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大滝詠一が『A LONG VACATION』40周年でやりたかったこと、聴かせたかったもの<前編>

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(3月21日発売)
『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(3月21日発売)

大滝詠一が40年前に発表した名盤『A LONG VACATION』の、『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(新たなマスターテープからリマスターされた2021年版最新音源を使用)が3月21日に発売され、好調だ。さらにオリジナルアルバム未収録の、入手困難で貴重な音源等を含む全177曲がストリーミングサービスで満を持して解禁され、直後から大きな話題となり、解禁翌日には早くもApple Musicのトッププレイリストチャートで1位を獲得するなど、再び大滝詠一に、その音楽に大きな注目が集まっている。

注目を集めているといえば、3月21日に発売された完全生産限定盤VOXの『A LONG VACATION VOX』だ。4CD+Blu-ray+アナログレコード(2枚組)+カセットテープ+豪華ブックレット+復刻イラストブック+ナイアガラ福袋という豪華な内容かつ、名盤を紐解く貴重な音源や資料が満載で、さながら、家で楽しめる“大滝詠一『A LONG VACATION』展”とでも呼びたくなる内容だ。このVOXの内容について関係者に話を聞いた。

『A LONG VACATION VOX』(完全生産限定盤/3月21日発売)
『A LONG VACATION VOX』(完全生産限定盤/3月21日発売)

『A LONG VACATION』40周年の内容の“ディレクション”は大滝詠一本人

40周年記念の『A LONG VACATION VOX』の内容については、実は大滝詠一本人の“ディレクション”が基本になっているという。

「始まりはまだ大滝さんがご存命だった2011年の30周年の時でした。というのもこのVOXのDISC-2に含まれる『Road to A LONG VACATION』はもう10年前にできていました。それで大滝さんが自ら40周年の時はこれをボーナスディスクにとおっしゃっていて」。

『Road~』は大滝詠一のDJスタイルで、貴重音源満載の『A LONG VACATION』誕生秘話が語られている。上質なラジオ番組、そんな肌触りの音源だ。

「『A LONG VACATION 30th Edition』のリリース時に『NIAGARA CD BOOK I』も同時発売して、そのW購入者特典として「『A LONG VACATION』30周年祝賀パーティー」というイベントを抽選で200名を招待して、乃木坂ソニーで開催しました。その内容を考えている時、これはもう時効なので言ってもいいと思いますが、乃木坂と福生のスタジオをつないで出演したいと、大滝さんから提案されました。今でいうオンラインミーティングの走りのようなものです。他のアイディアも含めて大滝さんと色々な話をしたのですが、3.11が起こってしまいオンライン企画はなくなって、その代わりにラジオ番組仕立てのような音源を作るから、それを流そうということになって『Road to A LONG VACATION』が制作されました」。

『A LONG VACATION』の“もと”を、大滝の軽快なトークと共に公開している『Road to~』

大滝が本当に楽しそうにしゃべっていて、まさに『A LONG VACATION』ができあがるまでを、その原曲になったものや未発表デモ音源に加えて、歴史的な背景や人物交流についても語られていて、まるで源流が大河になっていくような感覚を覚える。

「それが、いつも大滝さんが言っていた“縁”とか“筋”とか、必然の中で偶然が生まれているということで、そうやってできあがったものが“ロンバケ”ということが伝わってきます。だからこそ大滝作品の中でも全然違う扱いだし、日本の音楽史においてもやっぱりちょっと違う在り方になっているのではないでしょうか。『Road to~』はイベント当日の昼まで本人が編集していたので、開演ギリギリまで会場に届かなくて焦ったことを覚えています。自分の素材を使って構成から録音、エディット、ミックスまで全部一人でやっていて、全ての曲がフル尺で入っているわけではないですが、聴かせどころのエディットの妙、おいしいところだけ抽出して聴かせるそのセンスは、さすがだと思いました。アーティストでここまでやる人はなかなかいないと思います」。

「『Road~』のようなものも、自分の新しい“作品”なんだとよく言っていました。イベント当日の午前中に大滝さんから電話がかかってきて「間に合わない」と。当日になっても編集をやっていました。なんとかぎりぎり間に合いましたが、僕らも中身は一切聴いていませんでしたので、ドキドキしながらぶっつけ本番で流しました。スタッフもみんな、お客さんと一緒に初めて聴いて『あーそうなんだ!』という感じでした。そして、この音源は会場にいた200人のお客さんだけのために流して、10年後の40周年で公開するまでは封印するということになりました。当日いらしてくださった方は。10年先行して楽しんでいただけていたというわけです」。

「40周年はとにかくその時代に存在しているオールメディアでリリースしたい」(大滝)

