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日食なつこ 『ラヴィット!』で披露し大反響の「ログマロープ」「開拓者」と、“これから”について語る

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/LD&K

「ログマロープ」が『M-1グランプリ2023』のPVに使用され話題に

昨年12月24日にオンエアされた『M-1グランプリ2023』のプロモーションビデオで使用され話題になった日食なつこ「ログマロープ」。“人生、変えてくれ”というキャッチコピーと共に、決勝ネタと同じ時間の4分間の映像に「もがき苦しみながらも自分が信じる笑いの研鑽を積み重ね、作り上げたネタで戦う漫才師の姿を投影し、少しでも背中を押すことができるような楽曲」という制作サイドの熱い想いを映し出していたのが「ログマロープ」だ。

<もう1秒だって今の自分で居たくないんだ><始めることも終わらすことも出来る><不可能が牙を剥く 無事でなどいたくない>という血が通った強烈な歌詞が、決勝戦に残った漫才師はもちろん、全ての芸人と視聴者の心を震わせ、この映像が公開された直後から大きな反響を呼んだ。

そして1月31日にTBSの朝の情報バラエティ番組『ラヴィット!』で「ログマロープ」と、二宮和也(嵐)が「人生のテーマソング」とX(旧Twitter)に投稿し話題となった「開拓者」を地上波で初披露した。番組ゲストのヤ―レンズのリクエストによって実現した企画で、日食の圧巻のパフォーマンスに放送後はXのトレンド入りするなど再び大反響に。

番組出演から数日後、日食にインタビューし、改めて「ログマロープ」そして「開拓者」という曲について、『ラヴィット!』でのパフォーマンスについて、さらに15周年を迎えての心境の変化など、色々な話を聞かせてもらった。

「命を削りながらお笑いに人生を賭けている、まさに『ログマロープ』を地でいっている人たちが集まったのが、M-1という場所なんだと思った」

まず「ログマロープ」を『M-1グランプリ2023』のプロモーション映像で使いたいというオファーが来た時のことを思い出してもらった。

「お話をいただいてもちろん嬉しかったので、すぐにお返事しました。ただどれくらい使われるのかがその時はわからなかったので、本当に一瞬だけ使われて、正直そんなに話題にならない可能性もあるなと思ったので、あんまりキャッキャしないようにしていました(笑)。あの切羽詰まった曲で浮かないかなと心配していました。でも完成度が高くて驚きました」。

「『ログマロープ』を書いたのは一番沈んでいた頃で、半年間曲が書けなくてもがいていました」

本人は「お笑いをそんなに見ていなかった」というが、芸人の中には日食なつこを聴いている人が多かった。しかし日食はこの映像を見て思いを新たにしたという。

「人を笑わせる仕事の方は、やっぱり毎日楽しい気持ちでやってるんだろうなって勝手に思っていたら、あの映像を観て、ステージに出る直前にあんなに追い詰められた顔になるんだ、皆さん命賭けて戦っているんだとわかって、カルチャーショックでした。『ログマロープ』を書いた時は一番沈んでいた頃というか、生活レベルが一番低い時で、半年間曲が書けなくてもがいていました。芸人さんもお笑いをやりながらバイトをして、家族を養っている人もいたり、命を削りながらお笑いに人生を賭けているまさに『ログマロープ』を地でいっている人たちが集まったのが、M-1という場所なんだと思いました」。

大きな反響があったことについて、「その笑いで人を沸き立せるということと、歌って言葉で人を沸き立たせるということには、思った以上に通じるところがあるんだと実感しました」

言葉を生業としている芸人に、同じく“芯を食った”言葉とメロディで曲を作って歌い、生業としている日食の歌が突き刺さっている。

「芸人の方が私の音楽を聴いてくださっているという話は聞いたことがありましたが、だからといってそこを猛アピールしようとか思うこともなく、割と受け身のままでしたが、あの反響を見ると、その笑いで人を沸き立せるということと、歌って言葉で人を沸き立たせるということには、思った以上に通じるところがあるんだということを実感しました」。

