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流れ星☆『THE SECOND』で敗れた悔しさもネタに――恒例の単独ライブツアー開幕直前に語ったこと

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BSフジ

恒例の単独ライブツアーが7月29日地元・岐阜からスタート

お笑いコンビ・流れ星☆の毎年恒例の単独ライブツアーが今年も7月29日地元岐阜・高山を皮切りにスタートする。今年のツアータイトルは『我道』。流れ星☆は、2014年から毎年単独ツアーを行なっている(2020~21年はコロナ禍で中止)稀有な存在だ。毎年全国単独ライブツアーを行うお笑い芸人はほんのひと握りだ。ちゅうえいとたきうえ、二人が作り出すお笑いの世界は、老若男女を夢中にさせる魅力がある。二人に今年のツアーへの意気込み、そして先日出場した『THE SECOND~漫才トーナメント~』についてインタビューした。

『THE SECOND』に出場して感じたこと

まずは先日開催された『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ系)について。

たきうえ 毎年単独ライブツアーは新ネタを披露する場でもあるのですが、ツアーが終わったらそのネタをどこでやればいいんだろうってずっと思っていました。そんな時に『THE SECOND~漫才トーナメント~』に出場する機会をいただき、当たり前ですがネタは人を笑わすために作っているので、賞レースはそれを披露する格好の場だと思いました。

「毎年単独ライブツアーをやって、新ネタがどんどん増えていたので、有利だと思いました」(ちゅうえい)

ちゅうえい 『M-1グランプリ』の出場制限が結成15年未満で、僕らは20年以上やっているので賞レースも出られず、お笑い生活を気楽にやっていましたが、毎年ツアーをやってネタはどんどん増えていたので、他の芸人さんよりは有利だと思いました。でもまさかネタが2本しかないマシンガンズさんが、決勝までいくとは…。

たきうえ 偉そうに言ってるけど、ネタを作ってるの俺だからね(笑)。『THE SECOND』は第1回目なので運営側もこちらも手探りというか、仕方がない部分はたくさんあると思いますが、ネタ尺オーバーしたら減点システムが追加されたり、途中までは募集したお客さんだったけど、決勝はどういうお客さんになるのかなとか、不安はたくさんありました。僕達はどちらかというと老若男女にウケることを目指すネタなので、そういうお客さんだったらいいなって思っていました。でも気がつくと決勝のテレビ番組は“お笑い好きの”お客さんって銘打っていて、予選の時はそれも知らされていなかったので、傾向と対策の練りようがなかったです。

『THE SECOND』出演後、たきうえのツイートが炎上

流れ星☆はベスト16まで勝ち上がったものの、三四郎に敗れ予選落ち。その後たきうえがSNS上に《三四郎のネタは面白かったけど賛否両論あって然るべきネタなのに会場は『賛』しか無かったのが異常で怖かった。審査員の割合をお笑いマニア3、一般観覧客7位にすれば『一般的な世間の声』な感じになると思うんだけどな。ザセカンドさん是非御一考を。》《こっちは娯楽映画撮ってるのに、ニッチなフランス映画に負けた感じ》とツイートし、炎上。良くも悪くも流れ星と『THE SECOND~漫才トーナメント~』が注目を集めた。

たきうえ 賞レースって大体準決勝と決勝の空気が違うから、準決でウケたお笑いマニアに寄せたネタって軽くスベるんです。2013年の『THE MANZAI』で決勝に行った時もそうでした。僕達の「肘神」さまっていうネタは、決勝ではウケるけど準決まではウケないネタでした。お客さんの前でネタバレもしてるし、ポップなちゅうえいのギャグもウケないので、そういうのはテレビで観ているお茶の間の人には絶対ウケると思い、とっておきました。今回それと同じ戦法でいこうという話はしていました。でも今回予想が外れたのが、決勝も予選と同じ空間でやるということでした。今回まさか全員お笑いマニアのお客さんで固めてやるとは…という感じでした。これって観ている人は気づいてない部分かもしれないけど、出る側にとっては大事な部分で、そうなってくると戦い方が大分変わります。決勝でもちゅうえいのギャグ封印とか(笑)。

