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brainchild's 更新し続けるバンドの現在地。新体制初アルバムは「コロナ禍でのリアルな感情」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルス/アリオラ・ジャパン

約4年ぶりの、“7期。”としては初のアルバム『coordinate SIX』

brainchild's"7期"としてリリースした『STAY ALIVE』以来、約4年ぶりのアルバム『coordinate SIX』が8月24日に発売された。キーボードMALが加入したbrainchild's"7期。”としては初のアルバムで、より骨太になり、かつ、煌びやかさを纏ったそのサウンドは、圧倒的な広がりと深さを感じさせてくれる。実験的なアプローチを通し、更新し続けるバンドの強い意志を感じさせてくれる。バンドの変化と進化を誰よりも楽しんでいるEMMAこと菊地英昭と、ボーカル渡會将士にこの作品についてロングインタビュー。

「『Brave new world~』は中学・高校の時に聴いていた音楽のイメージ。初期衝動を感じながら書き上げました」(菊地)

『coordinate SIX』(完全生産限定盤A/CD+DVD)
『coordinate SIX』(完全生産限定盤A/CD+DVD)

――まずはアルバムのオープニングナンバーで、6月に発売されたシングル「Brave new world」(Album Version)について聞かせてください。

渡會 自分はこの曲を初めて聴いたときに、EMMAさんの仮歌とかも含めて「何か懐かしい感じがする」と思って。その懐かしさが何由来だろうって考えて、自分の中で勝手に80年代90年あたりの懐かしいSF映画が思い浮かびました。

菊地 この曲は僕が中学・高校の時に聴いていた音楽のイメージです。クイーンとかエアロ・スミスを好きだった時期を過ぎて、マイケル・シェンカーやボストン、U2といった自分の体の中に入っている音楽が出てきて、初期衝動を感じながら一気に書き上げました。

――EMMAさんが書く曲は、この曲もそうですが、ハードロックだけどサビがすごくポップでキャッチ―というイメージがあります。どの曲にも誰もが楽しめるポップネスを感じるというか…。

渡會 そう思います。

菊地 そうなんですよね。ハードロックの中でも好きな曲は、ただ重いだけではなく、ちゃんとサビがあってとか、どこかキャッチーなものがあると嬉しいなと思いながら聴いているタイプでした。今のK-POPも好きでよく聴いていて、自分の中ではロックを聴くのもK-POPを聴くのも同じなんです。例えばAppleとかで、シャッフルで聴いていても、すごくヘビーな曲の後にアイドルの曲が流れてきてもすんなり受け入れられちゃうタイプなんです。たまに飛ばすとしたら自分達の曲です(笑)。

「コロナ禍での不安、政府への不信感、今の世の中って昔観たディストピア映画みたいだなって思い『Brave~』の歌詞を書きました」(渡會)

――ジョージ・オーウェルの『1984』をモチーフに、現在の社会を痛烈に皮肉っている歌詞が痛快です。

渡會 去年書いた歌詞なんですが、未知のコロナウィルスに振り回わされて不安は大きくなるばかりで、政府への不信感は募るばかりで、SNSではフェイクニュースや不穏な噂が飛び交い、「あ、これ昔観たディストピア映画みたいな世の中だな」と思って。『Brave New World』という映画もディストピア映画だし、何かそういう昔の映画のキーワードを使いたいなと思って並べました。渡會将士ソロの作品だと明るい曲も必要だろうなと思って作りますが、brainchild’sでは、「やべえな」っていうのは、そのままやってもいいのかなと思っています。

菊地 私が責任を負いますので。

渡會 最初は明るいテーマに書き直そうと思っていましたが、同時期に『Heaven come down』(2021年デジタルリリース)とか、ダークめな内容の曲を発表していたので「ずっと怒ってるばっかりの人になっちゃうな、俺」と思って(笑)。なので明るい曲も前向きな曲も歌いたいと思っていたので、最初は明るい内容にしてみたのですが、多分そういうことじゃないなって思って。「とりあえず1回、何かに怒っておこう」って仕切り直したら、割とすんなり内容が決まって、当時ネットとかでワーワー言い合っていることを見て「なるほどね」って歌詞に落とし込んでいきました。

――刺激的な言葉並んでいますが、誰もが感じていることをズバッと言ってくれて、そういう意味で痛快でした。

菊地 <村八分>も出てくるしね。でも自分がやっていることがわかっていない人も多いから、言葉はきつくても、自覚して欲しいなという思いがこもっているんですよね。

渡會 韻を踏んでいくというだけの遊びの部分もあるんですけど、そこに説得力がないと、やっぱり薄っぺらい曲に聴こえてしまうし、一聴して聴き取れなくても、歌詞カードを見てもらったら、何か、相当怒ってんだなとか、考えてるんだなっていうのは伝わると思いました。

