Yahoo!ニュース

大瀧詠一の音楽に魅せられた、ネクストジェネレーションのアーティストによるカヴァー集が話題

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
11/4渋谷ストリームホールで行われたアルバム発売記念ライヴ

大瀧詠一の名曲の数々を、インディ・ポップの若手アーティスト12組が、それぞれの解釈でカヴァー

2013年の早世以降も引き続き日本のポップス界で存在感を放ち、愛され続けている大瀧詠一。彼のレーベル、本家本元ザ・ナイアガラ・エンタープライズの楽曲管理部門 ARAGAIN (NIAGARA を逆から読んだアナグラム)が制作協力した「大瀧詠一 Cover Book -ネクスト・ジェネレーション編-『GO! GO! ARAGAIN』」が話題だ。大瀧やはっぴいえんどからの影響も色濃い、インディ・ポップの若手アーティスト12組が、それぞれの解釈でカヴァー。11月3日の「レコードの日」にあわせてアナログ盤でリリースされ、12月3日にはCDでも発売された。この作品のプロデューサーであり、大瀧作品を語る上では欠かせない坂口修氏に、この最新型のカバー集について話を聞いた。

「《ナイアガラ》名義になると、ちょっと堅苦しくなるというか、動きが大きくなってしまい、色々調整が必要になる。でも《ARAGAIN》名義ならカジュアルに動けて、色々な人に大瀧の作品をカバーしてもらえることが、より広がっていくのではと思った」

bjons
bjons
Spoonful of Lovin’
Spoonful of Lovin’
ayU tokiO
ayU tokiO
やなぎさわまちこ
やなぎさわまちこ
秘密のミーニーズ
秘密のミーニーズ

「2018年で4年目になる「レコードの日」に合わせて、主催者サイドから、オリジナル企画のアナログ盤で、大瀧詠一さんのカヴァーアルバムを出したい、という打診が、春頃にありました。同じタイミングで、『EIICHI OHTAKI Song Book III 大瀧詠一作品集Vol.3 「夢で逢えたら」(1976〜2018)』(3月21日発売)という、古今東西の「夢で逢えたら」のオリジナル&カヴァー全86曲集めたアルバムを発売し、やっぱり大瀧の楽曲がそれだけ色々な人に歌われるというのは、すごくありがたいと改めて感じていて。それで、いただいたお話を前向きに考えました。でも《ナイアガラ》名義になると、ちょっと堅苦しくなるというか(笑)、動きが大きくなってしまい、色々調整が必要になってきます。なので、ザ・ナイアガラ・エンタープライズの楽曲管理部門として作られた《ARAGAIN》名義ならその宣伝にもなるし、カジュアルに動けて、色々な人に大瀧の作品をカバーしてもらえることが、より広がっていくのでは?、と思いつきました。また当初、『GO! GO! トリビュート to NIAGARA』というタイトルをご提案いただいたのですが、実は、大瀧は“トリビュート”という言葉をあまり好きではなかったので、それでは大瀧詠一 Cover Book シリーズの孫世代版、ネクスト・ジェネレーション編として『GO! GO! ARAGAIN』でいきましょうと。ちょうど、ラジオ日本開局60周年記念の特番として「ゴー・ゴー・ナイアガラ」のアーカイブ放送が、「大瀧詠一『ゴー・ゴー・ナイアガラ』ベストセレクション」と題して、開局日の2018年12月23日から、2019年3月31日まで毎週日曜深夜25時にオンエアされることが決定していたので、それともリンクするようこのタイトルにしたのです。番組では、世代を超えて聴いてもらえるように、このアルバムから毎週1アーティストずつ、テーマ曲として使用されています」。

インディシーンの若い世代のアーティストから見た大瀧詠一

2013年の急逝から5年。大瀧が日本の音楽シーンに残したポップスの“種”は、これまで数多くのアーティストの血となり肉となり、花開いた。日本のロックバンドの原点という位置づけとして語り継がれるはっぴいえんどから、ソロ、プロデュース作品まで、その日本のポップスに残した足跡はあまりにも大きい。今回アルバムで大瀧の楽曲をカバーしたのは、今注目を集めているインディーシーンを彩る若い世代のアーティストだ。シャムキャッツキイチビール&ザ・ホーリーティッツトリプルファイヤー柴田聡子といったJポップインディの人気アーティストから、大瀧の影響をあまりに強く受けすぎ、入間の米軍ハウスをスタジオに改造してしまったという笹倉慎介と、元・森は生きているのメンバー等によるOLD DAYS TAILORbjonsSpoonful of Lovin’ayU tokiOやなぎさわまちこ秘密のミーニーズさらにレコ―ドショップでアナログ盤を探している時に、偶然、テレビ東京系の人気番組『家、ついて行ってイイですか?』に声を掛けられ、登場して以来話題を集めている、なんと中学3年生(!) の大瀧フォロワー・KEEPON(キーポン)など、ユニークなアーティストが揃った。

