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Omoinotake “次”のステージに向かうバンドの姿を捉えた「踊れて泣ける」新作に感じる“熱”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/NEON RECORDS

最新曲「産声」はUSEN HITインディーズランキング1位、MUSIC VIDEO再生回数が約120万回(11月29日現在)と好調

4thミニアルバム『Long for』(11月18日発売)
4thミニアルバム『Long for』(11月18日発売)

躍進を続ける3ピースバンドOmoinotake。今年2月19日にリリースしたミニアルバム『モラトリアム』は、彼らの新しいフェーズへの突入を告げる傑作として高い評価を得ている。その後もこの状況の中で、ファンにどうしても伝えたかったことが詰まっている「One Day」を始め、ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)のOP曲「産声」など新曲を配信リリースしてきた彼らから、今年2枚目となるミニアルバム『Long for』が11月18日にリリースされ、好調だ。

美しきポップネスはさらに威力を増し、抜群の質感を誇るポップミュージックを楽しむことができるこの作品、JQ(Nulbarich)が手がけた「One Day」のリミックスも話題で、Omoinotakeという注目バンドの現在地を余すことなく捉えた一枚になっている。藤井レオ(Vo&Key)、福島智朗(Ba&Cho/エモアキ)、冨田洋之進(Dr&Cho/ドラゲ)の3人にこの作品に込めた思い、そしてコロナ禍の中での心の変化、考えたことを聞かせてもらった。

「無観客オンラインライヴは、通常のライヴよりも、より丁寧に伝えようという気持ちを持たなければいけない」(藤井)

――コロナ禍の中で新曲を次々と配信して、配信ライヴも行い、止まることなく動いているOmoinotakeですが、こういう状況の中で表現者、ミュージシャンとして一番変わった考え方、思いを教えて下さい。

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ドラゲ ライヴがなくなってしまい、楽器に触れる時間が減ってしまいがちになったので、その時間を作って自分のプレーを見直した期間でもあって、演奏に対する自分なりの考え方は大分変わったと思います。

藤井 音楽活動の中で、お客さんの前でライヴをすることがやっぱり張り合いになっていて。制作に追われていてもライヴがあるおかげで、モチベーションをキープできていた部分もあって、その波みたいなのものを作りづらくはなったので、自分自身でよりコントロールしなければいけなくなったという感じがしています。

――無観客のオンラインライヴもやっていますが、これまでのライヴとは違う感覚ですか?

藤井 いい演奏、いい歌声を届けるということを、お客さんの前でやるライヴより考えて、丁寧にやっているかもしれません。それくらいの思いでやらなければ届かないと感じていて、そこは新たに得たいい考え方だと思っています。

「『One Day』の歌詞を書きながら、こういう状況の中での自分の気持ちが整理できた」(エモアキ)

――作詞を手がけているエモアキさんは、言葉への向き合い方が変わってきた感じはありますか?

福島智朗(Ba&Cho/エモアキ)
福島智朗(Ba&Cho/エモアキ)

エモアキ めちゃくちゃナイーブになりましたね。自分自身が弱くなっている気がします。でも同時にやりたい方にいけている気がしています。

――弱くなった分、より強い言葉を敢えて使ってみようとか、そういう部分って出てきたりしましたか?

エモアキ それもありますね。特に「One Day」がそれで、これを書いた時はめちゃくちゃ落ち込んでいて、でも落ち込んでいる人の歌なんて、このタイミングで誰も聴きたくないと思って。そう思いながらサビを書いた時に、こういうことなんだなって自分で自分の気持ちが整理できた部分があったし、このままの弱い気持ちだけじゃダメなんだって思えたし、書きながら言葉に気持ちが引っ張られた部分もありました。

「バンド内、チーム内で楽曲に対するジャッジがどんどん厳しくなっている」(藤井)

――前作『モラトリアム』が高い評価を得て、次へ向かう時にプレッシャーのようなものは感じました?

藤井 めちゃくちゃありました。やっぱり一曲一曲に対するジャッジが厳しくなっていると思うので、世の中というより、単純にメンバー、チームが納得いくものに辿り着くまでが以前と比べると時間がかかっています。ちょうどこの作品の制作の時に僕が言ったのは、曲を作って、でも3人の中でひとりでもマイナス意見があるということは、世の中の人が聴いたら、多分微妙だと思うというジャッジにした方がいいということでした。

――『Long for』というタイトルに込めた思いを教えて下さい。

エモアキ 切望する、待ち焦がれる、過去を懐かしむ、そういうニュアンスで付けました。曲が出揃ってタイトル決めの時に色々な案が出て、最初は“2020”という案が一番人気でした。

