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人気ミュージシャンNAOTO×石成正人×松本圭司=Sugar and Spiceが生む極上の化学反応

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/Spice Up Records

NAOTO、石成正人、松本圭司――数多くのアーティストとの共演、楽曲を手がけてきた三人がユニットを結成し、起こった化学反応

Sugar and Spice――いかにも美味しそうな音楽を奏でてくれそうなユニット名だ。メンバーはヴァイオリニストNAOTOと、平井堅やJUJU、スキマスイッチを始め数多くのアーティストのレコーディングやライヴメンバーとして欠かせない名ギタリスト石成正人、元T-SQUAREのメンバーで、自身でもソロアルバムを発売すると同時に、様々なアーティストのレコーディングやライヴのサポートメンバーとして大活躍している人気ピアニスト松本圭司。そんな3人がユニットを組み“甘く香る魅惑の旋律”をテーマに、2022年秋から本格始動。2023年5月にメロディアスなインスト作品で構成された1stアルバム『Sugar&Spice』をリリースし、東京と大阪で1stツアーを開催。2024年3月10日には岡山県・能楽堂ホールtenjin9でライヴを行なう。多忙を極める3人がどのように音を作り、このユニットを楽しんでいるのかをインタビューした。

結成のきっかけはコロナ禍でライヴハウス救済のためのアルバム制作

松本圭司(ピアノ) 自身のレーベル「bootrecords」からソロ作品をリリース。数多くのアーティストのツアーサポート、スタジオミュージシャン、アレンジャーとして活動。
松本圭司(ピアノ) 自身のレーベル「bootrecords」からソロ作品をリリース。数多くのアーティストのツアーサポート、スタジオミュージシャン、アレンジャーとして活動。

――まずは結成のいきさつから教えてください。

松本 コロナ禍で全てがストップした2020年、僕達もそうですが日頃お世話になっているライヴハウスさんはもっと大変なことになっていました。僕は札幌出身なんですが「札幌くうCOO」という、NAOTO君も出演したことがあるライヴハウスさんを支援できないかと思い、このライヴハウスさんに縁があるミュージシャンに声を掛け、アルバムを制作してその一部を寄付しようということになりました。それで『The Winds Of Spring』というアルバムを宅録で制作したのですが、その時にNAOTO君と石成さんに参加していただいたことがきっかけです。

NAOTO いつもお世話になっている場所がなくなるというのは大問題なので、(松本)圭司君が声を掛けてくれて嬉しかったです。圭司君がつながりがある、家で録れるミュージシャンに連絡してくれた中に、僕も石成さんも入っていたというのが始まりです。『The Winds Of Spring』は最初は配信リリース(6曲入り)して、CD化(8曲入り)しましたが、普通の人が聴いたら、ミュージシャンが一回も顔を会わせず、宅録で完成させたことがわからないくらいクオリティが高いものになりました。僕も含めてミュージシャンはみんな今までそんな風にレコーディングしたことがなかったので、実はすごく楽しみながら作れました。

松本 NAOTOさんとは「札幌くうCOO」さんに一緒に出演したこともあって、きっと賛同してくれるだろうなと思い、声を掛けさせていただいて、ギターはやっぱり石成(正人)さんに弾いてもらいたいな、と。普段忙しい石成さんも、さすがにこの時期は時間があるだろうと踏んで、声を掛けさせていただきました(笑)。

NAOTO 僕達3人の他にも素晴らしいミュージシャン(須藤満(B)、斎藤たかし(Dr)、坂上領(Ft))が参加してくださって、アルバムって作ったら普通はそれで終わりじゃないですか。でもその後に圭司君と2人で「札幌くうCOO」さんでライヴをやったのですが、それが凄く楽しくて。それで圭司君に「またやりたいね」という話をした時に「石成さんにも参加してもらったらもっと面白くなると思う」って言ってくれて。でもさっきも出ましたが、石成さん忙しいから無理だよって話になったのですが、宅録でアルバムを作れたんだからこのやり方だったらいけるかもと思って、圭司君から石成さんを誘ってもらいました。それでアルバム『Sugar&Spice』を作って、ライヴもやったのですが、三人で取材を受けるのはこれが初めてです(笑)。

「僕は根っからのサポート好きというか、ボーカリストを支える、寄り添うような伴奏が好きなんです」(石成)

石成正人(ギター) スキマスイッチのサポートメンバー田中充(Tp)、松本智也(Per)と共にユニット「スキマのスキマ」としても活動している
石成正人(ギター) スキマスイッチのサポートメンバー田中充(Tp)、松本智也(Per)と共にユニット「スキマのスキマ」としても活動している

――石成さんはお二人からユニットを組もうとお誘いがあった時はどんな受け止め方をしましたか?