中学3年生の大瀧詠一フォロワー・KEEPONに注目

KEEPON
KEEPON
少林兄弟
少林兄弟

「KEEPON君の出た『家、~』を観ていたら、レコードショップで若いのにマニアックなレコードを選び、その中にナイアガラのレアトラック集『ナイアガラ・フォール・スターズ』があって。さらに、家では宅録で自主制作をやっていると言っていて、気になっていました。4歳の時にビートルズにハマって、ギターを買ってもらい、お父さんの友達のビートルズのカバーバンドに参加し、既にステージ歴も10年のキャリアだそうです。その後、日本語でオリジナルの曲を作ろうと思ってやってみると、なかなかうまくいかず、そのバンド仲間から《はっぴいえんど》を勧められて聴いたのが、なんとたった1年半前! そんな彼がライヴをやっていることがわかって、観に行くと、オリジナルも面白いし、好きで仕方ないと大瀧や細野晴臣さんのカバーをたった一人でやっていました。それならと、その場でアルバムに参加して欲しいと伝えたら、即決してくれたんです。少林兄弟は先日、小西康陽さん編曲プロデュースで、野宮真貴さんと25周年版「東京は夜の七時/ハッピーサッド」を発売して、『MUSIC STATION』(テレビ朝日)にも出演し、一躍注目の的になったバンドです。小西さんが彼らの才能をすごく評価していて、キャリアも豊富で、どんな曲にも対応できると思い、参加していただきました」。

はっぴいえんども、当時、日本語とロックの融合という部分では試行錯誤していた。KEEPONも同じ壁にぶち当たり、悩み、トライしていった。KEEPONは選曲の際「できたらA面の最後が欲しいです」と言い、『ナイアガラ・ムーン』に収録されている「ロックン・ロール・マーチ」をチョイスした。「制作が夏休み中だったので、ある意味、14歳の中学生自由研究のような感じのものになると面白いなと思っていたら、想像以上に素晴らしい作品ができあがりました。A面の最後を選んだのも理由があって、そうきたか!と感動しましたね」(坂口)。

トリプルファイアー
トリプルファイアー

「「朝寝坊」をカヴァ―したトリプルファイヤーはTwitterで「ちょうどB面の2曲目という感じの仕上がりのものができました」と呟いていたので、そこにしました(笑)。1曲目の少林兄弟「君は天然色」は、実力派ロックバンドが歌う、青春歌謡のような感じに仕上がりになっています。年齢的には参加アーティストの中では一番上ですが、瑞々しさがある。アルバムのコンセプト的には、KEEPON君のメドレー的楽曲が一番最初に来た方が、説明しやすいかなと思いましたが、彼が「A面の最後」にこだわってくれたお陰で、1曲目はメジャー感溢れる「君は天然色」しかないと。それから、アナログ盤は、冒頭、大瀧ヴォーカルのアカペラで始まっていますが、CDでは少林兄弟と大瀧とのコーラス共演にしたり、曲順も変えています。こういうことは言っていかないと、誰も気づいてくれない(笑)」

「大瀧は昔からカヴァーされることに対しては、本当にウェルカムなので、今回もアレンジは100%お任せしました。その人のものとしてカヴァーしてくれるのであれば、どんな形になってもいいというスタンスでした」

それぞれのアーティストがそれぞれの解釈でアレンジし、歌っているが、この、ある意味実験的なコンセプトが奏功し、結果的に原曲の持つ“普遍性”がさらに伝わってくる仕上がりになっている、それは全アーティストが大瀧の音楽を愛し、リスペクトしているからに他ならない。

