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北村英治 94歳のレジェンドクラリネット奏者が、ライヴ番組でセッション。「今もクラリネットに夢中」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

『Sound Inn S』に94歳のレジェンドクラリネットプレイヤー・北村英治が登場

豪華ミュージシャンがスタジオに集い、生演奏にこだわって一夜限りのセッションを繰り広げるライヴ番組『Sound Inn S』(BS-TBS)。

2月17日(土)放送回には94歳になった現在も第一線で活躍しているレジェンドクラリネット奏者・北村英治が登場。思い出の曲をカルテットと大編成のバンドで披露する。音とトークから、ジャズメンとしてのその生き様を感じることができる30分だ。

艶のある白髪をきちんと整え、仕立てのよさそうなジャケットを着て、柔らかな空気を纏い、まさにロマンスグレーという言葉がピッタリの紳士・北村がクラリネットを手にスタジオに入ってくると、大きな拍手が起こる。バンドメンバー、スタッフ、誰もが北村の演奏を楽しみにしている。

67年前にベニー・グッドマンからかけられた忘れられない言葉――「神様みたいな人から『いいスウィングしてるね』って言ってもらえて感激した」

1929年東京生まれの北村は14歳の時にクラリネットと出会い、慶応義塾大学を中退し1951年にプロデビューし、活動歴は70年を超えるまさにレジェンド。北村がジャズと出会ったのは家にあったベニー・グッドマンのレコード「Don‘t Be That Way」だった。北村はその時の衝撃を「絵葉書でしか知らなかったニューヨークの摩天楼が浮かんできた。凄い音楽だと思った」と表現していた。それ以来ジャズに夢中になり、研鑽を積み、27歳の時についに憧れのベニー・グッドマンとセッションする機会に恵まれる。その時のことを「神様みたいな人から『いいスウィングしてるね』って言ってもらえて感激した」と、まるで昨日のことのように愛おしそうに語ってくれる。

“きっかけ”の曲「Don‘t Be That Way」

そしてその思い出を胸に「Don‘t Be That Way」を披露。温もりのあるクラリネットの音色と、それを長年支えるトリオとのあうんの呼吸から生まれる心地いいリズムに、思わず体が動く。クラリネットという楽器は音域が広く、温かな音も冷たい音も出る。マウスピースやリードによっても音色が変わってくるが、何よりその人の“生き様”が音に出る。飾らず柔和な北村の性格とその生き様が音を通して伝わってくる。

思い出の曲「For Eiji」「Someday Sweetheart」を披露

続いてはモダンジャズ・クラリネットの第一人者・バディ・デフランコが北村に贈った「For Eiji」を演奏した。吹き出しの音から瞬時にその世界観に引き込まれるこの曲はムーディーでメロディアスで、上質な時間を作ってくれる。カルテットの演奏は豊潤でピアノソロも聴きどころのひとつだ。ジャズピアニストの巨匠、“スウィングの王様”テディ・ウィルソンとの思い出の楽曲「Someday Sweetheart」も、軽快なスウィングで心を躍らせてくれるハッピーでエレガントなジャズが、いい薫りを漂わせながら広がっていく。息を合わせ、それぞれの空気と音色を感じながら生み出されるカルテットのアンサブルは、どこまでも芳醇で北村も笑顔だ。

斎藤ネコのアレンジで、大編成のバンドと「Memories Of You」を披露

斎藤ネコ
斎藤ネコ

ベニー・グッドマンの代表曲「Memories Of You」は、ストリングスや管セクションが加わり、総勢33名の大編成でセッション。北村はバンドを見渡し「これだけの名手が揃っていると年甲斐もなく(気持ちが)上がるね」とノリノリでセッションに臨んだ。北村英治クインテットのメンバーだったピアニスト・小川俊彦さんの譜面を元に、斎藤ネコがアレンジを手がけ、カルテットとはまた違うゴージャスなサウンドで、北村のクラリネットの音を立て、美しく彩る。いつまでも聴いていたいと思わせてくれるサウンドは必聴だ。

「まさに日本の宝」

演奏が終わるとミュージシャンから北村に大きな拍手が贈られた。北村は「いい心持ちで吹けるのは最高。結構いい年なんだけどまだまだ吹けると思った」と笑顔で語っていた。その北村とセッションを終えたバンドメンバーは「ただただ素晴らしい」「北村さんの生き様がひとつ一つの音になってさらに素晴らしくなっていた」「聴き惚れてトランペットを吹くのを忘れそうになった」「まさに日本の宝」など、一緒に演奏できたことに感謝し、感激した様子で感想を語っていた。

ライヴにも密着。10歳のクラリネット奏者と“セッション”

番組では北村のホームグラウンド「銀座スウィング」でのライヴにも密着している。飛び入りで参加した10歳のクラリネット奏者と、年の差84歳の貴重なセッションが実現。 10歳の少女は北村の演奏に感銘を受け「私も94歳まで演奏したい」と語っていた。北村は同ライヴハウスで今も毎月1ステージ1時間のステージを2ステージ行なっている。そして毎日の練習も欠かさない。それは「思ったことを音にできないことが一番つらい」とミュージシャンとしての矜持からだ。

「クラリネットが好きだから飽きない。今も夢中」

「クラリネットをやめようと思ったことは?」という質問には「ない。好きだから飽きない。今もクラリネットに夢中」と生涯現役を貫くミュージシャンの“芯”になっている“真”の言葉を聞くことができた。

最後に「活動を長く続ける秘訣は?」と聞かれると「嫌な人と付き合わないこと」とにこりと笑い、スタジオを後にした。まさに“絵になる”ミュージシャンだ。

北村英治の演奏が楽しめる『Sound Inn S』は、2月17日(土)BS-TBSで18時30分から放送される。

BS-TBS『Sound Inn S』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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