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要注目バンドOmoinotake、8年分の思いを込めた圧巻の4分30秒の“一発撮り”が話題 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/NEON RECORDS

今年の最重要アーティストの一組Omoinotake

「3ピースバンドOmoinotakeの音楽が広がりを見せている」――そんな書き出しでOmoinotakeのインタビュー記事を掲載したのは、2月末だった。インタビューでは、藤井レオ(Vo&Key)福島智朗(Ba&Cho/エモアキ)冨田洋之進(Dr&Cho/ドラゲ)が、その確かな“手応え”を語ってくれたのが、初の書き下ろし曲となる劇場アニメ『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』の主題歌、「モラトリアム」が収録されているEP『モラトリアム』(2月19日発売)についてだった。

EP『モラトリアム』(2月19日発売)
EP『モラトリアム』(2月19日発売)

『モラトリアム』には、ここ数年の彼らの勢いを感じさせてくれ、ブレイクを予感させてくれるグッドミュージックたちが、眩しいくらいの光を放っていて、それを引っ提げてのツアーや、自主企画ライヴ『FACE TO FACE』で、さらにOmoinotakeの音楽を多くの人に感じてもらうはずだった。しかしこの状況下で、全てのアーティストがそうだったように、彼らにもツアーやライヴは延期・中止という、なんともしがたい現実が待っていた。

今歌わなければいけない、伝えなければいけない曲「One Day」を、注目の“場所”「THE HOME TAKE」で披露

「欠伸」(4月8日リリース)
「欠伸」(4月8日リリース)
「One Day」(5月8日リリース)
「One Day」(5月8日リリース)

しかし、ミュージシャンはこんな時だからこそ、音楽を届けることをあきらめない。Omoinotakeも4月から3か月連続リリースを敢行。まずは優しい温もりを感じさせてくれる、人懐っこいメロディが印象的な「欠伸」を発表。そして第2弾として「One Day」をリリースした。この状況の中で、まさに今歌わなければいけない、伝えなければいけない、そんな3人の真っすぐで熱い想いを、エモアキが言葉を紡ぎ、藤井が作曲した作品だ。その熱い想いをリスナーに純度を薄めることなく伝えるチャンスが、三人の元に舞い込んできた。それが「THE HOME TAKE」でのパフォーマンスだ。

様々なアーティストが“一発撮り”で、魂を込めた歌を歌う瞬間を捉えた話題のYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」。現在はコロナ禍の中でその活動がままならないアーティスト達が、自宅やプライベートスタジオでパフォーマンスを披露する「THE HOME TAKE」として展開中だ。その「THE HOME TAKE」に、5月29日、Omoinotakeが登場し新曲「One Day」を披露した。再生回数は一日で30万回を超え、現在までに130万回を突破(6月11日現在)と、その注目度の高さを証明している。

出演するにあたって、彼らは「この日々を越えて、いつか必ず再会しようと、願いを込めて演奏しました。各々の家の中で撮影された、僕らの「THE HOME TAKE」が、この企画を通してたくさんの方に届き、いつか再会できるその日まで、同じ想いを共有していられたら、本当に嬉しく思います」とメッセージを贈り、当日を迎えた――。

5月29日22時、やや緊張気味の藤井が登場し「結成から8年、ワンマンツアーもようやく売り切れるようになり“今年こそ”ってみんなで誓い合った直後のこのような出来事でした」と、まず今年に賭けていた3人の思い、悔しさを素直に言葉にする。これまで彼らのライヴを何度も観、インタビューでもその思いを聞いていた筆者は、まずここでグッときてしまった。しかしそれだけこの「THE HOME TAKE」でのパフォーマンスに賭けているんだという強い意志表示でもあり、演奏がますます楽しみになった。そして「たくさんの約束が消えてしまったこの期間を超えて、いつか必ず再会できますように、今ここにある全ての思いを込めて歌います」というメッセージの後、歌い始めた。

現在の思いを綴った言葉たちが、グルーヴに溶けていき、聴き手の心を潤す

冨田洋之進(Dr&Cho/ドラゲ) 藤井レオ(Vo&Key) 福島智朗(Ba&Cho/エモアキ)
冨田洋之進(Dr&Cho/ドラゲ) 藤井レオ(Vo&Key) 福島智朗(Ba&Cho/エモアキ)

そこにあるのはピアノとマイクと緊張感だけ。藤井の伸びやかでハイトーンの声が静寂を切り裂き、同時にピアノが響き渡る。ドラゲのドラムとエモアキのベースが乗り、Omoinotakeのグルーヴが生まれ、藤井のボーカルもエモーショナルになり、徐々に熱を帯びていく。美しいファルセットは強さと儚さを感じさせてくれる。<笑い合う 声も消えた街><消えてゆく 大切な居場所>という言葉に、寂しさや危機感、ファンへの思いを込め、サビの<だから僕は灯火が消えないように 今歌うから>という強い言葉で、希望を手繰り寄せ、聴き手の心に届ける。

ありのままを全て伝えた、4分30秒

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この、変わってしまった日常の中で感じる葛藤や怒り、焦り、そしてそれを乗り越えて未来を手にするんだという思いが込められた歌詞を、ひと言ひと言かみしめるように、大切に抱きしめるように歌い、その言葉たちがグルーヴに溶け込み、聴き手の心を潤す。別々の場所からの演奏であるが、3人の音、グルーヴがひとつになって心に真っすぐ飛び込んできて、大きな感動になっていく。彼らが渋谷のストリートライヴで培った圧倒的な“伝達力”が、この「THE HOME TAKE」では最大の武器になる。

冒頭のメッセージを含め、自分達のありのまま、8年分の“思いの丈”を全てぶつけた4分30秒の名演だったと思う。3人はピンチをチャンスに変え、自分達がこれから進むべき道に、自らの手で強い光を照らすことに成功した。そんな、なんとも“鮮やか”な瞬間だった。

なお、6/12(金)に予定していOmoinotake Presents「FACE TO FACE」@Shibuya Milkywayは中止となり、当日は『「モラトリアム」Release Tour vol.0 In Your Home』として、同会場から無観客ライブ配信が決定した。

Omoinotake オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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