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気鋭のイラストレーター・Mika Pikazoの圧倒的なワクワク感が原宿を包む――その創作の源に迫る

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

Mika Pikazoが原宿を“遊ぶ”展示会「ILY GIRL」が、開催から3週間で来場者2万人を突破

注目のイラストレーター・Mika Pikazo。カラフルな色彩が目を引くそのイラストは、様々なシーンで多くの人から支持されている。任天堂のゲーム『ファイアーエムブレム エンゲージ』やスマホ向けRPG「Fate/Grand Order」の清少納言等のキャラクターデザイン、輝夜月らVTuberのキャラクターデザインも手がけている。昨年Adoの1stアルバム『狂言』の巨大野外広告ビジュアルを手がけ、話題を集めた。

キュープラザ原宿
キュープラザ原宿

そんなMika Pikazoが東急不動産とポニーキャニオンがタッグを組み、トップクリエイターが原宿を題材に作品を制作し、原宿に仕掛けて“遊ぶ”「Creator’s Power Spot 原宿」に参加。そのプロジェクト第1弾「Play原宿」で展示会「ILY GIRL」を7月28日からキュープラザ原宿で開催中だ。この展示会には、インバウンドを含め多くのファンが来場し、開催3週間で来場者が2万人を突破した。

東急プラザ表参道原宿エントランス広告
東急プラザ表参道原宿エントランス広告

また、会場近く神宮前交差点の東急プラザ表参道原宿エントランスも、展示会の会期と合わせてラッピングが施され、「ILY GIRL」仕様になっている。

Mika Pikazoという表現者に迫り、「ILY GIRL」で伝えたいことをインタビューした。

「原宿はエンタメが溢れている素敵な街」

原宿を使って思う存分遊ぶ、クリエイターがそれぞれの視点と発想、自由な遊び心で原宿を題材に作品をクリエイトするという企画「Play原宿」。Mika Pikazoは原宿という街にどんな印象を抱いているのだろうか。

「東京生まれで、小さい頃から母親に連れられて、特に母が好きだった裏原にはよく来ていました。もちろん友達ともよく来ていましたが、最初、自分が住んでる街と雰囲気が全然違うことが新鮮だったし、渋谷や新宿は人がたくさんいて賑やかなんですけど、原宿はサブカルチャーやアート、ファッション、とにかくエンタメが溢れていて素敵な街と思いました」。

展示会のキーワード「ILY GIRL」はどこから着想したのだろうか。「目の前にある一つの作品としての姿と、空間を通して浮かび上がってくる姿。人間の表と裏の感情、素の自分と偶像の自分は何なのかを模索して制作しました」とコメントしている。

「ILY GIRL」
「ILY GIRL」

「BAD GIRL」
「BAD GIRL」

「展示会タイトルにもなっている作品『ILY GIRL』、そしてもうひとつの作品である『BAD GIRL』という作品は、私が尊敬しているM.I.A(イギリスの女性ラッパー/画家)というアーティストの楽曲から着想を得ています。ずっと前からいつかM.I.Aからインスピレーションを受けた作品を作ってみたいなと思っていました。前回の展示会『REVENGE POP』は、自分の過去を含めて表現したのですが、今回は原宿がテーマということで、子供のころから思い入れがある街でもあるし、若い人や海外の方、色々な理由で原宿に来ている人に向けて表現したいと思いました。原宿ってオシャレな人が多くて、自分を何らかの形で彩り、飾り、“自分を作っている”。それをSNSで発信する人が多いと思って。原宿だけに問わず、現代の人はそういう作っている人が多いんじゃないかと感じ、テーマにしたいなと」。

展示会「ILY GIRL」のテーマは『闇=ポジティブ、光=ネガティブ』

今回の展示会のテーマは「闇=ポジティブ、光=ネガティブ」。イラスト、アニメーション、そして空間全体が作品であり感情の変化を表現した「インスタレーション」の可能性を探った展示会だ。高輝度プロジェクターによる重畳や、LEDが仕込まれたアクリル、フィギュアなど多彩な見せ方で来場者を魅了する。