石成 誘っていただいたことが凄く嬉しくて、宝物のような出来事です。僕は根っからのサポート好きというか、ボーカリストの横にいて支える感じというか、寄り添うような伴奏が好きなんです。このユニットはインストユニットですが、いってみればNAOTO君がボーカルだと思いますが、そのサポートをするような感じでもあるし、曲によってはAメロは自分がメロディを弾いて“歌う”こともある。そういうスタイルでアルバムを作って、活動できるということが本当に嬉しいです。

「曲を書く時から二人の演奏をイメージしてメロディが書けるので、振り幅、チョイスが増えるのが楽しい。今までは絶対自分が弾かなければいけないところを、弾かなくてもいいという選択肢があるのが新鮮」(NAOTO)

――NAOTOさんは2005年にデビューして、ソロの時と違って、また別の楽しみ方ができるユニットでしょうか?

NAOTO もちろんAメロもBメロもサビも、全部自分が弾きたくてデビューして、それを20年近くやらせていただいて、でも劇伴とかを作っている時は「このメロディはバイオリンじゃなく他の楽器の方がいい」と思ったらそうできるんですよね。自分の作品ではそれは無理じゃないですか。だけどこの3人だったらできますよね。曲を書く時から振り幅というか、チョイスが増えるのが楽しいです。二人の演奏の凄さは熟知しているので、それぞれのプレイをイメージしてメロディが書けるのがいいです。安心してAメロを僕が弾かなくてもいいという選択肢がとれる。今までは絶対弾かないといけないところを、お休みって譜面に書けるのって、ものすごく勇気が必要なんです。逆にサビに来た時にバイオリンの音をきちんと、しっかりアピールできるのがいいんですよね。

1stアルバム『Sugar&Spice』

1stアルバム『Sugar&Spice』(2023年5月10日発売)
1stアルバム『Sugar&Spice』(2023年5月10日発売)

――1st アルバム『Sugar&Spice』には、TSSテレビ新広島やRSK山陽放送ラジオ・テレビの番組オープニングテーマ曲やコーナーテーマ曲になった作品が収録されています。

NAOTO 僕はこのユニットでは渉外担当であり、広報であり経理、実務担当で(笑)、二人にはアレンジやトラックダウン、音楽的な部分に注力してもらうという分業制です。ちょうど3人でやろうというタイミングで、以前からお付き合いがある中国地方のテレビ、ラジオ局のいくつかの番組からオープニングテーマ曲や「気象情報」や「交通情報」のコーナーテーマ曲のオーダーがあったので、まずそこからSugar and Spiceとして曲を作っていきました。忙しい人たちなので、タイアップが決まっているから期日までに絶対にやらなければいけない状況が最初からあったのがよかった(笑)。

――まずはタイアップ曲があって、そのほかにそれぞれがやりたい曲を自由に書いて、アルバムとして完成させた感じでしょうか?

NAOTO タイアップはこういう感じのものが欲しいと圭司君に説明して、何曲か書いてもらって、その雰囲気とは違うもので書きたいものをみんなで書く、という感じでした。10曲だから4:3:3というノルマを課して(笑)。

石成 アレンジした曲は自分がミックスまでやるというスタイルです。

――タイアップ等テーマがある方が曲は書きやすいですか?

NAOTO 3人それぞれで、2人は曲を作るのが多分得意だと思いますが、僕は実は得意じゃなくて、変な話、誰かがいい曲を書いてくれたらそれをずっと弾いていたいタイプです。感覚的にはバイオリニストとして90、ソングライターとして10、という感じなんです。自分が弾く曲に関しては全然得意じゃないです。何故なら一歩目から考えなければいけないから。前に行くのか後ろに行くのか、横に行くのか…。でも例えばこの曲は天気予報のコーナーで流れますって言われたら、そこでまず一歩目が決まっているじゃないですか。一歩目ってすごく大事で、条件が決まってきて、番組で流れる秒数やその中でこういう雰囲気を出さなければいけないということが決まると、あとはどう肉付けをしていくかなので、最初の一歩目が決まっている方が楽です。

「アルバムタイトル曲は、NAOTOさんがマイケル・ジャクソン好きなので、それをイメージして書きました」(松本)

――お二人はいかがですか。

松本 僕は色々なことをヒントにしながら構築していくタイプで、アルバムのタイトル曲「Sugar&Spice」(RSK山陽放送ラジオ「気象情報」テーマ曲)は、NAOTOさんは昔からマイケル・ジャクソンが好きだと言っていたので、NAOTOさんのことを思い浮かべながら、インストですがあの曲の中にジャクソン5の「ABC」の雰囲気を潜ませてみました。

――松本さんはソロ作品もリリースしていますが、曲作りは日々行なっているのでしょうか?

