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モノンクル アニメ『ヴァニタスの手記』ED曲でも提示した、その「映像が見える音楽」の魅力

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
ソニー・ミュージックレーベルズ

モノンクル初のアニメED曲

吉田沙良(Vo)、角田隆太(B)によるソングライティング・デュオ、モノンクル。2011年に結成され、ジャズを起点にR&B、エレクトロ、様々な音楽を自由に取り入れ、その音楽性をひとことで説明するのは難しいが、枠組みを設定せずにクールで、聴いた瞬間に頭の中に映像が流れてくる、独特のセンスが薫るハイブリッドなポップミュージックを発信してきた。

Photo/Kana Tarumi(以下同)
Photo/Kana Tarumi(以下同)

その音楽は多くのアーティストからリスペクト、支持され、注目を集める存在だ。そんなモノンクルの音楽を、アニメシーンも放っておかなかった。1月から放送中の人気アニメ『ヴァニタスの手記(カルテ)』の、第2クールのED曲「salvation」(2月23日発売)は、モノンクルにとっては初のアニメタイアップとなる。二人にインタビューし、初めての“アニソン”への向き合い方、モノンクルの音楽が目指しているものを聞いた。

「salvation」(2月23日発売)
「salvation」(2月23日発売)

「原作を読み、望月先生の本当に伝えたかったことと、自分の受け止め方が違うかもしれませんが、感じたことを煮詰めすぎず素直に出しました」(角田)

「このアニメは、原作がそうであるように、音に部分での作り込みも徹底的にこだわっているのが伝わってきます」(吉田)

(C)望月淳/SQUARE ENIX・「ヴァニタスの手記」製作委員会
(C)望月淳/SQUARE ENIX・「ヴァニタスの手記」製作委員会

『ヴァニタスの手記(カルテ)』は『交響詩篇エウレカセブン』や『僕のヒーローアカデミア』など、超人気アニメーションを制作する日本を代表するアニメ制作スタジオ・ボンズが手がけ、緻密に構築された世界観、魅力的なキャラクターたちが織りなすドラマ、そして素晴らしいアニメーションで注目されている。初めてのアニメとの取り組みが、すでに多くのファンを獲得している人気作品のエンディングテーマということで、プレッシャーはなかったのだろうか。そして楽曲を手がける角田は、原作のどの部分に光を当て、歌詞とメロディを紡いでいったのだろうか。

「アニメ好きなので、100%希望しかなかったです(笑)。原作を読んでまず感じたのは、設定がとても入り組んでいて、しっかりと作りこまれている世界観、という印象でした。でも読み進めていくうちに没入感がすごくて」(吉田)。

「まだコミックスで出ているところまでしか読んでいなかったので、結末は知らなくて、原作の望月淳先生が本当に伝えようとしていることと、もしかしたら僕の受け止め方が違う部分も出てくるかもしれないけど、その中で僕なりに感じたことを歌詞にしました。なので思ったことをあまり煮詰めすぎず、素直に出していこうと思って書きました」(角田)。

「テレビアニメの第1期オープニング(ササノマリイ『空と虚』)もエンディング(LMYK『0(zero)』)もめちゃくちゃかっこよくて、今期のオープニングもリトグリさんで、原作と同じように音の部分での作り込みも徹底的にこだわっているのが伝わってくるので、そこもこのアニメの好きなところです」(吉田)。

「“救い”とはなんなのかということを、問いかけられている気がして」(角田)

そんな制作サイドの期待に応え、「salvation(サルベーション)』はR&Bテイストの、アニメのエンディングテーマとしては“意外“ともいえる温度感を感じさせてくれる、クールだが情熱的な一曲に仕上がっている。トラックメイクは冨田ラボだ。ボーカル吉田の繊細かつ大胆な表現力とテクニックで、歌詞と、その行間に浮かぶ複雑な感情もきちんと掬い、届けてくれる。『ヴァニタスの手記』は19世紀のフランス・パリを舞台にした「救い」と「呪い」、人間と吸血鬼の物語だ。曲のタイトルも「salvation」=「救い」だ。

「“救い”とはなんなのかということを問いかけられている気がして、そこを丁寧に掘って、掬いあげていった感じです」(角田)。

「この曲もそうですが、角田さんが書く詞の世界観は、すごく聴き応えがあるし、頭の中に映像が流れてくる歌詞と音楽なんです」(吉田)

「コロナ禍で自分と向き合う時間が増え、気づいた、ありのままでいる自分を持つことの大切さ」(吉田)

Photo/Shinsuke Tanoguchi
Photo/Shinsuke Tanoguchi

モノンクルはコロナ禍の昨年、3月、5月、6月、8月と立て続けにデジタルシングルをリリースし、音楽と言葉をファンに届け続けた。そして自身も気づいたことが多い2年間だった。それはこれからのモノンクルの音楽、歌にも昇華されそうだ。

