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現代アートと音楽が“はちあわせ”し、“新しいもの”が生まれる瞬間に出会える場所『鉄工島フェス』

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

3回目を迎えた『鉄工島フェス』、11月3日に開催

『鉄工島フェス』というライヴイベントを知っているだろうか?2017年に東京都大田区京浜島で第1回目が開催された、音楽とアートの祭典で、今年も11月3日に開催される。

「鉄工島FES 2018・エントランス(VISCUM FLOWER STUDIO_市川平)」(C)花坊
「鉄工島FES 2018・エントランス(VISCUM FLOWER STUDIO_市川平)」(C)花坊

世界のトッププレイヤーが集まる、知られざる人工の島・京浜島。世界的にも貴重な技術をもった鉄工所や職人が集まる「人工島」が、この場所に存在していることは、あまり知られていないかもしれない。そんなものづくりの最前線の島にある工場の跡地を、アーティストの創作の場、芸術の発信基地として生まれ変わらせようと誕生したのが、滞在型アートファクトリー「BUCKLE KOBO」だ。さらに、ここを中心に島内をサーキットしながら、アートや音楽を体験、体感できるイベントとして誕生したのが『鉄工島フェス』だ。規模を拡大しながら、今年3回目を迎えるこのフェスが目指すもの、来場者にこのフェスを通じて感じて欲しいものを、スタッフ、出演アーティスト、ミュージシャンに聞いた。

「“工場×アーティストのかけあわせ”が生まれるきっかけ作りとして『鉄工島フェス』がスタート」

「鉄工島FES 2018」(C)菊池良助
「鉄工島FES 2018」(C)菊池良助

「須田鉄工所の一部に『BUCKLE KOBO』ができたのが2016年。作家が滞在制作をする中で、工場の皆さんとのコミュニケーションが生まれ、感じたのが『同じものづくりをする者だから』という“ものづくりの魂”でした。それを伝えたいと“工場×アーティストのかけあわせ”が生まれるようなきっかけ作りとして『鉄工島フェス』がスタートしました。形が見えない中で、一緒に実現に取り組む中で、普段と違う思考回路が生まれたり、発見があったりするといいな、そしてそれが来た皆さまに少しでも伝わったり、考えるきっかけになればいいなと思っています」――同フェスの事務局長・伊藤悠氏が、このフェスを立ち上げた時の「志」と、フェスを通して社会や世間に感じて欲しいことを教えてくれた。まずは京浜島という“場所”の空気、そしてそこでアーティスト達のモノ作りの“魂”を感じてもらうことが、来てくれた人の何かの“気づき”に繋がると嬉しいという。

「京浜島は“新しいものが生まれる場所”」

「鉄工島FES 2018・和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」(C)行本正志
「鉄工島FES 2018・和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」(C)行本正志

京浜島というと、羽田空港を離発着する飛行機を間近に見る事ができ、BBQも楽しめる公園として幅広い層に人気の、つばさ公園が有名だが、世界水準の技術者たちが集結している、重要なクリエイティヴ拠点でもある。そんな工場の街・京浜島は、このフェスに携わっている人にとって、どんな“場所”なのだろうか。

「“新しいものが生まれる場所”です。アーティストも、モノづくりの職人も「新しいもの」を作ろうとする時に“産みの苦しみ”を超えていかなくてはいけないのは同じです。その苦しみを乗り越える強い意志や生命力、そして超えた先の“新しいものを生み出す”喜びが、ここにあります。そんな生物として根源的に私達の心に宿るものを、職業や身分を超えてたくさんの人たちと共有できる場所になると信じています」(同フェス実行委員会副委員長/ムソー工業 尾針徹治氏)。

現在までに発表されている今年の出演者は、ライヴアクト出演アーティストとして、石野卓球、mouse on the keys、FNCY、chelmico、DADARAY、Far East Westerners、IRON ISLAND SESSIONS(Ba:Shingo Suzuki, Gt:Michael Kaneko, Dr:伊藤大地, Key:別所和洋)、さかいゆう、佐藤千亜妃、DedachiKenta、Michael Kaneko、成山 剛(sleepy.ab)、横田信一郎、welcome cheerleading:Zgirls and more…、アートワーク参加アーティストとして、SIDE CORE、西野逹、快快、さわひらき、中野仁詞、∈Y∋、市川平、中島崇、鯰、ケケノコ族、VISCUM FLOWER STUDIO、INDUSTRIAL.JP、平田尚也、Naomi Yamaguchi、Reel-to-Reel / りーるとぅりーる、スナックその、山本芙沙子というラインナップだ。