――確かに色々な意味で今年という時間を表すのには、一番象徴的な言葉ですよね。

エモアキ っていう話も出てきましたが、意味を持たせるなら、こういう言葉の方がいいんじゃないかなって。やっぱり切望してたな今年は、と思って付けました。

――「夏の幻」や「東京」に感じるどこかノスタルジーな感覚も、こんな時だからこそ多くの人が求めているという捉え方もできますよね。

エモアキ そうだと思います。

「『産声』はドラマの主人公の気持ちに、自分達の経験を重ねて書きました」(エモアキ)

――最新曲「産声」はドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称“チェリまほ”/テレビ東京系)のOP曲ですが、脚本を読んで、どのポイントに一番ビビッときて楽曲を作ったのでしょうか?

「産声」
「産声」

エモアキ 大前提として、主人公の安達(清)目線の曲でというのがあって、人の気持ちがわかった上で、踏み出したいけどなかなか踏み出せない性格が話のポイントだと思ったので、僕らにとってそういう瞬間ってなんだったのかなって考えました。路上ライヴを最初にやった時、本当はすごく怖いのに何でそこ立ちたいと思ったんだろうとか、あのとき踏み出せた勇気とか。それから「惑星」の歌詞を書いた時に、あの時も全然いい歌詞ができなくて、どうすればいいんだってみんなで悩んでいた時期だったので、あれを詞先で書いて、こんなに自分の全部を曝け出して大丈夫なのかな、と思うくらいやっぱり勇気が必要だったし、あの時の感情と、安達のマインドが重なる部分があると思いました。レコーディング当日、ぎりぎりまで書いていました(笑)。

藤井 メロディはマンガを読んだときに感じた雰囲気から生まれました。あの雰囲気が書かせてくれたというか、何もない状態でこういうポップな曲調は出てこないと思いました。

――キーがかなり高いですよね。

ドラゲ 最初に聴いた時は歌えるのかなって思いました。メロディだけの時と、歌詞が入ってからでは曲の表情がガラッと変わって。リズムも面白いし、Bメロのリズムやサビのストレートな感じとかは今までなかったし、振り切っているという印象がありました。

――高いところはどこまで出るんだろうって、自分に課しているところもありますか?

藤井 そういう側面もあると思います。今までで一番高いところまで出してみようという感覚はありました。STAY HOME中にすごく歌の練習をしたということもあるかもしれませんが、高い部分を出しやすくなった分、作る時にどうしてもそこにいきたくなるというか(笑)。

「『産声』を聴いた“チェリまほ”ファンの方からのメッセージが、本当に嬉しかった」(ドラゲ)

――ドラマの第一話を観た時の手応えは?

エモアキ 本当に嬉しかったです。単純にテレビから自分達の曲が流れるのがこんな感じで嬉しいんだって、報われたような気がしました。

藤井 一番嬉しいのは、原作のファンの方の「すごく合ってる」という感想を、SNSで観た時でした。その反応がすごく嬉しかったです。

ドラゲ 「“チェリまほ”の世界観をきちんと表現してくれて本当にありがとう」というツイートを見た時は、こちらこそありがとうって思いました。

――最新曲「産声」がこの作品の中で大きな柱になっていると思いますが、やっぱり「One Day」の存在感が、このアルバムタイトルにしてこの曲あり、という感じがします。配信リリースでしたが、改めてパッケージになって感触は違いますか?

エモアキ 配信した時は、“生もの”という感じがしていて、だから早く出したいという思いもあったし、その時はこの状況をまだ楽観視していて、でも深刻化していって、CDになることで生ものじゃなくなった感じがします。

JQ(Nulbarich)が手がけた「One Day」のリミックスバージョンは「オシャレで、でも骨太なリミックスで、僕達にはないアプローチで勉強になりました」(ドラゲ)

――「One Day」はJQ(Nulbarich)によるリミックスも収録されています。JQは「原曲の裏側がテーマだった」というコメントを寄せてくれています。

藤井 リスナーとしてメンバー全員がファンのNurlbarich・JQさんにリミックスしていただけるなんて、本当に光栄です。「One Day」のは張り詰めた緊張感があるアレンジだという印象があって、でもそれがJQさんの手によって、スッと音が見えるというか、そういう耳触りがするアレンジに生まれ変わりました。

エモアキ 歌詞の一部分をクローズアップしてアレンジをそこだけ他と変えたり、言葉の入り方が原曲と全然違うので、それはすごく面白かったです。

――曲の表情が変わりましたよね。原曲はもどかしさとか、やるせない思いみたいなものが全体に流れていて、それがソフトに和らいだというか。

エモアキ 解釈を“アフター”なものにしてもらったというか。

――さっき出た生ものだったものが時間が経って、少しずつ変わってきた感じがしました。

冨田洋之進(Dr&Cho/ドラゲ)
冨田洋之進(Dr&Cho/ドラゲ)