「家にレコーディング機材を揃えて、スタジオに行かなくても録音できる環境を整えました。それによってデジタルリリースという形でどんどん出せました。これで音楽を発信できることというのは、自分の人生にとってプラスになったというか、音楽家としてやるべき事だと思ったので、状況は関係なくやっていこうと」(角田)。

「ここまで時間が強制的に止まることって今までなかったし、当然自分と向き合う時間が増えたので、ありのままでいる自分を持つということが必要だとわかりました。ありのままだよっていうことが、もの凄く勇気になる。みんな一緒である必要はないし、その自由がものすごい勇気になりましたね」(吉田)。

「僕も、自分とは何かみたいなものがどんどんわかってきて、気付いたものを発信していくことは大切だし、どういう人間なのかということをもっと前に出したいと思いました」(角田)。

「抱いてHOLD ON ME!」のカバーが話題に

2021年3月に出したデジタルシングルは、モーニング娘。の「抱いてHOLD ON ME!」を大胆にアレンジしたカバーだ。これが大きな反響を集めた。その前にもポルノグラフィティの「アポロ」もカバーし、カバーを通してモノンクルの音楽のセンスを構成する“成分”を明らかにし、さらに吉田の歌のチカラを改めて伝えることに成功し、ファン層を広げていった。

「テレビで久々に『抱いて~』を聴いた時、はメロディも歌詞もパンチがあって、改めてすごい曲だなって思い、モノンクルとして歌いたいと思いました。絶対リスペクトを込めてやりたいので、本当に細かく音程はもちろん、吐息まで研究して。メロディがかなり巧妙で、それが中毒性をもたらしているのがわかって、やっぱりつんくさんってすごいなって思いました」(吉田)。

「『アポロ』に関しては、原曲のアレンジがワクワクする感じなので、それを自分なりになぞるだけというか、曲に導かれて自分のろ過装置を通したら、あのアレンジになったという感覚なんです」(角田)。

枠組みを設定しないモノンクルの音楽の根底に感じる“熱さ”

角田は高校生の頃、メロコアバンドでベースを担当し、明治大学に進学後はビッグバンドに入り、ジャズに傾倒していく。吉田は高校は桐朋学園音楽科、その後洗足学園音楽大学のジャズ科に進み、ジャズボーカリストとして活動をし、そんな二人が出会い2011年にものんくる(当時)を結成した。自由自在に色々な音楽を取り入れ、ジャズファン、ロックファン、ポップスファンも納得させる極上のポップミュージックを構築している。どの曲もクールで知的な大人の音楽という肌触りがあるが、でもどの曲にもその根底には相当な熱量、エモーショナルさが流れている。「そこを感じていただけたらすごく嬉しいです」(角田)という言葉通り、二人の血となり肉となっている音楽が、モノンクルの音楽に昇華され、クールさの向こう側に大きく存在していた。

「僕は小6か中1の時に聴いたaikoさんの『恋愛ジャンキー』という曲に衝撃を受けました。友達の家でaikoさんのアルバムを聴いたら一曲目から『えっ』ってなって、全部通して聴いて、また初めから聴いて、音楽を最初に能動的に聴いた体験だったので、それはもう…。それとL’Arc~en~Cielさんが、僕にとって格別な音楽でした」(角田)。

「私が衝撃を受けたのはONE OK ROCKさんです。彼らがインディーズ時代から追っかけをしていて、TAKAさんの歌のうまさに当時からやられてしまって。初めて観たライヴで『私はONE OK ROCKみたいな歌を歌うんだ』って思いました。なのでONE OK ROCKさんが土台にあって、あとDA PUMPさんもすごく好きでした」

「ここまでコーラスに力を入れているポップスアーティストは、あまりいないのでは、と自負しています」(吉田)

モノンクルの音楽の大きな武器は、コーラスワークだ。吉田の声が何層にも重なり、ボーカル+楽器としての声の力が曲に彩り与えると共に、ドラマティックさを薫り立たせる。ふくよかなその音楽は、心の深くまで届いてくる。

「そこを自分の強みにしていきたいと思っていて、ジャンルにもよると思いますが、たぶんこんなにコーラスに力を入れているポップスアーティストって、あまりいないのでは、と自負しています。R&Bになるとすごく綺麗なコーラスが乗っている曲がたくさんありますが、でもまたそれとは違う、独自のコーラスの作り方を研究して、モノンクルとして面白い音楽を作っていきたいです」(吉田)。

「最初から100テイクくらい録ったコーラスを入れてきて、もう全ての音楽が覆われるくらいの感じでそれをどう削っていくかという作業なんですが、その削り方もどんどん洗練されて進化していっていると思います」(角田)

「孤独な作業ですが、でもどんどんアイディアが湧いてくるので、聴こえてくるものを全部録る感じです。もう自分が“歌う人”という意識ではなく、“聴こえてきた音を再現する人”みたいな(笑)。ちなみに『抱いてHOLD ON ME!』は、コーラスだけで一週間くらいかかっています(笑)。なのでどの曲も、細かく、耳をそばだてて聴いてください(笑)」(吉田)。

モノンクル オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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