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ましのみ 殻を破り、覚醒し作り上げた「“始めたて”という感じ」のミニアルバムの“破壊力”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

シンガー・ソングライターましのみの最新曲「7(ナナ)」がイイ――<ろくでもない僕でさ>と気になるワードで始まる、ポップでどこかでせつなくて、生とエレクトロが“せめぎ合い”、生まれる“絶妙なエネルギッシュさ”がクセになるサウンドに乗せ、表情豊かなボーカルが縦横無尽に駆け巡る――そんな曲がオープニングナンバーの、ましのみ初のミニアルバム『つらなって ODORIVA』には、デビュー3年に突入した、注目のシンガー・ソングライターの圧倒的な進化の軌跡が詰まっている。ましのみにインタビュー。

ましのみは昨年3月21日渋谷ストリームホールで、学生として最後のライヴ『ぺっとぼとリテラシー vol.3 ~レセプションパーティー in TOKYOでひとつになりまショータイム~』を行い、そして大学を卒業。ここを境に、彼女の中で何かが変わったという。

「トータルプロデュースしたくなった」

「2ndアルバムまでは、音楽面では私が歌詞・曲・歌、音はサウンドプロデューサーに任せて、ビジュアルについてはアイディアは出しますが、私を客観的に見ることができるスタッフに最終判断を任せて、それぞれのプロがそれぞれの仕事をするという、分業制でした。それは私は口を出しすぎと、作品としての幅を狭めることになるという思いからそういうスタイルになっていました。でも思ったよりも色々ことに対する自分のこだわりが強いことがわかって」。

徹底的にセルフプロデュースしたくなった。これまで彼女は世間に自分の音楽、世界をどう“突き刺す”か、どうやれば耳につくか、目に入るかをチームで考え、それが“ポップなひねくれ”に繋がり独自に世界観を作りあげていた。しかし彼女の中で何かが“弾けた”。「セルフプロデュースすることで、私が手を出すことで、曲を始め、色々なものの幅が狭まることにはならない。それがわかったので、トータルプロデュースするためにビジュアルを含め、全部自分でやってみよう見ていこうと思ったのが、2ndアルバムを出して、去年3月のライヴが終わったタイミングです。それに伴って、音楽ももっと勉強したいと思うようになって。それまでは勉強をすると、逆に感性を壊されるんじゃないかと思っていました。あまり色々な音楽を聴くと、自分の感性が薄まっていくんじゃないかという怖さ。歌詞も自分の中に閉じこもって掘っていくというか、マイナスのところを掘っていくことで、いい歌詞が書けると思っていました。もっというと、色々な人に会うこと、友達に会うことさえ避けていました」。

「自分のセンスを信じられるようになってきたのかもしれない」

ましのみというアーティストのオリジナリティにつながる、自分の中の圧倒的に“濃い”部分の成分を、絶対薄めないようにと、徹底した美学を貫いていたが、“自信”を手にしたことで、次のフィールドに立とうと思った。。

「どちらかというと自分のセンスを信じられるようになってきたのかもしれない、だからセルフプロデュースをしようと思えたし、私、意外と根幹強いかもしれないと思えたから他の音楽を聴いても、それをさらに技術的な部分を高めた上で、表現に活かせると思いました。色々な人と会っても、私は私の感性があって、話すことでそれがさらに浮き彫りになると思えたから、人と会うようになったし、自分のプロジェクトに対しては広い視野を持てるようになったというのが、ガラッと変わったという感じです」。

「『エスパーとスケルトン』を作ることができて、次のステージへ行けた感覚があった」

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“覚醒”した彼女は理想とするサウンドを求め、気になるミュージシャンたちに声をかけ、音作りを始めた。そんな中で「エスパーとスケルトン」という曲を作り上げたことで、「新機軸というか、次のステージに行けた感覚があった」という。この曲のアレンジとサウンドプロデュースを手がけたのはsasakure.UKだ。「sasakueさんが作る音は心地イイのに面白い。私は元々チープなサウンドが好きで、sasakureさんが作るあえてのチープさを感じさせてくれるサウンドというか、まるでおもちゃ箱の中のように、色々な音が詰め込まれているのに、でもそれがガチャガチャしている音楽でなく、洗練されたものに仕上がっているのが素敵だなと思って。ピアノと歌、それと“隙間感”というか空間は埋めないで、面白い音で飾りたいというイメージだったので、sasakureさんにお願いしました」。

そしてこの曲と共に、sasakure.UKと同時にレコーディングしていたのが、ドラマティックなボーカルが、サビがどこまでも拡がっていくようで、印象的なものにしている「薄っぺらじゃないキスをして」だ。“空間”を楽しむサウンドが心地いい。「今自分が持っているものを表現する術や、幅、とにかく色々なものを身に付けたいと思えたきっかけになったのもsasakureさんです。私がこれから音楽を続けていくとしたら、その音楽性は“『エスパーとスケルトン』の前と後”、という表現の仕方ができると思っています」。