30周年が終わった時点で、大滝の頭の中には40周年の内容の構想があったというわけだ。

「周年リリースをやっていた中で、大滝さんはいつも『CDっていつ終わるんだろう』ということを想定していました。だから20周年の時には『30周年の時はもうCDはないだろう。メディアとしてのCDは、ある種使命を終えて次の新しいメディアになっているんじゃないの?』という期待感は常にありました。でも結局30周年を迎えてもCDは残っていて『どうもこの調子だと、40周年の時もCDあるかもしれないね』ということは言っていて、それで今回『Road~』を入れることと、『40周年はとにかくその時代に存在しているオールメディアでリリースをしたい』という二つの構想を、40周年に向けて残していってくれました」。

「大滝さんの中で周年盤というのは“ネタ”ばらし」

結果的に、3月21日に解禁になったサブスクも大滝の“指示”だった、ということになる。

「様々な事情がありつつも、サブスクの解禁をここまで引っ張った感は、そういう部分もあります。なので今回のVOXの中身も、アナログレコードあり、カセットあり、CDもBlu-rayもあります。夏にはSACD(Super Audio CD)で発売する告知も封入しました。なのでこれでおおよそ想定しうるメディアで発売できたということになります。そうしたいという本人の意向だったので、我々はそれをいかに実現するか、です。大滝さんの中で周年盤というのは、ネタばらしなんです。20周年の時には『A LONG VACATION 20th Anniversary Edition』のボーナストラックとして1981年に限定1万枚で発売した『SING A LONG V・A・C・A・T・I・O・N』(インストルメンタル集)を全曲収録して、30周年の時は純カラ(純カラオケ/オリジナル音源からボーカルだけを抜いたカラオケ)が出ました。40周年に向けてもっと大きなネタばらしを、という部分が今回の『Road~』であり、各メディアで聴き比べるというところも含めた解釈が、常に大滝さんの頭の中にあったのだと思います」。

『A LONG VACATION SESSIONS』には、レコーディング時の“空気”がそのままパッケージされている

DISC-3の『A LONG VACATION SESSIONS』は、アルバム録音時のセッションテープがほぼ全てレコーディング順に並べられて、20曲も初出音源が収録されている、こちらも貴重すぎる、ファンそして音楽好きにはたまらない音源だ。

「もう40周年では全部出してしまおうということで、“純カラ”の次は何だろうということになったら“セッショズ”だなと。ビートルズやビーチボーイズしかり、洋楽の先人たちもこういうセッションズ的なものは皆さんやっていらっしゃるし、大滝さんもマニアとして名作の裏側を楽しんでいました。それは同様に、ファンの方にも楽しんでいただけるのではと思っての蔵出です」。

曲の前後に入っている、大滝とミュージシャンとの会話や笑いも含めて、その時の空気がそのままパッケージされているので、レコーディングの雰囲気を知ることができ、大滝の仮歌が聴けるのも貴重だ。

「とにかく記録魔だったことが幸いしているというか、でもここまで資料が残っているのはやはり特殊なパターンなので、やっぱりこの“ロンバケ”が特別だということだと思います」。

4万字インタビューで“ロンバケ”を紐解く

ブックレットに掲載されている大滝の4万字インタビューは『A LONG VACATION』が完成するまでの全てはもちろん、貴重な話が満載で読み応え十分だ。

『A LONG VACATION』×わたせせいぞうのコラボレーションポスター
『A LONG VACATION』×わたせせいぞうのコラボレーションポスター

「これは2011年の『ロンバケ30周年盤』発売時に行いました。ライターの堀内久彦氏に大滝さんに8時間に渡ってインタビューしていただいて、『サウンド&レコーディングマガジン』で3か月短期集中連載した「『A LONG VACATION』30周年リマスター盤を語る」を再構成したものです。あの連載は超抜粋したもので、今回は4万字ありますが、それでもまだまだ収まりきらなくて。将来的にはこのインタビューの全貌を、見やすい、わかりやすい形にまとめたいと思っています。今回掲載しているは“ロンバケ”の範囲だけで、インタビューでは実は自分の生い立ちのことから話しをしています。今思うのは、アルバム『EACH TIME』に関してのインタビューまでやっておけば、ということです。スタッフ全員の最大の後悔は、お亡くなりになる(2013年12月30日)前に、大滝さんから『年内に『EACH TIME』の取材をやりたい』と言われていて実現できなかったことです。通常は1月中旬から2月にかけてが取材日だったのですが、その時は珍しく『年内に取材できないか』と言われて動いたのですが、年末進行などで、ライターの方も忙しかったりとスケジュールが合わなくて、2014年1月中旬に取材日を設定しました。大滝さんは『そっかー、しょうがねえなあ』と言っていましたが、我々も編集部もライターさんもみんな年内にやっておけば……と後悔しています」。<後編>に続く

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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