Yahoo!ニュース

aiko 変わらないために変わり続けて25年――幅広い世代から支持される純度が高いラブソング

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

25年間、アルバム15作、シングル43作を発売し、ライヴツアーも休むことなく続け、思いを伝え続ける

aiko がデビュー25周年を迎えた。1998年7月にデビューして以来、今春発売した最新アルバム『今の二人をお互いが見てる』まで、これまでリリースしたアルバムは15作、シングルは43作。休むことなく新曲を作り、聴き手に届け続け、ライヴツアーもコロナ禍の一時期を除いて休むことなく続け、思いを伝えてきた。aikoの強さは何か、と訊かれたらなんといってもその“生産力”の高さだ。これまで何度かインタビューしてわかったのは、彼女は息をするように曲を作ることができることだ。aikoは現在と過去を行ったり来たりしながら"あなたへの私の想い"、生々しい感情を言葉とメロディとして紡ぎ続けている。

恋愛をしている時の、うまく言葉にできないもどかしい気持ちを代弁してくれているような歌詞、ポップさの中に潜ませた毒もaiko節になり多くの人の共感を得る

20周年の時、“人は恋をすると、aikoを聴きたくなる”とコラムで書いた。25年間一貫してラブソングを歌い続けてきた。恋愛している人の心の中の、愛おしくて、でも苦しくて、哀しくて、そして切なくて、そんなうまく言葉にできないもどかしい気持ちを代弁してくれているような歌詞。ポップさの中に潜ませた毒もaiko節になり、多くの人の共感を得る。そんな感情を閉じ込めた曲を出し続けてきたことで、あらゆる世代の耳に届き、そして毎年全国ツアーを行なってきたことでファンの新規開拓ができ、若いファンをどんどん増やし続けてきたことも、強さだ。誰かにaikoのライヴに連れていかれ、虜になってしまい、また誰かを連れて行きたくなる、そんな魅力的なライヴを続けることができているのも、強さだ。

ライヴはaikoの生きる糧、創作活動の源泉

現在、全国ツアー『Love Like Pop vol.23』を敢行中のaikoだが、ライヴのチケットは相変わらず争奪戦だ。お客さんからの思いやエネルギーを、心と体いっぱい吸収できるライヴは、まさにaikoの生きる糧であり、創作活動の源泉にもなっている。だからいつも新鮮で、面白いものにしようと全力で臨んでいる。もちろんバンドやスタッフもその熱意にほだされ、いいもの、いいライヴにしようという熱量が高まっていく。いいライヴにならないわけがない。

会場の大きさ関係なく、常にそこにいる全てのお客さんと一対一で向き合うライヴ

とにかくひとりでも多くの人に歌を聴いて欲しい、届けたいという強い思い。ライヴの定番曲、ホーンが華やかに彩るロックチューン『be master of life』(2001年)にこんな一節がある。<あたしがそばにいてあげる ささいな事も言ってね 明日も幸せである様に><誰が何を言おうと関係ないあたしは味方よ>と、会場の大きさ関係なくaikoは常にそこにいる全てのお客さんと一対一で向き合っている。お客さんもそう感じている。誰一人置いてきぼりにしないライヴ。ファンファーストで全力で愛情をかたむける。だからいつどんな人がaikoのライヴに行っても、心を撃ち抜かれてしまう。

オーディエンスがまるで自分のことを歌ってくれているように感じる歌。寄り添ってくれていると解釈する人もいれば、同情してくれている感覚になる人もいるかもしれないが、aikoが自分と同じ目線、自分がaikoと同じ目線であることを聴き手が感じるからだ。恋愛における心の揺れを見事に切り取った歌詞。頭と心の中で渦巻いていた、前述したようにうまく言葉にできないもどかしい気持ちや、相手への偏愛ゆえに生まれる、他の人に言ったら恥ずかしいかもしれないと思う感情を、見事に、かつわかりやすく言葉に昇華させているのがaikoだ。

