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JUJU劇場の幕が上がる 52編の歌で紡ぐ“あなたの物語”は、どこまでも愛おしい

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ

初のオールタイムベスト『YOUR STORY』

『YOUR STORY』(4月8日発売)
『YOUR STORY』(4月8日発売)

まるで52編の短編小説。しかもそれが映像となって鮮やかに聴き手の心に映し出される――JUJU初のオールタイムベスト『YOUR STORY』(4月8日発売)には、聴き手のそれぞれの“ストーリー”に、時には至近距離で、時には距離をとって、そっと寄り添ってくれる彼女の歌が52曲収録されている。改めて、「歌い手として誰かの物語を歌っていきたい」という、彼女が守り続けているシンガーとして真ん中にある強い想いについて、そしてこのアルバムに込めた気持ちをインタビューした。

JUJUのアニバーサリーは8年ごと。「8年周期でベスト盤を出します」

Photo by Yoji Kawada
Photo by Yoji Kawada

JUJUは2018年に15周年を迎えた。その6年前、2012年の8周年のタイミングで初のベスト盤『BEST STORY~Love stories~』、『BEST STORY~Life stories~』をリリースし、そして今回の“スーパーベスト”の発売と、そのキャリアの中で5周年、10周年という区切りのタイミングで発表することが多いベスト盤だが、JUJUのアニバーサリーは8年ごとに訪れる。

「8年目で最初のベストが出て、その時はベスト盤って普通10年とか15年で出すものだと思っていたのに、8年目ってなんだ!?って思いました(笑)。でもニューヨークの友達で、人の体のシステムが全て入れ替わるのが8年だからと、8年間髪を伸ばしては頭を丸めて、伸ばしては丸めて、8年周期で生きている人がいるし、8は末広がりだし8年周期でJUJUは生きていこうとその時思ったんです。今回、16年目でまたベストを出すことになって、こうなったらここから先は8年周期でベスト盤を出します(笑)。次は24年目で出します(笑)」。

「聴いて下さる方がいて歌うということの幸せを初めて知った『奇跡を望むなら...』」

Photo by Hajime Kamiiisaka
Photo by Hajime Kamiiisaka

そう笑顔で語ってくれるJUJUだが、そのシンガーとしての道のりは決して順風満帆ではなかった。2004年8月に発売したデビューシングル「光の中へ」、続く「Cravin’」は思うほど売れず、次のまさに起死回生の3rdシングル「奇跡を望むなら...」の発売まで、約2年間の空白期間がある。

「プロデューサーの判断で、これだったら勝負できるかも、これなら色々な人が聴いてくれるかも、と納得できるものができあがるまで、集中して制作しましょうという、次のリリースがあるかどうかわからない、あてどもない制作期間に入っていきました。当時住んでいたニューヨークから楽曲を提出しても、提出してもプロデューサーに却下され、どんどん疲弊していく中で、最初の頃に提出して、放置されていた(笑)『奇跡を望むなら...』を歌うことになって。幸いたくさんの方が聴いてくださって、この時、好きで歌うことよりも、聴いて下さる方がいて歌うということの幸せを初めて知ることができました。この時から誰かの物語を歌で紡いでいこうと決めたので、今回のベスト盤は「奇跡を望むなら...」から始めたいと思いました」。

一人ひとりの女性の物語が描かれた、4つの“JUJUシアター”

JUJUの“あるべき姿”というものを自身の中で作り、それによって“伝える”ことが聴き手によってはもしかしたら“押し付ける”感じに受け取られていたのかもしれない。しかし「奇跡を望むなら...」によって、その自己のこだわりをほどくことができ、それ以降、聴き手が思いを重ねることができる、“寄り添う”歌を届けてくれている。そんなJUJUというシンガーを生んだともいうべき「奇跡を望むなら...」も収録された今回の作品は、4枚組52曲という大ボリュームで、【Theater RED】【~PURPLE】【~PINK】【~BLUE】とそれぞれテーマが設定され、一人ひとりの女性の物語が紡がれている。

【Theater RED】

やさしさで溢れるように / ただいま / Eternally / 守ってあげたい / 願い / また明日… / 明日がくるなら original duet version (with JAY’ED) / sign / 東京 / YOU / ありがとう / あざみ