ちゅうえい 「キングオブコント」で、準決勝で負けた芸人が審査する感じと空気が似ていたかもしれないです。同業者が唸るというか、コアな人たちが笑うというか。俺、嫁さんと番組を観ていましたけど、今のはちょっと何が面白いのかわからないっていう場面が、何回かありました。でも2組終わって、肌感でこっちかなっていうのが全部当たっていました。うちの嫁は俺のお陰で、お笑いの物差しがすごく鍛えられていると思います(笑)。

「賞レースに出なくなって、のびのびと我が道を行っていたのに、また賞レースに振り回されようとしている(笑)」(たきうえ)

たきうえ 甲子園に出られなかった元OBがまた甲子園に出られる、そんな感覚で今回の『THE SECOND』は嬉しかったですが、でも動揺もあり…。昔は賞レースに振り回されて、本当にやりたいお笑いをやっていないと思って、でも賞レースに出なくなって、老若男女にウケるのが俺たちの道だってのびのびと我が道を行っていたのに、また振り回されようとしてるなって。だからもちろん『THE SECOND』のことも考えつつ、我が道を突き進むということは、ブレないようにしようと思っています。

ちゅうえい 気にしないのが一番だよ。

たきうえ こいつは気にしていないんじゃなくて、何も考えていないだけなんですよ。三四郎との対戦の時に正にお笑いマニア向けのネタを三四郎はやったんですよね。それこそ逮捕者のネタとか。テレビではゴールデンタイムで放送されるとなると、コンプラ的にダメでしょって思っちゃったんですよ。審査員は1点がつまらない、2点が面白い、3点がすごく面白いで採点していたのですが、俺は多分1点か3点が一番多いネタだなって思ったら、1点が1人しかいなかったんですよ。そんなわけないじゃんと思って。僕らのネタも1点が1人で同じでした。この空間がよっぽど偏っているというか、だから娯楽映画がニッチなフランス映画に負けた気分ってツイートしました。

ちゅうえい 僕はそのツイートのこと一切知らなくて、他の芸人から聞いて、一切関わるのやめようと思いました(笑)。パラレルワールドの人が言っているから、俺は一切関わらず家族と幸せに過ごそうと思いました(笑)。

「多分今回の大会で負けたコンビは、たきうえが力説していたような気持ちの人、めっちゃ多いと思います」(ちゅうえい)

たきうえは過去の単独ライヴのDVDを全部見直して『THE SECOND~漫才トーナメント~』で戦うネタを練りに練って臨んだだけに、悔しさもひとしおだった。

たきうえ これは先輩からの教えなんですけど、今までたくさんネタを作ってきて、でも昔のネタってあんまり掘り起こさず、風化して終わり、にするのではなくて、どのネタにも必ず光る部分があるはずなんだ、と。ボツネタでも、ひとボケ、ひとくだりとかでもいいから、そこを膨らませていったら、意外と輝き出すネタがあると言われたことをずっと覚えていて。今回も今までの単独ライブのDVDを全部見直して、拍手、笑いがきたところをピックアップして、どれがネタに入れられるか、ネタの中に拍手と笑いの数をどんどん増やしていって、捻ってブラッシュアップさせたものを、2日に一回くらいこいつに送っていました。強めのネタで、間違いなく三四郎に勝てるものを作ったつもりでした。前評判が良かったので足元をすくわれないようにって気持ちで臨んでいました。

ちゅうえい 今までウケたところをくっつけてきたなと思いました。その溶接部分の違和感をどうなくすかを考えてました…っていうボケです(笑)。多分今回の大会で負けたコンビは、たきうえが力説していたような気持ちの人、めっちゃ多いと思います。

「あのツイートをしたら色々な芸人が擁護するDMをくれました。ずるい、ツイートしてくれよ(笑)。でも嬉しかった」(たきうえ)

