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宇都宮 隆 「常に新しい事を求めて」――ソロ28年、TM NETWORK35周年を語る 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

TM NETWORK35周年を記念してファン投票で選ばれた、“新時代・次世代”に向けたベスト盤

『Gift from Fanks T』(ソニー・ミュージックダイレクト/3月18日発売)
『Gift from Fanks T』(ソニー・ミュージックダイレクト/3月18日発売)
『Gift from Fanks M』(エイベックス/3月18日発売)
『Gift from Fanks M』(エイベックス/3月18日発売)

TM NETWORKのデビュー35周年を記念して、その楽曲の中から新時代・次世代に向け、伝えたい作品をFanks(ファン)の投票で決定したベストアルバム『Gift from Fanks T』が、ソニー・ミュージックダイレクトから、そして『~M』がエイベックスから、3月18日に同時発売された。応募総数10,557、その結果に基づいて70曲をセレクト。それぞれ35曲を3枚組のCDに収録。TM NETWORKのボーカリスト・宇都宮 隆に今回のアルバムについて、そして改めてTM NETWORKというグループについて、さらにソロ活動についてインタビューした。

ファン投票で上位にランキングされた、「当時からこれをやるってなったら、大変なイメージがあった(笑)」曲とは

まずは今回のファン投票の100位までのランキングを見ながら、その結果について聞いてみると――――

「ちょっと意外だったのが、7位の「ELECTRIC PROPHET (電気じかけの予言者)」(1985年11月)がこの位置にいるのが凄いなと。TMの曲の中でもサウンドを含めて異質な曲で、歌詞はTMっぽいと思いますが、サビ以外はラップ調というか“語りかけ”に近くて、例えば『クロコダイル・ラップ(Get Away)』のようなラップソングとはまたちょっと違う感覚で。当時から、歌っている身からすると長いし(約8分)、これをやるってなったら大変なイメージがあったんですよね(笑)。その曲がこの位置にくるのは面白いなと」。

「特に印象に残っているのは、曲というよりアルバム『CAROL〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』」

また、“特に印象に残っている曲を教えて下さい”という、難しい質問をぶつけてみるとしばらく考えて、「“印象深いもの”ということにしてもらえると助かります(笑)。楽曲ではなくアルバムですが、昔はロンドンをはじめ、割と海外でレコーディングすることが多くて、アルバム『CAROL〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』は、ロンドンで4か月くらいかけて作って、スタジオも二つ使って、そこを行ったり来たりしていたので、大変だったこと含めてすごく印象深い作品です」と、名盤の名前を挙げてくれた。

宇都宮 隆にとって、TM NETWORKとは

ちなみにファン投票ランキングの1位は「改めてやっぱりいい曲ですよね」という、「STILL LOVE HER(失われた風景)」(1988年)だ。昨年公開された大ヒット映画『劇場版シティーハンター~新宿プライベート・アイズ~』では、番組を彩った歴代の挿入歌やエンディングテーマが使用され、この曲も流れた。当時の最新型のエレクトリックサウンドをポップスとして昇華させ、10年間の活動の中でシングル25作、アルバム22作、ビデオ13本をリリース。多くの人を熱狂させたTM NETWORKというグループは、宇都宮にとって改めてどんなグループだったのだろうか。

TM NETWORK
TM NETWORK

「基本は小室(哲哉)なので、小室が示す方向性に向かって、たまたま一緒にやっていくことができた二人というか。小室が僕と木根(尚登)にお題を出して挑戦させる曲もあれば、一人で作り上げる曲もあって、後者は歌い手の僕にとっては難しく、『これどうやって歌うの?』っていう挑戦が多くて(笑)。小室が曲の大枠を作って、木根に『続きを作ってみてくれない?』って振ることも多くて、結果的に小室の曲を木根がアレンジするという意味でも、サウンド的にもやりやすくなるんです(笑)。僕と木根とはTMを結成する前のバンドから一緒だったので、そこまで大きな感覚のズレはないというか。小室と知り合ってからの木根の曲の作り方は、多少変わったと思います。それが“キネバラ”(木根のバラード)と言われるものになっていって、木根の曲はすごく歌いやすい方向のものが多いと思います。小室の曲の中でも凄く歌いやすい曲もありますが、そうじゃない曲がほとんどですけどね(笑)。TMは分担制という言葉が合っていると思います。二人とも作家で僕は歌うこととプロモーション担当で、三人でいつもスタジオにいたのは、初期の頃だけだったと思います。3枚目のアルバム『GORILLA』からは分担制になって、でも後になって思うと、その“距離感”もよかったのだと思います」。

