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注目ユニット・SOMETIME'S ありそうでなかったブラック&ソウルネス溢れる極上ポップスが話題

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/IRORI Records

去年からその音楽を耳にするたびに、心が躍っていた。スッと湧き上がってくるポップネスやソウルネスが、熱を帯びながらさらに薫り立ってくる。R&B、AOR、ロック、そして1970年代~90年代の日本の良質なポップスのフレーバーも同時に漂ってきて、どこか懐かしいような、それでいてとびきり瑞々しい、ありそうでなかった歌とサウンドに心が躍っていた――SOTA(Vo)とTAKKI(G)による音楽ユニット、SOMETIME'Sだ。打ち込みサウンドがメインの楽曲と生楽器がメインの楽曲、二人が追い求める音を求め様々なミュージシャンと構築していく。SOMETIME’Sは二人を中心にした“グッドミュージック・プロジェクト”だ。SOTAとTAKKIにインタビューし、SOMETIME’Sが目指す音楽の理想郷を紐解いていく。

同じ高校に通っていたSOTAとTAKKIは、横浜でそれぞれのバンドで活動していたが、SOTAが所属していたバンドの解散を機に、2017年にSOMETIME’Sを結成した。そしてホームグラウンドだった横浜から離れ、主戦場を都内のライヴハウスへと移した。

“3人目”のSOMETIME'Sの存在

「バンドを解散して、自分が本当にやりたい音楽をまだやれていないと思いが大きくなってTAKKIを誘いました。彼がギターを弾いている佇まいがかっこよくて、その音を聴けばすぐにTAKKIのギターだってわかる。プレイスタイルに人間性が出ているというか、そこがすごくいいと思いました。それで一緒にやることになって、前のバンドの先入観を持たれるのも嫌だったので、都内のライヴハウスに軸足を移しました」(SOTA)。

「彼のボーカルパワーは、横浜のライヴハウス界隈では有名だったし、フィジカルもすごくてテクニックもあって、前のバンドではツインボーカルの一人だったので、もったいないと思っていました。それで彼がバンド解散後に声を掛けてくれて、その時僕もバンドを解散してスタジオミュージシャンをやりながら、どういう形で自分がやりたい音楽を表現していくのがいいんだろうって悩んでいました。SOTAがいたバンドは横浜では知名度があったし、お互い心機一転という気持ちもあって、都内に活動拠点を移して、積極的に色々なバンドと対バンをやったり、イベントに出ていました」(TAKKI)。

「作品は、0→1は我々でやって、そこから先はみんなで作っているので、自分達の作品という感覚はあまりなく、みんなに育ててもらっている感じ」(TAKKI)

パンチのあるソウルフルなボーカルと、美しく強いファルセットが存在感を放つSOTAは、「ユーミンとミスチルがバイブル」で、「クイーンやビートルズなど王道のポップスを聴いて育ちました」という音楽的ルーツを持ち、美しいメロディと豪華なサウンドの「ポップス」に憧れた。圧倒的テクニックと表情豊かな音色のギターTAKKIはハイスタ、10-FEETなどのロックを聴き、バンドに憧れ、Earl KlughやNorman Brownなどのジャズを聴きながらギターを勉強した。同時にオフコースなどのニューミュージックなどにも触れていった。曲はSOTAがメロディと、テキトー英語で骨格を作り、TAKKIがその英語の響きを大切にしながら歌詞にしていく。そしてもう一人、“3人目のSOMETIME‘S”的存在の藤田道哉も、曲作り、アレンジには欠かせないという。

「コード感やメロディ優先で、テキトー英語を乗せ曲を作り、歌詞はTAKKIが“響き”を生かして書いてくれます」(SOTA)

「英語が全くわからない頃から洋楽が好きだったので、単純にコード感やメロディでしか好きな音楽かどうかを判断してこなかったので、それは今も変わりません」(SOTA)。

「歌詞はSOTAがデモで歌っている、テキトー英詞の“響き”を大切にしていて、それを彼が歌いたくなるような歌詞を、パズルのように作っていきます。そういう意味では、曲のストーリーやメッセージーを考えるのはその次という感じです。SOTAがこういう曲にしたいというベースになるものを持ってきて、それを3人で意見を出し合って作り上げていきます。なので藤田道哉はアレンジャーであり、コンポーザーであり、3人の感覚のバランスがSOMETIME’Sの音楽だと思います。一つひとつの楽器についても演奏してもらうミュージシャンを3人で選んで、そういうディスカッション、こだわりがサウンド面では生きていると思います。0から1にする作業は我々がやっていますが、そこから先は3人とサポートメンバーも含めてみんなで作っているので、自分達の曲という感覚があまりなくて、関わってくれているみんなに育ててもらっている、そんな感覚なんです」(TAKKI)。

