人の前後の検索ワードの内容を確認した。

 また同様に「有事」に関連する文字列は見当たらなかった。どうやら両者では、興味関心が異なり、分断が見て取れる。

 なお、「台湾有事」の検索ボリュームが58,000であったのに対し、「台湾旅行」は82,800で有事を上回っていた。

台湾旅行の鈍化はライバルの影響?

 もう一つ、別の指標を見てみよう。

 以下は、同じく検索されたワードのボリュームを、今度は別ワードと比較したものだ。対象としたのは上で「台湾旅行」と検索した人が同時に検索していて、ボリュームも大きかった韓国とタイである。

出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT
出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT

 全体の時間軸は2019年から2022年末の4年間。コロナ流行が拡大し、国境が封鎖された時期に当たる2020年4月で台湾、韓国、タイともにガクンとボリュームが落ちている。そして、2022年に入ってからは韓国旅行の検索ボリュームが一気に伸び、台湾はやや伸び悩んでいるものの、緩やかに上向きだ。

 韓国旅行については、その検索した層を確認すると明らかに女性が多かった。理由として、コロナ禍で配信プラットフォームを通じて韓国コンテンツに触れた人たちが、コロナ明けの旅行先としてまず韓国を選んだものと推測する。

緩やかな「台湾旅行」復調の兆し

 では、直近の2023年1月は、どのような検索がされたのだろうか。「台湾旅行」の検索ボリュームを見てみよう。

出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT
出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT

 上位10位以内に「台湾旅行」をはじめ、レート、入国制限、観光といったワードが並び、明らかに旅行への興味の高まりが感じられる。

ビッグデータに見る台湾への視線

 データを見ながら感じたのは、「台湾有事」に関心がある人と「台湾旅行」に関心がある人の間に分断があることだ。気がかりなのは、国際的な政治情勢から台湾を見る中で「台湾有事」を検索したと思われることだ。パワーゲームのあり方に興味はあるが、そこで止まっていないだろうか。関係性の文脈だけでなく、個別の文脈にも目を向けてほしいと思うのは、筆者だけではないはずだ。

 また「台湾旅行」の検索ボリュームが増えてきているのは、喜ばしい。旅の先には、現地で台湾に暮らす人々をその目で見て、歴史文化や考え方に触れる大きな扉がある。現地に暮らす日本人として、多くの方にこの扉をくぐってほしい。そこから、台湾と日本の交流は生まれ、理解が深まると思うから。

ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT

※この記事は、Yahoo!ニュース 個人編集部、ヤフー・データソリューションと連携して、ヤフーから「DS.INSIGHT」の提供を受けて作成しています。

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台湾ルポライター

1973年愛媛県生まれ。大学卒業後、出版社で編集者として勤務。2013年に退職して台湾に語学留学へ。1年で帰国する予定が、翌年うっかり台湾人と国際結婚。上阪徹のブックライター塾3期修了。2017年からYahoo!ニュースエキスパートオーサー。雑誌『& Premium』でコラム「台湾ブックナビ」を連載。2021年台湾師範大学台湾史研究所(修士課程)修了。

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