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渡辺美里 デビュー38年、毎日音楽ができる歓びを実感。「何気ない日々から歌は生まれる」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

デビュー38年、ずっと作りたいと思っていた初のデュエットアルバム『Face to Face~うたの木~』を5月に発売

渡辺美里。デビューから今年で38年、ライヴ活動を精力的に行なってきたがコロナ禍でなにもかもがストップしてしまい、音楽はライヴも含めて人と人が直接向き合うことで何かが生まれる、そんな思いを新たにした。そして発表したのが初のデュエットアルバム『Face to Face~うたの木~』(5月3日発売)だ。そのアナログ盤が8月30日に発売される。11組のアーティストとコラボしたこのアルバムについて、そして40周年に向けファンとのコミュニケーションをより深めようと8月4日に「Fanicon(ファニコン)」でスタートさせた、公式ファンコミュニティ『美里うた便り』についてインタビューした。

1985年にデビューして以来、数々のヒット曲を発信しながら、ずっとライヴに軸足を置き活動してきた。1986年に女性ソロシンガーとしては日本初となるスタジアム公演を西武スタジアムで成功させ、2005年まで20年連続公演を達成した。その後も全国各地で野外ライヴ「美里祭り」を開催するなど、ファンに直接その想い、メッセージを届けるためにライヴを続けている。そして2020年に35周年を迎え、ツアーを予定していたがほとんどが中止になった。でも「改めて自分の声を見つめ直していつでもライヴができるように準備をしていた」と、ストイックな生活を送りながら「節目だけではなく、日々音楽ができる歓びを毎年祝った方いいなって」改めて思ったという。

「節目にお祝いするのではなく、日々音楽ができる歓びを毎年祝った方がいいと思った」

「35周年の時、1月1日にLINE CUBE SHIBUYAでライヴをやって、全国をくまなく回って、日本武道館でファイナルを迎えるというストーリーを描いていました。でも最初と最後はできましたけど、ツアーはできませんでした。悔しいし申し訳ないし、だから5年毎、10年毎に意識してお祝いするのではなく、日々音楽ができる歓びを毎年祝った方がいいと思いました。ありがたいことにデビューして以来、ずっと活発に活動させていただいてきたので、こんなにも人に会わない日々が続くとは思いませんでした。この1か月を乗り切れば、この2か月をなんとか我慢すればって思いながら、でもいつ何時ライヴをやる、ツアーを再開するのかわからない状態だったので、いつでも出動できるような態勢にしておこうと。それでデビュー前のようにボイトレを一生懸命やったり、歌って常に喉も肺も動かしていないと納得いくものにならないので、コロナ禍は自主トレ期間になりました」。

「何気ないことがあるからこそ歌が生まれてくる。浮世離れしているところで歌は生まれない」

そんな中でも今までやってこなかったことにもチャレンジした。

「イチゴとかトマトの実がなるものや、買いに行けなくなった時のために青じそやパクチーを家庭菜園で作ってみました。この数年で、今まで以上に日常というものを大事にして生きようって思ったし、生きてるぞ、ということを何か発信しようと『美里アプリ』を始めたり。小さい頃、夏休みの絵日記でさえ3日と続かなかった私がこの数年、365日毎日発信し続けました。もう意地になってやってたと思う(笑)。日常の何気ないことを伝えてきたのですが、でも何気ないことがあるからこそ歌が生まれてくるわけで、浮世離れしているところで歌が生まれるなんて嘘だから、もっとリアルな私を見ていただこうと思いました。私は歌で、日々が大切ということをずっと歌い続けてきたつもりです。ここ数年は日々の愛おしさを実感しています」。

「歌は受け取り側によって、ストーリーがどんどん変わっていく。歌っている本人がそうなんですから」

歌が成長していくことを強く感じた3年間った。だからこそ日々を大切に生き、その思いを歌っていこうと改めて決意した。

「30周年の時に『オーディナリー・ライフ』という曲を作って、この曲は音楽がすぐそばにあるということが私のオーディナリー・ライフだったなって思ったのですが、この何年かでそのありふれた日常というものが、この歌を作った時のものから違うものになった。キラキラしてるところも、カッコ悪い部分も含めての日常が全て歌になっていくんだなって。聴いて下さる皆さんが、どの部分を聴いて共感、共鳴してくれるかはわからないけど、歌の意味合いが変わってきていると思いました。それから35周年に向けて作った『冒険者たち』という曲もそうです。35年目を迎えて、さあもう一度新しい旅に出かけようという曲を作ったつもりだったんですけど、コロナ禍の2020年に、このタイトルがついたライヴを武道館でやったとき、お客さんはまだマスク姿で、<もう一度 旅に出よう>という歌詞を違う意味として捉えていたと思います。意味合いが全然違うものになった。だから曲ってこんな風に変化するんだなって強く感じたことを覚えているし、歌って成長していくというか聴いてくださる方によって意味合いが変わる、受け取り側によってストーリーがどんどん変わっていくんだなって。歌っている本人がそうなんですから」。

「ボーカリストとしての38年間の人との繋がりが、このアルバムを作らせてくれた」

『Face to Face ~うたの木~』(5月3日発売)
『Face to Face ~うたの木~』(5月3日発売)

人との交流を寸断されていたコロナ禍を経て、豪華ミュージシャンと、渡辺と縁がある11組のアーティストと顔を合わせて作りあげたのが、初のデュエットアルバム『Face to Face~うたの木~』だ。