【Theater PURPLE】

この夜を止めてよ / ラストシーン / つよがり / 予感 / くちづけ / いいわけ / My Life / If / 君がついた嘘なら / さよならの代わりに / Distance / あなたがくれたもの / Woman In Love

【Theater PINK】

素直になれたら(feat.Spontania) / 桜雨 / ナツノハナ / 星月夜 / believe believe / 甜い罠 / PLAYBACK / READY FOR LOVE / 始まりはいつも突然に / READ MY LIPS / Hold me, Hold you / Trust In You / Stop Motion

【Theater BLUE】

奇跡を望むなら… / Dreamer / Hot Stuff / What You Want / Voice / Door / ミライ / 空 / ANTIQUE / PRESENT / かわいそうだよね(with HITSUJI) / メトロ / STAYIN’ ALIVE

「今回、どんなベスト盤がいいだろうってすごく悩んで、JUJUが持っている軸は何だろうということと改めて向き合ってみました。この16年であらゆる歌を歌ってきてLOVEとLIFEだけではない、色々な物語をお届けしてきた幅の広さが強みでもあるのかなと思って。「やさしさで溢れるように」のように色恋を超越した大きな愛の歌もたくさん歌ってきましたし、ファンの方から「こんなにままならない歌を歌っているのはJUJUしかいない」、「ままならない曲をそろそろください」というお便りや声もよくいただくくらい、ままならない歌もたくさん歌ってきました。人は何回恋に破れてもまた恋に落ちて、そこから大きな愛に向かうこともある。恋愛の始まりのウットリした、キュンキュンしたピンク色の世界の歌も歌ってきましたし、これから先も作っていきたいと思うし、私たちは毎日頑張って生きていて、仕事をしながらも、どんなことがあっても踏ん張って立っているからこそ、時にはハッチャケて大人げなく生きていきたいとも思うし、そのお供になるような曲たちも歌ってきました。となると、大きくわけて四つの軸があるような気がするねってなって、それを色で分けると大きな愛はレッド、基本は、毎日頑張って生きている全ての人に贈るブルー、ウキウキした気持ちのピンク、ままならない恋のイメージはパープルと、4つのシアターJUJUとして皆さんの物語を探していこうというのが始まりです」。

「JUJUはチーム。その中で私は歌う人で、チームの誰か一人欠けてもうまくいかなかったと思うし、ここまでこれなかった」

今回の選曲にあたっては、JUJUが絶大な信頼を置く、プロデューサーをリーダーとするチームJUJUと共に練り上げた。JUJUは“歌担当”に徹すること、それ以外のことはチームに任せることで歌に集中でき、そのスタイルを貫いてきた。

Photo by Yoji Kawada
Photo by Yoji Kawada

「去年開催した『-15th ANNIVERSARY- JUJU HALL TOUR 2019「YOUR REQUEST」』で、ファンの方に取ったアンケートの結果がすごく興味深くて、シングル曲が上位にくるのはわかるけど、20位までの中にアルバム曲もかなりランクインしていて。それが私たちはすごく嬉しくて、だったら今までの7枚のアルバムの中から、さらに前回のベスト盤には入っていない曲で、全アルバムの中にむちゃくちゃ好きな曲がいっぱいあるから、それを入れたい!という入れたがりの私と、デビュー以来の担当マネージャーと、プロデューサーのせめぎ合いがすごかったです(笑)。『これ絶対入れたい』って言ったら「それは優しくない」とかプロデューサーに言われて(笑)。私はこのチームのことがJUJUだと思っていて、その中で私は歌う人で。だからいまだにすごく怒られるし、あまり褒められないです。完全に歌い手に徹しているので次はこういうテーマの曲が絶対歌いたいということも言ったことがありません。言ってもどうせ却下されるので(笑)。でも普段の何気ない会話の中からそれを拾ってくれて、作品になることも少なくないです。例えば『なんかいいことないかな~』ってしつこく言っていたら「What You Want」(2015年/【~BLUE】に収録)が生まれたり、『What’s Love?』(2008年)というアルバムを作ったときも、世の中があまりにLOVEブームで、LOVEのつくアルバムが雨後の竹の子のごとくボコボコ出ていて、『愛ってなんだよ』ってその頃よく言っていたんです(笑)。それであのアルバムができあがったり、時代の空気を読んでいるといえばそうかもしれないですけど、帳尻が合ったとしか言いようがない(笑)。でもそういう歌、作品を提示してくれるチームには本当に感謝していますし、チームの誰か一人欠けても、うまくいかなかったと思うし、ここまでこれなかったと思っています」。

