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MARiA  山下穂尊、草野華余子、じん等が楽曲提供し話題のソロ作で「私も気づいていない私」を表現

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

サウンドプロデュースに本間昭光を迎え制作された、GARNiDELiAのボーカリスト・MARiA初のソロアルバム

昨年9月に結成10周年を迎えたGARNiDELiA(以下ガルニデ)。ボーカルMARiAとコンポーザーTokuが作り出す、その唯一無二の世界観には熱狂的なファンが多い。圧倒的なボーカル力と表現力を誇るMARiAの歌を聴いていると、ガルニデの世界観とはまた違う、“ボーカリスト・MARiA”としての歌も聴いてみたい、つまりソロ作品も聴いてみたいと思っていた人はファンならずとも多かったのではないだろうか。それが5月26日に発売された『うたものがたり』というソロアルバムとなって実現した。

『うたものがたり』(5月26日発売/通常盤)
『うたものがたり』(5月26日発売/通常盤)

錚々たる顔ぶれの作家陣が描いた、MARiAに歌わせてみたい10曲のラブソング

宇宙まお、岡本定義、草野華余子、じん、TAKUYA、nishi-ken、橋口洋平(wacci)、早川博隆、本間昭光、山崎まさよし、山下穂尊(いきものがかり)という、名前を見ただけでもワクワクしてくるようなラインナップの作家陣が、MARiAに歌って欲しい、歌わせてみたいラブソング10曲を提供。その結果、MARiAがこれまで見せてこなかった、さらに彼女自身も気づいていなかった自分を表現することができた。歌が紡ぐ物語とMARiAという歌うたいの物語が交錯し生まれた、この上質なポップスアルバムについて、インタビューした。

「GARNiDELiAでは自分が表現したいもの歌い続けてきた。今回は自分で書かないという選択をし、いただいた楽曲と素直に向き合いました」

「ずっとソロをやりたいなって思っていて、タイミング的にはガルニデが結成して10周年を迎えて区切りがいいタイミングでした。tokuと一緒に10年歩んできた中で、私はずっと自分の表現したいものを書き続けて、歌い続けてきたけれど、このタイミングで一回自分が書かないで、色々な作家、アーティストの方からいただいた楽曲と素直に向き合い、歌いたいと思いました。そこからどんな表現が出てくるのか、純粋に楽しみだし、チャレンジでもあるし、そこで得たものが絶対にガルニデも還ってくると思うので、2人にとってもかなり意味があると思っています」。

「(草野)華余子さんに自由に書いて下さいとお願いをしたら、超難易度が高い“愛の挑戦状”が届きました(笑)」

今なぜソロアルバムだったのか、という質問にそう答えてくれた。ガルニデのコンポーザーtokuも、10人のボーカリストをフィーチャリングしたソロアルバム『bouquet』を6月16日に発売する。結成10年を迎えたガルニデを深く“深化”させていくためにそれぞれが新しい感性と触れ、刺激を受けることを求めた。MARiAは作家陣に「私にどんな歌を歌わせてみたいですか?」と問いかけ、完成した楽曲を受け止めそれを表現という答えで返す。誤解を恐れずに言うならば、まるで壮大な音楽大喜利のように感じた。

「確かに(笑)。サウンドプロデューサーの本間(昭光)さんと相談しながら、色々な可能性を試そうと書いていただきたい方を決めていって、じん君とか(草野)華余子さんは昔から仲良くさせていただいているので、いつか書いて一緒にやろうと話をしていました。華余子さんには自由に、キーとかレンジとかBMPとかブレスの場所とか、何も気にしないでとにかく自由に書いて下さいとリクエストしました。そうしたら本当にブレスがない曲があがってきました(笑)」。

LiSAなどの楽曲も手掛けるシンガー・ソングライター草野華余子が提供した「おろかものがたり」は、疾走感の中に切なさが溢れる作品。他の作品と比べても言葉数が圧倒的に多く、難易度が高い楽曲で「(草野)華余子さんからは、MARiAならできるって信じてる。MARiAへの愛の挑戦状だと思って受け取ってって言われました」(MARiA)。