「待ちの姿勢ではダメなんだということに気づくのに、15年かかってしまった(笑)」

「受け身」という言葉が本人の口から出たが、2019年のデビューからこれまで、例えば2015年に『関ジャム』(2015年)で日食の「水流のロック」がクローズアップされ、話題を集めたり、その音楽が徐々に広がりを見せて行く中で各方面から絶賛されるようになっても、日食はまさに泰然自若。大きな動きになるかもしれない予感があっても、決して“ガツガツ”することなく、音源を作りライヴを重ねていい意味で淡々と前に進んできた。しかし15周年を迎えた今、少し心境の変化があったようだ。

「今まではこちらから何か出すっていうより、とにかく待って、『関ジャム』や『M-1』のようなチャンスをいただいたら、出て行くということの積み重ねでした。でももうちょっとこちらから攻めて行かなければ、ということを今回『ラヴィット!』に出演してみて、改めて思いました。待っていてはダメなんだということに気づくのに15年かかってしまった(笑)。15年もやっていると、後続に追い抜かれるということを感じることも多くて。別にそれは個々のスピードだし、私がやっているジャンルは、そんなに爆速で走り抜けていくようなことをやる必要もないという自覚はありつつ、でも私を追い抜いていった人たちを見ていると、そもそもの気概が違うというか」。

「追い抜いて行った人たちは、何かになってやろうという強さが凄いから魅力もあるし、人をひきつける力も全然違う。私にはなかった要素だなって改めて感じ、悔しさを感じるシーンの方がこの数年は多かったです。なので、自分勝手に生きて斜に構えていないで、そろそろ頑張る瞬間をたくさん作るべきだという思いに至りました」。

『ラヴィット!』で「ログマロープ」「開拓者」を生披露し大きな反響

今の思いをそう素直に吐露してくれた。彼女と何かを作りたいというクリエイタ―を始め、新しい人達の出会いも増え、気づきの扉を開いたことが彼女にとっては大きな変化だ。15周年を機に攻めに転じる、道を切り拓いていく決意した。先日の『ラヴィット!』での早朝ライヴもそのひとつだ。

「スタジオにいる皆さんにサービスをしたり、変に寄せるのではなく、視聴者の方も多分私を観るのが初めてという人がほとんどだと思うのでとにかく演奏力、歌唱力、楽曲力を忠実に観て感じてもらうことが、一番効果的だと思いました。結果的に演奏中のスタジオの様子を見る余裕はなくて、後からちゃんと観たら、みなさんこんなに盛り上がってくれていたんだっていうのを知って、もうちょっとみなさんと楽しもうという気持ちがあってもよかったかなって思いました。ステージで勝負をかける芸人さんってこういう気持ちだったのかなって思ったりもしました。お客さんの気持ちを考えるとかではなく、とにかく俺たちの生態をここで見せつけるんだっていう、熱さと追い詰められ具合だったのかなって」。

日食のピアノと歌、komakiのドラマという“いつもの”ライヴのスタイルで「ログマロープ」を披露。音響の良さも手伝ってその世界観は真っすぐに伝わってきた。

「生放送で歌うって難しい部分もあると思いますが、すごく愛情とリスペクトをしてくださっていることが伝わってくるチームの皆さんで、感激しました。皆さんあの秒刻みのタイムスケジュールの中で、てきぱきと動きチームワークが抜群でファミリーのようで、そこに私をファミリーのように迎えてくれて、それが私も全力投球で臨まないと、というモチベーションに直結しました。出演者という素材を最大限生かし切るんだというクリエイティブ魂を感じ、刺激を受けました」。

『ラヴィット!』のプロデューサーが日食なつこの魅力を語る

『ラヴィット!』の辻有一プロデューサーにも、あの日の生演奏のことについて話を聞かせてもらった。

「今回ヤーレンズのお二人が、自身が準優勝した去年のM-1のPVに使われた『ログマロープ』を歌っている日食なつこさんにどうしても会いたいということで、番組から出演のお声がけをしました。ただでさえアーティストの生出演はハードルも高いですし、歌番組もあまり出演されてない方なので、当初は難しいかなと思っていました。でも快諾してくださって、さらに生歌唱してくれるとのことで驚きました。だったらこの貴重な機会に10年前の名曲『開拓者』も歌っていただけないかという図々しいオファーをさせていただき実現しました」。

