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平原綾香 「悲しい=父を忘れないということ。だから悲しいことが幸せだと思えるようになった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BSフジ

昨年11月、名サックスプレイヤーの父・まことさんの一周忌を終え、胸の内を語る。

平原綾香が世界中の子供達を救済するために、2015年から開催しているチャリティコンサート「平原綾香 Jupiter 基金コンサート」。今年は3月5日に『平原綾香 Jupiter基金 Presents 平原まこと50周年メモリアルコンサート』として東京国際フォーラムホールCで開催される。このコンサートは一昨年11月に胃がんのため69歳で亡くなった、日本を代表するサックスプレイヤーの父・まことさんを偲び、平原と姉・AIKA、さだまさし、宮川彬良が出演する。このコンサートについて、そしてまことさんへの思いを語ってもらった。

「ひとつの才能、宝物が消えるということが、こんなにも淋しいことなのかと実感しています」

「いまだに亡くなったことが信じられなくて。母と一緒にいて、時々ふっと『あれ?パパ、何でいないんだっけ?』ってなるんです。どこか遠くに旅行にでも行っているのかなという感じで、何でいないのかがわからないんです。ずっと悲しいまま、立ち直ることはないと思う。でも悲しいと思えるということは、父を忘れていないということだし、悲しいことが幸せだと思えるようになりました」。

平原はまことさんをそう偲んだ。まことさん亡きあと、絶え間ない悲しみに押しつぶされそうになりながら、悲しむ隙間がないように精力的に仕事に取り組み、忙しくしてきたという。

「でも母と二人でよく泣いています。もちろん人間っていつか死んでしまいますが、母と言っているのは、ひとつの才能、宝物が消えるということが、こんなにも淋しいことなのか、ということです」。

「父がそばにいるというより、その魂のようなものが私の中に宿っているから、歌や表現が変わってきた」

コロナ禍で表現者としての心持ちに変化が起こっていたことに加えて、まことさんの死という“喪失”に直面し、シンガーとして「変わった」という。

「先日ユーミンさんとコラボさせていただいた『SAVE THE SNOW CONCERT』の時も、ユーミンさんが『綾香はまた違うフェーズに入ったね』って言ってくださって。『お父さんが亡くなったことも影響しているのかもしれないね」って。でも確かにそうなんですよね。それまで出したことがない声やニュアンスを出すことができるようになって、多分それは父がそばにいるというより、父の魂のようなものが私の中に宿っているからだと思っています。父が亡くなって大黒柱がいなくなってしまったので『守らなきゃ』とか『なめられないようにしなきゃ』って思うようになって、そういう気持ちの変化も影響しているのかもしれません。しっかりしているようですが、実は真逆なんです。だからいつも、気持ち大股で歩いています(笑)』。

「父からも言われましたが、泣いて歌えないというのはプロとして恥ずかしいので、絶対に泣かないようにしています」

一家の大黒柱として強くならなければいけないんだという気持ちが芽生え、それが歌にも表れているのかもしれない。平原はまことさんが亡くなった日も、出演するミュージカル(『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』)の稽古に参加し、翌日もライヴに出演。「ステージでは泣くな」と、デビュー当時からまことさんに厳しく言われていたという平原は、このステージでも、これ以降のステージでも涙をこらえ、歌った。

「デビューして最初のツアーで『明日』を歌っている時に泣いてしまい、舞台の袖に戻ったら父から『泣くな、泣きたいのはお客さんなんだから』と言われました。父との思い出の曲とかを歌うと、やっぱり今も悲しみが込み上げてきますが、でも絶対泣いちゃいけない。泣いて歌えないというのは、プロとして恥ずかしいので、絶対に泣かないようにしています。祖母が亡くなった時、父がお葬式で最後にクラリネットで『Memories of you』を吹いて送ったのですが、でも父は自分の母親が亡くなったのに一切泣かなかったんです。それで父に『何で泣かずに吹けるの?』って聞いたんです。父は『僕は音で泣いていたから』って。その時、プロは心の内側にあるものを音色で表現するんだということを、改めて教えられたような気持ちになりました」。

『平原綾香 Jupiter基金 Presents 平原まこと50周年メモリアルコンサート』にさだまさし、姉・AIKA、宮川彬良が出演

さだまさし
さだまさし

AIKA
AIKA

宮川彬良
宮川彬良

そのまことさんも大切にしていたのが、2015年から年一回のペースで行われている「平原綾香 Jupiter 基金コンサート」だ。まことさんも自ら会場で募金箱を持ち、世界中の困っている子どもたちのために募金を募ったこともあった。今年は『平原綾香 Jupiter基金 Presents 平原まこと50周年メモリアルコンサート』として開催する。出演者としてさだまさし、姉のAIKA、音楽家の宮川彬良が発表されている。

「父がお世話になったお二人が参加してくださって、本当に嬉しいです。さださんは長崎繋がりでさだパパと呼ばせていただいていて、宮川さんは父とデュオを組んでくださっていました。そんな”家族”のような方々に出演していただけて、父も喜んでいると思います。平原まことの音楽の軌跡を伝えたいのはもちろんですが、父を思ってこのコンサートに足を運んでくださっただけで嬉しいです。来て下さった方達を、悲しい気持ちにさせるのではなく、どれだけ楽しませることができるのかがテーマです。前回のこのコンサートにさだ(まさし)さんが参加してくださって、『ひまわり』という曲を私と父と3人で披露したのですが、涙を流しながら聴いてくださったお客さんが多かったことを思い出します。個人的にも父のサックスの音が泣けて。今回も父が最後に録音した『Feels Like Home』を、その音源をバックに歌います。当時、父はとてもサックスを吹ける状態ではなかったのに、見事な音色を聴かせてくれ、生き様を見せられたようでした。そんな生命力を感じる父のサックスに負けないように、泣かないように歌います」。

3月1日にはまことさんが最後にレコーディングした『Feels Like Home』を始め、今回が初音源化になる作品など、まことさんが残した名演の数々を集めたアルバム『平原まこと 50周年記念 メモリアルアルバム 〜The MAX〜』が発売される。

「この基金は私だけではなく、色々な人たちの思いが詰まった基金」

この「平原綾香 Jupiter 基金コンサート」は、寄付先は限定せず、その時々で「一番困っている人達」の元に届ける。中でも「子どもたちの笑顔を見たい」という平原の思いから、世界中の困っている子供達たちを応援するという太い芯がある。

「日本だけではなくアフガニスタンやミャンマーの子供達などに寄付させていただいて、ご縁もたくさん繋がって嬉しいです。子どもたちがいまだに私のことを応援してくれていて、血が繋がっていなくても家族だって思える子どもたちがたくさんいるというのは、本当に嬉しい。1回目を開催した時にお客さんにとても感謝されて『チャリティーってやってみたかったけど、どんなふうに寄付されてるのか、どうやって寄付したらいいかわからなかったけど、コンサートに行くことが寄付になるってすごくありがたい』って言っていただけて。だからこのコンサートは、いつものコンサートとは少し雰囲気が違って、とても温かいんです。ある意味自分は主役ではなくサポートする側で、目的が明確なので心が楽なんです。今回が8回目になります。ライフワークのひとつとして、これからも皆さんと一緒に毎年開催できたら嬉しいです」。

「この基金は、私だけではなく色々な人たちの思いが詰まった基金なので、例え平原綾香という名前がなくなってもみんなの基金、みなさんにとっての自分の基金と思ってくださったら、それが理想的な形だと思っています」。

『平原あやかJupitar基金』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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