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BBS中野雅之が『PSYCHO-PASS』テーマソング集でみせた、リミックスの“その先”の世界

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
BOOM BOOM SATELLITES中野雅之

『PSYCHO-PASS Sinners of the System』×BOOM BOOM SATELLITES中野雅之

(C)サイコパス製作委員会
(C)サイコパス製作委員会

人気アニメ『PSYCHO-PASS』の劇場版『PSYCHO-PASS Sinners of the System』が、『Case.1 罪と罰』『Case.2 First Guardian』『Case.3 恩讐の彼方に__』の三部作として、1月25日から順次公開されているが、この主題歌/エンディングテーマをBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之が手がけ、注目を集めている。

『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+ Dedicated by MASAYUKI NAKNO』(4/3発売:初回生産限定盤)
『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+ Dedicated by MASAYUKI NAKNO』(4/3発売:初回生産限定盤)

オリジナル作品ではなく、テレビシリーズの主題歌/エンディングテーマとして人気の、凛として時雨の「abnormalize」、EGOISTの「Fallen」「All Alone With You」「名前のない怪物」のリミックス、さらに、今回の劇場作品3作には起用されていないが、過去に同アニメシリーズを彩った、ファンにはおなじみのNothing’s Carved In Stone「Out of Control」、そして凛として時雨「Enigmatic Feeling」「Who What Who What」のリミックスを手がけた。この7曲が収録されているアルバム『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+ Dedicated by MASAYUKI NAKANO』として4月3日に発売され、好調だ。

BOOM BOOM SATELLITESは、2016年6月に最後のEPをリリースし、同年10月にボーカル・川島道行が逝去。2018年3月に最後の映像作品『FRONT CHAPTER- THE FINAL SESSION- LAY YOUR HANDS ON ME SPECIAL LIVE』を発売。この作品は中野雅之初ソロ名義ということで、PSYCHO-PASSファンのみならず、中野ファンにとっても待望の作品だ。BOOM BOOM SATELLITESの活動停止後、中野は「中野ミュージック」を立ち上げ、プロデュースや作曲、アレンジ活動を本格的にスタートさせ、ねごと、XAI、MAN WITH A MISSIONなどのプロデュース、アレンジを手がけている。

「リミックス」の範疇を超えた「リノベーション」で、シリーズのファンの思い入れを最大限に尊重しながら、原曲に新たな世界観を纏わせる

「リミックス」という言葉を使っているが、その完成度は「リミックス」の範疇を超え、まさに“リノベーション”と言いたくなるクリエイティヴが施され、シリーズのファンの原曲に対する思い入れを最大限に尊重し、曲に新たな世界観を纏わせている。中野も今回の取り組みついて「リミックスというよりは、楽曲にもう一度違った角度から光をあてて新たな魅力を引き出すリプロデュースのような感覚で挑んだ」と言っているように、きちんと“歌モノ”として光を当て、聴き手に届けようという思いがアレンジに表れている。

この物語は、人間の性格や心理までも数値化され、それを指標にして生活し、有害なストレスから解放された「理想的な人生」を送るという、まるでAIが人類の知能を超えてしまうといわれている、現代世界をデフォルメしたような、近未来の世界での人間模様を描いている。

写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

SFは、より人の存在をクローズアップさせるジャンルでもある。『PSYCHO-PASS』も、その物語を盛り上げる、叙情的なメロディが印象的な楽曲が多く、多くのファンから愛されている。そんな曲達をリミックスするということは、プレッシャーもあったと思うし、そんな中で、なにより原曲を超える“何か”を聴き手の心に残し、想像させなければいけないし、原曲、アニメの世界観も念頭に置いた作業が求められる。中野の個性と、アニメーション、原曲の個性とがまさにしのぎを削りながらも、それぞれの世界観をしっかりと一曲の中に描き切っている。メロディはよりエモーショナルに、歌もさらに熱を帯びて聴き手に向かってくる“リノベーション”を施した。

「全曲とんでもないです!」(EGOIST・ryo(supercell))

凛として時雨のTKは「極限まで突き詰めた音楽の形には もしかしたら続きがあったのかもしれない。「唯一無二」は掟を破って二つ目の命を手に入れました」とコメント。EGOISTのryo (supercell)は「全曲とんでもないんです!特にFallenは自分の一番のお気に入り曲であるブンブンサテライツのFOGBOUNDのアルバム版を初めて聴いた時のような衝撃、、、。これ別に自分の曲だからとか関係なく聴く人が聴けばわかる、日本の音楽で一番の才能を有してるのは中野さんを置いて他はいないっていう事実。驚異でしかないサウンド、是非多くの人に聴いて頂ければと思います」と、コメント。Nothing’s Carved In Stone・生形真一も「自分達の曲が元になっているとはいえ全く違う世界観。

ひとつの壮大な物語を聴いているような感覚になりました」と、原曲を制作したアーティストも新鮮さと驚きを感じ、その手腕に脱帽した様子だ。

『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+ Dedicated by MASAYUKI NAKNO』(通常盤)
『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+ Dedicated by MASAYUKI NAKNO』(通常盤)

『PSYCHO-PASS』は深夜アニメの枠から、劇場版という新しい「場所」へと飛び出し、大きくなっていった。物語の核となる部分は不変だが、音楽は聴き手に、さらなる感動やイマジネーションの広がりを感じさせることで、物語に対してより“自由”になり、そして寄り添う。原曲を最大限にリスペクトし、新しい空気で包み、聴き手の心の奥深いところまで届けようとする、『PSYCHO-PASS Sinners of the System Theme songs+ Dedicated by MASAYUKI NAKANO』は、ある意味、潔い作品だ。

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音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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