「あの場にいた皆さんが引き込まれて完全に日食さんのライヴ会場と化してました」(辻氏)

「ログマロープ」を歌う日食を見つめるヤーレンズの二人の熱い視線が印象的だった。辻プロデューサーも「ログマロープ」を聴き衝撃を受け、日食の音楽を深く掘っていったという。

「ログマロープをきっかけに日食さんを知り、過去の曲を聴く中で、その心に響くメロディと胸に刺さる歌詞に心を掴まれ、どんどん惹かれていったのですが、生で聴く日食さんの曲は、また格別でした。民放では初の生演奏、生歌唱、しかも朝9時台、恐らく初めてだらけの状況で、慣れない環境だったと思います。でもそれを全く感じさせない圧倒的なパフォーマンスで、一瞬でスタジオの空気を変えました。あの場にいた皆さんが引き込まれて完全に日食さんのライヴ会場と化してました。それを物語っていたヤーレンズの2人の表情も印象的でしたし、視聴者の方からの反響も凄かったです」。

「日食さんの歌には、色々な感情が揺さぶられながら、自分自身の人生を重ね合わせることができる不思議な魅力がある」(辻氏)

嵐の二宮和也が「人生のテーマソング」とX(旧Twitter)に投稿し大きな話題となった「開拓者」も、地上波で初披露した。<いずれあたしも死んでいく 死に方はきっと選べない ならば生き方を選びましょう 前例がないような奇抜なのを 誰も真似できない これが最強の生き方だ>という強烈な人生訓が昇華された歌詞に辻プロデューサーは自身とスタッフ、『ラヴィット!』という番組とを重ね、スタジオで感慨深く聴いていた。

「大変おこがましい話ですが、私たち『ラヴィット!』スタッフも皆、スタジオで聴く『開拓者』に、勝手ながら自分たちが3年前に朝という時間帯に馴染みのないこのバラエティ番組を立ち上げて、数多くの批判を浴びながら、粘り強く貫いてやってきた道程を重ね合わせながら聴いていたのではないかなと思っています(笑)。日食さんの歌は、それくらい聴き手の捉え方によって励まされたり、慰められたり、共感したり、そして自分を見つめ直したり、色々な感情が揺さぶられながら、自分自身の人生を重ね合わせることができる不思議な魅力があると思う」と、改めて日食の音楽の魅力に引き込まれた朝だったことを語ってくれた。

嵐・二宮和也が『開拓者』を「人生のテーマソング」と絶賛

もちろんお茶の間もその魅力に引き込まれ、パフォーマンス後はSNS上で「最高すぎる...歌詞がずっとやさしくてあったかいのに曲は力強くてかっこよくて...ちょっと片っ端から曲聞こう、絶対好き...」「日食なつこさん初めて聴いたけどかっこよすぎた!!!」「死に方は選べない。ならば生き方を選ぶ。グッときた」等のコメントが飛び交い、Xのトレンド入りするなど盛り上がった。

ちなみに「開拓者」は、強烈な人生訓が昇華された歌詞、と書いたが、実は日食が高校生の時に書いた曲で、2010年に発売された1stアルバムに収録されている。この曲が今クローズアップされていることについても、日食はやはり至って冷静に見つめている。

「高校3年生の時の本当に正直な言葉。当たり前ですが、今出会ってる人の誰も、その当時の私に出会ってない状態であの歌詞を書いているので、書いた当時のことを15年経って今の自分が語るのも多分違うと思うし、どう捉えたらいいのか、正直自分でもまだ持て余してる状態なんです。もちろん二宮(和也)さんに聴いていただけて、人生のテーマソングと言っていただけて嬉しいですけど、実感というか落としどころも掴めないでいる状況というか…」。

「これからはもうちょっとギアを上げていかないと、今書いている曲が『ログマロープ』『開拓者』のように、10年後に取り上げられるタイミングは多分もうやって来ないと思う」

岩手県の高校生がナチュラルな思いを言葉にした内省的な音楽が、時間を経て誰かの心を撃ち抜く――まさにこれが音楽の醍醐味だ。15年間身を削りながら丁寧に音楽を作り続け、歌い続けてきた作品達は輝きを失わない。

