Yahoo!ニュース

デビュー15周年の“ジルデコ”が、世界でヒット中の「真夜中のドア」をカバー 英語詞バージョンも話題

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

世界的ヒットになっている名曲「真夜中のドア~Stay With Me~」をジルデコがカバー。英語バージョンも話題

発売から40年経った松原みき「真夜中のドア~Stay With Me~」が、昨年末から世界的なヒットになっていることは、様々なメディアでも取り上げられ大きな話題になっている。この3月には7インチシングル復刻盤としても発売されるなど、まだまだ「真夜中のドア」旋風は収まりそうにないが、そんな中、そのカバー作品に注目が集まっている。

今年デビュー15周年を迎える“ジルデコ”ことJiLL-Decoy associationが同曲をカバーし、3月31日に日本語バージョンを、4月14日には英語バージョンを配信リリース。両バージョンともラジオやUSEN、Shazamチャートで好アクションを見せ、好調だ。ピアノとウッドベースのシンプルなアレンジと、chihiRoの原曲の世界観を大切にした歌が相まって、ジルデコ流の「真夜中のドア」を聴かせてくれる。ボーカルのchihiRoに、この曲について、さらにデビュー15周年を迎えるジルデコが、これから目指すものについてインタビューした。

「世界的ヒットになっているというニュースを見て、この曲のことを知り、なるべく素直に歌うことを心がけました」

「実はこの曲のことを知らなかったんです。けしからんやつです(笑)」と、同曲が世界的なヒットになっているというニュースを見るまでは、この曲のことを知らなかったことを教えてくれた。情報や先入観なしで、新鮮な気持ちでこの曲に向き合うことができた。

「最初に聴いた時はとにかくサウンドがカッコよくて、これ本当に1979年の曲?って思いました。ボーカルは、メロディを長くのばしたり、悪い意味ではなく、この粘っこい歌い方をするシンガーは最近いないと思いました。そこが年代を感じる部分でした。ジルデコでは自分で歌詞を書いて、ずっとオリジナル曲を大事にやってきたので、人の言葉を人のメロディで歌うと、私の存在は声だけになってしまって、私って何者?だろうって、過去につまずいた経験もあり、カバーの難しさは承知の上で今回歌わせていただきました。私は朗々と歌う方が気持ちがいいのですが、ジルデコをずっと聴いて下さっている人からは、chihiRoの歌は『力んでいなくて、かっこつけていない歌い方の方が心地いい』と言っていたただけることが多くて、これが私の声の活かし方だと思っています。カバーって人によっては独自の捉え方でメロディフェイクなどをして歌っている人もいますが、私はなるべく素直に歌うということを心がけています。自分が聴き手になった時もカバーはそういう歌い方のものの方が好きです」。

“ジルデコのJAZZ”――独自の洗練されたオシャレな音楽を確立しているが、chihiRoの歌にはポップネスな部分を色濃く感じることができ、今回のシティポップの名曲と言われている「真夜中のドア」は、まさに“ドンピシャ”だ。ピアノとウッドベースというシンプルな編成で、彼女の声の成分と表現力がより際立ち、心地よく、心が浄化されるような感覚になる。

竹田麻里絵(P)と岩川峰人(B)と。
竹田麻里絵(P)と岩川峰人(B)と。

「ジルデコはジャズと言われていますが、私はほぼポップスの人間なので、今回も歌っていてすごく気持ちがよかったですし、ファンの方の中にもポップスを期待してくださっている方も多いので、今回のカバーも喜んでいただけていると思います。日本語バージョンは、ピアノ竹田麻里絵さんとウッドベース岩川峰人さんとのライヴレコーディングでした。ライヴバンドと言われてきたジルデコらしさは出ていると思います。最初に聴いた時は単純なメロディなのかなと思っていたら、実際に歌ってみると<あの季節が>のところとか、メロディが飛躍していくところがあって、そこを力づくで歌ってしまうと重くなってしまうので気を付けました」。

「余白を感じる歌詞が色々と想像させてくれる」

ジルデコの歌詞も手掛けるchihiRoにとって、“職業作家”三浦徳子が書いたこの歌詞はどう響いたのだろうか。

「私には書けない言葉のチョイスだなって思って、<真夜中のドアをたたき 帰らないでと泣いたあの季節が>という部分は、ドアを叩いたのは内側から?外から?って考えたり…。今の音楽って情景がはっきりしていて、でもこの曲も含めて70年代、80年代の曲って言葉はハッキリ言っているのに、二人の関係を色々と想像してしまう歌詞の書き方だなと思いました。余白があるといいますか、この曲も二人の関係はもう終わっているのか、それともまた動きだしているのか、そこの判断がリスナーに委ねられている感じがします。それでいて難しくないという、私もそういう歌詞を書きたいと思っているのですごく勉強になりました」

「英語で歌ってみると、ほぼ洋楽に近いメロディということを再確認できました」

英語バージョンは同じ曲でもまたガラッと違う雰囲気になっている。

「英語バージョンでカバーしている方は少ないと思うので、是非聴いていただきたいです。訳詞はシンガーのKelpieさんにお願いしました。原曲の内容と変わらないように、苦労しながら書いてくれました。英語で歌ってみると、ほぼ洋楽に近いメロディだったんだな、洋楽っぽいサウンドとメロディに日本語詞をバシッと乗せていくのがシティポップなんだと、再認識できました。でもシティポップの定義ってあるようでないようで、洋楽のサウンドに日本語を乗せて歌うという捉え方をすると、ジルデコもそうだよねと思ってくださる方もいますが、自分達にとってはもっとビジュアルも含めてオシャレな人たちがやる音楽というイメージがあって、ジルデコは人間がお洒落じゃないので、違うんです(笑)」