「最初にレコーディングした『憐哀感情』がアルバムの基盤になった」

「一番最初にレコーディングした」という「憐哀感情』(作詞・曲 山下穂尊)によって、このアルバムと向き合うことの意味、覚悟をつかみ取ることができた。情緒を感じるメロディと文学的な歌詞を、まるで語っているように歌うMARiAの新しい面を感じることができる。

「本間さんに『歌わなくていい』と言われて、それはこれまでとは真逆のことをやる、これまでやってきたことをある意味壊すということでした。自分という人間の根底にある感情を、エグってくるような言葉の選び方は文学的で、まるで小説のようでした。その世界観はいきものがかりでやられているものとは全然違うもので、私の隠された、女のドロっとしている部分を感じて、こういう曲ができたのかもしれません。この曲を歌っている時に何もない真っ暗なステージに佇む私がいて、そこにピンスポットが当てられて、ぽつりぽつり語っていく、そんな景色が浮かびました。だから私の“歌”が主人公で、全10章の主人公を、私の歌が主人公として紡いでいくという、歌の物語なんだということが浮かんで、それがアルバムタイトルに繋がりました。だからこの曲はアルバムの基盤になった歌というか、全体像を想像させてくれた大切な曲になりました。ガルニデとして10年、歌を歌い始めて18年、これまでにはやったことがないこと、やってこなかったことにチャレンジしたかった。なので、この歌は今までだったらできなかった、見ることができなかった部分の私の歌だと思うので、それがこのアルバム全体のコンセプトでもあるので、この曲は自分にとって真逆の立ち位置にいる歌です。振り切れた部分もあったのでこの曲からレコーディングがスタートできてよかったです」。

「どうやって“MARiA節”を削ぎ落すか」

サウンドプロデュースを手掛けた本間から与えられたテーマは、これまでのMARiA節を封印するということだった。MARiAはビブラートの付け方、フェイクの仕方、抑揚の付け方まで改めて自分自身の歌を研究した。

「MARiA節を削ぎ落としていったその先の中心にあるのが私の声で、私の声が一番響く、引き立つ歌を録ろうという意識でした。でも最初はMARiA節って何だろうというところから考え始めて、さらにそれをどう削ぎ落としたら、どう変わるのかというのは手探りでもあったので、自分の歌とすごく向き合うことができました」。

「『コンコース』はデモテープの強力な“橋口さん節”に引っ張られそうになった」

アルバムのオープニングを飾る橋口洋平(wacci)が手がけたリード曲「コンコース」から、これまでのMARiAを一新するようなインパクトを感じさせてくれる、“橋口節”が炸裂する温もりのあるメロディが印象的な、せつないラブソングだ。

「橋口さんの仮歌に引っ張られそうになって、違う、私の歌だからって言い聞かせてました(笑)。他の方もそれぞれの“節”があるのですが、この曲も強力でした。でもそこに引っ張られた方がいい心地よさもあって、そことのバランスを考えて歌いました」。

「本間さんに『よく歌えるね』って他人事のように言われました(笑)」という、サビの超高音が印象的な、ラテンフレーバーを感じるアレンジと歌が熱い空気を生む「ガラスの鐘」を始め、「歌わせる気がないとしか思えないほど難しい(笑)」という前出の「おろかものがたり」など、このアルバムは難易度が高い楽曲が揃っている。作家の思いを受け、それを想像を超える表現力で歌いあげ、そして返す。彼女のボーカリストとしての“凄まじさ”を改めて知らしめる内容になっている。しかもこれを全てライヴで歌うという。

「これまでも数々の高難易度の楽曲たちを、負けない!ってステージで歌ってきました。私自身がボーカロイドの曲も歌ってきたので、それこそ今回『ハルガレ』という素晴らしい曲を書いてくれたじん君が書く曲は、人間に歌わせる気がないんだなって感じるほど難しくて(笑)、覚悟はしていましたが、『ハルガレ』は切なく儚げですが、難しいことをやっているので、絶対ライヴでもやります!『Brand new me』(作詞:木村友威 作・編曲:nishi-ken)もは『みんなで一緒に手を振って歌えるような曲がいいです』とリクエストさせてもらったので、前向きになれるし、背中を押してあげられる曲になっているので、いつかライヴでみなさんと盛り上がりたいという願いも込められています」。

