Yahoo!ニュース

大橋純子 歌手人生46年、「改めて歌への執着が高まった」圧巻のセッションで見せた、歌への情熱

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

キャリア46年、その歌はさらに力強さを増し、凄みさえ感じさせてくれるが、しかしどこまでもしなやかで、説得力を持って聴く人全ての心の奥深くまで届く――大橋純子の歌だ。その大橋が『Sound Inn S』(BS-TBS/9月19日(土)18時30分~)に登場。「今年初の生ライブは奇跡であり、まさに至高の時でした」と語り、3人のアレンジャーと最高のミュージシャンと共にセッションを繰り広げた。

重実徹アレンジの「シルエット・ロマンス」は、アンプラグドでの演奏で、歌をより引き立てる

重実徹
重実徹
画像

70年代後半から80年代に注目を集めた、日本の“シティポップ”への再評価が進み、AORを歌い続けてきた大橋純子の作品も脚光を浴びている。この日はオリジナル曲とカバー曲で、その圧巻のボーカルを披露してくれた。1曲目は代表曲のひとつ「シルエット・ロマンス」(1981年)を披露。アレンジは大橋とライヴ共演の経験がある重実徹。「大学生の時聴いていた大好きな曲」を、この日は「小編成でやったらどうかなと思った。実際この曲をアレンジしてみると、メロディラインは強いタッチの演奏の方がいいと思い、全部生楽器、アンプラグドでやりましたが、全員が力強く演奏することを心がけました。サビのストリングスの一、二小節目のストリングスはヨーロッパの古城や、古い街並の雰囲気を出したかった」と、色気のある歌の色気の部分と、歌をより際立たせるアレンジを聴かせてくれた。改めて大橋の、凛とした中に感じる情熱とクールさ、色々な感覚を感じさせてくれるしなやかな歌に引き込まれる。大橋はこのアレンジについて「新鮮でした。この歌をいただいて歌い始めた頃の気持ちになりました」と絶賛していた。

シティポップブームの中で評価が高まる「テレフォン・ナンバー」を、十川ともじのアレンジで披露。「ノリがいいから今でも受けるのだと思う」(大橋)

十川ともじ
十川ともじ
画像

2曲目はアルバム『TEA FOR TEARS』(1981年)に収録されている「テレフォン・ナンバー」を披露。このアルバムは当時の最高のミュージシャンが集結し、アレンジは名匠・萩田光雄が手がけ、海外の“シティポップ”ファンからも特に人気の一枚だ。この曲も、萩田らしい美しく、心躍るようなストリングスとホーンのアレンジが印象的な、極上のAORミディアムナンバーだ。この日アレンジを手がけたのは十川ともじ。「原曲よりも少しブラック寄りにした」という、エレキシタールをスパイスにし、煌びやかなストリングスとホーン、リズム隊が太い極上のグルーヴを作り出し、体が自然とリズムを取る。久々にこの曲を歌うという大橋は音合わせでは「コーラスをもっと前面に出して歯切れ良くお願いします」と、その感触を楽しみながらもこだわり、素晴らしいパフォーマンスを披露した。歌い終えた大橋は「やっぱり生は楽しい。この曲はノリがいいから受けたのだと思う。40年前の曲とは思えない」と語っていたが、何年経っても瑞々しさを失わず、ときめくような感覚を想起させてくれるのが、シティポップなのかもしれない。「当時の日本の音楽はガラパゴスだったと思う。日本語ということもあり、NYでもLAでもない東京の音楽という感じ」(十川)だからこそ、今、注目を集めているのだと思う。

「New York State Of Mind」を、斎藤ネコの映画音楽のような美しいアレンジで歌う。「キャリアを重ねるごとに力が抜け、声がどんどん伸び、歌が進化している」(斎藤)

斎藤ネコ
斎藤ネコ
画像

3曲目はビリー・ジョエルの「New York State Of Mind」(1976年)をカバー。「アメリカの音楽を聴いて育って、ずっとニューヨークに憧れていて、約2年間あの街で生活しました。当時は何を歌っていいかわからない状況でもあって、でもニューヨークでスティングのライヴを観て、また歌いたいという強烈な思いが湧いてきて、日本に帰ってきました」(大橋)という、まさに歌手人生を変えてくれた第2の故郷といえるニューヨークを歌ったこの名曲を、この日は斎藤ネコのアレンジで披露。厚く壮大なストリングスが感動を連れてくる。バンドの演奏がものすごい熱量を作り出し、どこかロマンティックかつ強くてクールで、スリリングな、まるで映画音楽のようなサウンドに胸を打たれる。その大編成のサウンドに負けない大橋の圧倒的なボーカル力と表現力には脱帽するしかない。素晴らしいセッションにスタジオ中に感動が広がっていった。スタッフから思わず「すごい!」という言葉が漏れるほどだった。大橋の歌について斎藤は「あの域にいくといい意味でモンスター。キャリアを重ねても声が伸びていて、それは力が抜けている、余計な力が入っていないからこそ出てくるものだと思う。本当に素晴らしいです」と語ってくれた。

全てのパフォーマンスを終えた大橋は「改めて歌に対する執着が強まった。やっぱり歌が好き、歌うことが好きだと思った」と、久々の“ライヴ”を楽しむと共に、46年間歌い続けてきた今、歌手としての原点を見つめ直す時間にもなったようだ。

大橋と、3人のアレンジャーとスーパーバンドとの、一夜限りのセッションを楽しむことができる『Sound Inn S』は、9月19日(土)18時30分~BS-TBSでオンエアされる。なお、番組放送終了と同時に「Paravi」で未公開映像と共に独占配信される。

BS-TBS『Sound Inn S』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事