昨年から新体制。「結成から19年やってきても、まだまだやりたいことがあって、ピークはもっと先にあるんじゃないかと思えた」

コロナ禍で色々と不安が募る中で、ジルデコは昨年メンバーのkubota(ギター)が“退団”し、新体制になった。15周年を目前に二人になった時は、どんな心持ちだったのだろうか。

JiLL-Decoy association/chihiRo (Vo)、towada (Dr,リーダー)
JiLL-Decoy association/chihiRo (Vo)、towada (Dr,リーダー)

「kubotaがジルデコから抜けることは、一昨年からアナウンスしていて、実際に“退団”したのは昨年コロナになる前でした。昔は3人の中で誰かが辞めたら、このバンドはもう解散かなって思っていました。でも今回実際に彼が辞める話が持ち上がった時、私の中では解散という選択肢がなくて、絶対に続けるという気持ちでした。ただ、コロナになってしまってこの先どうなるんだろう、という不安はありました。でも結成から19年やってきても、まだまだやりたいことがたくさんあって、ピークはもっと先にあるんじゃないかって思えました。それとJiLL-Decoy associationってアーティスト名に“association”って入っているのですが、ジルデコってずっと3人だけではなく、サポートミュージシャンがバンドメンバーのように付き合ってくれたり、シーン全体を盛り上げようと思って“association”ってつけたのが、ここにきてすごく効いてきているというか。なので、プロジェクトチームとして再始動したという感覚です」。

「ソロでストレートに音楽を表現してみたら、今度はまたこれぞジルデコという、味が濃い目のものを表現したくなりました」

chihiRoは昨年ソロプロジェクトchihiRo-Decoyとしてアルバム『ジェンガ』を発表し、ジルデコとはひと味違う“彼女自身”の音楽を、ストレートにそしてナチュラルに伝えた。改めて心から音楽を楽しんでいるということが伝わってくる作品だ。

「この作品のレコーディングに入ったのが昨年の7月で、自粛期間が明けて、それまで演奏活動ができなかったミュージシャンがようやく集まることができて、全曲ライヴレコーディングだったのですが、みんなで音を合わすことができる喜びが、音にも歌にも出ているのだと思います。今までは自分が作った曲を、ジャズアレンジに再構築してジルデコのサウンドに作っていましたが、それを崩さないでそのまま表現したらどうなるかを、一度やってみたかったんです。引っ掛かりのない曲ばかりになってしまうのでは?という不安はありました。でもコロナ禍でライヴが目の敵にされたり、音楽は不要不急という見られ方をしたりしましたが、逆に私はこの一年で音楽の必要性、大切さを痛感させられたので、そういうメッセージを素直に発信できただけでもよかったと思えるし、こんな時代に作品を残せることって幸せなことだなって思いました。この作品を聴いた方から『頑張ろうって思いました』という言葉をいただくと、今しか作れないものって、今しか作れないんだなってつくづく思いました。で、そんな素直な作品を出すと、今度はこれぞジルデコという、味が濃い目なものを表現したいと思いました(笑)」。

「オンラインライヴの楽しさを知った。オンラインサロンで繋がることの大切さを再認識できた」

前作『ジルデコ9~GENERATE THE TIMES~』(2019年)は、ビッグバンドサウンドも参加し“ジルデコのJAZZ”を全て日本語で表現した。15周年の今年、そして新体制として初のアルバム『ジルデコ10“double”』を6月にリリース予定だ。デビュー記念日前日の6月6日【ジルデコ デビュー15周年 スペシャルライブ ジルデコ10 “double” at SHIBUYA STREAM Hall】を行ない、その後、名古屋・大阪・札幌・福岡でも行う。

「これまでのジルデコの音楽はもちろんですが、新生ジルデコを期待してくださっている方もいると思うので、そこはきちんと出していきたいと思っています。二人になって、ファンの方も心配してくださっていると思うし、私も正直不安だったし、でも私もリーダーのtowadaも負けん気が強いので(笑)、絶対今までのものを超えてやる!と意気込んで制作しています(笑)。コロナ禍で行動するのが正解なのか不正解なのかわかりませんが、動かないのは自分達らしくないなと思い、昨年から積極的にオンラインライヴをやっています。機材も揃えたものの、最初は手応えもなく心が折れそうでしたが(笑)、今は新しい楽しみ方を見つけています。必ずしも生放送でやる必要はないと思い、収録して音もミックスして、配信日をアナウンスして、演者も、みなさんと一緒に観るというオンラインライブが最近アツいです。そこでチャットで会話していると、すごく“ライヴ”なんです。リアルなライヴではお客さん同士はあまり会話をしないと思いますが、収録ライブ配信ではチャットで盛り上がっているので、逆に一体感が生まれるし、配信が終わってもみなさんがチャットで盛り上がっているのを見ると、ライヴハウスで、名残惜しくてまだ残っているお客さんのようで、これが今できることのベストなのかなと思っています。ライヴ配信見放題のオンラインサロンでは、通常のライヴの他にもトークライヴなどやっていて、楽しんでくださっている方が多いので、ここは続けていきたいと思っています。コロナになって、繋がっていることがより大切な世の中になったと思うし、顔を見てひと言元気?と声を掛けあうことが大事だと思うので、このサロンは続けていきたいです」。

JiLL-Decoy association オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事