――サウンドはMALさんの世界観も入って、キラキラした部分があったり、広がりを感じます。

菊地 メンバー全員が曲に対しての考えやアイディアを提示してくれので、色々なワザが組み込まれています。

「7期になる前は理想とするバンドのスタイルはあったけど、でもメンバーのアイディアとテクニックで、それ以上のことができることがわかった瞬間からより自由度が高くなった」(菊地)

――どの曲にも、メンバー一人ひとりの音とキャラクターまでもが、しっかりと提示されている立体的な音がbrainchild’sの世界だと感じることがアルバムです。

菊地 MALが入る前の7期を作るときに、こういう音像が作れるバンドにしたいという、おぼろげなバンド像みたいなのがあったのですが、もうそれはなくなっちゃった(笑)。

渡會 それは感じてます(笑)。途中から、あれ?EMMAさん人格が切り替わった?みたいな感じになりました(笑)。

菊地 理想とするスタイルはあったけど、でもメンバーのアイディアとテクニックで、それ以上のことができることがわかった瞬間から、色々なことをお願いしています。

渡會 それこそ最初のミニアルバムを作った時は、全体的にロックのバンドっていう太い芯が通っていて「なるほど、こういうスタイルか、よし、とりあえず俺は早口で捲し立てていこう」と思いました。

「この状況下で出来上がった曲や詞たちが、逆にリアルなコンセプトになった。作りものじゃないというか経年変化、状況を含め、それに対しての思いや感情が一枚のアルバムになったと思います」(菊地)

左から神田雄一朗(B)、菊地英昭(G/Vo)、岩中英明(Dr)、渡會将士(Vo)、MAL(Key)
左から神田雄一朗(B)、菊地英昭(G/Vo)、岩中英明(Dr)、渡會将士(Vo)、MAL(Key)

――このアルバムは2020年以降にリリースされたデジタル・シングル『Heaven come down』、『Set you a/n』、昨年から今年にかけ開催された東名阪でのイベント["ALIVE SERIES" 21-22 Limited 66]に合わせてリリースされた『Brainy』、『Kite & Swallow』、『Black hole eyed lady』に加え、新曲4曲という構成です。6枚目のアルバムを作る上でのキーワードはあったのでしょうか?

菊地 僕は昔ながらのミュージシャンなので、アルバムを出したらやっぱりツアーをやりたいというのがまず大前提であって。でもコロナ禍ではそれが叶わなくなって、アルバムを作ろうと思っていたので曲は結構溜っていたのですが、舵を切り直して、じゃあコロナ禍でできることを少しずつやっていって、最終的にアルバムに繋げればいいかなと思いました。どういうアルバムにしたいかというより、現実的、実質的なところがそうさせたのは事実です。『coordinate SIX』というタイトルは、6枚目のアルバムでcoodinate=座標に向かって、大変な中でみんな頑張ってきたよね、という意味を込めました。だからこの状況下で出来上がった曲や詞たちが、逆にリアルなコンセプトになったという感じです。作りものじゃないというか、ここまでの経年変化を含め、状況を含め、それに対しての思いや感情が一枚のアルバムになったんだなって、今は思っています。

「EMMAさんが作ったくれた曲に、自分の怒りの歌詞を乗せるというのは、そこにEMMAさんの感情も入っているので、どぎついだけではなく“ポップに表現”できる」(渡會)

「MALの鍵盤が加わったことで、表現の強弱、押し引きがうまくできるようになったのも、今の我々の強さのひとつ」(菊地)

――『Brave~』のお話でも出ましたが、全体を通して渡會さんの言葉が突き刺さってきますが、過激な言葉も、先ほど出たEMMAさんが作る曲に感じるポップネスと化学反応を起こして、ただのどぎつい言葉ではなく「ポップに表現」できていると感じました。

渡會 brainchild’sで久々にステージに立った時に「ああ、俺たちは表現する人間なんだ」っていうことを再確認できて。その前までに溜め込んでた歌詞を見直したら、「お、こいつ、病んでるな」と思って(笑)。自分で曲を書くと、より怒りが凝縮したまま出てしまって、ただどぎつい感じになって、うまく表現することができないと思って。聴く人が常にその怒りに同調するようなマインドって違うと思うし、そこは何かワンクッション必要だなと思っていたので、そういう意味ではEMMAさんが作ってくれた曲に、自分の怒りを乗せるという行為は、まさに「ポップに表現」するということだと思います。自分で怒りのままに作り上げるものではなく、メロディにはEMMAさんの感性が絶対入っているので、いい中和のされ方というか、エンタテインメントとしてリアルをどう伝えるかということができていると思います。

