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デーモン閣下×劇団☆新感線の劇中歌集が話題 「人間になったと仮定して書いている歌ばかりだから面白い」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ アリオラジャパン

デーモン閣下×劇団☆新感線、強烈な個性が、34年前に大阪で出会う

『うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-』(10月16日発売/通常盤)
『うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-』(10月16日発売/通常盤)

デーモン閣下と劇団☆新感線。四半世紀にわたりリスぺクトし合う関係だ。10月16日にリリースされたデーモン閣下のソロアルバム『うた髑髏(どくろ)-劇団☆新感線劇中歌集-』は、デーモン閣下と劇団☆新感線がコラボレーションし、生まれた数多くの楽曲から選りすぐったものだ。まさにロックオペラのベスト盤というべき内容の、ロックファンも演劇ファンも納得の、豊潤で強く美しい作品に仕上がっている。閣下にこの作品について、そして新感線との関係とその魅力についてインタビューした。

ふたつの強烈な個性の出会いは、今から遡ること34年前の魔暦前14(1985)年。聖飢魔IIが地球デビュー前に、大阪のライヴハウスで行った黒ミサに、当時大阪に拠点を置いていた新感線主宰のいのうえひでのり氏、古田新太氏ら劇団員が観にきたたことがきっかけだった。お互いに同じ“匂い”を嗅ぎ取った2組はすぐに意気投合した。

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「34年経っても、お互い生き残っているだけじゃなく、活躍しているところが嬉しいよね。黒ミサをやった時に、いのうえ氏たちが観に来てくれたんだけど、それは後で聞かされた話で、その時は知らなかった。同じ年に大阪でまた黒ミサをやった時も観に来てくれて、その時も吾輩ではなく侍従に『音楽にヘヴィーメタルを使い、こういう舞台をやっている劇団で、コラボレーションできると嬉しいです』と挨拶をしてくれていたらしい。でも、吾輩の耳まではまだ入ってきていなかったんだ。それから何年か経った魔暦前9(1990)年、吾輩が最初のソロアルバム『好色萬声男』を出すことになって、このアルバムは曲によってミュージシャンの顔ぶれがガラッと変わるから、ライヴをやるのが困難な状態だったんだ。それで、当時の担当A&Rが演劇がとても好きで、吾輩も演劇の経験があるので、じゃあアルバムの曲をほぼ使った芝居をやろうと。その時に主に小道具で新感線のスタッフ協力してもらって、そこから交流が始まったね」。

「劇団☆新感線の魅力は“漫画”の世界を具現化してくれるところ。2.5次元の超先駆け的存在」

それ以来閣下は、東京で新感線の舞台があるときは足繁く通い、シンパシーを感じ、やがて新感線の舞台に立つことになり、黒ミサの演出を手掛けてもらうという関係に発展する。魔暦元(1999)年の聖飢魔II解散時、東京ベイNKホール3daysミサの最終日、伝説のラストシーンはいのうえ氏が演出。新感線の面々も出演した。

「聖飢魔IIの世界と、全く同じではないけど、随分重なる部分があるなと思った。新感線が劇中で使う音楽がハードロック、ベヴィーメタルが中心であるということはともかくとして、物語の中で、それがシリアスなものであっても、必ずくだらない笑いが入ってくる。聖飢魔IIも笑いを導入していたけど、当時はあそこまで砕けた笑いではなかった。でもそれは表現上そうしていただけで、笑いが嫌いなわけじゃないし、むしろ笑いがみんな好きなので、ここのところの再集結では、聖飢魔IIのトークはもはやお笑いのコーナーと化してるくらいなので、昔の新感線に近づいているといえる(笑)。彼らがここまで支持される理由はたくさんあるけど、一番は“漫画”だからだと思う。漫画の世界を具現化してくれるところ。普通はコミックスを読んでる時に、これは立体ではできないだろうと思うことを立体でやってくれるから、今2.5次元っていうのがもてはやされているけど、それの超先駆けだよ彼らは」。

「吾輩がこのステージに立ったら面白いだろうなと思っていた」

初めて観た時から、一緒に舞台に立ちたいという思いはあったのだろうか?

「あったね。立ちたいという思いが、すごく強かったわけじゃないけど、吾輩がこのステージに立ったら面白いだろうなという風には思ってたね」。

それが実現するのが魔暦前4(1995)年の『星の忍者~Stranger in a Strange Star』(大阪・サンケイホール/東京・池袋サンシャイン劇場)だ。古田新太氏、橋本じゅん氏、橋本さとし氏、高田聖子氏らと共演し、劇中歌数曲を書き下ろし、今回のアルバムに収録されている劇中歌も、この舞台からのものになる。この公演は一万人を動員し、大盛況だった。

「主演のようなものだね。吾輩は、世を忍ぶ仮の姿で、俳優養成所に通っていたこともあって、そこで時々定期公演があったけど、主演はほとんどやったことがなかった。もっと遡ると、世仮の小中学生の時の学芸会ではほぼ毎年主演をやっていたので、主演には慣れている(笑)」。

