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DISH//がDISH//であるために――自由に、正直に前へ進む4人の生き様を伝える新作『X』

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供 ソニー・ミュージックレーベルズ/ソニー・ミュージックレコーズ

「猫」が大きな注目を集め、2020年はバンドにとって大躍進の年に

DISH//が2月24日に発売したニューアルバム『X』(クロス)が好調だ。

昨年、人気YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で北村匠海(Vo, G)が歌った「猫」の再生回数が1億回を突破し、大きな注目を集めた。この曲は元々シングル「僕たちがやりました。」(2017年)のカップリング曲だったが、「THE FIRST TAKE」の反響を受け配信リリースされた「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」が、「第62回 日本レコード大賞」の優秀作品賞を受賞し、「猫」オリジナルとあわせて2億回ストリーミング再生を突破するなど、DISH//にとって2020年は飛躍の年になった。

4thアルバム『X』(2月24日発売/通常盤)
4thアルバム『X』(2月24日発売/通常盤)

そして4枚目のアルバム『X』は、前作『Junkfood Junction』以来約2年ぶりの、そして大きくステップアップしたバンドの現在地を知らしめるニューアルバムということで、大きな注目が集まっている。そのリード曲のタイトルが「ルーザー」(=負け犬)というところが、彼ららしい“熱さ”でもあり、自信でもある。「ルーザー」は他のアーティストからの提供曲が話題を集めるこのアルバムの中で、メンバー4人で作詞・作曲・ベーシックアレンジした楽曲だ。この曲を始め、太く、“強い”バンドの音がつまった一枚に仕上がっている。

メンバーそれぞれがコラボしたかったアーティストとクリエイティブを楽しみ、DISH//の新しい音楽を作り出す

『X』には、メンバーそれぞれがコラボしたかったアーティストと曲を作り、ディレクションを手がけた作品が収録されている。橘柊生(DJ &Key)はJQ(Nulbarich)とコラボし「QQ」(クイーンズ)を、矢部昌暉(Cho&G)は長屋晴子(緑黄色社会)と「ニューノーマル」を、泉大智(Dr)はGLIM SPANKYと「未完成なドラマ」を作り上げた。北村はボカロPのくじらと共に「君の家しか知らない街で」を完成させた。それぞれのアーティストの強い個性が薫り立つ楽曲に、メンバー個々のセンスが、アルバムタイトル『X』が持つ意味のひとつでもあるように「交差」し、素晴らしいクリエイティブになっている。もちろん北村が歌うことでDISH//の音楽になるが、楽曲から瑞々しさと情熱が迸り、今までにないDISH//の音楽の一面に強い光が当たっている。

圧巻の表現力の北村匠海の歌

その北村の歌が今回も見事だ。メンバーがアーティストとコラボした3曲には、当然全く違う人格の主人公が存在するが、これまで役者として様々な性格の役、キャラクターと向き合ってきた北村の歌の表現力は圧巻だ。このアルバムには、はっとり(マカロニえんぴつ)が提供した「僕らが強く。」や北村が作詞・作曲した「あたりまえ」なども含まれているが、どの曲においても、DISH//というバンドのの強い武器になっているフロントマン・北村匠海というボーカリストの歌が深く深化したことを感じさせてくれる。「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」はいわずもがな、「あたりまえ」や「君の家しか知らない街で」というバラ―ド系の作品では、それをより味わうことができる。

「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」を聴いて、DISH//に興味を持ち『X』を聴いた新しいファンには、是非2019年4月リリースの3rdアルバム『Junkfood Junction』を聴くことをお勧めする。アイナ・ジ・エンド(BiSH)が参加し、あいみょんや田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)らが楽曲提供している作品で、バンドとして大きく進化した音と姿を目の当たりにできる。さらに2020年2月リリースのミニアルバム『CIRCLE』も、中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)、ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)らが楽曲提供し、北村が藤林聖子と歌詞を共作したり、濃密な作品に仕上がっており、バンドの変化と進化のスピード感を感じることができる。そしてそれが今回の『X』というアルバムに繋がり、DISH//というバンドのアイデンティティを鮮やかに映し出している。

「ルーザー」に込めた思い

そんなアルバムのオープニングナンバーが前述した「ルーザー」だ。昨年自粛期間が明け、メンバー4人が北村の自宅に集まり、リラックスしながらもそれぞれのバンドへの思いを形にしていった。グループ存続の危機や挫折を<惨敗続きも悪くない><宣戦布告を致します。僕と戦う人居ますか?>と北村が強い言葉で歌詞に昇華させている。前に進むには自ら道を切り拓くしかないという覚悟が伝わってくる。

5月からライブツアー『DISH// Spring Tour 2021「X」』の開催決定

DISH//の音楽は“お茶の間”にもどんどん浸透してきている。2月はアルバム発売月ということもあり、特に露出が目立った。2/18には「奇跡体験!アンビリバボー 誰でも知ってる大ヒット曲の誰も知らない秘密SP』(フジテレビ系)で、「猫」の誕生秘話が明かされたり、19日は「MUSIC STATION」(テレビ朝日系)にメンバー4人で登場し、「僕らが強く。」を地上波初披露。20日には「MUSIC FAIR」(フジテレビ系)で「あたりまえ」を披露した。さらに新曲「No.1」が、人気TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第5期のOPテーマ決定したことも発表された。

2月24日には『X』の発売を記念して生配信ライブを行い、そこで5月から有観客のライブツアー『DISH// Spring Tour 2021「X」』を開催することを発表した。約1年4か月ぶりの有観客ライブで、北村は「みんなの前で早くライブがしたかった、でも出来なかった。フラストレーションなんてとっくに限界点を超えている!!それをぶつけるだけです。進化してますよDISH//は。お楽しみにしててください」とコメントしている。

これまで数多くのアーティストとコラボし、アーティストから愛される存在のDISH//は、アーティストが創作意欲を掻き立てられる存在でもあるということだ。それは彼らの音楽性に加え、何があろうとも前へ前と突き進む“突破力”、さらにバンドとして一本太い芯を感じさせてくれる、生命力あふれる歌と演奏力が魅力的だからではないだろうか。アルバムタイトルの『X(クロス)』は、DISH//の“//”を掛けるとできあがる。様々なアーティストやクリエイター、スラッシャー(ファン)との交差(クロス)によって、DISH//の現在があり、未来へと続いていく。バンド結成から今年で10年、デビュー8年を迎える今年。その音楽でさらに多くのリスナーを巻き込みながら、4人は前へ前と進んでいく。

DISH//『X』特設サイト

DISH// オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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