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城 南海 「もっと自分の内面と向き合った歌を歌いたい」――15周年で“気づき”の扉を開き、その先へ

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/テイチクエンタテインメント

デビュー15周年記念アルバム『爛漫』

『爛漫』(1月24日発売)
『爛漫』(1月24日発売)

シンガー・城 南海がデビュー15周年を迎え、それを記念したアルバム『爛漫』を1月24日に発売した。昨年発表した、これまでとは違う城 南海を提示した配信3部作、城がリスペクトする笹川美和を始め、吉田山田などが提供した楽曲や大石昌良のカバーなど11曲が収録されている。故郷・奄美大島のよさをたくさんの人に知って欲しいと、シマ唄と共に様々な歌を歌ってきた15年。そしてこれからも変わらず、ますます“いい歌”を歌い続けるんだという強い意志を感じさせてくれるアルバムだ。このアルバムに込めた思いについて城にインタビューした。

15周年の幕開けとなる2024年、早速デビュー記念日の1月7日に15周年記念コンサート(東京・草月ホール)を行なった。その表情豊かな歌でこれまでとこれからの思いをファンに伝えた。改めてどんな気持ちでステージに立ったのだろうか

「新年早々たくさんの方に来ていただけて嬉しかったです。とにかく皆さんに楽しんでいただきたくて、これまでの15年間の私と新しい歌をギュッと詰め込んで、感謝の気持ちを伝えようと思いました」。

昨年、これまでとは違う路線の作品を配信3部作としてリリース

城は昨年レコード会社を移籍し、さらに自身を“更新”すべくビジュアルも含めてこれまでの城とは違うイメージ、自分の内側に光を当てた楽曲「柔らかな檻」(作詞:山田ひろし作曲:松本俊明)「あなたへ」(作詞:山田ひろし作曲:松本俊明)「愛の名前」(作詞:山田ひろし作曲:島袋優)の配信3部作をリリースし、好評だった。まさに心機一転という言葉がふさわしい一年だった。

「今まではどちらかいうと大きな愛や人生について、外に向けてばかり歌っていた気がします。でももっと自分と向き合って、自分の内側と対話して歌っていきたいという気持ちもありました。それは2021年に歌った「産声」(作詞・曲 森山直太朗)という曲がきっかけでした。あの曲でやっと自分と向き合えた気がしました。昨年配信リリースした3曲も自分の内面と向き合って、どんどん内側に向かっていくと、ああいう歌い方になったんです。自分を労わることも大事だし、自分と向き合うことで、外に向かって歌えるものがあるなって。だから自分を抱きしめてあげたくなるような3曲です」。

アルバムにつながったライヴ『城 南海 duoでduoアシビ』

昨年は結果的に今回のアルバムに繋がることになった重要なライヴを行なった。それが自身が影響を受けたアーティスト、リスペクトしている大好きなアーティストを迎えて7月から三カ月連続で開催した「ご褒美のようなライヴ」(城)『城 南海 duoでduoアシビ』だ。吉田山田、大石昌良、笹川美和が出演し、今回の作品にも繋がっている。

「このライヴの時はすでにアルバム制作はしていましたが、まだ、誰に楽曲をお願いしようか決まっていなかったんです。でも結果的にアルバムに繋がるということだったんだなって。あの3組に出ていただけたことで満足していたのですが、さらに欲が出てきてしまって(笑)。みなさんに楽屋で曲を書いて下さいとお願いしました(笑)」。

リスペクトする笹川美和から贈られた応援歌「爛漫」。

城が「ずっと励まされてきた」という笹川美和には、これまで「晩秋」と「月下美人」を提供してもらっているが、新たにアルバムタイトル曲になっている「爛漫」を書いてもらった。

「笹川さんは私のことを“みなみ姫”って呼んで下さるのですが(笑)、今回ステージでコラボレーションして、その時『みなみ姫は本当に歌うことが好きなんだね』って言ってくださって、それで<種火>という言葉が最初に浮かんで来たそうです。『島から東京に出てきて色々な葛藤がありながら歌い続けて、それが種火となってみなみ姫を生かし続けてきたと思う』という言葉をいただきました。そして私のことを花に例えてくださって『色々なことがあっても爛漫と歌い続けていって欲しいという思いを込めました』というメッセージをいただきました」。