シャムキャッツ
シャムキャッツ
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ

「アレンジは100%お任せしました。大瀧はカバーされることに対して本当にウェルカムで、そのアーティストがやりやすいなら、符割りが変わっても全然よくて、その人のものとしてカヴァーしてくれるのであれば、どんな形になってもいいというスタンスでした。だからこそ世の中に大瀧のカバーがたくさんあるんです。職業作家とは違い、シンガー・ソングライター系の人は、曲をいじること、変えることに対して、結構ネガティブに捉える人も多いですが、実は、大瀧はそのことには寛大でした。「夢で逢えたら」作品集を聴いていただけるとわかりますが、みなさん好きな形でやってくれています(笑)。今回も、86ヴァージョン入ったアルバムが出た後にも関わらず、シャムキャッツが「夢で逢えたら」を選んでくれて、しかもあの作品集では聴けない解釈でやってくれたのは、すごいと思いますよ。それからキイチビール&ザ・ホーリーティッツの「指切り」を聴くと、ただただカッコいいので、逆にこの曲から大瀧詠一っていう人が作っているんだ、という感じで知ってもらい、アーティスト主導で、大瀧楽曲の存在を広めてもらえることができるなと確信しました」。

「OLD DAYS TAILORの「Velvet Motel」は、ラジオから流れてきたら、カヴァーということに気づかないかもしれない」

OLD DAYS TAILOR
OLD DAYS TAILOR

大瀧に心酔し、その歌唱法まで研究に研究を重ね、一聴すると大瀧の声と勘違いしてしまうほどのクオリティの「Velvet Motel」を歌っているのが、OLD DAYS TAILORの笹倉慎介だ。

柴田聡子
柴田聡子

「笹倉君は、大瀧の音楽、しゃべっている声を聴きに聴き、さらにステージで歌っている数少ない映像を観て、どうやって声を出しているか、口を動かしているのかという研究をしたようです。ジェームス・テイラーやニール・ヤング、バッファロー・スプリングフィールドと同じくらい、はっぴいえんど、大瀧の存在が大きいようで、今回は、メンバーと「Velvet Motel」のアレンジを原曲に近づけて、そこで笹森君が歌うとどうなるかという実験をしたとのこと。ラジオから流れてきたら、カヴァーということに気づかないかもしれないほどの、クオリティの高さですね。柴田聡子さんも自ら「風立ちぬ」のオケを分析し完コピして、自分のフィルターを通して独特の世界観で歌ってくれています」。

“SHIBUYA MUSIC PARTY 「レコードの日」×「GO! GO! ARAGAIN」リリースパーティ/写真提供 ソニー・ミュージックダイレクト
“SHIBUYA MUSIC PARTY 「レコードの日」×「GO! GO! ARAGAIN」リリースパーティ/写真提供 ソニー・ミュージックダイレクト

11月4日には渋谷ストリームホールで、“SHIBUYA MUSIC PARTY 「レコードの日」×「GO! GO! ARAGAIN」リリースパーティ“ネクスト・ジェネレーションによる大瀧詠一作品カヴァーLP『GO! GO! ARAGAIN』記念ライブ ”が開催され、アルバムに参加しているアーティストのうち少林兄弟、トリプルファイヤー、シャムキャッツを除く9組が出演し、パフォーマンスを披露した。

「大瀧の曲は、ある程度テクニックや“うまさ”が求められるものが多く、でも、今回は“歌心“がしっかりあるアーティストが揃って、演奏もインディーズとはいっても、すぐ第一線で活躍できる才能を持ったアーティスト達が集まってくれました」。

「大瀧詠一 Cover Book -ネクスト・ジェネレーション編-『GO! GO! ARAGAIN』」(12月3日発売)
「大瀧詠一 Cover Book -ネクスト・ジェネレーション編-『GO! GO! ARAGAIN』」(12月3日発売)

ジャケットにもこだわった。『GO! GO! NIAGARA』等、ナイアガラ作品でおなじみの中山泰氏による、パロディ的描き下ろしだ。ここにも、《ナイアガラ》という“ブランド”のカジュアルライン的な《ARAGAIN》の意味合いが込められている。日本のポップスシーンを大きく進化させ、そして深く“深化”させた、大瀧の音楽を愛してやまないネクストジェネレーション、ポストJ-POPアーティストによる最新型のカヴァーブックは、ある意味潔く、そして清々しさが残る。

otonano「大瀧詠一 Cover Book -ネクスト・ジェネレーション編-『GO! GO! ARAGAIN』」スペシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事