松本 そうですね。自分が聴きたい曲をどんどん作って、誰からも別に頼まれていないけど(笑)、聴いてもらうための準備はいつもやっています。

――T-SQUARE時代も楽曲を書いていましたが、その時はどういうイメージで書かれていたんですか?

松本 自分が在籍している時は『T-SQUARE』(2000年)に4曲と、最新アルバム『VENTODE FELICIDADE 〜しあわせの風〜』(2023年)に一曲提供させていただいているのですが、どの曲も実はストックしていた曲をアレンジを煮詰めてみたり、逆に煮詰めないでそのまま出したりしています。

――石成さんは色々なアーティストのレコーディングやライヴのサポートで本当に忙しいと思いますが、曲作りはどういうペースで?

石成 僕は圭司君とは真逆で、必要に駆られなければ作曲しないタイプで、ただ、打ち込みしてアレンジをするのはすごく好きなんです。今回3曲(「薫風に誘われて」「WAY HOT」「Karin」)を担当することになって、以前「karin」を、NAOTO君にバイオリンでメロディを弾いたもらった時の強烈な印象が忘れられなくて、その曲を「いいねあの曲、アルバムに入れよう」って言ってもらえて、すごく嬉しかったです。自分のギターに関してはおかげさまで色々な方に褒めていただけて、その積み重ねが自信になっていましたが、曲作りはそれまで自信がありませんでした。でも今回、作った曲を二人に「いい」と言ってもらえて、アルバムに3曲収録され、少し自信が付きました(笑)。

――バイオリン、ギター、ピアノ、3人ともメロディがとれるというところがこのユニットの強みです。

NAOTO アマチュア時代バンドをやっていたのですが、その時も僕はずっとメロを弾いていて、デビューしてからもそうでした。人にメロを渡したことがほぼなかった。でも誰かとセッションをする時はそれぞれの役割があるのでよくて、しかもやっぱり楽しくて。どうやれば楽しくなるかということを瞬間的に考えるセッションは刺激的です。このユニットではそれをきちんと考えて構築していくので新鮮です。

「自分の作品はジャズを基点にマニアックになってしまいがちですが、このユニットではとことんポップなインストを打ち出すことができるのが楽しい」(松本)

「インストバンドですが三人がメロディを書いて弾くので、いってみればボーカルバンドという側面もあるところが面白い」(石成)

――松本さんはSugar and Spiceというユニットの楽しさ、面白さをどこに一番感じていますか?

松本 自分の作品を作る時は、ジャズ方面でややマニアックになってしまう傾向があって、ちょっと難しい音楽になったのかなと思っても、割と躊躇せずに発表してきました。でもこのユニットはまずNAOTOくんがポップで、石成さんもポップスのギタリストとしては日本一だと思っているので、しかも全員ジャズが好きで、その上でポップなインストゥルメンタルを打ち出すことができるところが楽しいです。

石成 僕は先ほども出ましたが根っからのサポート好きで、本当はフロントに立ちたかったんだけど、という思いが全くないんです。このユニットは3人がメロディを書いて、弾けるので、いってみればボーカルバンドという側面もあると思うので、そこが面白さだと思います。

「コンポーザーが三人いるので、番組やCM、映像等の音楽に色々と対応できると思いますので、リスナーの方はもちろん、業界内外の方、よろしくお願いします(笑)」(NAOTO)

NAOTO(ヴァイオリン)2005年EPICレコードからメジャーデビュー。17年自身のレーベル「Spice Up Records」設立。23年10枚目のアルバム『Get over it』発売
NAOTO(ヴァイオリン)2005年EPICレコードからメジャーデビュー。17年自身のレーベル「Spice Up Records」設立。23年10枚目のアルバム『Get over it』発売

NAOTO インスト曲で構成したアルバムですが、バラエティに富んだ楽曲が並んだ、一枚目としてはいい名刺代わりの作品ができたと思います。もちろん一般のリスナーの方に聴いて頂けるのが一番嬉しいのですが、番組やCM、映像等色々と対応できると思うので(笑)、関係者の方にもたくさん聴いていただきたいです。コンポーザーが3人いるので、どんな音楽にも対応でき正解を導き出すことができると思います。

――昨年5月には東京と大阪で1stライヴを行ないましたが、実際に三人で音を重ねてみてどんな印象を持ちましたか?