「『マチルダ』は“頑張らない”楽しさを感じることができた。『キスしてみようか』は素の自分に一番近い曲」

「マチルダ」は作詞:岡本定義×作曲:山﨑まさよし、「キスをしてみようか」はTAKUYA(ex; JUDY AND MARY)が作詞・曲、「あー今日もまた」は作詞:jam×作曲:本間昭光、「光」は作詞宇宙まお×作曲本間昭光と、作家陣のクレジットを見ているだけで楽しみになるラインナップだ。

「『マチルダ』は音の空間や隙間を楽しむ余裕みたいなところが自分的には楽しくて、自分の味を楽しめる曲です。今までは決め決めではめ込んでいく感じでやっていたので、こういう肩の力を抜いて頑張らない楽しさという感覚は、昔ジャズを歌っていた時代を思い出したり、今だからこそできるものだと思います。『キスしてみようか』はメロディアスでエッジが効いていて、それでいてキュートでお転婆で、この曲が一番素の自分に近いかもしれません。ガルニデの時は頑固な自分をずっと貫き通してきて、それはいつも“みんなはみんならしく生きて欲しい”って言っているので、自分が折れちゃダメって思っている部分があって。だからめげない、負けないってずっと思っていました。どこか懐かしい感じの『あー今日もまた』は、私にとっては新しく、子供の頃は親の影響で(松田)聖子さんの曲や、昭和ポップスをよく聴いていたので、歌い方も自然とそっちにフィットさせにいく感じになったのかもしれません。自分的にはすごくハマったと思います。『光』は本間さんのバラードが歌いたいですってお願いしました。歌詞は(宇宙)まお君が『MARiAさんの歌からは、生活感がする言葉を聴いたことがないので歌わせたい』と言われました。それで<大きすぎる冷蔵庫>という歌詞が出てきます(笑)」。

「戦友的存在のじん君が書いてくれた『ハルガレ』には、ずっと青春を生きている、大人になりたくない二人の思いが込められている」

アルバムのラストを飾る「ハルガレ」は盟友ともいえる存在のじんが、青春時代をテーマに書き下ろしたギターポップだ。本間の爽やかかつ儚さを感じるアレンジが、切なさを連れてくる。「大人になりたくない二人(笑)」の、長電話からこの曲の制作はスタートしたという。

「最後の<知らない花が咲いている また季節が 芽吹いている>という歌詞を見て、絶対アルバムのラストにしようって決めました。じん君とは長いつきあいで、お互い苦しんでいる時期も相談し合った盟友というか戦友的な存在です。同世代で一緒に頑張っていこうねって歩んできたから、自分の中ではそれが青春で、大人になんかならない、ずっと青春を生きてるって思っていて、だからその熱い思いを消したくないので、会話もそういう感じになることが多いです。この曲を書いてもらう時も2人で長電話をして、現状を報告し合ったり、昔話に花が咲いたりしている中で、じん君が『今もMARiAさんは変わってなくて、ずっとMARiAさんだね』って言ってくれて、じん君的には、私は『身なりは派手だけど、日本の女性像、大和撫子が根付いている』そうで、『だからメロディを絶対和音階にする』って言っていました。“ハルガレ”、春が枯れる…じん君はやっぱり天才です」。

『うたものがたり』という作品を通して彼女は、楽曲提供してくれた作家陣から、そしてサウンドプロデューサーの本間から、“自分も知らなかった自分”を引き出すスイッチを押してもらい、自分自身を更新。ボーカリストとしての引き出しを大幅に増やすことに成功し、またひとつ上のステージに上がった。ガルニデとしての活動が更に楽しみになったし、ソロ第2弾も期待したい。

■MARiA Live 2021「うたものがたり」

6 月5 日(土) 東京・チームスマイル豊洲PIT

開場:16:00/開演17:00

MARiA『うたものがたり』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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