Yahoo!ニュース

ポニーキャニオン 史跡、歴史資源を次世代へ継承――エンタメ的視点でヘリテージ・マネジメントを推進

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

ポニーキャニオン×ビームスで、町田市指定史跡「旧白洲邸 武相荘」を共同運営

“エンターテインメントで地域を、ニッポンを元気に”をテーマに、地域活性化事業に注力する総合エンターテインメント企業ポニーキャニオン。同社は2015年に事業ローンチし2017年に専門組織「エリアアライアンス部」を創部。観光、移住定住、シティプロモーション、ブランディングといった地域が抱える課題に向き合ってきた。2022年度までの業了件数は350案件を超えている。

(株)ポニーキャニオン・エリアアライアンス部 部長・村多正俊氏
(株)ポニーキャニオン・エリアアライアンス部 部長・村多正俊氏

先日、同社は町田市指定史跡「旧白洲邸 武相荘」を株式会社ビームスと共同運営していくことを発表した。白洲次郎・正子夫妻の世界観を身近に感じることができるこの場所を、従来のファンに加え次世代のフォロワーに向けその魅力をアピールしていく。このプロジェクトを推進するポニーキャニオン・エリアアライアンス部 部長・村多正俊氏にこの史跡をどう運用していくのか、また現在注力している活動についてインタビューした。

「貴重なヘリテージ(史跡)を私達の手で時代性をもって次世代に継承していきたい」

村多氏の口から最初に出てきたのは「ヘリテージ・マネジメント」という言葉だった。武相荘のような史跡(ヘリテージ)を、時代性をもって次世代に継承していく活動、という意味だという。「武相荘を運営している(株)こうげいの牧山夫妻(同社社長は白洲夫妻の長女・桂子氏)と元々繋がりがあったんです。武相荘はその佇まいが好きで良く通っていました。ここ数年、この貴重なヘリテージを私達の手で次世代に継承していきたいという思いが芽生えまして……その過程でビームスさんとの出会いがあり、こうげいさん、弊社、そしてビームスさんとの協業であれば何かできるのではと…と考えたところが今回のプロジェクトのはじまりでした」。

白洲次郎・正子夫妻の終の棲家

武相荘は、吉田茂元首相の側近として活躍し、戦後の日本復興に貢献した実業家、白洲次郎と妻の随筆家・正子の旧宅。明治初期に建てられた養蚕農家を買い取り、1943年から夫妻が暮らし始め、二人は手を加えながら終の棲家とした。2001年に白洲夫妻の長女・牧山桂子さんと夫の圭男さんがミュージアムやレストランを併設し、一般公開を開始。歴史的にも貴重な資料が常設展示されている同館は、開館から22年間で約88万人が来場している。

「町田市のシンボリックな場所で、実際に多摩エリアで(有料での)集客数が最も多い史跡です。白洲夫妻の世界観に憧れているファンは本当に多い。今回、日本のモノ・コト・ヒトを応援し、その魅力を国内外に発信するプロジェクトを推進するビームスさんと協働できることを心強く感じています」と村多氏は語る。

ビームスの設楽洋社長は「白洲夫妻は、海外のカルチャーを学びながらも日本人の誇りや心を発信してきた。我々の目指すところに通じるものがある」と語っている。

「多摩丘陵の美しい里山の原風景を残すことも大きなテーマ」

白洲ファンはMF3層(50歳以上)が中心だが、それをMF2層(35~49歳)まで下げることが「与えられたミッション」だと村多氏は語ってくれた。「ドラマや映画、小説、歌劇他、これまで白洲次郎さんをテーマにした作品はたくさんあります。正子さんも同様です。でもまだ二人のことを知らない人は多い。そういう意味でもまだまだ余地があるわけです。まず我々がこれまで以上に情報発信していくことが大切。桂子さんもおっしゃっていますが、白洲夫妻の旧跡ということ以上に訴求しなければならないのが多摩丘陵の美しい里山。桂子さんが子供のころの当たり前だった、この原風景を残したいのです」。

都心から約1時間、小田急線鶴川駅からそう遠くない住宅街の中に武相荘はある。広大な敷地に、竹林や裏山、自然がたっぷり残されている。母屋には貴重な歴史資料と共に、次郎・正子夫妻が過ごした生活空間の中に実際に使用されていた陶磁器や染織類がディスプレイされ、正子さんが執筆していた書斎も保存されている。夫妻の美意識を感じる空間に身を置くと、流れる空気の中に二人の息遣いを感じることができる。散策路や次郎の愛車のクラシックカーが置かれた「カフェ」、次郎が生前好んだレシピを楽しむことができる「レストラン」、次郎と正子の書籍や二人にゆかりのあるグッズが販売されている「ミュージアムショップ」などが併設されている。

今回のコラボレーションに牧山圭男館長は「これまでとは違う魅力を引き出してもらえるかもしれない」と語り、今後ポニーキャニオン、ビームス両社のノウハウを生かし、武相荘を基点とした魅力的なグッズの開発やイベント開催、情報発信を行っていく、と語っている。

