起業から30周年、その“強さ”の秘密がわかる、半世を綴った本を出版

“渋谷の黒豹”ことLD&K社大谷秀政社長には、昨年12月、コロナ禍の2020年に、ライヴハウスを3店開業させたその攻めの経営についてインタビューをした。その際「既定路線。元々不況待ちだったのが、そのタイミングが早くやってきて、実行に移す時期が早まっただけです」と、その鋭い嗅覚で、常に世の中の大きな流れを先を読みながら、準備を怠らない大胆かつ繊細な戦略を明かしてくれた。その大谷氏が起業して30周年の今年、自身の半生を綴った著書『CREATION OR DEATH-創造か死か-』(LD&K BOOKS)を上梓した。

“何処よりも自由なエンタテイメント創造集団”LD&Kの“強さ”の秘密は、大谷氏の強さでもあるが、どのような30年を辿り、強さを手に入れ、現在があるのだろうか。本の冒頭に「好きなことをやって生きていきたいと思っている人が、この本を読んでこんなやり方もあるんだ、と少しでも思ってもらえたなら本望です」という大谷氏の言葉がある。コロナの時代に生きる我々の中には、自身の価値観や考え方に、大きな変化を感じ、行動を起こす人も多いはずだ。そんな人へのヒントがこの本の中にはつまっている。

コロナ禍でのLD&K

再び大谷氏にインタビューし、いかに好きなことにやって、楽しく生きていくか、その極意を聞かせてもらった。そこには大谷氏の人を喜ばせたいという、“ミスター・ホスピタリティ”と呼びたくなるほどの、徹底的なサービス精神が存在していた。

まず、渋谷を中心に、全国で展開しているカフェやバーの飲食事業は、度々発出される緊急事態宣言やまん延防止等重点措置によって、今年3月、4月は「潰れるかと思った」ほどの危機だったと教えてくれた。

「一応補償金や協力金があったりなかったりで、どこのお店も同じだと思いますが、申請から入金までとにかく時間がかかる。3月とか4月は本当に潰れそうでした。入金があっても入金日がわからないんです。予定していた資金繰りについてもズレてしまって、本当に直近での最大の危機でした」。

「仕事を始めてからずっと混沌とした状態なので、今のこの状態は“向いている”」

“直近の”最大の危機——こう、サラっと語ってくれるところに大谷氏の強さが現れている。さらにこの状況を、どこか楽しんでいる節さえあると感じさせてくれるところが、大谷氏なのだ。

「今年起業して30周年、LD&Kを作って25年ですが、僕はずっと混沌としている状態なので、この混沌に慣れているだけです。だから今この状況が“向いている”のだと思う。波に乗るのことに慣れているから。いきなり荒波に出る人と、常に荒れている海と格闘している人が違うのと同じです。その波の中でも大体7年毎にビッグウェーブが来ています。それが今来ていると思っているだけなので、今、割とイケるてなって思っています」。

「やったことがないことをやらなければ、成長しない」

このコロナ禍でLD&K社は新たに金融機関に10億円の借り入れをしたという。新たな出店や新規事業を打ち出すための資金だ。コロナが原因で閉店した店舗はなく、さらに新規事業を担う人材を約30人雇用した。閉店してしまった他のライヴハウスで働いていたPAなど、技術職の人間も数名採用した。攻めの姿勢を崩さない。

「やったことがないことをやらないと成長しないし、“何とかなる”、ではなく“何とかする”のがビジネスの基本だと思います。脳なんてこれ以上発達しないし、とにかくやること。やればできます。でもひとつ言えるのは、僕は基本的に何もできないんですよ(笑)。曲を作れるわけでもないし、店舗の内装工事もできないし、普通免許しか持っていないので、何もできない(笑)。ポテンシャル的には何もないけど、うちの会社は基本的に僕より頭がいい人が多いので、だからなんとかなっていると思っていて。僕は単純に生命力が強いだけなので(笑)」。

「人間力」と「生命力」が人をひきつける

本の中にも出てくるが、仕事に失敗をして一時期ホームレスになった時期があった大谷氏だが、助けてくれる人がたくさんいた。特に「女性にはずっと助けられています。それが普通と思っていたからダメなのかな…(笑)」。周りが放っておかない、おけない、そんな人間力と生命力が強い大谷氏が磁場となって、そこに様々な人が引き寄せられた。一人ひとりがやるべきことはもちろん、やったことがないことでもいざやってみると、そこで才能を発揮し、LD&Kという会社は強くなってきた。