「自分の背中を押してくれる曲。大切に歌い続けていきたい」

笹川からの城への応援歌だ。

「今までは自分と重ねながら、そして聴いてくださる方も自分と重なる部分があるといいなと思いながらメッセージを歌ってきました。でもこの曲は笹川さんから私への歌い続けて欲しいという気持ち、メッセージと受け取りました。本当に自分の背中を押してくれる曲です。大切に歌い続けていきます」。

「老若男女を楽しませる“吉田山田節”に、私の声を重ねてみたかった」

「爛漫」はアルバムの一曲目に収録され、歌始まりで城のブレスからその世界に引き込まれる。アルバムにも収録された配信シングル3部作で城は自身の内側に向かい歌うことに踏み出し、そして「爛漫」で笹川が城 南海という人間、シンガーのリアルな姿を映し出している。吉田山田が提供した「ふしぎ種」もそうだ。<ありのままでもいいんだと思える>等、“今”の城の佇まいを歌詞に昇華させている。

「吉田山田のチャーミングなところとハッピーなところ、老若男女みんなで楽しめる吉田山田節というかその良さに、私の声を重ねてみたいって思いました。今まで日常の歌というのがあまりなかったので、日常の幸せを吉田山田らしく描いてくれていて、歌っていてすごく心地いいです。<唄うように生きていたい>という歌詞もそうですが、あのduoでのライヴで何かを感じてくれたのかなって。じんわり胸に届く言葉は、吉田山田からの応援歌だと思います。この温かな歌を早くライヴで皆さんにお届けしたいです」

大石昌良の「またこいよ」を三味線一本でカバー

大石昌良の「またこいよ」のカバーは、三味線だけで優しくて柔らかく城の歌の温度を余すことなく感じることができ、染み渡ってくる。聴き手がそれぞれ故郷を思い浮かべることができ、センチメンタルな気持ちにさせてくれる。

「この曲はいつも大石さんとのデュエットでしか歌ったことがなくて。昔、同じ事務所に所属していて、二人で自由が丘の遊歩道のベンチに座ってストリートライヴをやった時も、三味線とギターでこの曲を歌いました。犬を散歩していた方が立ち止まって聴いてくれて、『お前ら頑張れ』って1000円くれた思い出の曲です(笑)。宇和島に住んでいる大石さんのおじいさんが『また帰って来いよ』って手を振ってくれる、その故郷の景色と温かさがすごく好きな曲です」。

自身が作詞・作曲した「陽だまりのワルツ」は「普段の言葉で作詞するのが自分の中では新しく、恥ずかしかった」

「陽だまりのワルツ」は城が作詞・作曲した。城はこれまでバラードや壮大な曲を作詞・作曲することが多かったが、今回は“日常”を歌っている。ピアノとチェロというシンプルなサウンドで優しい言葉を優しく伝えてくれる。

「新しいチームのディレクターさんから、今までどちらかというと壮大な曲を歌ってきたと思うので、今回は常日頃使っているような言葉で書いてほしいと言われました。私の中ではチャレンジでした。普段の言葉で作詞するのはすごく新しいこと。デモを聴いたマネージャーさんからの第一声が『こういう曲も書くんですね』でした(笑)。なんだか恥ずかしかったです(笑)」。

作家陣が今の城 南海の思いを楽曲に昇華させる

この他にも新しい城を感じる曲が詰まっている。きなみうみが手がけたさわやかなアレンジで明るく未練を歌う哀しい曲で、城も「歌いながら泣きそうになった」という「さよならの唄」、このアルバムのサウンドプロデューサーでもある松岡モトキが曲を、矢野まきが歌詞を書き、幾重にも重なったコーラスに引き込まれる「私だけの海」は、<ようやく今気づいたの ずいぶん私、強くなったって>という今の城のリアルな想いが歌詞になっている。