NAOTO ライヴのリハは前日に一回だけで、しかもみんな自分用の譜面しか持っていないという酷さで(笑)。レコーディングの時、圭司君がアレンジした曲は譜面がないままデータで送られてきて、でもみんな耳がいいから弾けてしまうので、そのままライヴ前日まで来てしまって。

松本 リハまでみんな忙しかったから譜面書くのを完全に忘れているという…(笑)。

NAOTO  1回も3人で音を出していなかったから、あんな下手くそな3人聴いたことがなかった(笑)。

石成 コードも全然合ってなくて、ここどっちだっけ、みたいな(笑)。

――逆にレアな三人のお姿ですね。

松本 尺すらちゃんと覚えてなくて、本当に明日本番だよね?みたいな感じでした(笑)。

「三人共カレー好きなので『Sugar and Spice』というユニット名にしました」(NAOTO)

――それでもファンを喜ばせるライヴができてしまうのが流石です。

NAOTO みなさんプロ中のプロなので、リハをやったらバシッと固まりました。レコーディングの時もそうでした(笑)。

松本 デッドラインのギリギリまでミックスをやって、いやレコーディングもやっていたと思います(笑)。この曲まだピアノ入れてないとか、ギターが入ってないとか…(笑)。

NAOTO みんなスケジュールがなくて、だからまだ3~4曲しか作っていないのにジャケット撮影とライヴの衣装合わせをやりました。日にちを決めないと絶対やらないから(笑)。衣装合わせして、その後みんなで下北沢にカレーを食べに行って、その時はまだみんな呑気だった。

松本 めっちゃ呑気にカレー食べてました(笑)。

石成 全然終わってないのに、あれでアルバムが完成したつもりになっていましたね(笑)。

NAOTO 三人ともカレー好きなので「Sugar and Spice」というバンド名になりました。

NAOTO主宰のレーベル「Spice Up Records」から発売。「平均点のものは要らない。完成度の高さと、ある部分が突き抜けているものをリリースしたい。Sugar and Spiceは2万点を獲りに行ける音楽を作ることができる可能性がある」(NAOTO)

――資料に“甘く香る魅惑の旋律”というキャッチが付いていますけど、これって最初からあったキーワードなんですか?

NAOTO バンド名が決まってからです。曲を書くことより、バンド名を決めるまですごく時間がかかりました(笑)。

――今回の作品はNAOTOさんのレーベル「Spice Up Records」からの発売ですね。

NAOTO このレーベルから出すものに関していつも心がけているのは、どこから見てもすごく完成度の高いものか、総合点は高くないけど、でもある部分だけが突き抜けていてお客さんが気になるもの。一番要らないのが70点くらいのもの。このユニットは平均点はものすごく高いのはわかっているので、でも2万点を獲りに行ける音楽を作ることができる可能性があるところが面白くて、やっていて本当に楽しいです。

来年20周年を迎えるNAOTO。「僕が変わらなかったことが大きな変化」(NAOTO)

――NAOTOさんは来年デビュー20周年ですが、自身でレーベルを立ち上げたり、ミュージシャンも聴き手も環境が変わって、コロナ禍であったという部分も含めて音楽の受け取り方や受け止め方も変化していると思います。20年間やってきて、自身の中での一番大きな変化は?

NAOTO 僕が変わらなかったことだと思います。デビューの時から考えていることもやりたいと思ってることも、核の部分は何も変わっていないので、それは一生変わらなくていいんだということがわかったことが、大きな変化です。色々な人にお世話になりながらずっとやってきましが、やりたいことを体現するのは結局自分自身なんだということがよくわかりました。僕がやりたいことをやって、今幸いにものたれ死んでいないので、これが正解だったんだと思えます。こうやってユニットを組めたのも環境が変わったからこそだと思います。ずっと応援してくださっているファンの皆さんには感謝しかありません。

3月10日岡山でライヴ開催。「なかなか三人が揃わないので、音を出すこと自体が新鮮(笑)」(NAOTO)

――3月10日には岡山でのライヴが決まっています。

NAOTO ライヴ絶対楽しいと思います。なぜなら3人がとことん楽しんでるから。だって一緒に音を出した回数がむちゃくちゃ少ないから新鮮なんですよ(笑)。今回もすごく久しぶりのライヴなので、僕達も今から楽しみです。

NAOTOオフィシャルサイト

石成正人オフィシャルサイト

松本圭司オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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