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“ひがみ”から生まれた名曲「顔が良いやつは音楽をやるな」が話題  小林右京って何者?

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックエンタテインメント

一発撮りオーディション「THE FIRST TAKE STAGE」で、約5,000組の応募者の中から14名のセミファイナリストに選ばれる

登録者数527万人を超える(11/12現在)人気YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」の一発撮りオーディション、「THE FIRST TAKE STAGE」で、約5,000組の応募者の中から14名のセミファイナリストに選ばれ、そのパフォーマンスがYouTubeプレミアで公開された際は、チャットが小林右京へのコメントで溢れかえり、「小林右京」というワードがTwitterのトレンド入り。現在大学4年生のシンガー・ソングライター/ユーチューバ―の小林右京は一躍注目の存在になった。

弾き語りで披露した「顔が良いやつは音楽をやるな」の一発撮りのパフォーマンス動画が期間限定で公開され、約1ヶ月間で候補者の中で唯一100万回再生を記録。このオーディションのゲスト選考委員、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)には「ダークホース。どう転ぶかわからないポテンシャルを持っている。最近いないスタンスのアーティスト」と評価され、同じくゲスト選考委員の音楽プロデューサー亀田誠治は「吟遊詩人的な存在感のアーティストはこの頃いなくて、物申す人もなかなかいない。そこを自ら切り込んでいく。でも、意外とコード進行とか、シティなお洒落な感じ。構築美、構成美みたいなのはすごく感じる」とその可能性を絶賛。オーディションは惜しくも4次選考で敗退したが、この注目の存在をレコード会社は放っておくはずもなく、ソニー・ミュージック内のREDから新バージョンの「顔が良いやつは音楽をやるな」が11月3日に配信リリースされた。

サウンドとリリックをブラッシュアップした、新バージョンのプロデュースとアレンジを、なんと後藤次利(元サディスティックミカバンド)が手掛け、ミュージシャンも佐橋佳幸(G)、佐藤準(P)、小笠原拓海(Dr)、本多俊之(Sax)、二宮愛(Cho)という錚々たる顔ぶれが揃い、小林右京って一体何者?と業界内外で盛り上がっている。そこで本人を直撃。この盛り上がりをどう感じているのか、インタビューした。

「音楽だけで食べられなかったら、音楽を続けながら教育関係の仕事に携わりたい」

「まさに教育実習中の時に『THE FIRST TAKE STAGE』が盛り上がっていたので、自分以上に周りの人の方が盛り上がって、喜んでくれました。自分は『え、なんでみんなそんなに盛り上がってるの?』みたいな感じでした(笑)」。

現在、名古屋の南山大学に在学中で、来年から世界史の非常勤講師になるべく教育実習中に、「THE FIRST TAKE STAGE」でいきなりスポットライトを浴びた。音楽と教師、彼はどんな選択をするのだろうか。

「音楽だけで食べていけるのであれば喜んでやりますけど、地に足をつけて色々なことを考えるリアリストタイプなので、食べていけないだろうなと思ったら、音楽もちゃんとやるんですけど、非常勤講師や塾の講師、教育に携われればいいなと思ってます。例え人に聴かれなくても、最悪自分ひとりの自己満足でも、音楽は一生やっていると思います。教職の資格を活かした仕事をしながら、音楽活動は今も名古屋で全然やらせてもらえているので、このペースだったら働きながらでもやっていけるのかなっていう気は、正直しています」。

音楽は遊びではないが真剣に楽しみ、それが今後につながっていけば最高だし、そうでなければ生活の基盤を築いてから、真剣に楽しむことを続けたいという、まさにリアリストの一面を持っている。真剣にトライした『THE FIRST TAKE STAGE』でセミファイナルに残った時は、どう感じていたのだろうか。

「セミファイナルまで来たので、グランプリ獲りたいとは思っていましたが、他の出場者を見て、明らかに自分でも自分のことを邪道だなって思ったので、落ちても仕方ないと思いました。もしここで受かったとしても、次歌える曲あったっけ?と思っていたので、いい意味で売名できたし(笑)、正直、これでいいかなという気持ちはありました」。