菊地 昔はそれを自分ひとりでやっていたから、かなりリアルな感じでした。

渡會 brainchild’sの過去曲を改めて確認すると、「EMMAさん、大丈夫ですか」という曲がたくさんあります(笑)。この分業だからライトに楽しめるし、掘り下げようと思ったら、聴く人が好きなように掘り下げて聴けるんですけど、最初の口当たりは、さらっとしたものを提供するというか、そこがめちゃくちゃ大事だなと思いました。

菊地 MALの鍵盤から繰り出されるキラキラ感も、怒りとかそういうのものをいい感じに中和してくれてるというのもあるし。逆にピアノの音色や強さで、真っすぐに伝えてくれる曲もあるし、強弱、押し引きがうまくできるようになったのも、今の我々の強さのひとつだと思っています。

サウンドはさらに骨太になり、広がりのある音に

『coordinate SIX』(完全生産限定盤Bアナログ盤)
『coordinate SIX』(完全生産限定盤Bアナログ盤)

――『STAY ALIVE』と比べると、サウンドはさらに骨太になりつつ、音の広がりや煌びやかさが増幅されました。

菊地 『STAY ALIVE』は音をコンプで潰して、ぐっと固めた音作りを心がけていましたが、今回はそこの隙間を作ることによって、バンドの音もちゃんと聴けるし、もちろん歌もスッと入ってくるようになっているところもあると思います。聴きやすいけど広がりもあるという。

――渡會さんのボーカルが、より生々しくなって聴こえるというか。特に『クチナシの花』は直接耳元で歌ってくれているような生々しさがあります。イントロのMALさんのピアノも印象的です。

菊地 今回は初めてこのアルバムをアナログ盤でも出すということだったので、B面がこの曲から始まったら感動的だなと思って。アナログは音自体も全然違うし、音が鳴っていない時間を堪能できるというか。曲間もそうだし、裏返して、また針を落とすという時間を含めて、贅沢な音楽の聴き方だと思います。

「『Big statue ver.2』のワッチ(渡會)の歌詞は、思考の角度が凄い」(菊地)

――MUSIC VIDEOが話題のリード曲『Big statue ver.2』も今の世相を反映した歌詞です。

渡會 すごくニッチな話なんですけど人間って、特に日本人は、政治が不安定になったりすると何か大きいものにすがってそれが流行る傾向があるじゃないですか。例えばゴジラとかウルトラマンとかエヴァンゲリオン、ガンダム、進撃の巨人とか、その時代の若者たちが、何か強いプレッシャーを感じているときには、大きいものを好むというのが、日本人の人間性としてあるようなんです。昔、大仏も疫病の流行で多くの人が亡くなって、その鎮魂の意味で建てられたり、平和を願って建てられたり、神頼みの気持ちや権力のアピールも含まれていると思いますが、そういうのは、もういいんじゃないかなって思ってしまって。この曲をEMMAさんからいただいたとき、最初軍隊が行進している画が浮かびました。でもそれはやめようと。ずっと歌詞が書けなくて考えていたら、ロシアとウクライナが本当に戦争を始めて。

菊地 歌詞をもらった時は「やっぱり来たか」って思いました。自分も曲を作っていてちょっと行進曲じゃないけど、そういう匂いも感じたし、ある種の噛みつく感じの歌詞が来るのかなと思っていました。でもやっぱりワッチ(渡會)なりのユーモアとアイディアで、全然そういう感じにはなっていないので、思考の角度が凄いと思いました。

渡會 ゴジラにしてもウルトラマンにしても、みんな何かと戦うじゃないですか。今ガチな戦争が起こってる最中、日本人は相変わらずSFの中で戦っていて、それは何を示唆してるのかなあとか。今みんな色々考えているはず、と思いたいです。この曲、お気に入りです。

菊地 このアルバムの代表曲かな。

――10月から待望のホールツアー[brainchild’s Tour 2022 “sail to the coordinate SIX”]がスタートします。MALさんが加入して初のツアーになります。

菊地 ツアーは4年振りで、本当は2020年に回るはずだったに中止になったので、やっと回れるという感じです。しかも今回はホールツアーなので、当たり前ですがライヴハウスとは全く違うものになるので、“7期。”になってからの音がホールでどう響くのか、自分達も楽しみです。

brainchild's オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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