「会場の形をどうテーマに落とし込むかをすごく考えました。ちょっと洞窟ぽい感じで奥に進んで行って、空間全体で一人の人間の感情を表現する、ストーリー性を持った構成になっています。一人の人間、女の子の表と裏、光と闇みたいなものを描きたかった。光や明るさがポジティブで正しいもの、暗いもの、ダークなものって病んでいて“闇”“よくないもの”というイメージが強い……と思うんですけど、でもそういう闇のものって、若い子にすごいパワーを与えるなっていつも思っていて。毎日誰かと接したり、日常を生きていく中でありのままの自分でいいとか、元気よくとか明るくっていうのって、自分でそうしようって頑張って生きてくのってむしろつらいことだと思っていて。人間って生きていると辛いなとか、面倒くさいなとか嫌だなとか、そういう気持ちが溢れていると思うし、そういう中で、楽したいことを優先したいとか、現状が嫌だから別の世界に逃げたいとか、そういうことって決して悪いことじゃなくていいことだと思っていて。そういう意味では闇というより、着飾ったり堕落したりすることは、すごくいいこと、新たな自分に出会える瞬間なんだということを表現したかった」。

「絵も音楽もどっちも好きで、パンクやメタルのコピーバンドもやっていました。でもある日音楽をやることに向いていない、自分が好きなのは音楽を彩るデザインやアート、映像だと気づいた」

ILY-GATE
ILY-GATE

自身も「家出したこともあった」と語ってくれたように多感な時期に闇を抱え、それを絵を描くことに昇華させたり、音楽が好きでバンドを結成し、音楽にぶつけたりしていたという。

「高校生の時、絵も音楽もどっちも好きで、パンクやメタルのコピーバンドをやっていました。でもバンドのTシャツやポスター、写真撮影のレタッチをしたりデザインを作るのが大好きで、バンドメンバーに怒られるぐらいちゃんと練習しなかったので演奏も全然うまくならなくて、そのときに、『あ、自分って音楽をやることは向いてないんだな、自分が好きなのは、音楽を彩るデザインやアート、映像なんだ』って気づきました。そして絵やグラフィック、広告デザイン、そういったものの道にいきたいと目覚めていきました」。

「昔からカラフルなものは好きだったけど、やっぱりブラジルでの生活に影響を受けている」

高校卒業後に南米の映像技術や広告デザイン、音楽に興味を持ち、親類が住むブラジルに約2年半ブラジルに移住した。独特のカラフルなポップさは、やはりブラジルでの生活が影響しているのだろうか。

「ポルトガル語の勉強をしながら、ブラジルってアニメやマンガが好きな人が多いので、そういう人たちに絵の描き方を教えて、逆にポルトガル語を教えてもらっていました。帰国した時は描くイラストの色合いがすごいブラジルの鮮やかさっぽいって言われて、昔からカラフルなものは好きだったので最初は疑問だったんですが、でもブラジルって建物や看板、目に入るものの色やデザインがとにかく派手なんです。グラフィックアートも多いし、かっこいい。やっぱり影響を受けていると思います」。

「Vaundyさんのライヴを観て、なんでこんな表現ができるんだろうと、燃え上がる感情を抱きました」

ブラジルの街に溢れる鮮やかな色に影響を受けたMika Pikazo。ではそのクリエイティヴの源はどこにあるのだろうか。

「二つあると思っていて、まず自分がイラストレーターになりたいと思ったきっかけが、『キノの旅』『サモンナイト』という作品のビジュアルを手掛けたイラストレーターさんの絵を見た時に、すごくかわいいと思ったことがきっかけです。ライトノベルのカバーやアニメ、ゲームのパッケージ、雑誌を飾って、人を楽しませられるクリエイターってすごいなって思って。常に進化し続ける職人的な部分も含めて、その先生を大尊敬しています。もう一方で、イラストとは違う軸で音楽のアーティストがすごく好きなんです。中学生のころから音楽は洋楽、邦楽、ジャンル問わず様々なものを聴いてました。近年だとVaundyさんのライヴを観た時は、なんでこんな表現ができるんだろう、と燃え上がる感情を感じました。なんでこんな面白いことができるんだろうって。見せ方をきちんと持っていて、思想的な部分もあって、ちゃんと“発信”することができる。絵では表現しえないものがそこにあって、それが自分の絵で何かを現したいという気持ちに触発される。それは職人とは違う目線のタレント性があると思っていて、職人としての極めたいという気持ちと、アーティストとして人を感動させる見せ方を考えるのが好きです」。