「アーティストのクリエイティブの自由度が下がらないように、音楽に関する全てのことをトータルでサポート」

横浜・1000CLUB
横浜・1000CLUB

LD&Kの音楽事業は、アーティストの活動をトータルでサポートできるインフラができ上っているのが強みだ。マネジメント機能、レコーディングスタジオ、デザイン、映像、CD流通、ライヴ・イベント制作、全国にライヴハウスを持ち、音響、照明、舞台スタッフを擁している。さらに「サブスクLIVE」という配信のプラットホームや、「wefan」というクラウドファンディングの仕組みも作った。

「僕が作った時は音楽レーベルがたくさん立ち上がったタイミングで、そうすると、やっぱりLD&Kと契約してよかったとアーティストに思ってもらうにはどうしたらいいかを考えました。スタジオがあった方がいいとか、こういう機能があった方がいいとか、それは色々なことを毎回外注して制作費が上がるということは、結局採算分岐のハードルが上がるということで、アーティストに全部はね返ってくるからです。そのハードルを下げないと縛りが増えて、クリエイティブの自由度が減るじゃないですか。だから3万枚売れなければいけなかったアーティストが1万枚でもなんとかなるような、でもクオリティは下げないようにするために、全てを内製化することが必要でした」。

「人の人生のひとコマに残れるなんて、こんな嬉しいことはない」

渋谷・Cafe BOHEMIA
渋谷・Cafe BOHEMIA

飲食事業も元は「アーティストの生活基盤を作るため」に立ち上げ、「音楽がある場所を作るということを、いつも考えながらお店を作ってきた」と音楽への、アーティストへの愛情が常に大谷氏の真ん中にある。

「僕は基本的になんでもサービス業だと思っていて。例えばライヴに来てくれたお客さんは、めちゃくちゃ楽しそうにしてるし、涙を流している人もいて、その人達の顔を見るのが大好きなんです。結局お店にしても、美味しいねとか楽しいねって思ってくれる、人が楽しんでくれてる場所を提供するのが好きなんですよ。お金儲けには興味がなくて、自分がやることが人の思い出に残ってくれることが幸せなんです。だってミスターホスピタリティーだから(笑)。人生がそうじゃないですか。他に何かあります?思い出以外に残るものって。死ぬ時は財産も何も持っていけないですし。だから例えば葬式に来てくれる人が、この人にはお世話になったなあって思い出に残ることしかできないじゃないですか。それを作っているだけなんです。人の人生のひとコマに残れるなんて、こんな嬉しいことはないです。アーティストの曲でも、聴いた人の人生の分岐点になった曲とかは、みんなの心の中にずっと残るじゃないですか。お店も『大谷さん、僕はこの店で10年前に彼女と別れ話をしたんです、あの席で』とか、そういう話を聞くのが大好きなんです(笑)、その人に思い出に残っているから」。

本の中には、LD&Kが経営するカフェやライヴハウス一軒一軒にまつわるストーリーが、丁寧に書かれているが、これが熱くて、温かくてグッとくる。店舗のオープンまでにはストーリーや裏話があるのは当然だと思うが、全てのお店とそこに携わるスタッフ、人々にとびきりの愛情を注いでいる大谷氏の姿に、グッとくるのかもしれない。

「経験上、ほとんどのことが考えても無駄。考え過ぎないで楽観的になるのが一番」

最後に“混沌”後の時代を、どう楽しみながら生き抜けばいいのかを聞くと――。

「海外の色々な国に行くとよくわかりますが、日本人が一番ボーっとしています。周りはボーっとしていても、色々な状況の中で僕は僕なりに仕事も遊びも頑張るしかなくて。若い男が全然欲がないと言われていますが、だから僕がモテ続けるのと一緒で(笑)、それは仕事も同じです。全ては自分次第。気の持ちようです。世の中は所詮茶番、我々が知り得ないところで世界は動いているので、我々は何をやってもいいと思った方が気が楽です。考え過ぎないで楽観的になるのが一番です。経験上、ほとんどのことが考えても無駄です。うまくいくかどうか、成功するか失敗しないかはどうでもよく、とにかくやってみることが大切。創りたいもの、クリエイティブにはこだわるべきですが、僕は悩むほど暇ではないので、そんな時間があったら遊んでいた方がましです」。

渋谷をさらに盛り上げるためのプロジェクト「渋谷近未来カルチャー研究所」を設立

大谷氏は、渋谷をさらに盛り上げるためのプロジェクト「渋谷近未来カルチャー研究所」というセクションを社内に立ち上げた。“フリースナップZINE”『現実的渋谷』を配布したり、オリジナルの「CBDビール」も大人気で、「shibuya is my town」というアパレルブランドを立ち上げ、渋谷でおなじみのお店とのコラボTシャツを作り、こちらも話題を集めている。そして大谷氏が、プロデューサー・皆殺しPとして仕掛ける“史上最狂”のアイドルグループ「東京サイコパス」にも注目だ。やはり楽しみながら攻めている。

LD&Kオフィシャルサイト