「確かにこれがただの日記とかだったら絶対こんなことになっていないし、その醍醐味はありますね。曲として残しておいたからこそ拾ってもらえました。『M-1』とか『ラヴィット!』、これまでの動きと全然違う切り口のところから、興味を持ってくださった方もたくさんいるのは、本当に嬉しいです。でもそういう方達に作品をこれまでと同じスピードで提供するのは多分つまらないと思う。これからはもうちょっとギアを上げていかないと、今書いている曲が同じ感じで10年後に取り上げられるタイミングは多分もうやって来ないと思います」。

15周年を迎え一年をかけて5大企画を展開する「日食なつこ15th Anniversary -宇宙友泳-」

15周年の今年日食は「日食なつこ15th Anniversary -宇宙友泳-」というキーワードを掲げ、血気盛んに攻める。一年を通して5大企画を展開していく。その全貌はまだ発表されていないが、全曲未発表&全曲バンドセットツアー『エリア未来』(チケットは全会場ソールドアウト)を5月から行うこと、さらに展覧会「エリア過去」(3月9日~17日/東京CCAAアートプラザ四谷三丁目ランプ坂ギャラリー)を開催することが発表された。

「これが、今書いた曲を10年後に弾けさせるのではなく、今すぐ届けたいという気持ちの表れです。それと昔から思っていたのが、アルバムをリリースをしてツアーを終えると、それ以降披露する機会がない楽曲もあるという、あのもったいなさは何なんだろうって15年経ってようやく気がついたというか。興味を持ってくれても『あの曲を聴けそうなツアーはもう終わってるな』ってあきらめてしまう方もいるのでは?という焦りもあります。だからアルバムを発売する前に一回ツアーをやって、リリースしたらもう一回やります、楽しかったらさらにもう一回やりたい。で、一枚で3本ツアーをやった方が絶対効率もいいと思うし、新しいお客さんと出会うきっかけも増えると思います。会場の規模やお客さんの雰囲気でガラッと変わるし、一本として同じライヴはないですから」。

でもいきなりライヴに行くのはちょっと……というリスナーにも配信ライヴなどでアピールしていきたいと考えている。

「今回のツアーも、15年間日食なつこがやってきたことを見ている人は『あいつがやるんだから間違いない』って多分思ってくれると思うのでそこは心配していなくて、『M-1』や『ラヴィット!』で私の音楽に興味を持ってくださった方たちのことを心配をしています。未発表曲は間違いなくいいので楽しみにしていただきたいのですが、新しくファンになって下さった方に、聴きたいと思ってくださっている曲をライヴでどう最短距離で伝えるか……練ります」。

「曲に関してはこれまで通り、何にも誰にも迎合する必要ない」

15周年を迎えてもその“芯”は変わらない。これまでもこれからも楽曲の中で戦い続けるのみだ。

「曲に関しては何にも誰にも迎合する必要ないと思うし、これからは書いたものをどう広げていくかということに注力していきます」。

【プロフィール】

1991年5月8日岩手県花巻市生まれ、ピアノ弾き語りソロアーティスト。9歳からピアノを、12歳から作詞作曲を始める。17歳から”日食なつこ”として盛岡を拠点に本格的な音楽活動を開始。心の琴線を揺らす緻密に練り込まれた詞世界や作曲技術が注目を集め、大型フェスにも多数出演。2021年にリリースされた『アンチ・フリーズ』は「第14回CDショップ大賞2022」入賞作品に選出され、近年では映画主題歌やCM音楽など書き下ろしも多く手がける。次々と生み出す濃密な音楽は創造性のとどまるところを知らず、ギターやベース、時にドラムのような打楽器のパートさえもピアノひとつで表現する独自の作曲スタイルをはじめ、その楽曲力とパフォーマンスはピアノ弾き語りアーティストへの想像や枠組みを超える。強さ、弱さ、鋭さ、儚さ、全てを内包して疾走するピアノミュージックは聴き手の胸を突き刺し、唯一無二の音楽体験を提供する。

『日食なつこ 15th Anniversary -宇宙友泳- 特設サイト』

日食なつこ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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