「今の土台は、あの“濃い”10年ででき上り、育った」

今回の作品の特設ページに様々なアーティストからお祝いコメントが寄せられているが、木根もその一人で、そこでTM NETWORKというグループについて「宇都宮は昔から『これ歌って』というと『うん、いいよ』ってなんでも歌ってくれて。TMでもそれが続いていて、もし宇都宮が『こういう曲を歌いたい』とか、リーダーシップをとっていたら、TMは絶対に成立していなかった』と語っている。

「僕は僕で、今の土台があの濃かった10年ででき上がった、育った感じです。だからソロになった時は、何をやろうかなではなく、方向をどう絞ろうか、どこに行こうかなと、セルフプロデュースがすぐにできました。それはやっぱりあの10年間のおかげだと思います」と教えてくれた。

その“濃かった”10年間ことをさらに聞いてみると、「87年の「Get Wild」を出したあたりから、とにかく忙しすぎました。特に作り手の小室が一番大変だったと思います。対メディア、レコード会社、そしてオリコンのランキング等をいつも気にして作品を作ってきて、プレッシャーも大きかったと思うし、色々な部分で負担が大きかったと思います。その部分で、このバンドがどうやって維持できるのかを考えて、90年からは“TMN”という形でやっていって、でも“TMN”になってからは、なんとなく終了していくカウントダウンが始まった気がしました。最後のアルバム『EXPO』(91年)の時には、『きっとこれは…』と思っていたら、小室が「10年、区切りいいよね」って言うから『まあそうだけどね』って言いました(笑)。でも僕はそこで『いや、続けようよ』とは言えなかった。僕の中で、“終了”の前からソロが動き出していたので、とりあえず自分のソロをやってみようかなという気持ちに変わっていました」。

「成功したとかどうかではなく、ソロをやろうと思った時、演技の世界に飛び込んでいったことは間違いじゃなかった」

92年、T.UTUとしてソロデビューを果たし、TMNは94年東京ドーム2days公演を最後に「終了」した。「89年、TM NETWORKとしての活動が一旦休止して、色々考える時間ができて、レコード会社のディレクターから『ソロはどう?』と言われ、でもその時はソロ活動というのものが自分の中で漠然としていて、返事ができませんでした。その中で、音楽じゃなくてもいいかもなって思って、 子供の頃に憧れた俳優をやってみようかなという気持ちに切り替わって。でも今思うと、その考え方でよかったと思います。成功したとかではなく、そこに向かった自分がいて、TMNに戻ってきた時、また新鮮な気持ちで歌うことができて、僕の中では改めて音楽をやってよかったと思ったし、そういう気持ちの一年でした」。

89年『LUCKY! 天使、都へ行く』(フジテレビ系)で、ドラマ初出演を果たし、その後も数々のドラマに出演。表現の場を演技の世界の求め、追求していった。「ハッキリしているのは、演技をやってよかった結果が、後に出たということです。この時の経験がミュージカル『RENT』(98年)に繋がったと思っています」。96年に宇都宮隆名義でソロ活動をスタートさせ、98年にブロードウェイミュージカル『RENT』日本公演に、主役・ロジャー役として出演し、注目を集めた。“日本版ロジャー”をどう演じ、どう歌うのかを徹底的に追求し、全71公演を見事に演じ切った。この時の経験が、その後のアーティスト活動に大いに役立ったという。

「そこで対応できたのは、一年間音楽を離れ、演技の世界に身を置いたことが大きいと思うし、自分のライヴでは観せ方に関してはいつも舞台感覚で作っているので、音楽のライヴとしてだけ観ていない自分がいて。特にオープニングとエンディングをどうしようかというのは、レコーディングが終わってから常に考えています」。

ソロツアーで全編TM NETWORKの楽曲をカバー。その選曲基準は?

その後、TM NETWORKとしての活動を再開する年があったものの、T.UTU with The Band、BOYO-BOZO、U_WAVE、そしてTakashi Utsunomiyaとしてソロ活動を軸に、ファンを楽しませてきた。昨年行ったツアー『Takashi Utsunomiya Tour 2019 Dragon The Carnival』(全国7都市12公演)は、今年2月、中野サンプラザで2日間の追加公演を行い、大盛り上がりのうちに幕を閉じた。このツアーは全編、TM NETWORKの楽曲をセルフカバーするという新しい試みで注目を集めた。

『Takashi Utsunomiya Tour 2019 Dragon The Carnival』(Blu-lay/4月21日発売)
『Takashi Utsunomiya Tour 2019 Dragon The Carnival』(Blu-lay/4月21日発売)

「2018年のツアーで3キーボード、1ギターいう変則的な編成でやって、それが衝撃的だったみたいで、みなさんから『また観たい』という声を多くいただいて、そうは言っても僕の中ではやり切ったので完結されていて、これ以上のことはできないと思いました。でも評判がすごくよかったし、今年がTMの35周年というタイミングでもあって、同じことはやりたくないと思っていたので、カバーというアイディアを思いついて。それでセットリストをどうするか考えて、まずみなさんに喜んでもらえる曲、そして自分がこのメンバーとやってみたい曲、それとこの時点での自分的なTMベストという見方から、選曲しました」。