「故郷を大事に思う気持ちは今までも歌ってきました。でも確かに色々なことを思いながら奄美の海を見ている瞬間は、確かに私だけの海で、そう考えると今まで私だけの海のことを伝えようとしていた15年間だったのかもしれないって思いました。ギターだけで自分を曝け出しながら、心地よく海に漂うように歌えたらいいなと思いました」と語る、静かな強さを湛えた曲だ。

「青く晴れたら」を作詞したのはX(旧Twitter)で140文字の物語を書いている作家・神田澪で、作曲は城のライヴには欠かせないピアニストで、城の声のスゥイートスポットを熟知する扇谷研人。どこまでも気持ちよく伸びる声が心を躍らせてくれる。「ライヴでみんなで歌える、テンポ感がある盛り上がれる曲を書いて欲しいですとお願いをして、結果的にテンポはやや遅くなりましたが、少しだけジャジーで優しい(扇谷)研人さん節全開の大好きな曲。夜の散歩をイメージした歌詞を神田さんにお願いをして、作詞家さんとは違う作家さんの言葉で紡ぐストーリーは、今まで私の作品にはなかったので、凄く新鮮でした」。

「30代になった今だからこそ歌える『愛の名前』」

「柔らかな檻」「あなたへ」「愛の名前」の配信3部作もアルバムの中で他の曲と響き合い、また違う表情を見せてくれる。ラストを締めくくるは作詞山田ひろし、作曲島袋優の「愛の名前」だ。

「この曲は10代、20代の時は歌えなかった。歌ったとしても背伸びをして歌ったと思う。でも今の目線、等身大でこの言葉を歌える。どこかデビュー曲『アイツムギ』に似ている雰囲気があって、自然体で歌おうと思って、自分の芯というものを重ね合わせて表現できたと思います」。

「10年目くらいまでは歌のメッセージを語り部としてしっかり伝えなければと力んでいた気がする」

美しい言葉がたくさん詰まっているアルバムで、言葉から生まれるリズムはもちろん言葉が作るいいオーラが、アルバム全体を包んでいるように感じる。同時に美しい言葉をより美しく伝えることで、シンガーとしての存在感も感じることができる。

「デビューして10年間くらいは、いただいた歌のメッセージを、語り部としてしっかり伝えなければという思いが強く、力んでいた感じがします。でもようやく自分の目線で歌えるようになってきた気がします。それが15年経ってみて大きく思うことです」。

15年間の中のターニングポイントは『THE カラオケ★バトル』への出演と「産声」

15年間の中で大きなターニングポイントとして『THE カラオケ★バトル』(テレビ東京)に出演したことを挙げてくれた。あの番組で当時最高得点を叩き出すなど、城 南海の名前と音楽が、お茶の間に浸透していった。そしてカバー曲と向き合うことで、その中でどう自分らしさを出すかという表現力が鍛えられた。

「あの番組では“奄美代表”と言ってもらって、そこでグインを使って歌うと奄美の人に喜んでもらえるし、島の良さを伝えられると思いました。カバーって難しくて、でも番組スタッフやファンの方の期待に応えたいという思いだけで頑張りました。そこからカバーアルバムを出したり、ライヴでも歌ったりしていたら、逆に城 南海のオリジナルをもっと聴きたいと言って下さる方が増えてきて。それで2019年頃から自分らしさにフォーカスしていって、コロナ禍でリリースした『産声』に出会えました。みんなが大変な思いをしながら生活している中で、私も寄り添えることができる歌を歌えたらいいなって思った時の曲なんです。色々なものを取り払って、素の私にしてくれたのが(森山)直太朗さんでした。これが自分なんだって感じることができたことが、それからの作品作りにすごく影響しています」。

3月に地元・奄美で15周年記念ライヴ開催、4月からは全国ツアーがスタート

これからも歌で咲き誇っていく城 南海が楽しみになるアルバムだ。3月16日には地元・奄美で「ウタアシビ~15周年記念コンサート~in 奄美大島」を行なう他、4月からは宮城を皮切りに、大阪、愛知、鹿児島、福岡、東京を巡る全国ツアー『城 南海 ウタアシビ 2024 〜爛漫〜』を開催する。

城 南海 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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