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かくも美しき服部克久サウンド――盟友音楽家・ミュージシャンが集結し、敬意と感謝を込め感動セッション

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

偉大な音楽家を音楽で称える『Sound Inn “S”』“服部克久メモリアル”を、2回に渡りオンエア

6月11日に亡くなられた日本の音楽シーンの至宝・服部克久さんは、1977年~81年まで『Sound Inn “S”』(TBS系)で編曲を担当し、2015年から復活した同番組(BS-TBS)でも数々の楽曲をアレンジし、そのタクトを振る姿を見る事ができる貴重な場だった。この番組への最後の出演は、昨年12月11日にオンエアされた『クリスマススペシャル』だった。伊東ゆかり、由紀さおり、布施明、岩崎宏美のオールキャストで歌った「White Christmas」と「Silent Night」、そして岩崎宏美が歌った「シェルブールの雨傘」のアレンジを手がけ、指揮をした。

盟友ともいえるミュージシャン、音楽家が集結し奏でる“服部克久サウンド”

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取材を通して感じたのは、この番組の収録現場では、服部さんが登場する回は、アーティストはもちろん、アレンジャー、ミュージシャン、全ての人が服部さんとの貴重なセッションを心から楽しみ、その一挙手一投足、言葉を逃すまいという気持ちが伝わってくる、そんな学びの場でもあった気がする。

『Sound Inn “S”』では、番組の功労者であり、そしてこれまで作・編曲で関わった楽曲は約6万曲といわれ、日本の音楽シーンに多大な功績を残した服部さんを称え、そして偲び、長年連れ添い、盟友といえるミュージシャン、作編曲家が集結し、服部克久サウンドを奏でる“Memorial for Katsuhisa Hattori”を企画。7月11日と8月8日(予定)に、2回に渡って放送されることが決まった。。

ライフワーク『音楽畑』から名曲を3曲披露。渡辺俊幸×「道」

渡辺俊幸
渡辺俊幸
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7月11日放送回の収録が行われたのは、7月頭。収録前、スタジオに集まったミュージシャンを前に、同番組の服部英司プロデューサーは「TV創成期から音楽で色々な番組を彩り、最後のテレビ収録現場もこの番組でした。しめっぽくなると怒られそうなので、楽しく演奏しましょう」とメッセージ。この日は、1983(昭和58)に“音楽の自然食”をテーマとして発売し、以来服部さんがライフワークとして取り組んでいたオリジナル楽曲のインストゥルメンタル集『音楽畑』シリーズから3曲を披露。1曲目の「道」(1991年)の指揮は渡辺俊幸。音楽畑オーケストラでも活躍していた松本峰明のピアノと名ギタリスト伊丹雅博のアコースティックギターに、美しいストリングスとホーンが重なると、伸びやかで豊かな音色が生まれる。

服部さんがこれまで手掛けた名曲の数々を紹介するコーナーも見どころだ。「昂」(1980年)のアレンジを服部さんに依頼した谷村新司は、2018年にこの番組の「クリスマススペシャル」で服部さんと共演。同曲の制作秘話を紹介してくれている。「無理いって、ホルンをメインにしたアレンジをお願いしました。それまでホルンが前に出てくる曲はなかった。服部先生のアレンジは壮大かつ品格がある」とそのアレンジを絶賛。また、山下達郎は自身のラジオのレギュラー番組『サンデー・ソングブック』(TOKYO FM)内で、「竹内まりやの『駅』は服部さんのストリングスのラインなくしては決して語れないトラックです。服部さんは作曲家であられると同時に、日本の最高峰の編曲技術を持った方です」とコメントしているように、「駅」のストリングスは、まるで女性の涙を音楽で表しているように叙情的で、せつなく美しい。服部さんが、先駆者としてポップスにオーケストラを取り入れた功績は大きく、その後のポップスのアレンジに与えた影響は計り知れない。

小西禮次郎×「虹」

小六禮次郎
小六禮次郎
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2曲目は「虹」(1990年)。指揮は、47年前から服部さんを師と仰ぎ「僕のこれまでの音楽人生の大部分は横に服部先生がいてくださった」という音楽家・小六禮次郎。服部さん直筆の譜面を基にタクトを振るが、その譜面を手に「この(独特の字で書かれた)譜面を読めるのは僕を含め何人かしかいない(笑)。先生に向けていい演奏をしたい」と寂しさを隠すように、笑顔で語っていた。音楽畑シリーズにも参加している倉田信雄のピアノと15人編成のストリングス、ホーン等が織りなすサウンドは、雄大で繊細。まさに大空にかかり、あっという間に消えてしまうはかない「虹」だ。

ボブ佐久間×「ル・ローヌ(河)」

『音楽畑22 The Final?」(ワーナーミュージック・ジャパン)
『音楽畑22 The Final?」(ワーナーミュージック・ジャパン)
ボブ佐久間
ボブ佐久間
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最後は服部さんの代表曲「ル・ローヌ(河)」(1986年)。この曲は昨年9月に発売されたシリーズ最終作『音楽畑22 The Final?」で、長男で作編曲家の隆之、孫娘でバイオリニストの百音との親子三世代共演が実現した、服部さんにとっても忘れられない一曲。指揮は半世紀もの間、服部さんを大先輩と慕ってきた音楽家・ボブ佐久間。「私がある交響楽団と毎年行っているクリスマスコンサートがあって、10年目の去年、満を持して服部先生に来ていただきました。その日の最後の曲がこの曲で、僕が(タクトを)振りました。今日は感無量。間違えたら上(天国)から声が飛んできそう」と、気合を入れミュージシャンと向き合う。

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ピアノは、2017年に行われた『80歳からの新たなスタート 服部克久 傘寿の音楽会』で、この曲を弾く服部さんの姿と音源がミックスされる。ボブ佐久間が長身を折り曲げ、ダイナミックにそして丁寧にタクト降る。それに導かれ、紡がれるきらびやかで優雅で切ない音に、胸が締め付けられる。

雄大な河の流れ、煌めくその水面の優雅さを捉えた名曲「ル・ローヌ(河)」。「こんな曲そう簡単には書けない」(ボブ佐久間)

高校を卒業後、フランスのパリ国立高等音楽院に留学した服部さんが作る音楽は、隅々にまで漂うその優雅さからヨーロッパ的と言われている。ローヌ河は、スイスの氷河を水源としてフランス・プロヴァンス地方を潤し、最終的には地中海へと注ぐ。「ル・ローヌ(河)」はそんな河の流れをイメージさせるように、優雅で優しい曲だ。指揮を終えた佐久間は「この曲は(タクト)を振るのではなく、聴いていたい」と語り、「こんな曲、そう簡単には書けない。若い人はもっと聴いた方がいい」と改めてこの曲の素晴らしさを実感していた。この日収録に参加した音楽家、ミュージシャンは、服部さんへの敬意と愛情、そしてスタジオで演奏できる喜び、全てが音に表れ、素晴らしい演奏になった。

日本を代表する音楽家とミュージシャンが、日本の音楽シーンに大きな足跡を残した偉大な音楽家・服部克久さんの名曲の数々を演奏する『Sound Inn “S”服部克久メモリアル PART1』は、7月11日(土)18時30分~BS-TBSでオンエアされる。『~PART2』は8月8日オンエア予定だ。

BS-TBS『Sound Inn “S”』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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