今年から“ヒゲダン”などが所属する、ポニーキャニオンの新レーベル・Irori Recordsに所属

2020年6月初1stデジタルシングル「Honeys」がJ-WAVE『TOKIO HOT 100』にランクインし、各ストリーミングサービスでも注目を集め、2ndデジタルシングル「Take a chance on yourself」は「TOKIO HOT 100」で最高位34位を記録。3rdデジタルシングル「I Still」はFM802「RADIO MASTERS」WEEKLY PUSHを獲得し、サブスクリプションだけでなくラジオチャートも賑わせた。2020年10月に初の全国流通盤で、SOMETIME’Sの名刺代わりともいえる前出の3曲を含むEP『TOBARI』をリリース。様々な音楽性とサウンド、2020年時点で彼らがやりたいことが全て詰まっている、飛躍を感じさせてくれる一枚だ。そして2021年――Official髭男dism、スカート、Homecomings、Kroiらが所属するポニーキャニオンのレーベル「IRORI Records」から、5月26日「Slow Dance EP」をリリースした。結成初期に発表した、SOMETIME'Sとしての初期衝動が詰まっている、同名の自主制作盤のリアレンジ+新曲で構成されている。

結成初期に発表した自主制作盤をリアレンジ、新曲を加えて制作した『Slow Dance EP』

『Slow Dance EP』(5月2⑥日発売)
『Slow Dance EP』(5月2⑥日発売)

「『Slow Dance』と『Raindrop』と『シンデレラストーリー』の3曲が再録で、『Never let me』と『HORIZON』が新曲です。当時はここまで豪華なサポートミュージシャンにやってもらえる環境ではなかったし、藤田道哉にも出会ってなかったので、とにかくリズムも揺れているし、でも当時はその“揺れ”が心地よくて。音もほぼギターでとにかく重ねていったので、自ずとサウンドがぎゅっとまとまり過ぎていて、レンジも狭くて、これをどう今の僕達のサウンド感にしていくか、当時も苦労しましたが、今回も3人で練り上げました。『TOBARI』と比べて、今回の方が若干日本語詞の割合が増えていて、それは邦楽のエッセンスが強い曲が多いからだと思います。IRORI Recordsに所属させてもらって、自ずと色々な人に聴いてもらう機会が増えて、音楽だけではなく内面のクリエイティブな部分も伝えたいことが多くなって、詞を書く作業の中でも、自我のようなものが多少芽生えてきて、歌詞への反応も欲しくて(笑)、若干日本語が増えたのかもしれません」(TAKKI)。

「中島みゆきさんとか吉田拓郎さんの歌詞は一撃で、ワンセンテンスで残るものが多くて、本当にすごいなって思っていて。なので書きたい時は歌詞を書かせてもらってはいるのですが、どうしても英語と日本語のミックスが多くなって、歌いたい歌詞がある時はメロディと歌詞がワンセットなんです。でも今回の「Raindorop」のようなグルーヴ感があるものは、メロディの流れ重視で曲を作ると、どうしてもアウトプットが英語詞になるので、TAKKIが“伝えたい言葉”に変換してくれます」(SOTA)。

全曲メロディがとにかくキャッチーで、キラキラしていて体が自然に揺れてくるサウンドだ。そしてSOTAの美しく強いファルセットとコーラスワークが、歌をよりドラマティックにしている。

「響き方ということでしかファルセットは意識してこなかったので、改めてそう言っていただけると嬉しいです。僕としてはSOMETIME’Sのテーマのひとつというか、絶対に譲れないところは、メロディとコーラスなんです。逆にいうと絶対これがいいと言える自分の感性を信じられるものはその二つで、あとはみんなの意見を大いに尊重します。カーペンターズとか、声の重なりがきれいな曲ばかりを聴いてきているので、そういう音楽をやりたいと思ってSOMETIME’Sを始めました」(SOTA)。

「2人だからこそ“チームSOMETIME'S”の力が必要。チームの空気感が作品、ライヴに出ていると思う」(TAKKI)

SOTAとTAKKI、そして二人が全幅の信頼を置くアレンジャーでもありコンポーザーでもある藤田道哉、3人でSOMETIME’Sの“核”になるものを作りあげ、さらに理想のサウンドを求め腕利きのミュージシャン達とディスカッションしながら、唯一無二のグルーヴを作り上げる。

「色々な方に“ジョイン”していただきながら、作り上げるのが楽しいんです。例えばエンジニアさんの感性に委ねることもあるし、常にその判断は“揺れて”いて、でもそれは確実にいい方向に向かうための“揺れ”なので、それがすごく楽しい。そういう現場が自分達にとっては心地いいんです。2人でやっている以上、色々な方の力を借りないと曲も完成しないし、ライヴも成立しません。ライヴのサポートをしてもらっているミュージシャンも、ある意味バンドメンバーとは違う仲の良さというか、それと同じくらいの繋がりをどこかで求めているんだなと感じていて。2人だからこそ、ミュージシャン、レーベルスタッフ、関わってくれている全ての人を含めて“チームSOMETIME’S”だって思うし、そこをすごく大切にしたいです。昨年からこういう状況になってしまいましたが、でもみんなでディスカッションする時間は自ずと増えているし、いいチームを目指すというところで考えると、そこはポジティブに捉えられる部分です。ライヴはこの状況が落ち着けばできると思うし、ライヴも含めて全ての部分でやっぱりチーム感って出ると思うので、いざライヴが始まった時に最高の空気感を、みなさんに伝えることができればと思っています」(TAKKI)。

二人が到達地点として設定した「カリフォルニアに自分達のスタジオを建てる」という目標に向かって、これからチームSOMETIME’Sがグッドメロディ、グッドミュージックを次々と投下し、心を躍らせ、体を揺らせてくれるはずだ。

SOMETIME'S オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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