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珠城りょう 元宝塚トップスターの“第2の人生”。「日常生活に寄り添えるようなアルバム」2作でデビュー

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ケイパーク

元宝塚歌劇団月組トップスター・珠城りょうが、オリジナルとカバーアルバムでCDデビュー

2021年8月まで宝塚歌劇団月組のトップスターを務め、退団後は俳優として多忙な毎日を過ごしている珠城りょうが、10月19日にオリジナルアルバム『Freely』とカバーアルバム『Shine』を同時リリースし、CDデビューを果たした。宝塚卒業後、すぐに新たなフェーズに入った彼女に、初めてのアルバムに込めた思い、「第2の人生」と語る“現在”をインタビューした。

「“第2の人生”は不安からのスタートだった。本当に新しい気持ちで色々なことに挑戦したい」

ドラマ『マイファミリー』(TBS系)より
ドラマ『マイファミリー』(TBS系)より

男役トップスターの座を卒業して一年。目の前に現れた珠城は美しく、柔らかさの中に凛としたオーラを感じさせてくれる。

昨年8月に退団後、11月には宝塚OGによる舞台『Greatest Moment』に出演。そして今年1月から現事務所に所属し、芸能活動を再開させた。 まず4月から『珠城りょう1st concert「CUORE」』を行ない、5月にはドラマ『マイファミリー』(TBS系)に出演。8月には宝塚歌劇団元トップスターたちの豪華顔合わせによるストレートプレイ版『8人の女たち』に出演と、充実した活動で忙しい日々を送っている。退団後は「第2の人生」のことをどう考え、過ごしていたのだろうか。

「在籍時は、トップというポジションに選んでいただいたので、最後まできちんと全うすることしか考えていませんでした。でもいざ退団後のことを考えると、何だったらできるんだろう、自分の持っているものって限られているなと思ってしまって。表現することが好きなので、そういうお仕事にチャレンジしたいと思いましたが、でもどうすればいいのかわからなくて、不安しかなかったです。でもご縁あって、今の事務所に所属することが決まって、世界が広がっていきました。宝塚を卒業した人ってよく“第2の人生”という言い方をしますが、本当に新しい人生が始まるんだということを、今年1月から実感しました。宝塚時代をご存じない方からすると『珠城りょうって、誰?』というところからのスタートなので、本当に新しい気持ちで、色々なことに挑戦させていただいています」。

昨年行なった1stコンサート『CUORE』では、これまでにない緊張感を味わった。

『珠城りょう1st concert「CUORE」』(2021年・Photo/岸隆子(Studio Elenish)/提供:梅田芸術劇場 
『珠城りょう1st concert「CUORE」』(2021年・Photo/岸隆子(Studio Elenish)/提供:梅田芸術劇場 

「男役の珠城りょうのファンだった方が、男役ではない、いち俳優としての私のパフォーマンスやビジュアルをどう受け取ってくださるのか、ドキドキ感がありました。11月からスタートするコンサートツアー(『RYO TAMAKI LIVE TOUR 2022~Freely~』(11月10日~30日、東京・愛知・大阪)は、ずっと応援してくださってる方と、また新たに珠城りょうに興味を持ってくださった方もいらっしゃると思うので、どう感じていただけるのか、こちらもドキドキしています。前回はダンスパフォーマンスも多かったのですが、今回は宝塚時代の歌とは違う、発売したアルバムからポップスをたくさん歌うので、新しい形でのライヴがお届けできると思います」。

珠城りょうと“自分”と

主演朗読ミュージカル『Unrequited Love〜マクベスを殺した男〜』より
主演朗読ミュージカル『Unrequited Love〜マクベスを殺した男〜』より

宝塚時代は男役・珠城りょうとして長年活動をしてきて、本来の“自分”とどう棲み分けをしてきたのだろうか。

「男役を構築していくのは年数がかかるので、下級生のときは『芸風が大人っぽいし男っぽいのに、普段は女の子っぽいからすごくギャップがある』と先輩に言われて、『もっと私生活から男役ということを意識した方がいいよ』とアドバイスされました。なので下級生の時はすごく意識して過ごしていました。学年が上がってくると徐々に意識しなくても大丈夫になってきましたが、トップになると色々な人からトップスターとして見られるので、そういう意味では一歩家から出た瞬間、誰からも見られても恥ずかしくない生活をしなくてはいけないというのはありました。私は自分のことを“スイッチタイプ”だと言っていますが、舞台でも役のベースができあがれば、スイッチが入るのが衣装を身に着け、舞台に出る瞬間でした。ステージを終え、板の上を下りたら本来の自分という感じでした。なので、家でも男役を“抜く”感覚でした。長く活動していると、本来の自分と芸名の“男役・珠城りょう”というのが、どちらが本当の自分なのか、だんだんわからなくなってしまいがちです。でも私はそれが嫌なので、自宅では好きな映画やドラマ、バラエティ番組を観たり、とにかく自分の好きなことに触れるようにして、本名の自分に近い状態でいるようにしていました」。

「どうやったらお客さんの意識が自分に向くか、求心力というものが出せるのかを常に考えて舞台に立っていました」

2008年に宝塚に入団した珠城は、身長172cmという恵まれた体格、長い手足から繰りだされるダイナミックでしなやかなダンスで一躍注目を集め、2016年に月組トップスターに就任。ステージを“支配”するパフォーマンスで、多くのファンを魅了し続けてきた。それは“表現者”としての財産になっている。