「音楽と現代アートの垣根がなくてとてもいい」

「鉄工島FES 2018・石野卓球」(C)行本正志
「鉄工島FES 2018・石野卓球」(C)行本正志
「鉄工島FES 2018・SIDE CORE(Nampei Akaki、牧唯_NNNI)×コムアイ(水曜日のカンパネラ)」(C)越間有紀子
「鉄工島FES 2018・SIDE CORE(Nampei Akaki、牧唯_NNNI)×コムアイ(水曜日のカンパネラ)」(C)越間有紀子
「鉄工島FES 2018・SIDE CORE(Nampei Akaki、牧唯_NNNI)×コムアイ(水曜日のカンパネラ)」(C)越間有紀子
「鉄工島FES 2018・SIDE CORE(Nampei Akaki、牧唯_NNNI)×コムアイ(水曜日のカンパネラ)」(C)越間有紀子

参加するアーティストは、このフェスをどう捉えているのだろうか?まず、海外でも高い評価を得ているインストゥルメンタルバンド・mouse on the keys の川崎昭(D)は、「現代アート・スペースでは、サウンド・アート系の音楽は取り上げられますが、アカデミックではない音楽、特にバンド系はほぼほぼ相手にされないですよね。その点、『鉄工島フェス』は、音楽と現代アートの垣根がなくてとてもいいですね。しかも開催場所が京浜島って粋だな~。ホワイトキューブでもなく、ライブハウスでもない鉄工場でアート作品やライヴが体感できるって最高!建造物や配管フェチの僕は、今から興奮して寝れません」と、音楽と現代アートの垣根を越え、音を鳴らすことに意味と意義があると教えてくれた。

「BUCKLE KOBO」の運営にも携わっている、ストリートアート、グラフィティなど、都市での表現をテーマに活動するキュレーションチーム・SIDE COREのメンバー、ジャンゴこと高須咲恵は「鉄工島フェスのきっかけとなっている『BUCKLE KOBO』は、普段からアーティストスタジオとして稼働しています。SIDE COREも『BUCKLE~』の運営メンバーとして普段から制作しています。フェスに関わっている人について話すと、『BUCKLE~』の大家、須田(眞輝)さん(同フェス実行委員会・代表)をはじめ、ものづくりしている工場が多いこともあってか、作品に興味を持ってくれたり、意見をくれる人もいます。『なぜこれをつくっているか』『売れそう、売れなさそう』など、結構突っ込んだ話もします。別の工場には、作品を作りながら働いてる人もいたり、アーティストに対して理解をしてくれている人も多いですね。あと猫好きの人が『BUCKLE~』周辺には多いです。来るとわかるけど、すごく独特の環境です」と、京浜島という環境、「BUCKLE BOKO」を中心とした、自分達の大切なコミュニティから発生した、生活の延長線上に位置するフェス、地元のお祭りという感覚が強い。

「“鉄工島”でしか見えないような光景に、はちあえたら」

「鉄工島FES 2018・PBC・山車ステージ(山本修路_市川平)」(C)菊池良助
「鉄工島FES 2018・PBC・山車ステージ(山本修路_市川平)」(C)菊池良助
「鉄工島FES 2018・KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)・山車ステージ(山本修路_市川平)」(C)行本正志
「鉄工島FES 2018・KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)・山車ステージ(山本修路_市川平)」(C)行本正志

「京浜島フェス」ではなく「鉄工島フェス」。このタイトルにこそ、このフェスに携わる人の思いが映しだされている「京浜島が1日だけ、架空の“鉄工島”になる。その夢のような1日は、島の至る所で作品に出会ったり、角を曲がったら音楽が聴こえたり、道路がライヴ会場になっていたり、普段は黒子のモノたちが主役になってオブジェやモニュメントになったり、そんな想像もしない風景が生まれるといいなと思っています。作家さんもなるべくこの場に来てもらって構想しているので、この“鉄工島”でしか見えないような光景に、はちあえたらと思います」(前出・伊藤氏)と、第3回目の今年、さらに深く深化した、ここでしか感じられない“瞬間”を作り出してくれそうだ。もちろんフェスの楽しみのひとつ、フェス飯も充実している。

日常と非日常が存在する“鉄工島”に足を踏み入れ、そこで繰り広げられているアーティスト達の“魂の共演”を目の当たりにした瞬間、何かに“気づき”、自分の中に何かが生まれるかもしれない。例えその時は何も生まれなくても、いつか何かを“クリエイト”する時間と向き合った時、このフェスで感じた、記憶の中に残っている刺激のカケラが、大きなエネルギーに変わるかもしれない――。

『鉄工島フェス』 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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