作曲家生活55周年記念コンサート『「モンパルナス1934」 KUNI MURAI』を7月3日、東京藝術劇場で開催

作曲家生活55周年を迎えた村井邦彦が、その記念コンサート『「モンパルナス1934」 KUNI MURAI』を7月3日、東京藝術劇場で開催する。『モンパルナス1934』は、現在村井が音楽サイト「リアルサウンド」で連載中の、自身の小説(吉田俊宏氏と共著) 『モンパルナス1934~キャンティ前史~』のタイトル。村井のメンターであり、国際文化交流プロデュ―サーで、イタリアンレストラン「キャンティ」の創設者である川添浩史さんの、戦前のフランスでの青春時代を描いた小説だ。そこには村井が創設したアルファレコードの精神性、原点を垣間見ることができる。55周年記念コンサートについて、そして『モンパルナス1934~キャンティ前史~』についてインタビューした。

連載中の小説『モンパルナス1934~キャンティ前史~』のテーマソングを制作

――55周年記念コンサート『「モンパルナス1934」 KUNI MURAI』では、のテーマソングで、村井さんの最新曲となる「MONTPARNASSE1934」が世界初演されるとお聞きしました。どのような作品なのでしょうか?

村井 約8分の交響曲で、ブダペスト・スコアリング交響楽団の演奏でレコーディングしました。この小説は連載終了後に単行本化することになっていて、さらにドラマや映画化された時をイメージして、先にサウンドトラックを作ってしまいました(笑)。ノスタルジックでセンチメンタルで、映像が浮かんでくるような楽曲になっています。この曲のアイディアは、実はFacebookで繋がっている友人がアップしていたブラームスのピアノ曲が元になっています。この曲がすっかり好きになり、すぐに楽譜を取り寄せて自分で弾いてみたら、ますます好きになりました。このメロディを使って交響曲を書こうというアイディアが浮かびました。友人のジャズピアニスト、クリスチャン・ジャコブに曲の構成を具体的に伝えて手伝ってもらい、この交響曲を作り上げていきました。

スティーヴ・ガッド・バンドとレコーディング

――村井さんがスティーヴ・ガッドとレコー TVディングしているという情報も耳にしました。

こちらも「MONTPARNASSE1934」と関係しているのでしょうか?

村井 そうなんです。スティーブ・ガッド・バンドに3曲演奏してもらいま Tした。1曲はその「MONTPARNASSE1934」のジャズ版。イメージとしては僕が中学生の頃大好きだった、映画「死刑台のエレベーター」で流れていたマイルス・デイヴィスの音楽のような感じのもの。それと、小説のエピソード4に、カンヌのホテルで開かれるダンスパーティーの場面を描きましたが、西洋のダンスを知らない川添紫郎(浩史)が、柔道などの格闘技のようなダンスを踊るシーンがあって、そこで流れている、ビッグバンドが演奏している音楽としてイメージしたのは「シング・シング・シング」でした。僕はこの曲が入っているベニー・グッドマン楽団の名盤「ライヴ・アット・カーネギーホール1938」が自分の音楽的ルーツの一枚なんです。この曲を弾いてもらいました。スティーヴ・ガッド・バンド流の素晴らしい「シング・シング・シング」になりました。もう1曲は、『Bella Ciao(さらば恋人よ)』っていう曲があるんですよ。これはNetflixで『ペーパー・ハウス』という人気ドラマがあって、そこでこの曲が使われていて、ヨーロッパでは大人気の曲みたいで。調べてみたら元は北イタリアの、お米を作っている人達の労働歌だったのが、1943年から起こったイタリア内戦の時にアレンジ、創作され、イタリアのパルチザン(正規の軍隊ではない武装勢力)によって歌われた歌曲なんです。反ファシスト党による自由とレジスタンスの讃歌として、世界中で歌われるようになったみたいで、小説にはフランコ独裁時代のスペインも出てくるので、大切な曲になると思いました。

――この曲のことはスティーヴ・ガッド・バンドのメンバーは知っていたのでしょうか?

村井 全然知らなかったです。「これやるの?クニ」って、なんでこの曲をやるのか不思議がっていたので、曲の背景と小説の関係性を説明して、演奏してもらいました。労働歌が1940年代にレジスタンスの歌になって、『ペーパーハウス』で若い人たちに認知されて、YouTubeを見ると、フランスでもスペインでもイタリアでもストリートミュージシャンが歌い始めると人垣ができて、みんなで一緒に歌っています。「モンパルナス1934」の根底には、自由であり続けなければいけないという精神性が存在するので、重要な曲になると思いました。

映像化より先にサウンドトラックを作り上げる

――ではもう“サントラ盤”が完成しているわけですね。

村井 ほぼできあがっていますが、音源化が決まればあと何曲か入れて完成させたい。『ジーザス・クライスト・スーパースター』というミュージカルがありますよね。あれはアンドリュー・ロイド・ウェバーとティム・ライスが、ミュージカルを作りたくて、でもお金がすごくかかるので、先にレコードを作ったんです。そのレコードを持ってプロモーションして歩いてお金を集めて、ステージにしたんですね。そのことを思い出して、僕もサントラから先に作ってそれを持って映画関係者に売り込もうと思って(笑)。

55周年コンサートは「55年やってきたからこそ書けた新しい曲達を聴いて欲しい」

――55周年記念コンサート『「モンパルナス1934」 KUNI MURAI』はどんな内容になりそうですか?