「私、そんなに友達は多い方ではないと思っていましたが、今回のサウンドを作ってくれたミュージシャンの人たちとの出会いもそうだし、デュエットをしてくださった方たちも一人一人が、こんなに繋がりが深い人ばっかりだったって思ったら、ボーカリストとしての38年間の人との繋がりが、このアルバムを作らせてくれたと言っても過言ではないです。80年代からデュエットアルバムは作りたかったんです。植木等さんの『花と小父さん』という優しくも寂しい曲があって、それがすごく好きで、20代の時に植木さんに『いつかデュエットをしたいです』とお願いしたいことがありました。その夢は叶わなかったのですが、前作の男性アーティストの曲だけをカバーした『彼の好きな歌』(2021年10月)というアルバムで『花と小父さん』をカバーしたのですが、その時やっぱりデュエットアルバムを作りたいって強く思いました」。

「『Face~』のレコーディングの時、思っていた以上に人と面と向かって歌うことがこんなに楽しいんだって思った」

「普通のデュエットアルバムではなく、ビッグバンドのゴージャスな演奏で小堺一機さんと『L-O-V-E』、世良公則さんと『東京ブギウギ』を歌ったり、自分の中ではジャズ&歌謡という裏テーマがあって、そういう曲を最高のお友達とコラボできたらいいなと思いました。曲を選んでいる時点で、この曲はこの人とこんな風に歌いたいというイメージが浮かびました。レコーディングしている時、思っていた以上に人と面と向かって歌うことがこんなに楽しいんだって思ったし、楽しさが1+1ではなく、掛け算になって倍々になっていきました。みなさんも多分人に会いたかったんだと思います」。

このアルバムには現在ジャズピアニストとして活躍している、EPICのレーベルメイトでもあった盟友の大江千里も参加している。渡辺が高校生の時に初めて会って以来、今も交流が続いている。大江がニューヨークでジャズミュージシャンを志す決断をした時も、渡辺はよき相談相手として背中を押した。深い絆で結ばれた二人だ。

「千里さんが『ニューヨークに行くことにした』って言って、でももうニューヨークに行って住むところも決めてきたような雰囲気だったので、『そうなんだ』って…。後から聞くと、どうやら止めてくれると思ったらしく(笑)、でも止めたところでやると決めたらきっと行くだろうし『あぁそうなんだ』って言いながら、お酒を注いだのを覚えてます」。

「はんなり、まったりお付き合いください」――ファンコミュニティ「美里うた便り」でファンとの新しい“繋がり”を楽しむ

写真提供/Fanicon
写真提供/Fanicon

渡辺はファンとのコミュニケーションをより密にとるべく、前述した『美里アプリ』を進化させたファンコミュニティ『美里うた便り』を、会員制ファンコミュニティプラットフォーム「Fanicon」で8月4日にリニューアルオープンした。

「何か新しいことを始めたいと思っていたのと同時に、自分の環境を変えたいと思いました。ファンの方との繋がりとか距離感みたいなものはいつも考えていました。私は今もFMでレギュラー番組をやらせていただいていますが、デビューしてからずっとラジオというメディアでファンの方とコミュニケーションを取って来ました。いつもハガキを本当にたくさんいただいて、私のために時間を割いて、何かを伝えたいって思って書いてくれているんだなと思うと、寝る間も惜しんで全部読んでいました。時にはハガキに追われる夢を見たり(笑)。それが今はこのコミュニティの中で、ある意味繋がることもできるし、意見を聞くこともできます。だから今そういう意味で過渡期だと思います。ラジオの“繋がり”みたいなものの良さってあると思うし、そんな部分を残しつつ時代の変化にあわせて、もっと、大人になった皆さんと共に繋がりたいなって思ったのがきっかけです」。

「今の時代って悪いことや嫌なことはすぐに広がるのに、いいことってなかなか伝わらない。このコミュニティでは、ハッピーのヒントになるようなことを伝えていきたい」

ラジオでリスナーと一対一で繋がっていたあの感覚をさらに進化させた、ファンコミュニティという「場所」、まるで秘密基地のような空間で、お互いに濃密な時間を楽しもうというものだ。会員限定のタイムラインや、グループチャットでファン同士もコミュニケーションを取ることができる。またライヴ後の様子等、特別なコンテンツが楽しめる。

「今の時代って悪い事や嫌なことはすぐに広がるのに、いいことってなかなか伝わらないって感じていて。例えば『Face to Face~』のように、素敵なアーティストとのいい縁や繋がりから出来上がった作品のことも、その背景も含めてもっときちんと直接みなさんに伝えたいと思ったし、私の何気ない日常も含めて楽しんでもらえたらいいかなって思います。ハッピーのヒントになるようなことを、程よい発信力で伝えて、でも濃密に繋がっていきたいと思っています。先にファンコミュニティを楽しんでいる、新しもの好きな小室哲哉さんみたいに、こまめに発信はできないかもしれないけど(笑)、私も楽しみながら頑張ります」。

そんな小室哲哉がFaniconで展開しているファンコミュニティ「TETSUYA KOMURO STUDIO」の生配信コンテンツ “TK FRIDAY“に、先日渡辺がゲスト出演。テレビやラジオでは聴けない、プライベートコミュニティだからこその濃密なトークが繰り広げられ、話題になった。

小室が渡辺に提供した名曲「My Revolution」は1986年の作品。今年創立45周年を迎えるEPICのレーベルメイトでもあった二人は、2003年のEPIC創立25年の時開催されたイベント「Live EPIC25」のステージで、小室がピアノが弾き、渡辺が歌うという夢の共演が実現した。その映像がライブ・フィルム「Live EPIC25」として8月21日(月)、全国19か所23館の劇場で一夜限定で上映される。

9月1日千葉・青葉の森公園芸術文化ホール公演を皮切りに、12月まで続く全国ツアー『渡辺美里ライブ うたの木 GROW』がスタートする。

Fanicon『美里うた便り』

渡辺美里オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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