違う分野、そして表現を極めていくものを見て感じた“感動”は、可能性や闘争心として彼女のクリエイティブの原動力にもなっている。

「レディー・ガガの表現に元気と勇気をもらった。だから恩返しをするというか、自分も誰かに元気を与えられる存在になりたい」

空間全体が作品になっている展示会「ILY GIRL」は、会場を巡ると圧倒的なエネルギーを感じ、元気を与えてくれる。

「そう言ってもらえるのはすごい嬉しいです。自分にとって元気を与えてくれたのはレディー・ガガでした。すごく辛かった時に彼女のパフォーマンスを見て元気をもらって、歌声だけでないメロディ、演出、ファッション、アートワークや言葉、色々な部分で何かを表現し、元気を与えられる人ってすごいと思いました。そして、その人に勇気を与えられて、憧れているからこそ自分もそうであるべきだと思っていて。恩返しするというか、自分が見て元気をもらったものを、他の人にも自分なりの形で見せることができたら、クリエイターとして少し何かになれたんじゃないかと、嬉しい気持ちになります」。

「自分の作品には、どこかに自分は愛されたいという願望が込められている。だから人がいいと思うものはなんだろう、という探求心が強いと思う」

Mika Pikazoのイラストで特徴的なのは“瞳”だ。瞳の中で複雑に交差する光が感情を表し、目に飛び込んでくる。

「自分の絵には目の光が真ん中の上にあることが多くて、それは作品を見ている人を見ているというのを意識して描いています。瞳を描く時に込める思いは、今回の展示会のテーマにも近いものがあると思っていて。それは自分の絵をどういう風にこだわっているかとか、表現したいかを説明する時、こういうことを自分で言うのは恥ずかしいんですけど、どこかに自分は愛されたいという願望があるんです。だから人がいいと思うものはなんだろう、ということをすごく考えるのだと思います。人が見てかわいいとか、これが素敵って思うもの、惹かれるものって何なんだろうって、ある種人間に対する探究心がすごい強いと思います。いろんな人間に出会いたいし、そして触れ合いたい。そういう気持ちが入っているから、こっちを見て欲しいという思いが、絵の中に含まれているかもしれません」。

展示会でライブペインティングに挑戦

この展示会の会期中毎日、初めてゼロから完成までのイラストの制作を映すライブペインティングに挑戦するという。

「自分の中で展示会に発表したい作品があったんですけど、様々な状況のなかで描けなかったものがあって。色々なものを作って、いいものがたくさんできたのですが、何か足りない、これで終わらせたくない、悔しいっていう気持ちも含めて、今回は会場でひたすら描くことにしました。最後までできるかわからないですけど…。今まで、描いている現場を撮影してそれをメイキングとして出したことあって、でもそういうのって大体倍速で見せたりしているので、今回は悩んでいるところ、間違えて描いたところ、閃いたところも含めてドキュメントで全部見せることにしました。全部録画も撮ってます。緊張しますが、やり切りたいです」。

今回の「ILY GIRL」は、イラストでの新しい表現の形を提示している。これは言葉であれこれ書いても決して伝わらない。会場で見て感じて欲しい。新たな刺激から生まれた“感情”を自分自身で楽しむ。するとさらにその先にあるMika Pikazoの表現を欲するに違いない。

「ILY GIRL」はキュープラザ原宿で、8月30日まで開催されている。

■Profile

Mika Pikazo(ミカ・ピカゾ)

1993年生まれ、東京都出身。高校卒業後、南米の映像技術や広告デザイン、音楽に興味を持ち、約2年半ブラジルへ移住。帰国後、イラストレーターとして活動を開始。鮮やかな色彩感覚を得意とし、様々なジャンルでデザインやキービジュアル制作などを手がける。主な作品に『ファイアーエムブレム エンゲージ』キャラクターデザイン、Hakos Baelzや輝夜月らVTuberのキャラクターイン、adoの1stアルバム『狂言』野外広告ビジュアル、pixiv監修アートブック『VISIONS 2023』表紙イラスト、音楽原作キャラクタープロジェクト『電音部』キャラクターデザイン、『Fate/Grand Order』清少納言のキャラクターデザインなどがある。2022年にはアニメーション制作を開始した。

Mika Pikazo「ILY GIRL」スペシャルサイト

「Play原宿1」オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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