新曲、初アルバム収録曲たちにも注目。「「『STAYIN’ ALIVE』という曲に出会えて幸せ」」

今回の作品の聴きどころのひとつ、新曲や初アルバム収録曲たちにも注目したい。

Photo by Hajime Kamiiisaka
Photo by Hajime Kamiiisaka

「私の絶対に譲りたくないポイントが、必ず新録曲をすべての作品に入れるということなんです。『あざみ』は初めて聴いた時絶対歌いたいと思いました。普遍的な愛は何があってもここにあるということを伝えられる、【~RED】の世界観を締めくくるのにピッタリの曲です。「Stop Motion」(【~PINK】)は「PLAY BACK」(【~PINK】)の続編を作ろうと、遊び心を持って制作した作品で、ライヴでも盛り上がると思います。「Woman In Love」(【=~PURPLE】)は、これは私の持論なんですが、この世に生まれてきて、絶対にその人と出会うべく人がいて、例えその人がひと筋縄ではいかない相手だったとしても、その出会いに感謝できる、そんな歌です。聴く人によってはウェディングソングに聴こえるかもしれないし、色々な捉え方ができる思いますが、出会いということの尊さを伝えたかった。「STAYIN’ ALIVE」はここまで踊っているMUSIC VIDEOはかつてなかった曲です(笑)。でも久しぶりに歌詞を読んで泣きました。アップテンポなのにうるうる来て、磯貝サイモンさんが書いて下さった歌詞は、私が言って欲しかった言葉が全部詰まっています。ドラマ(『トップナイフ―天才脳外科医の条件―』(日本テレビ系))のために書き下ろされた曲ではありますけど、劣等感とか、昔からのコンプレックスなんかずっと変わらずにそこにあるけれど、今までも生きて来れたのだからこれから先も生きていけるし、今まであった色々なしんどいことがまたやってきても、それを処する術を知っているから、酸いも甘いも受けて立ちますという思いが、この曲に出会ってますます確信に近くなりました。そういう意味でもこの曲に出会えたことも、本当に幸せだと思います。アルバムのラストでこの曲を聴いて、パッと咲いて、酸いも甘いも受けて立ちますと思えるからこそ、自分の全ても皆さんの全ても『やさしさで溢れるように』と思えるなと」。

豪華作家陣と、ポップスシーンを支える錚々たる顔ぶれの音楽Pがアレンジを手がけた、上質なJ-POP集

Photo by Hajime Kamiiisaka
Photo by Hajime Kamiiisaka

錚々たる作家陣が作り上げてきたJUJUの作品。そして武部聡志、小林武史、亀田誠治、本間昭光、島田昌典、蔦谷好位置他、J-POPシーンを支える音楽プロデューサーがアレンジを手がけてきた、まさに上質なJ-POP集ともいえるのが今回の『YOUR STORY』だ。巨匠たちのアレンジの聴き比べという楽しみ方もできる。そんな52曲の中で、JUJU自身が特に思い入れのある曲は?という意地悪で難しい質問をぶつけようと思ったが、前述の「奇跡を望むなら...」への強い思いも聞いているので、質問を下げた。個人的には【~PURPLE】に収録されている「My Life」(2008年6月)が今も強烈に印象に残っている。JUJUのルーツでもあるジャズをベースにした作品で、当時の心情を映した歌詞が切ない、という感想を伝えると、「この曲達の中で一番自分らしい曲はと言われたら確実に『My Life』を選びます」という答えが返ってきた。「My Life」と名付けた曲だけに、やはり彼女の中で特に愛すべき一曲になっているようだ。

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「自分の中で今まで音楽がすごく必要だったし、色々曲に助けられてきたから、ここまで破綻せずにやってきた自分がいて。自分が経験したことがない事や、それを言葉にしたものは絶対に歌わないようにしていて。でも私がそう思える言葉とか物語は、私が経験しているくらいですから皆さんも経験していると思うし、皆さんのために歌いたいというよりも、その楽曲に私が出会った時に、その曲に出会えてよかったと思ってくれる誰かがいてくれたらいいなって思っています」。

JUJU『YOUR STORY』スペシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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