たきうえ あのツイートを結構色々な芸人がラジオでいじってくれたり、「お前の言う通りだよ」ってDMをくれたり。ずるいなって(笑)。ツイートしてくれよって思うんですけど、裏で擁護してくれました。観ている方はいい意味で賛否両論あると思いますが、大会の一回目だったので、そういう意味では一石を投じられたのはよかったかなって。僕ももう芸歴20年超えて、副業が流れ星☆になった今(笑)、別に干されてもなんとかなるなっていう立場なので言えるというか(笑)。

ちゅうえい すごいでしょ、一蓮托生の相方の横でこれを言うんですよ。

たきうえ 冗談ですけど、こういう意見もあるよということを言っていかないと伝わらないし、でもSNSで伝わる時代でもあるので発信しました。

ちゅうえい ただこれは全部ネタに還元できるなって(笑)。単独ライブには『THE SECOND』を観ていない人がたくさん来ますからね。

「『THE SECOND』のことは全部単独ライブのネタにした」(ちゅうえい)

たきうえ だからこれがまた難しくて、『THE SECOND』を観た人向けにも作りたくないし、それこそ本当に初めてお笑いを観に来ましたっていう人たちのために今までもやってきたので、そこはブレたくないです。ただ『THE SECOND』でウケた部分は、今回のツアーでは入れたいなって思いました。そういう意味では、今までの老若男女に喜んでもらえる部分プラス、ちょっと本気で賞レースに向き合った流れ星☆の部分も垣間見えるような。

ちゅうえい 『THE SECOND』のことをダウンタウンの松本(人志)さん「誰もが損しないい大会だった、たきうえだけが損した大会」って言っていましたけど、そういうのとかもネタに入れることができるからおいしいなって。たきうえの炎上も普通だったらマイナスに捉えるかもしれないけど、そういうことも全部このツアーに入れ込んでいきたい。でもお笑い好きの“通”の人よりも、俺らのことを好きでいてくれる人に楽しんでもらえる場にしますので!

「小学生から老人まで楽しんでもらえる笑いは、簡単なようでなかなか難しいということは、毎年ツアーをやっていて感じている。でもそこは追求していきたい」(たきうえ)

小学生から老人まで楽しめるエンターテイメントが、流れ星☆の真骨頂だ。今年のツアータイトルは「我道」。まさに我が道を進む二人、再びその道が間違っていないかを自身とお客さんに問い、確認する場が今回のツアーだ。

たきうえ 簡単なようでなかなか難しいということは、毎年やっていて感じています。でもそこは追求していきたい。そういうベタというか営業ウケするものって、他の芸人からしてみるとパッと見ダサいと思ってしまっている部分だと思うけど、僕らからすると、本気でやったことないだろこの部分をって思うし、そこを追求していきたい。ツアータイトルの「我道」は、いつものようにポスターを撮ってくれたカメラマンさんが考えてくれました。こうやってしゃべっていて、改めて振り回されず我の道を歩むしかないなって思いました。

ちゅうえい 今回のポスターのたきうえの顔を凝視したら、目鼻口がこんな中心に集まってましたっけって(笑)。

たきうえ 顔をギュッてやると中心に寄るんですよ(笑)。

「今回初めて行く茨城、久々の群馬がどうなるのか、楽しみ」(たきうえ)

ちゅうえい 初日は僕らの出身高校がある飛騨高山で、しかも7月29日はちゅうえいの誕生日で、持ち帰りやすいプレゼントをお待ちしてます、重いものはお断りします。スタバカードとか最高です。

たきうえ うちの親父の誕生日でもあるので、重いものなら日本酒にしてください。今回は初めて茨城に行きます(8月13日ひたちなか市民文化会館)。もしかしたらカミナリが前説をやるかもしれません(笑)。ひたちなかといえば「ロック・イン・ジャパン・フェス」の開催地として有名ですが、フェスも千葉に移転したので、今度は僕達がひたちなかを盛り上げます。