ドラゲ とにかくオシャレだなって。でもベースがゴリゴリで、一見めちゃくちゃ優しそうな雰囲気だけど、中身はめっちゃたくましい男みたいな、そんなリミックスだと思います。僕達にはないアプローチなので、すごく勉強になりました。

――「欠伸」はOmoinotakeの武器でもある、抜群に親しみやすいメロディのポップスで、ここからOmoinotakeを好きになりましたというファンも多そうですよね。

藤井 MUSIC VIDEOがないのに、この曲がめちゃくちゃ好きって言ってくれる人も多くて。

エモアキ <つられて口にした 夜のチョコレート>とか、こういう日常の風景が、頭の中で映像になって浮かびやすい歌詞がいいよねってメンバーで話していた記憶があります。

「踊れて泣ける曲をいつも目指している」(藤井)

――言葉が想起させてくれるメロディや、言葉から生まれてくるリズムみたいなのも、曲を作る上では大きな要素になっていますか?

藤井レオ(Vo&Key)
藤井レオ(Vo&Key)

藤井 それはそれで大きいですけど、メロ先の曲も多くて、やっぱり最終的に完成した時に目指してるのが、踊れて泣けるというところで、詞がない状態でもそこにちゃんと辿りついてるかは作る時に意識しています。やっぱりいいメロディができた時は、そこにデタラメ英語をハメてもグッときて泣けるような時もあるので、そこが重要です。

――その部分は一貫していますよね。

藤井 そうですね。今はとにかく歌ってみて、あとは歌ってできたメロディを、ピアノで左手でコード弾いて、歌っているメロディを右手で弾いて、落ちサビみたいな部分も含めて、グッとくるか来ないかということを早い段階でジャッジします。

「『夏の幻』は今年夏フェスやお祭りが全部中止になったので、リアルな情景描写をしていて、みなさんの頭の中に夏の風景が浮かんでくると嬉しいです」(エモアキ)

――6月26日に配信した「夏の幻」は、コロナ禍の中でまさに夏がなかった今年の夏ソングで、叙情的で耳に残ります。

エモアキ 「One Day」の後に書いた曲で、夏フェスやお祭りが全部中止になった夏だから、すごくリアルな情景描写をしました。今年あるはずだった夏が、みなさんの頭の中に浮かんでくれればいいなっていう思いで書きました。

――ポップで泣ける、親近感がある曲ですよね。「東京」というタイトルの曲は、各アーティストが一曲は持っているといっても過言ではなく、しかもどれもが名曲で、この曲もノスタルジーを感じさせてくれる名曲だと思います。小田急線、甲州街道という具体的な描写も出てきて、知っている人は絵が浮かびやすく、知らない人は想像力を掻き立てられますよね。

エモアキ 僕の住んでたところと使っている電車です(笑)。歌詞は途中までできていたものを今年完成させました。

藤井 エモアキのすごくパーソナルな歌詞で、彼のことを13歳から知っているので、自分の10年前というよりは、エモアキの18歳のイメージの曲です。

――Omoinotakeとしての10年間の思いが映し出されていると思いますが、エモアキさんのこと思いながら歌っている感じですね。

藤井 半分はそういうところもあります。この歌詞に関しては客観的には見れないと思います。

ドラゲ 俺も完全にエモアキが出てきてしまいます。この歌詞の感じ方は、メンバーにしかわからないと思います。

エモアキ だから早くみんなに聴いて欲しいです。コロナになって余計に東京というものがわからなくなったりして、さらにこの東京という街について考えてしまいました。

「来年は『Long For』の曲達をみなさんの前で演奏したい」(藤井)

――来年はこの状況がどうなってるかまだわからないですけど、三人の中で野望はありますか?

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藤井 目先のことでいうと、今回の『Long for』 は一度も人前で演奏ができていない曲ばかりなので、やっぱりライヴやることによって、自分達のその曲へのイメージも変わると思うので、それが楽しみです(このインタビューの後、来年2月東京・名古屋・大阪そして故郷・島根で『「Long for」 Release One Man Tour 2021』を開催することが発表された)。

ドラゲ とにかくフェスに出たいです。今年僕らを知ってくれた人も多いと思うし、フェスに出まくって僕らの音楽を色々な人に届けたいです。とにかく聴いて欲しいです。

エモアキ 僕もフェスに出たいですし、来年はもっともっと大きな動きができるよう頑張りたいです。

Omoinotake オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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