複雑で予測不能のコード進行と転調は、感情の“揺れ”をそのまま、無意識のうちに表現している

そんな心の揺れが、感情の幅となってメロディの大きな動きを生み、複雑で予測不能のコード進行と転調を繰り返す、それがaiko節となっている。論理的ではなく、無意識のうちに繰り出している部分が多いかもしれないが、だからこそ感情に正直な歌になっているのではないだろうか。aikoの曲をカラオケで歌っている人は多いが、彼女の曲はポップで一見歌いやすそうに聴こえるかもしれないが、歌うのが難しい。それは歌ったことがある人が一番わかっているはずだ。aikoという一人の女性の感情が極めて自由に表現されているから、aiko以外の人が歌う時、ひと筋縄ではいかない。

aikoの音楽の原点、深夜ラジオ

問わず語りのような内省的な歌だからこそ、世代関係なく多くの人から共感を得ている。aikoは小さいな頃からラジオをこよなく愛している。それも深夜放送が彼女の心の拠りどころになっていた。それはある出来事が大きく影響している。小学校の時両親が離婚し、aikoは高校を卒業するまでの8年間、親戚の家で暮らした。自分の意思だったとはいえ、思春期の多感で複雑な時期、だんだん一人で部屋にこもってラジオを聴くようになったという。特に深夜ラジオが淋しさを紛らわせてくれた。街も家も寝静まって時が止まったような真夜中、深夜ラジオは一対一で自分だけに話しかけてくれていると感じる。そして色々な音楽を教えてくれる。aikoが作る音楽の原点がここにある。深夜、思いを巡らせ様々な感情が芽生える。夜という時間が淋しさや切なさをさらに連れてくる。それを切り取って歌詞とメロディにする。純度が高いaikoの曲ができあがる。それを一人ひとりに向け、歌う――。

最新アルバム『今の二人をお互いが見てる』に感じる、成熟したカッコ良さと圧倒的な瑞々しさ

『今の二人をお互いが見てる』(通常仕様盤)
『今の二人をお互いが見てる』(通常仕様盤)

aikoがデビュー25年、と聞いて一番驚いたのは15枚目となる最新アルバム『今の二人をお互いが見てる』の充実ぶりだ。25年という時間を重ねてもさらにこんなに瑞々しく、新鮮なアルバムを作ることができる、彼女のクリエイティビティの圧倒的な“冴え”だ。既発曲「食べた愛」「ねがう夜」、19歳の時に書いた「夏恋のライフ」、そして「果てしない二人」「あかときリロード」に新曲を加えた全13曲を収録しているこの作品では、これまでaikoの作品を数多く手がけてきた島田昌典、トオミヨウという日本を代表するアレンジャー陣が、aikoの新しい一面を切り拓くようなサウンドを作り上げている。

アルバム1曲目からノックアウト必至だ。タイトルからして気になる島田アレンジの「荒れた唇は恋を失くす」は、力強いピアノとホーン、唸るベース、そしてaikoのまさに全身全霊で歌うエモーショナルでクールな圧巻のボーカルが交差すると、極上のブルースが生まれている。

「メロンソーダ」からのタッグとなるトオミヨウは、aiko節をさらに立てるべく、現代性を纏わせるアレンジで新たな地平を切り拓いている。管弦楽器のみで構成されている「のぼせ」のアレンジには驚かされた。静謐な空気な中にaikoのソウルフルなボーカルが響き合うと、得も言われぬ感動が立ち上がってくる。

このアルバムでは島田とトオミ、二人のアレンジがそれぞれのアレンジに光を当てているような感覚だ。そしてaikoが二人が作るサウンドの中を自由に泳ぐ、そんなイメージ。ジャズやブルースのフレーバーを散りばめながら、AORを聴かせてくれたり、ファンクやソウルなどブラックミュージックのエモーショナルな音像が、aiko節と相まって独特のグルーヴを生み出している。そのグルーヴは生き生きとした歌に拠るところも大きい。成熟したといわれてもおかしくないキャリアの中で、もちろん成熟した安定感は感じつつ、それ以上にいつもにも増して生き生きとした歌から伝わってくる“無敵感”たるや…。

aikoはここ数年、セルフプロデュースへの転身や結婚など大きな変化を経験してきた。セルプロデュースに変わった前作『どうしたって伝えれらないから』(2021年)が25周年を前に、大きくな刺激になり、いい方向に向かっていることは『今の二人をお互いが見てる』というアルバムを聴けば“一聴瞭然”だ。結婚しても軸は恋愛ソング。変わらないために変わり続けているaikoの強さ――脱帽するしかない。

現在全国ホールツアー「Love Like Pop vol.23」を敢行中のaikoだが、来年1月27日の大阪城ホール公演を皮切りにスタートする、約5年ぶりのアリーナツアー『aiko Live Tour「Love Like Pop vol.24」』(3都市6公演)の開催を発表した。

aikoオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事