「宝塚時代は2,500人キャパの劇場で、一人でパフォーマンスをすることもあったので、必然的に放つエネルギーや動きは、やっぱり大きくなっていきます。身長の高さを最大限に生かすようにパフォーマンスしていました。どうやったら、お客さんの意識が自分に向くか、どうやれば求心力というものが出せるのかを、常に考えて舞台に立っていました。歌い出しの前の動きや目線からしっかりと訴えかけて、視線を集める。いい意味で計算しながらやってきました。それはこれからのコンサートや舞台で生かせると思います」。

「聴いてくれる人の日常に寄り添えるアルバムにしたいと思いました」

オリジナルアルバム『Freely』(10月19日発売)
オリジナルアルバム『Freely』(10月19日発売)

10月19日にオリジナルアルバム『Freely』とカバーアルバム『Shine』を同時リリースしCDデビュー。歌で、思いやメッセージを届けるという表現が新たに加わった。『Freely』は自由に、開放的というメッセージを感じる楽曲が多く、それは自分自身にも向けられたものという捉え方もできる。

「聴いてくれる人の日常に寄り添えるアルバムにしたいと思いました。その中で自分自身が想像できたり、自分の心が動く内容でなければ嘘っぽく聴こえてしまうと思ったので、皆さんの背中を押せて、自分も鼓舞するようなこと、自分が誰かに語りかけてるような内容になればいいなと思いました。ずっと応援してくださっているファンの方と、新たにファンになってくださった方、両方の方に聴いて欲しいと思ったので、アルバムのジャケットのビジュアルも『Shine』は珠城りょうを深く知らない人が見ても、興味を持っていただけるようなポージングやデザインにこだわって、『Freely』は私をよく知ってくださっている方達に『ああ、りょうちゃんっぽいな』と思ってもらえるようなものになっています」。

作家・一雫ライオンが歌詞を手がけた「アナザーデイ」では、「等身大でない自分を、俳優として演じながら歌いました」

『Freely』は、前回のツアーでも好評だった「This Heart & Soul」「Prelude」に加え、新曲4曲を収録。「通勤や通学の途中や、エネルギーが必要な時に聴いていただけたらと思い、歌いました」というように、前向きな曲、そっと背中を押してくれる曲が多い。「ライヴで盛り上がれる曲を絶対作りたかった」という「Goin’ Fightin’」、クールかつキャッチーな「Moonlit Night」は「自立した女性のことを歌いたかった」と語ってくれた。これまで応援してきたファンは感涙必至の「Starting over」、「前回のコンサートのアンコールで歌って、もっと伸びやかに自由になりたいという感じが、ある時の自分ともリンクしていた」という「Prelude」等、多彩なポップスが並んでいる。

そんな中で、作家・一雫ライオンが歌詞を手がけた「アナザーデイ」は、他の作品とは違う色、温度感を楽しめる。「ドラマ性があって“等身大の珠城りょう”というよりは、違う女性を想像して歌いました。物語が映像になって見えてくる歌詞なので、俳優として自分がそこに思いを投影できたらいいなと思いました」。

「さだまさしさんの『いのちの理由』は、応援してくださるみなさんと親への感謝の気持ちを込めて歌いました」

カバーアルバム『Shine』(10月19日発売)
カバーアルバム『Shine』(10月19日発売)

カバーアルバム『Shine』は、「春の歌」(スピッツ)、「PIECE OF MY WISH」(今井美樹)、「VOICE」(AI)、「Over Load」(中島美嘉)、「星のかけら探しに行こうAgain」(福耳)、「いのちの理由」(さだまさし)というセレクトだ。

「『春の歌』『VOICE』『いのちの理由』は、絶対歌いたい!とリクエストしました。『春の歌』は前向きになれる曲で、『VOICE』はサウンドにパンチがあるものを入れたくて、しかも考えさせられる歌詞です。『いのちの理由』はコンサートでは恒例の曲で、いつも応援してくださっている方々や親への感謝と、今、コロナ禍で生きている意味を込めました。『星の~』はスタッフの方に勧められて“ひと聴き惚れ”をして歌いたいと思いました。それぞれのアーティスト、曲にリスペクトを込め、そこに自分なりの色をプラスできるように歌いました」。

「コロナ禍でのコンサートなので、お客さんとの心の距離感が少しでも近くなったら嬉しい」

11月10日東京・府中の森芸術劇場を皮切りに、このアルバムを披露するツアー『RYO TAMAKI LIVE TOUR 2022 ~Freely~』がスタートする。

「コロナ禍でお客さんとの心の距離感が少しでも近くなったらいいなと思います。今回はアルバムの曲がメインになりますが、宝塚時代の楽曲もファンの方からリクエストを募って披露します。このコンサートも含めて、色々な方に珠城りょうを知っていただく機会が増えてきましたので、『宝塚を卒業した人でも、こういう感じで活動をする人がいるんだ』と、新鮮に思っていただけたら嬉しいです。まだまだ自分が知らない自分や感情があると思うので、これから色々と経験したいです」。

来年1月には主演舞台『マヌエラ』に臨む。

珠城りょうオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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