ちゅうえい あとは牛久大仏かな。納豆、水戸黄門、とにかくその土地のオリジナルギャグもネタに入れますので、全部のライブに来てもらっても新鮮な笑いが楽しめます(笑)。

たきうえ 群馬(9月18日高崎文化ホール)もすごく久しぶりなので楽しみです。

ちゅうえい 群馬の前説は井森美幸さんとJOYです(笑)。

「お笑いも副業も両方頑張ってるんです(笑)」(たきうえ)

流れ星☆は2000年に結成。キャリア20年を越えるベテランの域に入ってきた。“仲悪い芸人”の真打ちと言われたり、たきうえの副業が話題になるなど、度々ネットニュースを賑わせてきた。しかしそれさえもネタにしてしまう強さと、ちゅうえいがネタの中で繰り広げる強烈な一発ギャグの数々が幅広い層から支持され、2014年から毎年単独ライブツアーを行なっている。4月クールのドラマ『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日系)に二人揃って出演するなど、その活動の幅を広げている。絶妙なバランス――二人を見ているとその強さを一番感じる。

たきうえ みんなに勘違いされるのですが、たきうえは副業ばかりやってお笑いをおろそかにしている、ちゅうえいは頑張ってる、みたいに見られがちですが、副業もお笑いも頑張ってるんですよ。

ちゅうえい あれ?こっちが副業じゃないの?

「こいつ(ちゅうえい)という奥さんがいつつ、副業という名の愛人がいて、バランスがとれてるみたいな(笑)」(たきうえ)

たきうえ どっちの副業も…いや副業じゃない。どっちも本業のつもりで、どっちも手を抜かずに頑張ってるという言い方が正しいかも。思えば、副業を始めたことによって、隣にいるこいつのことをずっと見なくてよくなったことで、ちょうどいいマイルドさになったというか。それまでにはこいつの一挙手一投足がいちいち気になって、文句ばかり言っていました。でもそこまで見ないようになって、自由にやっていいよっていうスタンスになったとたん、気持ちが楽になりました。副業で作ったキャラをこっちに持ち込めるし、失敗した部分とかもネタにできるので、芸人になってから失敗すらもネタになるということで、すごく楽になりました。こいつという奥さんがいつつ、副業という名の愛人がいて、バランスがとれてるみたいな(笑)。

ちゅうえい 俺に依存しなくなったんです。

たきうえ 依存してるはお前だろ。相方とコンビをやっていることは修行だと思って生きてます。いいバランスに無理やりしているって感じなのかもしれません。いいバランスになるようにお互いが動いて、今ちょうどいいバランスに落ち着いたという感じだと思います。

「2人でわちゃわちゃやっている感じが一番自然だと思う」(ちゅうえい)

二人の目指す方向が一致しているから、そこに向かうためにそれぞれがバランスを取っているのかもしれない。

ちゅうえい 2人でわちゃわちゃやっている感じが一番自然だと思うので、そこがお客さんに伝わっていると思っています。根っこの部分を楽しんでもらっているというか、よく言われるのが小学校の休み時間にふざけている様子を、みなさんが観て楽しんでくれているのかなとは思います。観ていて良くも悪くもずっと若いというか。年を取っても絶対中川家さんや博多大吉・華丸さんみたいなベテラン感は出せないと思うし、坂田利夫師匠とか、あっちの方だと思います(笑)。

たきうえ あれはニッチなフランス映画でしょ(笑)。すごくないですか?あそこまでいって赤ちゃんみたいな格好をして笑わせられるって、最高ですよね。

ちゅうえい 吉本新喜劇は娯楽映画ですよ。我々も誰もがわかるお笑いプラス、お互いの今まで生きてきた様、それが醜かろうがバカにされようが、その部分もしっかり隠さずネタに入れて笑っていただくみたいなことは、多分一生やっていくと思います。

BSフジ 「流れ星☆単独ライブツアー 2023 我道」特設サイト

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音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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