前々回のソロアルバム『EXISTENCE』の時のインタビュー時、閣下は、プロデューサーから「映画やアニメーションのテーマ曲を書くのはすごく得意なのに、どうぞ自由に書いてくださいというと筆が進まない」と言われたと明かし、そういう意味では劇中歌というのは、元々得意とするところだったといえる。『星の忍~』以降も、新感線初の本格的ロックミュージカル『SHIROH』(2004年)の劇中歌の作詞、『髑髏城の七人』シリーズ(2017~18年)の『~Season月』の作詞と、連続公演最終作『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極』の作詞と歌を担当した。

「今回の作品には、自分のアルバム、聖飢魔IIの作品では書くことがない単語が山のように入っている。だからこのアルバムは面白い」

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「今までも、何かテーマを提示されて曲または詞を書いてくれと言うものは、そんなに下手ではないと薄々は思っていた。昨年の新感線の「髑髏城シリーズ」で久々に十数曲書いて、今回のアルバムには7曲入っているけど、これはひょっとすると得意なのかもしれないと思ったね。今たまたまいい時期なんじゃないのかな。それは聖飢魔IIも含めると、今まで約400曲くらい歌詞を書いていて。そのほとんどはゼロから作るものだった。だからある程度までいくと、どうしても同じような歌ばかりになってしまうんだな。自分自身がそんなに変わるわけではないので。だけど一方、舞台の世界観で、こういう物語のこういうテーマソングを書いて欲しいと言われて書くのは、ゼロから作るものと違って、書く機会もそんなに多くなくて、引き出しも使ったことがない単語もいっぱいあるので、大丈夫なんだな。実際に今回のアルバムに入っている曲たちは、自分のアルバム、聖飢魔IIの作品では書くことがない単語が山のようにあるからね。例えば「いきる」(『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極』より)という曲は、ドラマの最終盤、主人公たち6~7人が友達を救いに行き、天魔王を倒すシーンで、さあ行くぞ!絶対みんな死なないで明日生きて会おうねっていう内容にしたい、だから歌詞はそのままなんだな。そんな歌、悪魔は歌ったことないので。生きてまた会おうねっていう内容の歌は、全く似合わない。何言ってんのあんたって(笑)。普段は死ねって言っているのに、30年以上守ってきたアイデンティティが崩壊する曲だ(笑)」。

2コーラス目から先を、今回新たに書き足した「いきる」には<めざめて見よう、夢の続き一緒に見よう>など、築き上げてきたアイデンティティが崩れそうな言葉を使っているが、「だからこのアルバムは面白い」(閣下)と、劇団☆新感線が持つ世界観やその熱さに職人魂が突き動かされ、作家として劇中歌と向き合っている。

「まず、多くの曲を書いてくれている、岡崎 司氏が書くメロディが素晴らしい。吾輩が劇中歌を書いている時は、それを吾輩が歌うのではなく、劇の中の人が歌うものだと割り切って作っているので、そこに悪魔フィルターは存在しない。だからとても新鮮で、悪魔フィルターなしで歌詞を書いているけど、歌詞を書くという作業は、どんなにこういう設定ですよって言われても、心にもないことは書けないね、やっぱり。自分が、人間になったと仮定して書いている珍しい歌なので。人間が、とか歌ってるんだな」。

お茶の間の人気者というポジションについて

閣下といえば舌鋒鋭いコメンテーターとして、また相撲評論家、ご意見番としてお茶の間の人気者だが、聖飢魔IIのヴォーカルということも知らない人も多い。お茶の間の人気者というポジションを、閣下はどう捉えているのだろうか。

「何年か前にテレビ番組のロケで、市電に乗っていたら、年配の女性がこちらを見て、『ほら、相撲の』って言われて(笑)。違うから、それ最初に来るやつじゃないから。でもコメンテーターという仕事も、続いているに越したことはないかなという認識はあるね。絶対やっていなければいけない仕事だとも思わないけど、それをやることによって社会的な認知度が変わってくる、イメージとかも含めて。若い人で聖飢魔IIのことを知らない人が多いね。寂しいけど仕方ないかな。でも今年は、May J.嬢と「愛が生まれた日」をデュエットして、久々に『ミュージックステーション』に出たり、NHKの『うたコン』にも出たり、魔暦21(2019)年は歌手アピールの年になってるね」。

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『うたコン』でテレビ初披露した「修羅と極楽」は、魔暦20(18)年3月17日~5月31日、IHIステージアラウンド東京で上演された劇団☆新感線の演劇『修羅天魔〜髑髏城の七人 Season極』の表題曲で、劇中では閣下が歌うサウンドトラックの1コーラス目だけが流された。今回、アルバムに収録する為に、2コーラス目から新たに書き足され、リアレンジ。同曲のMUSIC VIDEOが公開されている。『髑髏城の七人』シリーズの天魔王と鉄機兵が登場し、演劇とは違うストーリーで楽しませてくれ、閣下の圧巻のヴォーカルが響き渡る。また、初回生産限定盤特典DVDには「修羅~」のMUSIC VIDEOと、いのうえ氏と古田新太氏、閣下によるスペシャル座談映像が収録されている。3人でのトークでは、出会いと楽曲についてなどが語られ、このアルバムをより深く楽しむことができる。

『うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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