「温かみのある、生活感的なところと聴き心地のよさ、でも違和感がある感じをこのミニアルバムで表現したかった」

そして冒頭で紹介したドラマ『死にたい夜にかぎって』(MBS/TBSドラマイズム)のOP主題歌に起用された「7(ナナ)」だ。アレンジはデビュー当時からタッグを組んでいる横山裕章。この曲をより印象的なものにしているのが、諸石和馬(ex.Shiggy.Jr)のドラムのフレーズと音色だ。このドラムにもましのみのこだわりがある。

「ドラマ主題歌のお話をいただいて作り始め、私の中でこのドラマのイメージがインディーズ映画っぽいというか、それを反映させたアレンジを細かく作って、横山さんに渡して、言葉でも伝えたら歪んだリバーブ感というキーワードを出してくれました。それと生音と打ち込みの融合。私は温かみのある、生活感的なところと聴き心地のよさ、でも違和感があるというのをこのミニアルバム全体を通してやりたかったんです」。

歪んだリバーブ感やラフな感じの中で、曲の中心にある熱さはしっかりと伝わってくる。「デビューしてから生音を入れるのが、自分のピアノ以外では今回が初めてで、ドラムの諸石さんにも、この曲に抱いているフィルム感とかテアトルで上映されてる映画っぽい感じというイメージを伝え、さらに何となく気怠るくて、ガチガチにリズムを固めるよりは、やっぱり隙間がある、ちょっとフラフラしている感じとか、とにかく言葉で伝えて叩いてもらいました。最高のドラムで感動しました」。

歌もこれまでとは明らかに変わった。「今までもテンポも例えば有線から流れてきて、耳につくようにという考え方だったのですが、それを落として横ノリになるようにしているし、単純に感情を込める歌い方をしやすくなりました。曲全体に隙間があるから心地よくて、歌うほうにも余裕が出てきて、歌っていて気持ちがいいです」。

「NOW LOADING」はパソコン音楽クラブがアレンジを手がけた。「機材オタクで(笑)、音楽の知識も本当にすごくて、個人的には昔のギターを使った音のよさと、リフのセンスがめっちゃカッコいいと思って好きになりました。ラフなデモを作って、自由にやっていただいたら、もう想像をはるかに越える素晴らしいものに仕上げてくれました」。

「のみ込む」は自身でアレンジを手がけた、ピアノとドラムのセッションが時にはヒリヒリ感を感じさせてくれながら、しかしピアノの音色が大きな温もりを感じさせてくれる一曲だ。レコーディング時のスタジオでの音を、最初と最後にさりげなく残し、“生活感”を出している。

「『のみ込む』に関しては、ピアノと歌でテンポに縛られず、でも弾き語りだけじゃなくて、環境音やパーカッションの生活を連想させるような音を入れたい、生活感と違和感を全曲で色々なバランス感でやりたかった中でも、生活感が強い曲かもしれません。テーマも恋愛を軸に、別れたりケンカしたりして落ち込んで一人でいる時とか、帰り道に聴きたい曲、その時の逃げ場所、気の休まる場所になるようなものを書こうと決めていて。ピアノを弾きながらスッと出てきた言葉をそのまま使っていて。諸石さんのドラムの温度感、空気感に感動が止まらなくて、レコーディングの時はずっと泣いていました」。

「うまくいかないことがあっても、その時が後から見ると大事な時間と思える肯定を、みんなと一緒にしたかった」

1stミニアルバム『つらなって ODORIVA』(3月18日発売/通常盤)
1stミニアルバム『つらなって ODORIVA』(3月18日発売/通常盤)

逃げ場、自分がひと息つくところ、場所としてのODORIVA=踊り場だ。「全曲通してふと休める場所になればいいなという踊り場もあるし、上手くいかなくて前に進めなくて、踊り場にいる時でもそれが一段となって、前に進む階段になっているから安心して休んでいていいというか、その時が後からみたら大事な時間と思える肯定を、自分を含めてみんなと一緒にしたくて。なので、踊り場が連なってというタイトルにして、後は辛くなったら踊ればいいじゃんっていう」。

今のましのみには“希望”しかない。踊り場経由で大きな歩幅で階段を昇り始めている。それもものすごいスピードで。「2019年初めに“開眼”して、今回の作品で初めて“面”で新しさが出せて、次のワンマンライヴが、ここからだなって感じがしているというか。今までは突き刺すような作品をリリースをしたかったのと同じで、ライヴも作り込んだものを観せたいという気持ちが強かった。でも最近は、ライヴも肩の力抜いて、作り込み過ぎず、生音も入れて、エレクトロに縛られず音を楽しむことができるようになって、お客さんのノリもよくなってきたと思うし、進化しているのを感じているので、全体を通して、“始めたて”という感じがします」。

5曲入りのとてつなく濃いこのミニアルバムを手に、ましのみが自身で道を切り拓いて進んでいく。「5曲っていいですね(笑)。それぞれが立ってくれて、頑張って作って、埋もれる曲がなくて、それぞれ引き立ててくれて、とっても幸せだなと」。

ましのみ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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