村井 3つのセクションに分かれていて、ひとつはオーケストラ・アンサンブル金沢(指揮︓森亮平)と一緒に「MONTPARNASSE1934」をやって、それと4年前に書いた、毎年ワシントンD.C.で行われる「チェリー・ブロッサム・フェスティバル」のためのピアノ五重奏の曲『Sakura on the Potomac』と、もう一曲オリジナル曲を披露します。2つめのセクションは、僕と山上路夫さんがライフワークとして制作している「日本歌曲集」というものがあるのですが、これは大正末期から昭和初期にかけて、山田耕作さんや西條八十さんとか野口雨情さんが書いた昔の歌曲、“叙情歌”の現代版を、15年くらい前から山上さんと作っていて。それをゲストシンガーの海宝直人真彩希帆田村麻子さんに歌っていただきます。

――豪華なゲストが駆け付けてくれます。

村井 そうなんです。3人のボーカリストの方には、もうひとつのセクションでも歌っていただきます。2013年に『カリオストロ伯爵夫人』という音楽劇を作りました。今回はカリオストロ伯爵夫人を田村さんにやっていただき、海宝さんがアルセーヌ・ルパン、真彩さんが少女・クラリスとして歌っていただきます。どう演じ、歌ってくれるのか、僕も楽しみです。今回のテーマは“今”の村井邦彦を見て、聴いていただくことです。もちろん「翼をください」や「虹と雪のバラード」は演奏する予定ですが、昔の曲よりも55年やってきたからこそ書けた新しい曲達を聴いていただきたいと思っています。

「僕の家のリビングルームに友達を呼んで、仲間で音楽をやる、そんなくつろいだ雰囲気のコンサートにしたい」

――過去を懐かしむのではなく新しいものを提示できる、作曲家・村井邦彦の現在進行形を見る事ができる貴重なコンサートになりそうです。

村井 そうですね。それと生音にこだわりたいので、クラシックの演奏会に近い感覚になると思います。歌のところはマイクを使います。クラシックコンサートみたいだけど、もっとくつろいだ感じの、僕の家のリビングルームに友達を呼んで、仲間で音楽をやる、そういうノリでやりたいなと思っています。

小説『モンパルナス1934~キャンティ前史~』は、STAY HOME期間中から執筆がスタート

YMOと村井
YMOと村井

――連載中の小説『モンパルナス1934~キャンティ前史~』は、現在エピソード10“第二次世界大戦”まで公開されていますが、もう脱稿したのでしょうか?

村井 まだなんです。どこまでいってしまうのか、自分でもわからない感じですが、僕と吉田(俊宏)さんは主人公の川添紫郎(浩史)が、どんな人生を歩んできたのかはもちろん知っていますが、それをどれだけコンパクトに、読者にわかるように、あるいは共感を得られるように書くかというところで構想を練っているところです。彼は日本で学生運動をやって、追い出されるようにパリに行って。それが1934年で21歳の時でした。それで戦争が始まって仕方なく日本に帰ってきて、それでもまだ20代です。戦争が終わってから彼の一番大きな仕事は、1950年代に“アズマカブキ”というのを持ってヨーロッパとアメリカでツアーをしたことです。それは僕がアルファレコード時代にやった、YMOのワールドツアーのモデルになっています。彼はその後も大活躍して、1970年の大阪万博で富士グループパビリオンの総合プロデューサーを務めたのが、最後の仕事になりました。本人は開幕前に亡くなってしまいます。なので小説の先はまだまだ長いです。音楽、曲ってあまり解説しすぎるとよくないっていうこともあるかもしれないけれど、どういう背景で生まれたかということを理解してもらうと、より伝わると思います。

――村井さんがこの小説を書こう思ったきっかけを教えて下さい。

村井 コロナ禍でロサンゼルスの自宅から一歩も出られなくなって、日本とも行き来ができなくなったので、これでもう引退だと思いました。人にも会えないので、本を読んで、野菜を作って、たまに散歩に出かけて、今考えたらずいぶん平和な生活でした。そんな時に吉田さんと小説を書いていました。資料をとにかくたくさん読んで集中して書きました。この小説も、コンサートもそうですが、何かをやろうと思うと生きる力みたいなものが、どこからか湧いてきます。

――改めて登場人物を見るだけでも面白さが伝わってくる小説だと思います。村井さんが川添さんに憑依して、その逆も然りという感じで、ノンフィクションなのかフィクションなのかわからなくなる魅力があると感じました。

村井 そう言っていただけると嬉しいですね。事実に基づいたフィクションで、だからあそこに出てくる川添紫郎(浩史)さんっていうのは、ある意味で僕自身でもあります。僕だったらこういう状況ではどうするかな、とか考えながら書いています。

盛り上がりを見せるアルファミュージック公式YouTubeチャンネル

――昨年12月にスタートしたアルファミュージック公式YouTubeチャンネルが盛り上がっています。国内外の若いミュージシャンやクリエイターが、アルファの音楽を新しいものとして捉えてカバーしたりクリエイトしていて、海外のフォロワーも多いですね。

村井 時々見ていますが、戸川純の動画すごい再生回数になっていたり、世界中の人が楽しんでくれているのは、まさに僕がずっと目指していたことなので本当に嬉しいです。

――インタビューの最初にお聞きした、「MONTPARNASSE 1934」のレコーディング費用を募るクラウドファンディングが「うぶごえ」でスタートしています。

村井 クラウドファンディングというのは、事業をやるために資金を集める時に使うと思っていたら、そういう使い方ばかりではなかったんですね。「僕がこういう夢を持っていて、これをやりたいので、賛同していただける方は“パートナー”になってください」ってお願いをすることが新鮮でした。冒頭でお話したテーマ曲を着想するまでやレコーディングまでのプロセスを映像と写真で全てお見せします。制作過程、進行状況も報告して、協力していただいた金額によって、コンサートのゲネプロを見ていただいたり、サイン入り楽譜や、僕とのランチ会も用意しています。

otonano 『The Melody Maker-村井邦彦の世界-』特設サイト

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