キーボードはバンマスの土橋安騎夫(REBECCA)、そして浅倉大介(access)、nishi-kenの3人、ギターは北島健二(FENCE OF DEFENSE)という、TMと縁が深い豪華なメンバーがバックを支え、圧巻のサウンドと歌にファンは熱狂した。そのライヴを余すことなく収録した映像作品(Blu-ray)が、4月21日に発売される。

しかしこの企画でのライヴはこれで終了だという。「同じことは二度とやらない。“その次”は、常にガラッと変えてこれまでやってきた」と、27年間ソロでやってきた自信、そして常に革新性を求め、ファンの期待に応えてきたという自負がある。

「最近は次へ向かおうとする気持ちが生まれるのが、今まで以上に早くなっている気がする」

「もちろんファンがいるから頑張ることができるし、その存在が大きいけど、期待は時に…重いですね(笑)。重いなと思いながら、『ですよね』という気持ちもあるし(笑)。最近は次へ向かおうとする気持ちが生まれるのが早い気がします。60歳を越えたからかなと思うんですよね、そんなに余裕がないんだなと。余裕がないというか、やりたいことが多すぎて、早めに考えて、やっていかないと間に合わないなって(笑)」。

年齢のことが出てきたが、宇都宮は2013年に大きな病気を経験しているが、それも影響しているのだろうか。本人は「大っぴらにしたくなかった」とこれまでそのことについては多くを語ってこなかったが、病気以降、歌うことについてや、人生観のようなものに変化があったのだろうか。

「あの時は、歌に関しては、どうなっていくんだろうという不安がありましたが、しっかり歌えるようになって、歌への思いは病気をする前と後ではそんなに変わっていないです。ただ音楽以外の部分で変わったと思うことがあって。それは人に関して敏感になってきた気がします。人は嫌いじゃないけれど、相手が僕のことをどう思っているのかなということが、より気になって。それによって対処や付き合い方も変わってくるだろうし、そこが変わった部分です」。

「僕の東北に対しての思いを伝え続けることができる」大切にしているライヴ「それゆけ歌酔曲!!」

宇都宮が大切にしているライヴが2015年からスタートした『LIVE UTSU BAR TOUR「それゆけ歌酔曲!!」だ。今年もその『~ギア‐レイワ2』が行われる。懐かしの歌謡曲と洋楽とをマッシュアップさせた絶妙なアレンジで、毎回楽しませてくれる。

「最初は東日本大震災の復刻支援のチャリティーから始まった企画で、それが好評だったので、ツアーをやろうよという話になりましたが、ここまで続くとは思っていませんでした。でもこれを続けることは、僕の東北に対しての思いも伝え続けることができます。この企画がダメだったら、また違うことを考えようと思っていたのですが、好評だったのと、今は東北への支援がメインですが、台風等の自然災害で大変な思いをしている方の元に一刻も早く、大した額ではないですが、義援金を届けるということが多いです」(※『LIVE UTSU BAR TOUR 2020 「それゆけ歌酔曲!!」 ギア-レイワ2』 の公演中止・延期が発表され、4月7日(火)の公演を急遽、ニコニコ生放送で『LIVE UTSU BAR それゆけ歌酔曲!! ニコ生スペシャル』として無観客ライブ配信することが決定。詳細はオフィシャルサイトまで)。

流れが激しい音楽シーンの中で40年近く歌い続け、ファンを熱狂させてきた。時代が変わり、CDに代わって、ストリーミングなどデジタル配信がメインになってきたり、聴き手の音楽を聴く環境も劇的に進化してきた。双方に大きな変化が訪れた今、宇都宮がやりたい音楽、歌うべきものは、変化してきているのだろうか。

「今はライヴやアイディア勝負の時代」

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「流れてくる音楽が、流行りのジャンルだと逆に耳に入ってこないことが多いですが、何か突拍子もないことをやっている人がいると、面白いなと思って感化されて、そこからオリジナルのものに昇華させていったりします。今はライヴやアイディア勝負に変わってきた感じがします。そのアイディアで面白いことをやって、そこから面白い音楽ができればいいなと思っています。ライヴができるのであれば、ライヴをメインにやっていくべきだと思います。いい音楽を作るためには資源が必要で、それがなければせっかくいい音楽を作ろうと思っても、作ることができないですよね、色々な意味で。かといって、過去に出したものばかりを、ライヴでやるのもどうかなと思います」。

常に新しい宇都宮 隆の姿をファンに見せ、楽しませ続け、思いを伝えていく。

otonano 『Gift From Fanks』特設サイト

宇都宮隆 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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