“顔が良いやつ”=シンガー・ソングライター小林私へのひがみから生まれた曲

幼少期からクラシックピアノやドラムを習い、60~70年代の古い音楽を好んで聴き、高校時代にはギター、ベースを習得し、キングクリムゾンを目指しプログレバンドを結成。ボーカル&ドラムを担当し12曲入りアルバムを完成させる。大学に入ってからもジャズにハマったり、スリーピースバンド・歴史は踊るでボーカルとギターを担当し、今年9月には初のCDをリリースした。そんな中で、昨年6月に「顔が良いやつは音楽をやるな」をTwitterに上げたところ大きな反響があり、YouTubeに“Acoustic Full Version”を公開すると、約90万再生という数字を弾き出しバスった(現在は100万再生を超えている<11/12現在>)。

現在は交流があるが、当時は会った事もない、ネットで見かけた顔の良い、同じ苗字のシンガー・ソングライター「小林私」をモデルに、ただのひがみから構想し「20分くらいで完成させた」曲だ。これまでも、誰かに向けてというより、自分のためにエゴイスティックに作ってきたものを発信し続けてきた小林の音楽は、逆に聴き手の心に刺さった。

「人生うまくいかないことの方が多いし、何かしらへの怒りとかズルいという思いが、恨み節としてどうしても曲の中に出てきます。でも歌詞は一応叩かれないように予防線を張っているというか、粗を探されないようにこねくり回しています(笑)。YouTubeのコメント欄に『死にたかったけど、この曲を聴いて救われました』って書き込んでくれた人がいて、そんな風に受け止めてくれる人がいるんだなって驚きました。この事実は大切にしなければいけないと思います。この曲のモデルになっている、小林私に実際に会ってみたら、普通に気の合うやつで、人を顔だけで判断するのはいけないって反省しました。この曲を改めて“ちゃんと出さないか”とレコード会社の人に言われた時に、<すぐにシティーポップ風の曲をつくるのをやめろ>という歌詞があるのに、自分がシティポップ風の曲をやったら、突っ込まれて面白いかなと思いました(笑)」。

後藤次利プロデュース、超一流ミュージシャンが参加した新バージョン

そして後藤次利の登場である。凄腕ミュージシャンと共に、小林のリクエストであるシティポップ風の曲を作り上げた。

「最初に後藤さんの名前を聞いた時はびっくりして、騙されてると思いました。そうしたら佐藤準さん、佐橋佳幸さん、小笠原拓海さん等が参加してくださって、さらにビックリしました。コロナ禍でのレコーディングなので、リモートでやり取りする機会が多くて、まず後藤さんからデモを頂いて、そこに家で録った仮歌を乗せて、それぞれの音を乗せていただきました。それでスタジオに行って、歌の本録りとベースとドラムのリズム隊の本録りをやって、新しい時代のレコーディングだなって思いました。実際にスタジオでお会いできたのは後藤さんとドラムの小笠原さんだけで、それも逆に今っぽい感じだなって。この名刺代わりの一発目で、リスナーを引きこめるだけ引き込みたい。そこから選別されていくと思いますが、ついて来れるか来れないかのガチンコバトルが始まるので、ここだけで終わりたくないという気持ちはあります」。

音楽だけではなく、なんでもやってみたいという。インタビューで感じた巧みな話術はライヴで大きな武器になるし、演技にも興味があるという。

「音楽に限らず、自分の幅を広げてくれそうなので何でもやりたいです。そこで得た経験は絶対に音楽に還ってくると思います。大泉洋さんがすごく好きで『水曜どうでしょう』も全部観ていて、しゃべり方も知らず知らずのうちに影響されているかもしれません。演技にも興味があるので、脇役でいいので勉強させてください。オファーお待ちしております」。

「顔が良いやつは音楽をやるな」は、小林右京の音楽のほんの一部だ。底知れない可能性と才能を感じさせてくれる、楽しみなシンガー・ソングライターが登場した。

小林右京 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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