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ドキュメンタリー『闘魂:フィッシュマンズ』に感じる、その音楽の永遠性と、メンバーの想いとの“響き”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン (c)FISHMANS MOVIE 2022

2021年に公開されロングランヒットになった、デビュー30周年を迎えたフィッシュマンズの軌跡を辿る映画『映画:フィッシュマンズ』。現在も国内外で熱狂的なファンを持つこのバンド。ほぼ全ての曲のソングライティングを手がけていた、フロントマン佐藤伸治が亡くなって20年という、節目の年の2019年に開催されたライヴ『闘魂2019』(Zepp Tokyo)のリハーサルから、この映画の撮影はスタートした。これまで多くを語ることがなかった新・旧メンバーが、バンド脱退前後の心情を真摯に語り、さらに原田郁子(クラムボン)、ハナレグミ、UA、YO-KING(真心ブラザーズ)、こだま和文等のアーティストと関係者へのインタビューと貴重映像と共に、フィッシュマンズというバンドの姿とその音を丁寧に紡ぎ、映し出しているドキュメンタリー映画だ。『闘魂』シリーズは、フィッシュマンズが1997年から99年にかけて行っていた対バンライヴシリーズで、20年ぶりに開催された『闘魂 2019』ではceroを迎えて行ない、話題を集めた。

Blu-ray『映画:フィッシュマンズ 』<スペシャルボックス>(【Disc1】『映画:フィッシュマンズ』&特典映像【Disc2】『闘魂2019』ライヴ&『闘魂:フィッシュマンズ』)
Blu-ray『映画:フィッシュマンズ 』<スペシャルボックス>(【Disc1】『映画:フィッシュマンズ』&特典映像【Disc2】『闘魂2019』ライヴ&『闘魂:フィッシュマンズ』)

6月1日には『映画:フィッシュマンズ』のBlu-rayが、通常版と初回限定のスペシャルボックスの2種類発売され、中でも注目はスペシャルボックスに付属している、新しいドキュメンタリー作品『闘魂:フィッシュマンズ』だ。この作品は『映画:フィッシュマンズ』の手嶋悠貴監督と映画制作チームが、『闘魂2019』のリハーサルに密着した未公開映像を使用し構成したもので、『映画~』とはまた違う温度感と質感のドキュメンタリーに仕上がっている。これまで封印していた「ゆらめき IN THE AIR」を演奏しようと決め、それぞれの想いが交錯し、鳴らす音が響き合って、フィッシュマンズの唯一無二のグルーヴが生まれていく。その様を、バンドの看板を守り続けてきたリーダー・茂木欣一の“覚悟”と共に“赤裸々”に捉えている。

『闘魂:フィッシュマンズ』
『闘魂:フィッシュマンズ』

その『闘魂:フィッシュマンズ』の、一日だけの劇場での特別限定上映会が5月29日、シネマート新宿で行われ、多くのファンが駆け付けた。

『闘魂 2019』のリハーサルスタジオ。最初は和やかな雰囲気で始まったセッションは、メンバー、サウンドエンジニアの音へのこだわりが徐々に熱を帯びていき、試行錯誤と微調整を積み重ねるストイックな作業に入っていく。メンバーの顔つきもスタジオの空気も変わる。この日登壇した手嶋監督が「無駄な説明はしないで、細工や演出もなしで、演奏風景をストイックに流すことにこだわった」と語っていたように、リアルな音と言葉が飛び交う時間と“場”の空気を、ダイレクトに伝えてくれる。

手嶋悠貴監督
手嶋悠貴監督

手嶋監督はこのドキュメンタリーを作ろうと思った理由をこう教えてくれた。「映画の企画が立ち上がった最初の頃の打ち合わせの時に、茂木さんに『今のフィッシュマンズも映画に入れて欲しい』と言われたました。でもその部分が映画には余り入れることができなかったことがずっと心に引っかかっていました。『闘魂フィッシュマンズ』に使われている映像やインタビューは、『映画:フィッシュマンズ』のために撮ったもので、映画に入れられなかったものではありますが、自分にとっては映画と合わせてひとつの物語のようなもの。それを新しい作品として完成させることができました。だから『闘魂~』は『映画:フィッシュマンズ』のプロローグでもあり、エピローグでもあると思っています」。

ダブとレゲエを起点に、エレクトロニカ等の要素も取り入れた、エクスペリメンタル・ロックを奏で、さらにミニマルで独創的なサウンドプロダクションから生まれる浮遊感と飛翔感は、まさにフィッシュマンズというバンドでしか表現できないものだった。佐藤伸治という稀代の音楽家の魂が込められた言葉とメロディが作る熱が、バンドの音と交差し極上のグルーヴが生まれる。

メンバーは佐藤の死後封印していた「ゆらめき IN THE AIR」を演奏すると決める。出会いと別れを経験し、再会し、音で語り合うメンバー。もちろん佐藤の存在も意識しながら音を“紐解き”ながら“紡いで”いく。生前の佐藤の声を被せた演奏にライヴ当日、ファンは驚いた。しかし茂木を始め、メンバーは佐藤の死から20年という節目に、“次”へ向かう“覚悟”を音に込めていた。茂木は『闘魂2019』を終え「“闘魂”をやってよかった。自分の想像を遥かに超えた。これで終わりでもいいかもしれないという思いに初めてなれた気がした」と語っている。『闘魂2019』の裏側で何が起こっていたのか――その一部始終がこの『闘魂:フィッシュマンズ』には収められている。

ポニーキャニオン フィッシュマンズ特設サイト

フィッシュマンズ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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