「時代性を加え、攻めの姿勢で武相荘の魅力をブラッシュアップさせる」

左から(株)ビームス代表取締役社長・設楽洋、町田市長・石阪丈一、(株)こうげい代表取締役社長・牧山桂子、「旧白洲邸武相荘」館長・牧山圭男、(株)ポニーキャニオン代表取締役社長・吉村隆
左から(株)ビームス代表取締役社長・設楽洋、町田市長・石阪丈一、(株)こうげい代表取締役社長・牧山桂子、「旧白洲邸武相荘」館長・牧山圭男、(株)ポニーキャニオン代表取締役社長・吉村隆

ポニーキャニオンの吉村隆社長は「武相荘に足を踏み入れると学びと気づきがあります。わざわざ時間を作って来てくださった方に、もう一回行ってみようと思っていただける施設にしなければいけません。そのためには時代性を加えていく必要があります。この場の持つ魅力をブラッシュアップさせ、待ちの姿勢ではなく攻め姿勢でアピールしていく。そうすることでファンの層が変わっていくと思います。武相荘がこれまで手掛けてきたレギュラーイベントも行いつつ、クリエイターによるトークセッションやアコースティックライヴなども積極的に開催していきたい。そして文化財を守りながら町田市の活性化を図っていく」と語っている。

5月28日に武相荘能ヶ谷ラウンジで行われた、イラストレーター、キン・シオタニ氏のトークイベント「旅とアートと人生と」
5月28日に武相荘能ヶ谷ラウンジで行われた、イラストレーター、キン・シオタニ氏のトークイベント「旅とアートと人生と」

武相荘をハブとし、町田市の観光資源を繋げるツーリズム構想も

町田市の石阪丈一市長は行政の視点から「市の指定文化財でもある武相荘は市外からも多くの方が訪れる町田市の魅力的な観光資源です。白洲正子さんは町田市の名誉市民第1号でもあります。今回ポニーキャニオンさん、ビームスさんが加わることでより幅広い世代に魅力が伝わると思います」と今回のプロジェクトに大きな期待を寄せている。村多氏も「町田市は観光資源が豊富です。『武相荘』を基点としてそれぞれを繋げるツーリズムのひとつとして、他の場所も巡るようなプロモーションの仕方もできると思う」と、武相荘をハブとした地域活性化を見据える。

ポニーキャニオンで数々のアーティストを手がけてきた制作マン・村多氏は今回の取り組みについて「今回は3社に元々の繋がりがあって、伏線があった。曲でいえば、それがいい感じでイントロになって、今サビに向かっている感じ」と、このエンタテインメント・プロジェクトへの意気込みをそう表現してくれた。

“戦う歴史学者”平山優氏とエージェント契約を結び、歴史資源を活用した地域活性化を推進

歴史学者・平山優氏
歴史学者・平山優氏

一方でポニーキャニオンは、現在の戦国ブームを牽引している歴史学者・平山優氏とエージェント契約を結んだ。平山氏は現在放送中のNHK大河ドラマ『どうする家康』や『真田丸』(2015年)で歴史考証を担当し注目を集めている。 「歴史をエンタメのひとつと捉えて、専門家と我々が連携することで歴史資源を運用する高精度のソリューションを地域に提供したいと考えました。平山氏はSNS上で、一般の人からの質問にも歯に衣着せぬ言葉で毅然と答えるなど、“戦う歴史学者”と呼ばれている注目の歴史学者。また歴史資源の活用が地域経済に直結する重要事項であることを認識しておられます。去年連携協定を組んだABCアークさん(雑誌『歴史人』を発行する出版社)とのシナジーをもって、歴史に特化した地域活性化を推進していきたい」。

“総合力”を武器にヘリテージ・マネジメントを推進し、地域活性化へつなげる

ポニーキャニオンは総合エンターテインメント企業。音楽、アニメ、映像、イベントと事業領域が広い。エンタテインメントに関して、ほぼ網羅できる強みを持つ。さらに、業界唯一の地域活性化事業セクションであるエリアアライアンス部を有している。社内でワンストップ体制が組めるところがアドバンテージだ。この整った体制、「総合力」こそがヘリテージ・マネジメントでは威力を発揮するのではないだろうか。歴史・文化遺産を活用し、街を活性化させる…事業展開は多岐に渡るが、地域に根差し、そこで生活している人々との交流を通じ、行政的視点でも地域の課題に向き合うことができる強みが同社にはある。そこにエンタメ的視点をどうブレンドしていくことができるか。このプロジェクトでは「総合力」がやはり重要になる。「総合力」で社会の信頼を獲得していくことが、今後同社に課せられたミッションである。今後の動向にも注視していきたい。

(株)ポニーキャニオン エリアアライアンス部 オフィシャルサイト

「旧白洲邸 武相荘」オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事